紅色の輝き

  


 夕暮れどきに、満開の彼岸花畑を歩いたことがある。photo3
秋の落日は思いのほか早く、うす暗くなるまでに、時間はたいしてかからなかった。

 彼岸花は、真っすぐに伸びた緑色の茎の上に、長いしべを持つ紅色の花を咲かせる。
群生している花の赤みが、より一層強く感じるのは、花の咲く時期に、葉がないためだろう。

 暗がりの中で見る彼岸花は、花自体が発光しているかのように、辺り一面が鮮やかに浮き上がって見えた。
四方が赤く埋め尽くされている光景は、太陽が沈んだせいもあり、あまりにも現実離れしていた。
闇が覆い始めた木立の陰には、白い着物をまとった誰かが、ひっそりと佇んでいるよう。

 未知の異空間に胸騒ぎを覚え、慌てて帰ったのは、一年前のことだ。


 そして再び、彼岸花の季節が巡ってきた。
今年は、明るい雰囲気の彼岸花畑を眺めてみたいと思った。

 燃え上がるような真紅の海を期待していたが、天候不順の今年は開花が早く、9月中旬が最盛期だったという。
木立の中を彩る、鮮やかさの失せた彼岸花は、群生しているだけに寂しげだった。photo5

 開花の遅れた新鮮な花は、土手で日陰になった場所などで見つけた。
ひとつの花を、アップで狙っていると、そこには花びらの上を忙しそうに動き回るアリの姿があった。
彼岸花には、アリの好む甘い蜜があるのだろう。


 収穫を待つ稲の側では、初めて見る白い彼岸花が、優雅な花を咲かせていた。photo6
同じ花でも、花色が違うだけで、こうも雰囲気が違うものか。
さり気なく咲いているので、気が付く人は少ないが、見ず知らずの方も、綺麗だとつぶやき、立ち止まってスケッチしていた。photo7
白い彼岸花にあっては、長いしべは優雅さを増すポイントのように思えた。

 彼岸花の英名は、Spider lily(クモの百合)という。
腹の先から糸を出したクモを想像させたのは、特徴的な長いしべであろう。
しべはゆるやかなカーブを描き、天へと向かう。photo8

 いくつもの異称が示すように、彼岸花は、いろいろなイメージを与えられた花だ。
そのひとつには、見るものの心を柔軟にするという天上の花からとった、曼珠沙華という呼び名がある。

 秋空の下、先入観にとらわれずに花と接したことで、私の心が通じたのだろうか。
彼岸花は、去年とは異なる輝きをみせた。

    
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by kuni92 (kuni92 kokoda)
紅色の輝き
98/10/05



彼岸花photos 20001999

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