文学shortコラム
(アメリカ文学)
マーク・トウェイン(1835-1910)
前回はローカル・カラーの文学でした。今回はその代表作家ともいえるマーク・トウェインです。
ヘミングウェイは、現代アメリカ文学は、マーク・トウェインの「ハックルベリー・フィン」(1883)にその源を発する、といっています。この小説の文体は、それまでには全くみられなかった斬新的なものでした。ホーソーンにしても、メルヴィルにしても、文学的な英語をそれぞれ個性味のある格調高い文体に仕上げて作品を書きましたが、マーク・トウェインは、アメリカの俗語をもとに、従属語や従属節の少ない、簡潔で率直な文体で作品を書きました。そのため「ハックルベリー・フィン」は、一にも二にも文体をもって読者を喜ばせるとまで評されています。
この作品は、ミシシッピー河を舞台にして、自由を求めるハックと逃亡奴隷のジムとの交流を中心に、個人の自由と社会、人間と自然などの関係を描いています。物語は、マーク・トウェインが育ったミズーリー州ミシシッピー河畔の小さな町から始まり、下流のアーカンソー州の農場で終わります。ミシシッピー河を下りながら、アメリカ文明の縮図ともいう事件が次から次ぎに起きます。陸地の社会の腐敗、愚劣さ、物質主義、センチメンタリズム、偽善などが、雄大な自然の中に浮かぶ筏の上の自由な生活と対照的に描かれています。
ハックは、逃亡奴隷のジムを救うという反社会的行為に最初はためらいますが、ジムの人間性に触れることで、奴隷制度をその根底にもつ南部社会の現実に目を開かれます。そして、ジムの逃亡を助けようと決意します。ただ、自由を目指す二人が、奴隷制度が過酷になるミシシッピー下流へと向かっているのは皮肉なことです。深読みすれば「人生の現実とはこういうもの」となるのでしょうが、これは全くの偶然で、作者のマーク・トウェインもここまでは意図していなかったと思います。
マーク・トウェインは、ユーモアの陰にひそむ人間洞察や、風刺の底にある人間平等の精神や、社会正義の主張など、真にアメリカ的な作品を初めて生み出しました。そのため、「アメリカ文学の父」とまでいわれています。
Top ページへ