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山形米沢の12ヶ月
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米沢の名物はABCに代表される。ABCとはアップル(林檎)、ビーフ(米沢
牛)、カープ(米沢鯉の甘煮)のことだ。
米沢の市街を抜けると、林檎農園やサクランボ農園、ぶどう農園などが至ると
ころにある。我が家の近くには、ぶどう松茸ラインという道路がある。山間を縫
って走るこの道路沿いには、ぶどう園がたくさんあり、山は赤松で、松茸も採れ
ることからこの名がついたらしい。引っ越して間もない頃、迷ってこの道に入っ
たことがある。雑用に追われ、この地の自然の美しさを味わう余裕をなくしてい
た時、偶然通ったこの道の風景にはホッとした。松茸狩りもできるが、採れなく
ても高い入山料を払わなくてはいけないのでお勧めできない。
米沢牛はスーパーより専門店の方が安く購入できる。だいたいグラム八百円程
度だ。米沢牛にも質があり、かつては一等牛と二等牛しか米沢牛といわなかった
が、流通量が足りないので三等牛も米沢牛というようになったらしい。三千円以
下の米沢牛ステーキは、まず三等牛だ。ただ、ステーキは霜降りの高級米沢牛よ
り、赤身の三等牛の方がおいしい。米沢牛は、すき焼きかしゃぶしゃぶだ。牛刺
しとして生で食べるのもいい。
米沢鯉の甘煮は、好きな人は骨までしゃぶるほどおいしいらしいが、私には甘
過ぎる。味は甘露煮と同じだが、身は柔らかく、二センチ程度の切り身で五百円
くらいだ。今、この伝統料理は、鯉ヘルペスの影響で危機にあるらしい。その対
策のためには、養殖池整備に一千万円以上かかり、零細な養殖業者には出せる額
ではないという。しかも、米沢では冬の間は鯉の成長が止まるので、通常では二
年の生育期間が三年と長く、利益が上がらないらしい。あまり売れているとは思
えないし、食べたいとは思わないが、伝統料理がなくなるのは残念だ。
米沢鯉の甘煮がなくなれば、Cの位置にくるのはサクランボだろう。今でも
ABCCとしてもいいほどだ。あまり知られていないからか、観光バスでごったがえ
すということもなく、サクランボ狩りの風情を楽しめる。六月上旬から下旬とシ
ーズンは短いが、それだけに季節を感じさせてくれる。赤く熟れたサクランボの
実が樹に生っている姿は、絵のように美しく、物語の世界に迷い込んだ気にさえ
なる。サクランボは高いというイメージがあるが、方法によっては安く買えるの
だ。