質問9 : 甲状腺の腫れを指摘され、慢性甲状腺炎と診断されました。甲状腺ホ
ルモンは微妙に低目とのことですが、今後どうしたら良いでしょうか?

回答 慢性甲状腺炎は、とても多い甲状腺の病気です。バセドウ病と同様に甲状腺に
対して抗体を作ってしまうことが病因ですが、慢性甲状腺炎の抗体は、バセドウ病抗体
が甲状腺を刺激するのとは対照的に、甲状腺を破壊していく抗体です。しかし、この抗体
は、すぐに甲状腺機能低下症をおこす訳ではありません。年単位の非常にゆっくりとした
経過で、少しずつ甲状腺を弱らせていくのです。たまに、経過中に一時的に炎症が強く
起こって、甲状腺の中に貯蔵されていたホルモンが血中にこぼれ出し、甲状腺ホルモン
が高値となる場合すらあります(無痛性甲状腺炎)。ですから、慢性甲状腺炎といっても、
甲状腺ホルモンは低値〜正常〜高値まで、いろんなバリエーションがあるのです。
あなたは、甲状腺ホルモンは微妙に低目なのですね。おそらく、甲状腺機能低下の症状
(むくみ・寒がり・皮膚乾燥・かすれ声・眠気・脱毛・便秘など)は、あまり自覚されてないの
でしょう。その場合、あわてて甲状腺ホルモン補充をおこなう必要はありません。もしあ
なたが海藻好きで、とくに昆布の多食があるようなら、過剰なヨード摂取は甲状腺機能
を抑制することがあるので、海藻制限するとホルモンが正常域にもどる可能性もありま
す。しかし、今後あなたの甲状腺は、ゆっくりとさらに機能低下症へと進んでいくことが
予想されます。したがって、何年か後には立派な甲状腺機能低下症となり、甲状腺ホルモ
ン剤の内服を余儀なくされるかもしれません。きちんとした経過観察が必要でしょう。
補足として、もしあなたの甲状腺の腫れがかなり大きい場合は、甲状腺ホルモンがやや
低目程度であっても、ホルモン補充を開始することによって、甲状腺サイズの縮小が期
待できるかもしれません。コレステロールが高い場合も、ホルモン補充で改善しやすいの
で、専門医とよく相談の上、方針を決めてください。

質問5 : バセドウ病のアイソトープ治療とはどのような治療ですか?
回答 アイソトープとは放射性同位元素、すなわち放射線を出す元素の総称で、バセ
ドウ病治療には131I(ヨード131)を使用します。I(アイ)はヨードの元素記号です。
甲状腺はヨード積極的に取り込んで濃縮するので、放射線を出すヨードの131Iを甲状腺
に取り込ませて濃縮させ、甲状腺だけに効率よく放射線をあてるしくみです。
131Iは飲み薬で、小さなカプセル剤です。内服すると、24時間以内にその殆どが甲状腺
内に集積します。甲状腺に入れなかった131Iは、速やかに体外に排出されます。甲状腺に
集積した131Iはβ線を放出し、甲状腺はゆっくりと破壊され、委縮していきます。痛くも
痒くもありません。通常131Iを1回内服すると、その後2〜3か月かかって、甲状腺サイズは
縮小し、ホルモンは低下していきます。
131Iを大目に内服すると、甲状腺は完全に小さくなって、甲状腺機能低下症となります。
少な目に内服すると甲状腺はある程度残り、抗甲状腺剤の減量や中止が期待できます。
どのぐらい内服するかは、御本人の希望にあった量で内服していただきます。
アイソトープ治療の良いところは、外来で1回内服するだけで治療できる、費用が安い(
保険適応で7千円ぐらい)、傷が残らない、効果不十分の場合は繰り返し何度でもできる
ことでしょう。欠点は、131I内服前に1週間程、抗甲状腺剤の休止が必要なことで、その間
に甲状腺ホルモンは上昇してしまいます。さらに治療前後でヨード制限食も必要ですし、
ホルモンが下がるまでに時間もかかります。また、妊婦と小児は、アイソトープ治療はで
きません。放射性物質を飲むということで、心配される方が多いですが、バセドウ病のア
イソトープ治療を受けた後に、癌や白血病の頻度は増えないこと、その後の妊娠や児に
悪影響は無いことが、万人単位で20年以上に及ぶ追跡調査で証明されています。
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≪質問箱≫

質問11 : 検診で受けたエコー検査で、甲状腺の中に嚢胞やおできがいくつも
あるといわれました。心配でたまりません。手術すべきなのでしょうか?

回答 甲状腺に嚢胞(液体成分が溜まったもの)や腫瘍が生じることは意外と多く、
最近の検診では頚部エコーがよく行われるため、こういった異常を指摘される方が
増えています。あなたの場合、まず最も疑われるのは「腺腫様甲状腺腫」でしょう。
変な名前ですが、腺腫様甲状腺腫とは、甲状腺の中に、嚢胞や、嚢胞の一部が充実成
分になったもの、腫瘍状になったものが、多発混在する病態です。しかも、これらの病
変は、長い経過でだんだん大きく、増えてくることが多いので、甲状腺全体がとても
大きくなってしまう場合もあります。原因は不明ですが、基本的に良性であり、甲状腺
ホルモンの異常も通常は認めません。ですから、必ず手術ということはありません。
(ちなみにこの病態で生じた結節部のみを手術で切除しても、何年か経つとまた新た
な結節が育ってきやすいので、もし手術を望むなら、甲状腺の殆どを切除するぐらい
の覚悟が必要となります。)ただ、これらの病変に混じって、本当の腫瘍性病変(腺腫
や癌など)がたまたま合併したり、嚢胞の中に突然出血をおこして急に腫れたりする
ことが稀ながらあります。ですから経過観察と、異常を感じた場合の速やかな再チェ
ックは必要でしょう。仮にこういった問題が起きなくても、甲状腺の腫れがひどくなっ
て圧迫症状が出たり、外見上差し障りがあるなら、やはり手術適応となるでしょう。

質問10 : 以前から検診で甲状腺の腫れを指摘されていましたが、ホルモンは正
常でした。現在、第一子出産後4か月たちますが、倦怠感が強くてたまりません。
甲状腺ホルモンの再チェックを受けるべきでしょうか?

回答 すぐに受けるべきです。甲状腺ホルモン異常は免疫の異常で起こることが多く、
出産後は免疫が活性化されるので、甲状腺に影響を及ぼし易いのです。まず、出産後1
〜2か月目に、甲状腺の一時的な炎症によって、甲状腺内に貯蔵されていたホルモンが
血中に放出され、甲状腺ホルモンが高値となる「出産後甲状腺炎」を発症することがあ
ります。このホルモン高値は通常1〜2か月で自然に改善しますが、引き続いて甲状腺機
能低下症をきたすことが多いのです。この甲状腺機能低下症は、数か月以内に正常化
する場合と、そのまま継続してしまう場合があります。さらに、出産後4〜5か月目は、
バセドウ病の発症や増悪が多い時期でもあります。昔から、「産後のひだちが悪い」とか
いわれていた中には、甲状腺異常も多数あったと考えられます。こういった変動は、元々
甲状腺に対して自己抗体(免疫異常)をもっていた方でリスクが高くなります。
あなたも、ベースに慢性甲状腺炎をもっていた可能性があり、出産後に甲状腺ホルモン
の変動を来したために倦怠感が強い恐れがあります。もし甲状腺機能低下症になって
いれば、チラージンSという甲状腺ホルモン剤の内服で、もしバセドウ病を発症していれ
ば、チウラジールの内服で、授乳を中断することなく治療をすることができます。

質問3 : バセドウ病はどのように治療するのですか?
回答 バセドウ病の治療法には、内服薬・アイソトープ・手術があります。内服薬は甲状腺
のホルモン産生を抑制します。アイソトープと手術は甲状腺自体を小さくすることでホル
モン産生を抑えます。しかし、いずれの治療法も、原因である甲状腺刺激抗体を直接消す
わけではありません。(残念ながら甲状腺刺激抗体をすぐに消せる治療法はまだ無いの
す。)ですから、内服薬を飲むと通常1〜2か月で甲状腺ホルモンは正常化して症状は改善
しますが、飲みやめるとたちどころにホルモンが再上昇してしまいます。バセドウ病の勢
いを常に見極めながら薬剤量を調整しつつ、抗体が消えていくのを気長に待つのです。
大抵の方は、きちんと薬剤で甲状腺ホルモンをコントロールしていると、次第に抗体価は
低下して、3〜5年で薬剤を中止することができます。(しかし中には、10年以上にわたっ
て抗体が消えない方もいます。)アイソトープ治療は、放射線を
使って甲状腺を小さくし
ます。甲状腺はヨードを取り込んで濃縮する性質があるので、放射線を放出するヨード(
アイソトープ)を内服し、甲状腺だけに効率よく放射線をあてるのです。外来で一回の内
服で効果が期待できますが、手術と違って十分な効果がでるまでに数カ月かかります。
日本では内服薬治療が主体ですが、ケースに応じていずれの治療法も選択できます。

質問1 : 甲状腺ホルモンが高いといわれましたが、私はバセドウ病なのですか?
回答 甲状腺ホルモンが高くなる病気で最も多いのは、バセドウ病です。しかし、無痛
性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎、まれに機能性甲状腺腫瘍やTSH不適切分泌症候群でも
甲状腺ホルモンが上昇することがあります。それぞれの疾患で治療法が異なりますの
で、まずはあなたの甲状腺ホルモン上昇の原因を正確に診断することが大切です。

質問4 : 抗甲状腺剤で副作用がでました。手術をするしか無いのでしょうか?
回答 バセドウ病の代表的な治療薬は、メルカゾールやチウラジールといった抗甲状
腺剤です。これらの薬剤は甲状腺のホルモン合成を抑制しますが、副作用が多いことが
難点で、発疹・痒みの頻度は5%にも及びます。発熱や関節痛もみられ、重篤な合併症に
は、白血球減少症や、肝障害をおこす場合もあります。バセドウ病の薬剤治療は年単位の
長期間を要するので、こういった副作用が出ると継続困難です。この場合、手術も選択
肢の一つですが、他にもヨード剤による内服治療やアイソトープ治療が有効です。ヨード
剤内服の副作用は極めて稀で、私はヨウ化カリウムをよく用います。効果には多少個人
差があることと、量の調整に工夫が必要ですが、ヨウ化カリウムのみの内服で完全にホ
ルモンコントロールができ、寛解・治癒に至った方も数多く経験しています。


質問8 : なかなか子供ができないので婦人科を受診したら、バセドウ病とわか
りました。バセドウ病だと妊娠・出産はできないのでしょうか?

回答 甲状腺ホルモンの異常は、高くても低くても、不妊の原因となり得ます。バセドウ
病の場合、放置していても甲状腺ホルモンの改善は望みにくいので、すぐに治療を開始
する必要があります。内服薬治療(メルカゾール・チウラジールやヨウ化カリウム)で、通
常は2か月以内に甲状腺ホルモンは正常域にコントロールされて来るはずです。ホルモン
が正常化して落ち着いたら、妊娠・出産は可能です。ただしメルカゾールは、極めて稀な
がら催奇形性の報告があることと、授乳の際に乳汁への移行が多いため、妊娠に際して
は同系列のチウラジールへの変更が望ましいでしょう。妊娠中は、しっかり薬剤を内服し
て、甲状腺ホルモンをきちんとコントロールすることが大切です。胎児への副作用を心配
して内服を怠ると、その方がむしろ胎児に重大な悪影響を及ぼすばかりか、母体も危険
な状態となります。妊娠中期〜後期にかけてはバセドウ病の病勢が弱まる方が多く、薬
剤の減量も可能です。しかし、出産後2〜数か月目には逆にバセドウ病の病勢が強まりや
すいので、元気に育児を行うためには、きちんと治療を継続してください。

質問7 : バセドウ病になるとなぜ眼が出てくるのですか?
回答 バセドウ病の全員が、眼球突出をおこすわけではありません。バセドウ病の原因
は甲状腺刺激抗体ですが、5人に1人ぐらいは、この抗体が甲状腺だけでなく、眼球の
後ろの組織(眼球を動かす筋肉や脂肪組織)も攻撃するようです。なぜ、甲状腺と眼の
後ろの組織がセットでターゲットになるのかは、まだ不明ですが、抗体価が高い方がリ
スクも高くなります。さらに、10人に1人ぐらいは、眼の後ろの組織への攻撃が強く、炎症
を起こして腫れてしまいます。眼の後ろは上下左右が骨に囲まれているため、腫れた圧
力は前方へ逃げるしかありません。それで眼球が前へ飛び出してしまうのです。眼球の
周りから炎症が前へ逃げると、瞼や結膜の腫れ、逆まつ毛もおこります。また、眼球を動
かす筋肉に炎症がおきると、眼の動きが悪くなり、物が二重に見える「複視」という症状
がでてきます。強い眼球突出や複視症状がある場合は、眼症状に対して特殊な治療を
加える必要があります。放置していると進行するので、早急に対処しなくてはなりませ
ん。注意点は、この眼症状は、必ずしも甲状腺ホルモンの値とは相関しないということ
です。甲状腺ホルモン自体はコントロール良好でも、抗体の推移で眼症状が出現・悪化す
ることがありますので、常に眼症状の兆候を見逃さないようにしなければなりません。

質問2 : バセドウ病の原因は何ですか?
回答 バセドウ病は免疫の異常でおこります。通常の免疫は、外敵に対して相手を攻撃
する「抗体」を産生しますが、バセドウ病では、自分の甲状腺に対して抗体を作ってしまい
ます。バセドウ病の抗体は特殊な抗体で、甲状腺を壊すのではなく、刺激を与えてしま
い、甲状腺は大きくなり、必要以上に甲状腺ホルモンを作って放出します。それで甲状腺
機能亢進症になるのです。この甲状腺刺激抗体がなぜ産生されるかはよく解りません。
元々の体質に加えて、ストレスなどが契機となって、発症するのだと考えられています。


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質問6 : 甲状腺ホルモンが高く、バセドウ病と診断されましたが、私は自覚症状
があまりありません。それでも治療が必要なのでしょうか?

回答 甲状腺ホルモンが高い場合の自覚症状として、動悸・ふるえ・暑がり・体重減少・
下痢傾向・イライラなどがあります。しかし、症状に乏しい方や、症状は出ているのに病
気と自覚されない方もいます。中には「せっかく体重が減ったのに、便秘が治ったのに、
わざわざ治療を受けたくない」という方もいます。では、甲状腺ホルモンが高いままで
放置するとどうなるでしょうか。甲状腺ホルモンは新陳代謝を高め、交感神経を活発に
します。車に例えるとアクセルの役割です。バセドウ病は、車のアクセルを常時めいっぱ
い踏み続けるようなものです。最初は景気よく走れますが、次第にあちこちガタがくる
ことは予想できますね。心臓に負担がかかり、不整脈や心不全をおこすようになり、最
悪の場合は命にかかわります。不整脈や心不全が長期間定着してしまうと、後からバセ
ドウ病を治療しても、もう心臓は治らないことも多いのです。また、骨粗鬆症が進行して
思わぬことで骨折したり、精神的に変調をきたしてしまう方もいます。治療を開始する
と、確かに一時的に体重が増えるかもしれません。しかし長い目でみると、早くホルモン
を適切な状態にすることが大切だということが、解っていただけると思います。