山形米沢の12ヶ月

2月 話したくない話

 温泉は旅をする人には何よりの楽しみだろう。クルージの風呂は、天然ではないが人工温泉だ。ただ、メンテナンスが面倒でお金がかかる。引っ越してすぐのこと、オゾン噴射口から水が漏れていた。続けて、風呂の配管に亀裂が入った。これで万全だと思っていたら、風呂の水位が下がる。栓の劣化よる水漏れだった。極めつけは2台あるボイラーが次々に壊れたことだ。引っ越す前に風呂の業者にメンテを依頼していたが、何もせずにお金だけを請求していた。スノーモービルもそうだった。田舎の人も時に善良でないことがあるらしい。他にもいろいろあるが、これらは話したい話なので、機会があったら話したい。話したくない話というのはこれから話す話だ。

 キラキラ王国は、冬になるとスノーモービルが唯一の交通手段になる。ゴミ捨てもスノーモービル、通学、通院、宿泊客の送迎もそうで、林間コースに面している宿では、スキーヤーを避けながら宿泊客やその荷物を運ぶことになる。

 越したその年の2月の連休、ありがたいことに満室になった。迎える最期の宿泊客を乗せて駐車場を出ると、モービルが止まった。ガス欠だった。ガソリンは前日満タンにしたので、そんなはずはない。ガソリンが漏れていたと後日分かる。宿泊客と長い道のりを歩いた後、重いガソリンタンクを持って下りたが、入れようとするとポンプが壊れていた。夜空を見上げる。近くのペンションまで雪の中、歩いてポンプを借りに行く。エンジンがかかった時には、正直ほっとした。

 林間コースに入る時、スキーヤーがいないことを確かめて左折した。曲がりきって加速しようとすると、後ろの方に軽い衝撃があった。スキーヤーが倒れている。ひょっとしたらと駆け寄ると、首が痛いと言い始めた。保険に入っているかと聞く。入っていると言うと、嬉しそうに口がゆがむ。車で事故をしたことがあるかと聞く。追突されたことはあるが、と答える。高そうなスキー板をはずし、痛いはずの首を振って痛がって見せる。痛いなら動かせないはずだけど、などと余計なことはいわない。この手の人と論争するのは愚かだ。下手をするとその日を無駄にする。満室だ。やることはいっぱいある。荷物も早く運ばなければならない。高そうなスキー板と高そうなウエアーのその人には、拝み倒すようにしてお引きとりいただいた。やれやれ。




コメント欄 (返信をご希望の方はメールアドレスをお書き添え下さい)





Top ページ