文学shortコラム
(アメリカ文学)
フィッツジェラルド(1896-1940)
第一次世界大戦が終わったアメリカは、製造業を中心に経済が飛躍的に発展していきますが、人々はこの時代に幻滅を感じます。ただ、個人の発展への情熱は失われてはおらず、個人主義は思いのままに伸張していきました。
こんな時代に、「失われた世代」のひとりであるフィッツジェラルドは、現在と自己の感覚しか信じなくなった戦後世代の一員として、夢と幻滅と不安と挫折とを描きました。
自伝的処女作「楽園のこちら側(This side of Pardise)」(1920)で彼は、「ぼくは不安なんです。ぼくたちの世代はみな不安なんです。」という言葉に代表されるような、不安定な感情と、試行錯誤する精神と、若者の無軌道な生活ぶりを描き、若い世代に圧倒的な共感を得ました。この成功によってフィッツジェラルドは、若い世代の代弁者に祭り上げられ、世間の求めに応じて新時代風な気のきいた作品を書き飛ばしていくことになります。
ぼう大な富を手にした彼は、美貌のゼルダと結婚し、「プリンス・スコットとシンデレラ・ゼルダ」と評される、小説の中の無軌道な生活を自ら実演するような華やかな消費生活を送ります。
でも、1929年の大恐慌を境にして、1930年代のアメリカ社会からはたちまち忘れられてしまいます。1920年代に密着して作品を書いていた彼は、1930年代のリアリズムの文学には即応できなかったわけです。
フィッツジェラルドは、富に惹かれ、華美と洗練を愛しましたが、世間の求めに応じたい誘惑と、彼の作家的欲求との間でつねに悩むモラリストでもありました。作品の表面的な華やかさの裏には、倫理性、夢、希望というかつての「アメリカの夢」がありました。それがよく現れているのが、彼の代表作である「グレード・ギャツビー(The Great Gatsby)」です。この作品については次回お送りします。
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