人体 〜日光浴健康法


世の人々は健康を追い求めている。 ノーパン健康法のような夜中に地震や火事があったらどうするつもりなのだと問い詰めたくなるものもある。 飲尿健康法のように健康になりたいのか病気になりたいのか判然としないものもある。 ぶら下がり健康法のように手よりも足でぶら下がったほうがよくないかと突っ込みたくなるものもある。 (逆さぶら下がり健康器というのも存在するらしいが) コリオリの力を応用という一見科学的なものもある。 紅茶きのこやヨーグルトきのこのように聞いただけでは想像もできないものもある。 特にこのヨーグルトきのこって何じゃい。

このような健康法にはいくつかの欠点がある。 まず何といっても勇気がいる。 ノーパンになるのはよい、家庭内ノーパンなんちゃらごっこもできて一石二鳥だし、初期投資も必要ない。 だが地震や火事が起こってもとっさに逃げ出せないではないか。 なぜノーパンかといえば、寝ている間肌とゴムがこすれることがよくないからという趣旨である。 ノーパンでパジャマを着ていては理論上何の意味もない。 素っ裸でなければならないのだが、それではそのまま外に出ることができないではないか。 近所に全裸をさらすのと焼死体や圧死体になるのと、どちらも避けたいというのが人情ではないだろうか。

飲尿も勇気がいる。特にこれを実践しようとしたら、必要な勇気は並大抵ではない。 人としてあるべき一線を超えなければならないのではないかと思えるくらい並大抵のことではない。 まれにこれが趣味になってる人もいるが。 冷やせばあの独特に匂いが抑えられて比較的飲みやすいらしいが、 こんなものを冷蔵庫に食べ物といっしょに保存しておくのはごめんこうむりたい。

ぶら下がり健康器は何といっても初期投資が必須である。 二階以上のマンションのベランダにぶら下がってもよいが、ベランダはもともとそれほどの強度で設計されていない。 ある日地面にまっさかさまに落下では健康になっても意味がないではないか。 ここはやはり器具を購入するべきであろう。 だがこの器具はそれなりの値段であるから続けられなくなった場合は大きな損失となる。 ちょっと調べただけで五万円六万円台のものがザクザク見つかったくらいだ。 これはどう考えても手ごろとは無縁の商品であろう。 それでなくても場所を取る。 ウサギ小屋ニッポンとさえ揶揄された我が国の住宅事情には合わないではないか。

コリオリの力応用健康法には少々丁寧な説明が必要であろう。 まず、コリオリの力とは地球の自転の影響のことである。 北極、南極に緯度が高いほど力が大きくなり、赤道付近では小さくなる、 また北半球では進行方向に向かって「右側」 へ、南半球では「左側」へと逆の力を受けることになる。 台風のまわりの雲が中心に向かって北半球では左回り(反時計回り) 南半球では右回り(時計回り)に渦を巻いているのはこのためだ。 ちなみに風呂の湯を抜くと北半球では左回りになるのもコリオリの力だという記述を時折見かけるがそれは違う。 水のような質量の大きいものに影響を及ぼすほどコリオリの力は大きくない。 この力を応用するというのだから、眉につばを付けていただきたい。 右回りが生物にとって自然であるため、体内でコリオリの力が右回りになるようにすればよいというのだ。 そのためには歯に海苔を張り付けたらよいそうだ。ナンノコッチャ。

紅茶きのこやヨーグルトきのこにいたっては、どう突っ込んでいいのやら見当もつかない。 おいしいのか、それは? どうも高価なものであるらしいが、おいしいのか? 値段が張ってもおいしくなければそうそう続けることはできない。 それともこれはダイエット法だったっけ?

さて長々と既存の健康法をあげつらってみたが、どれもこれも生半可な方法である。 何よりも現代文明から脱却しきれていないではないか、嘆かわしい。 人とはいかに抗っても偉大なる自然から逃れきれない矮小な存在であるのだ。 つまり健康であるとは自然への回帰に他ならない。 それを忘れている健康法など児戯に等しいのである。 特殊な器具など必要ないのだ。あるがままの姿を思い出せばよい。 かと言って、何でもかんでも自然と同化すれば良いというものでもない。 私たちは文明の中で生きていかざるを得ない環境で過ごしているのだ。 いまさら原始時代のような日々を送れといっても無理である。

しかし自然のあふれるエネルギーを身の内に取り込もうとする発想は捨てがたい。 そう、文明の中で生きながらも自然のエネルギーを取り入れる方法を画策すればよいだけだ。 そして見つかったものはこれだ。

日光浴である。

「そんなもの、毎日通勤通学の途中にいやというほど浴びているわい」とおっしゃる方はしばし待ってほしい。 確かに日の光を浴びずに生活している人はごく稀であろう。 ほとんどの方が昼間に何らかの用事で外出しており、必然的に太陽を仰ぎ見ている。 だがそれは健康からほど遠いところにある身体にとってきつすぎるのである。 日中は太陽と自分との距離が短すぎる。浴びる陽光の量も過度になってしまう。 現代人はこの多量の陽光から得るエネルギーをもてあましてしまうばかりなのだ。 夏バテはこの「もてあまし」の最たる現象であろう。 何事も慣らしていかなければならないのである。

ではここで正しい日光浴健康法について述べよう。 最初のうちは弱った身体にも優しい微弱なエネルギーの取り入れから始めたい。 やはり日の出の時間を狙うのがよいだろう。 日没時も日の出と同じ位太陽との距離は離れているが、日中の残照があるため勧められない。 朝焼けをぼんやり眺めていればよいということだ。 時折背を向けて、両面まんべんなく陽光にあたるとなおよい。 そして同時に軽く身体を動かすとエネルギーが体内に循環するので吸収効率はさらに上がる。 あまり激しい運動はエネルギーを消費するだけで逆効果なので、うっすら汗ばむ程度にとどめておこう。 これを毎日行うだけで健康が維持できる。

どうだろうか、無駄に散財することもなく勇気を振り絞る必要もない。 目覚ましの針をチョイチョイと動かすだけでできてしまう、この画期的な健康法をお試しになってはいかがだろうか。

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