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のどかな丘の休日



 長い梅雨が、ようやく明けると聞いたのは、立秋を数日後に控えた頃だった。
けれども、曇り空と夕立ちの日々は、翌日以降も繰り返され、眩しい太陽の訪れを、心配したこともあった。
頬杖をついて、雨模様の空を眺めながらも、私の夏休み気分だけは、日毎に盛り上がり始めた。

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 その日は、普段より数時間早く起き、西に車を走らせた。
峠越えを楽しみながら、山梨へと入る。

 予定していた渓谷は、擦れ違った人達の重装備を眺めただけで、あっさり断念した為、お土産のワインを選んでしまうと、ふいに時間があいた。
その時、以前人から聞いた、ハーブのお店のことを思い出した。
勘を頼りに立ち寄ったハーブ園の裏手では、思いがけず向日葵とコスモスの群れ見つけ、のんびりすることが出来た。
photo1photo2

 甲府方面へ足を伸ばし、絵画鑑賞などを楽しんだ後、photo3ぶどう畑に囲まれた道を、上へ上へとくねくね登り、丘の上の斜面に建つ小さな宿泊施設へと向かった。photo4

photo5 離れのように点在した建物を、いくつもの階段や回路で繋いでいる構造は、迷路を連想させて、心が浮き立つ。

 少しくつろいだら、花咲く庭を散策しようかと思っていると、ポツリポツリと雨が降り出した。
夕陽や月の写真が撮ってみたくて、張り切って三脚も持ってきていたし、今日は偶然にも花火が上がるようで、それもさっきからとても楽しみにしていた。
諦めきれず、眼下に広がる街並みを、写真に撮ろうとした。
部屋のベランダに三脚をたてたが、ファインダー越しに見た風景は、遥かに白く霞んでいた。

 いつしか本降りになった雨は、止む気配が見えない。
旅先で夕方からテレビをつけるのは味気ないし、夕食までには時間がありすぎる。
退屈な時間を持て余すことになった。
ふと思い出して、バックの中から文庫本を取り出した。
半年以上も探してやっと最近手に入れた本を、夏休みになったら読もうと、持って来ていたのだ。
雨の音を聞きながら、しばし読書する人となった。


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 美味しい夕食をゆっくりと味わい満足した後、薄暗い敷地内を探検していると、ワインセラーの入り口を発見した。
洞穴のような石造りの入り口から、階段を数段降りたところにある こじんまりとしたスペースは、自由に見学ができる。photo6
中はほのかな照明が、ちょっとした雰囲気を醸し出している。
ワインを飲むなら、すっきりとした白が好きだが、ムードのある赤ワインを写真に撮ってみた。


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 一晩中降った雨は、翌朝には上がっていた。

 部屋のベランダから、空にたなびく雲を眺めていると、スイスイと泳ぐ魚のような雲を見つけた。photo7
どこへ泳いで行くのだろう。

 夏草の生い茂った小川の周辺を、蚊に刺されつつ歩き回った。photo8
萩や露草の咲き乱れている道を、ぶどう畑に沿って進んでいくと、正面にはりんごの木があった。
今年はまだ、夏らしい空にお目にかかれていないけれど、実りの秋はこんなにも近くまで来ていた。

 庭園のあちこちに咲いているのは、造花のようなルドベキア。
光り輝く白い紫陽花は、小高くなったところで見つけた。
ワインセラーの向かいには、私の好きな睡蓮。
星の形のピンクの花は、水路の側でひっそりと咲いていた。
      
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散歩しながら、あちこちで立ち止まり、シャッターを切った。

 色鮮やかな洋服を身に付けた 可愛らしい子供たちが、軽やかな笑い声をあげて、私の横を走り抜けて行った。photo13
微笑ましい光景を、振り向いて一枚。

 お天気が良ければ、富士山もさぞ良く見えたのだろう。
あいにく空には雲が立ち籠めているが、それでも去り際は、富士山の写真ばかりを撮った。

 なだらかな丘で、風にたゆたっているコスモス。photo14
その花越しに、うっすらと浮かんだ富士の山を望む。
想い出の風景が、またひとつ増えた。




by kuni92 (kuni92 kokoda)
のどかな丘の休日
98/09/12




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