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▼英米文学の名作を原書で読んでみませんか▲ 1999年11月24日第49回
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GONE WITH THE WIND(風と共に去りぬ)



 先日「風と共に去りぬ」(Gone with the Wind)を見に行きました。この 映画は今まで何度も見ていたので、今更という気がしましたが、まあ、ただ 券があるから暇つぶしにでもと出かけ、感動してしまいました。昔の映画な のでどうせ見に来る人は少ないだろうと思っていたところ、館内は通勤電車 並に混んでいて、上映時間の20分前に行ったのに席がなく、5時間も立ってい ました。でも、少しも苦になりませんでした。あまりにも感動したので、日 をおいてまた出かけ、また、同じように感動してしまいました。見終わった 後、作品世界に浸りきったまま家にたどり着き、ずっと前に読んだ原書を取 り出してぺらぺらめくり、映画のシーンを思い浮かべながら読んでみました。 この作品の著作権は2011年まで著者側にあるので、大々的には紹介できない のですが、今回ほんの少しだけでもと、取り上げてみました。



 この作品のすごいところは、何といっても Passion for Living(生きる情 熱)だと思います。ゲーテの「人間は努力するかぎり迷うものだ」という言 葉が表しているように、生きる情熱を持った人間ほど多くの試練を経験し、 不幸を背負わされているような気がします。人に嫌われがちなこのような人 々とは対照的に、欲はなく、決して怒らず、人のためを考え、現状に満足し て日々送っている人々には、幸福な人生が与えられるのでしょうが、作者の Margaret Mitchellは、そのような人々の代表ともいえる Melanie に、All happy people are selfish. とそれとなくいわせています。ここらあたり、 人間社会を見抜いている作者の鋭い視線を感じます。不幸より幸福になる方 がいいには決まってますが、人生の目的は幸福になることなのでしょうか。 煩悩を多く抱えているのは醜いことかもしれませんが、どんなに醜くても Passion for Living を持って生きている人は、幸福に過ごしている人々より も、それだけですごいという気がします。



 Passion for Living の圧巻は、前半最後の場面です。戦火の中を母のいる Taraを目指し、ようやくたどり着いたそこは、北軍が略奪していった後の焼 け跡でした。Scarlet は畑からラディッシュを抜き取り、泥を拭って食べま すが、すぐに吐き出してしまいます。そして、暗くなった空に拳を振り上げ て誓います。

 映画と原作とでは前後の状況が多少違うのですが、次のセリフはほとんど 同じです。


Hunger gnawed at her empty stomach again and she said aloud: " As God is my witness, as God is my witness, the Yankees aren't going to lick me. I'm going to live through this, and when it's over, I'm never going to be hungry again. No, nor any of my folks. If I have to steal or kill - as God is my witness, I'm never going to be hungry again.




◎◎ 単語の意味 ◎◎

◇ hunger    : 空腹
◇ empty    : 空の
◇ aloud    : 声を出して
◇ gnaw at  :  悩ます(gnaw の発音は「ノー」で[g]は黙字)
◇ witness  : 証人
◇ Yankees  : 米国北部諸州の人
◇ lick   : 打ち負かす
◇ live through  : 生き延びる
◇ it's over  : 終わる
◇ nor any of my folks : 家族の誰も〜しない
◇ steal : 盗む

 そうむずかしくない文章ですので、日本語からではなく原文そのままで理 解して味わって下さい。




 映画を見たことがなくても、Tomorrow is another day. というセリフは知 っているという人は多いと思います。これはレット・バトラーが去って行っ た作品の最後の場面です。ここでもスカーレットの Passion for Living が よく表現されています。

With the spirit of her people who would not know defeat, even when it stared them in the face, she raised her chin. She could get Rett back. She knew she could. There had never been a man she couldn't get, once she set her mind upon him. " I'll think of it all tomorrow, at Tara. I could stand it then tomorrow, I'll think of some way to get him back. After all, tomorrow is another day. "





◎◎ 単語の意味 ◎◎

◇ her people    : スカーレットの祖先
◇ defeat    : 敗北
◇ stare(人)in the face  : (人)には明白だ
◇ raise : 上げる
◇ chin  : 顎
◇ set her mind upon〜  : 〜に熱中する
◇ stand  : 耐える
◇ some way to 〜  : 〜するための何らかの方法
◇ after all : 結局




一行目が分かりにくいかもしれませんのでここだけ解説します。

With the spirit of her people / who would not know defeat /
祖先の血を受け継いだ / 敗北を認めようとしない /

/ even when it(=defeat)stared them(=her people)in the face /
/ 敗北がはっきりしている時でさえ /

/ she raised her chin. / 彼女は挫けなかった。


With the spirit of her people who would not know defeat, even when it stared them in the face, she raised her chin.

(敗北がはっきりしている時でさえ、敗北を認めようとしない祖先の血を受 け継いだ彼女は、挫けなかった。)





 私が学生の頃は Don't put off until tomorrow what you can do today.(今日できることを明日に延ばすな)とか Later seems never to come.(後でというのはあてにならない)とかがさかんにもてはやされて いました。でも、これは節度ある良識人にあてはまることで、Passion for Living の人には I'll think of it all tomorrow, tomorrow is another day. という生き方の方がいいような気がします。なにしろ他の人よ りもハードな人生を送らなければならないのですから。





●後記●

■配信時にエラーが生じたようで再配信をいたしました。ご迷惑をおかけし て申し訳ありませんでした。

■少しの間お休みをいただき、次回からは予定通り「クリスマス・キャロル」 をお送りします。意図したわけではないのですが、丁度クリスマス・シーズ ンと重なり、街は華やいでいて、グッドタイミングだと喜んでいます。私は この浮ついた雰囲気がとても好きだったのですが、ちゃらちゃらしていては いけないと自分に厳しくしたため、クリスマスを楽しめない精神構造になっ てしまいました。欠点を直そうとしてはいけない。手遅れですが、つくづく そう思います。「悪魔を追い出したら天使まで追い出してしまった」誰かの 言葉を思い出します。

■「英米文学あれこれは」は、切りのいいところまでアメリカ文学を続けて いこうと思いますので、もうしばらくお付き合い下さい。


『英米文学の名作を原書で読んでみませんか』 マガジンID : 0000013523
ホームページ(URL)): http://www.ne.jp/asahi/fogbound/journal/
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(C)1999 Harutaka Hanada






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