就職 〜探偵への道 ハードボイルド篇


最後はハードボイルドな探偵について述べよう。 『ハードボイルドな探偵』というのも少々おかしな言い回しではあるがニュアンスは理解していただけるだろうか。 決して固ゆで卵が大好きな探偵という意味ではない。敢えて表現するならば比較的肉体労働の多い探偵といったところだろうか。 彼らはもっとも制約が多い探偵である。 具体的に挙げれば、フィリップ・マーロウを筆頭にV・I・ウォーショースキー、ケイ・スカーペッタ、 新宿鮫こと鮫島警部などであろうか。

まず捜査中に走ったり喧嘩したりするのは珍しくない。 当然護身術を会得しているのは基本中の基本である。殴られてもすぐにめげないだけのタフさも必要だ。 心身ともにタフでなければやっていけない職業なのだ。 ハードボイルド探偵のところに持ち込まれる依頼は浮気調査や人探しなどが多いが、 やがては殺人が絡んでくるものばかりなので警察とのつながりも必須である。 その殺人も裏社会とは無関係とはいえないため、その手のつながりも必要だ。 しかも下っ端ではなく幅広い情報屋や組織の中枢にいる人物でなければならない。 ただし他の探偵のように捜査上の助手を持ってはならない。あくまで一匹狼を身上としなくてはならないのだ。 言うまでもなく結婚しているのもだめ、恋人ならよいが年がら年中イチャイチャしているバカップルではいけない。 離婚しているなら問題はない。

饒舌もハードボイルドを目指すならいただけない。 必要最小限しかしゃべってはならない。脅されたときは皮肉と拒絶の旨以外何もしゃべってはいけない。 殴られて気絶するのはよいが、殴られてベラベラとしゃべってしまうくらいなら最初からハードボイルドを目指すべきではない。 うまくいけば「骨のあるヤツ」として裏社会とつながりを持てるかもしれないので気合を入れて殴られよう。 腕に自信があるなら反撃もよいが、半端な腕前ならば大人しくしておいたほうが無難だろう。 殴られるとき以外も饒舌ではいけない。 口数は少なく、しかし的確に話せるよう日頃から練習をしておくべきである。

アルコール類は一通りたしなめる程度の耐性は必要である。 殴られてふらふらになるのはよいが、酔っ払って千鳥足はハードボイルド失格である。 ストイックであることも必要だ。特に賄賂を持ちかけられても冷ややかな一瞥を与えるくらいの自制心は持っておこう。 だが自身が大金持ちであるのもあまりお勧めしない。既に金があるのに進んで危険な目に遭おうと思えるならよいが。

職業も幅が狭い。 アメリカなら何はさておいても探偵のライセンスを取得することをお勧めするのだが、あいにく日本にはそういうシステムはない。 手っ取り早いのはボロビルの一室を借りて『××探偵社』と看板を掲げることである。 糊口をしのぐためなら興信所の下請けも引き受けたらよい。収入がゼロになる悲劇は避けられる。 それからどんな依頼も門前払いはよろしくない。 何の変哲もないはずのペットの捜索が、後に殺人事件に発展する可能性だとてなきにしもあらずだ。 刑事になるのもよいが単独行動を推奨する。 その為にはあなたの勝手を大目に見てくれるか大目に見ざるを得ないお偉方を持っておくべきである。 上司の信頼を得るか、弱みを握ればよい。組織の威信に関わるようなスキャンダルネタだと尚更よい。

以上で探偵への道の説明は終わる。 名探偵を目指してみるのも悪くないのではなかろうか。
私は御免だけど。

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