山形米沢の12ヶ月

8 月 米沢という街

 「嫁をもらうなら米沢から」上山市出身の若い女性がそんな話をしてくれた。 米沢の女性は気だてがよくて美しいからかと思っていたら、そうではなかった。 米沢の女はよく働くからだという。「米沢には嫁をやるな」とも。米沢は貧し く、嫁は貴重な労働力としてこき使われ苦労するからだと。米沢の人が聞いたら 気分を害すだろうそんな話を、他市から来た若い女性ではなく、その時代を生きた当事者 に、いつか直接聞いてみたい。

 米沢の人はよそから来た人を「旅の人」と呼ぶらしい。私より1世代上の米沢 の男性から直接聞いた。縁もゆかりもない米沢でペンションを始めようという私 の生き方が、その人には理解できなかったようだ。「月日は百代の過客にして行 き交う年もまた旅人なり。日々旅にして旅をすみかとす」とは奥の細道。およそ この世に生きている人は誰もが人生という旅の途上にある旅人だとは思うが、米 沢の人はそうは思っていないようだ。米沢の人に限らず、これは日本人全般にあ てはまるのかもしれない。

 横浜在住の米国人が、日本は好きではないという。どんなに長く住んでも共同 体の一員として認めてくれず、いつまでもお客様として扱われるからだとか。お 客様として扱われた方が気分がいいはずだが、その人は「旅の人」ではなく「土 地の人」になりたかったのだろう。

 身分証明書のない人が印鑑登録する時は保証人が必要だが、米沢市には市の職 員を知っていたらそれが不要という条例がある。越してすぐの者が市の職員を知 っているはずがない。私は保証人として、身分を証明するために運転免許書を出 したが、それではだめだという。この書面に実印を押してもらうことになってい る、条令で決まっているという。条令を見せてもらうと「身分を書面で」とある だけで、要求された書面や実印のことは書かれていない。運転免許書はりっぱな 書面だ、盗んだ実印で印鑑登録者の保証人になりすますことができるそんな方法 よりもずっと確かだといっても、奥の方から出てきたエラソーな男性は、きっと 偉い人なのだろうが、市民の財産を守る義務があるからのくり返し。うつむきな がら、都会から来た人はうるさい、とぽつり。

 人それぞれだが、米沢の人は誰もが親切だ。お客様として、あくまでも「旅の 人」なのかもしれないが、私としてはそれで十分満足している。


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