ある日、少年NはTV番組で珍しい鉱物特集が開催されることを知った。応募には鉱物の写真と本人のプロフィールを提出する必要があった。そこで鉱物好きの少年Nは物心ついた時から手元にあった素性の知れぬ子供の拳ほどの大きさの鉱物の写真を撮って応募することにした。それは鮮やかな黄色のグラデーションを呈した美しい鉱物であった。
両親に買ってもらった鉱物標本を手に取って矯めつ眇めつすることが少年Nの喜びだった。中学生になってから図書室で借りた鉱物図鑑で調べてもどうしても何だかわからないので、専門家に鑑定してもらう良い機会だと思った。
気持ちが高揚してシャッターを押す手が震えたが、最後は無事満足のいく写真を撮ることができた。
少年Nは孤児だった。4歳のとき、養子縁組により子のいない家族の一員となった。養父母はとてもやさしい人だった。少年Nをいつくしみ育てた。
少年Nから応募の話を聞いて養父母は大賛成してくれた。TVに出ることによってとかく内気になりがちな少年Nが少しでも積極的になることを願ったからだ。
いよいよTV番組の収録の日を迎えた。こんなに大勢の人前に立つのは初めてのことだったが、少年Nは、養父母の心配をよそにしっかり受け答えをしている。
鑑定人がニコニコしながら少年に声をかけた。
「鉱物がすきなの?将来は鉱物学者だね」
少年Nは大きくうなずいた。
鑑定人は光を当てたり、ルーペでのぞいたりしながらしきりと首を傾げ始めた。どうせガラスかプラスチックの作り物だろうと高をくくっていた目論見がハズれたのだ。そしてやや離れて、うう~うん、とうなってしまった。
と、鉱物が発光しはじめた。場内にざわめきが起こった。
しかし鑑定人はほっと溜息をついた。
「やはりプラスチックか何かに仕掛けを施したな、手品まがいだが、うまく作ったものだ」と心でつぶやいた。
「おやおや、まるで手品みたいですね。私には鑑定しかねますよ。地球外物質かなあ」と大げさに両手を広げてほほ笑んだ。
会場はほほえましい笑いにつつまれた。
が、少年Nの顔が一瞬クローズアップされたとき、虹彩が七色に光ったことを見逃さなかった人物がいた。著名な宇宙生物学者、Y博士である。
「ついに見つけたぞ!地球外生命体」
Y博士は興奮のあまりくわえていたパイプを落とした。すぐにTV局に電話をして少年の素性を教えてもらった。Y博士はこのTV局のある番組のレギュラー出演者だったのでことは容易にはこんだ。少年Nの出身孤児院を突き止めたY博士は、すぐに家人に行く先を告げず孤児院を訪問した。そして永久に帰宅することはなかった。