八重桜とわたし



 桜の花びらがはらはらと舞い落ちる光景を、ひそやかにそっと眺めていることが好きだ。
綺麗だなぁと思いつつも、いつまでも切りがないので、ある程度心が満ち足りてきたところで切り上げる。

 4月も中旬過ぎのとある日の目的は、舞い落ちる花びらではなく、八重桜の開花状況の下見であった。
八重桜は、この数年わたしが最も好んでいる花だ。
三分から五分咲きのまだ蕾の多い花々を確認し、次のお休みの頃がちょうど満開になるだろうと予測した。
枝いっぱいに、こぼれるほどに花をつける日を楽しみに、うきうきと心弾む日々を過ごす。

 ところが、満開となった日は、朝からどんよりとした曇り空で、しばらくすると雨となった。

 八重桜は、たっぷりとした花がかたまって咲くので、明るく日が差していないと、写真を撮ろうという意欲が湧きずらい。
綺麗な時期だというのに、空は灰色の雲に厚く覆われている。
太陽はどこに隠れているのだろう。

 見頃の時期は、日毎に過ぎていく。
遠目でさえも、花がくたびれかけてきたのが判るようになった。
静かに舞っている花びら。
そろそろ花が終りそうな気配だ。
諦めきれないわたしは、それからも遠回りして、車窓越しの塀越しに、様子を見に行った。

 その日の八重桜は、すっかり葉も増えて、枝は見るからに重そうだった。

 その枝は風に吹かれ、ごうごうと揺れていた。
うねるようにして、全身で、大きく、揺れていた。
はらはらはらはら。
花びらの雨が降り続く。
はらはらはらはら。
花びらの嵐。

 そんな八重桜の姿は、
"どうして写真を撮りに来てくれないの?"
と、わたしに強く訴えているかのように感じた。
心がキュッといたい。

 思わず、
"わたしも撮ってあげたかったんだよ"、
と、答えていた。
"来年はきっと必ず撮りに行くからね"
と、心の中で約束した。

 はらはらはらはら。
こぼれ続けているのは、八重桜の涙?
はらはらはらはら。
花びらの涙が降り続く。

+ + + + +


 この数日で先日までの曇天はすっかり影を潜め、陽射しはまるで初夏の兆しだ。
陽気に誘われ車を走らせると、風に吹かれた八重桜の花びらが、目の先の道路に舞ってきた。photo6
季節は次の季節に、バトンタッチしようとしている。

 今年も八重桜の下に立っていたように錯覚を覚えるのは、去年たくさん撮った八重桜の写真を公開する為に、たくさんの写真を何度も眺め続けたせいであろう。

 八重桜が撮りたくて…、
八重桜をわたしらしく撮りたいから、
来春を楽しみに、ゆっくりと成長していきたい。





by kuni92 (kuni92 kokoda)
八重桜とわたし
99/04/30


去年の八重桜の画像です。


[Home]  [Index]