2002年6月9日(日)
船越漁港 10:00〜11:00
【特別編】〜週刊釣りサンデー7月7日号掲載原稿〜
「船越でチヌの日本記録があがった?拓寸71cm!?」
そんな信じられないニュースがメールで飛び込んできたのは6月7日のことでした。
聞けば1週間ほど前に"あの船越漁港"の波止でイワシをえさに釣れたというではありませんか。
「そんなまさか、あの船越で・・・」
地元の釣り人の100人が100人とも口にするであろう言葉を私も思わず口にしてしまいました。
九州は福岡の西のはずれに、糸島半島という玄界灘に面した美しい半島があります。
周囲50km余りのその半島には10ヶ所ほどの漁港が点在しており、福岡市の中心部からでも車で30〜40分と近いこともあって、どの漁港もいつも釣り人の姿が絶えません。
加也山の頂上からみた船越漁港ですチヌの日本記録があがったという船越漁港はその糸島半島の西岸の糸島郡志摩町にひっそりと位置する波静かな漁港です。
南に口を開けた船越湾の湾奥に位置し、西側は志摩ラウベンコロニーという別荘地(福岡出身の超大物映画俳優T倉健の別荘があるという噂)、東側には寺山海水浴場が広がっています。
私はその船越漁港へほど近い福岡県前原市というところに住んでいる釣り好きサラリーマンです。
船越漁港の波止場で釣りを覚えた私にとって、ここはまさに私のホームグラウンド。
糸島半島にはもっと魚影の濃い人気の波止がいくつもありますが、我が家から近い(車で15分くらい)ということと人が少なくてのんびり釣りができるということで、一時期ほぼ毎週通ったものでした。
その私が声を大にして言わせて頂きましょう、「船越でチヌの日本記録?そんな馬鹿な!?」
これが久家波止船越漁港は2本の防波堤に囲まれています。
別荘地側から東へ延びた船越波止(400mくらい)と、船着場から南へ延びる150mほどの久家(くが)波止です。
船越漁港に対する地元の釣り人の一般的な評価はそれほど高いものではありません。
アジゴのサビキ釣り中心の、いわゆるファミリーフィッシング場というのが大方の認識だと思います。
夜釣りが多い私の場合はもっぱらメバルやアラカブ(ガシラ)釣りでお世話になっている釣り場でした。
確かにイケス付近ではこれまでもチヌが釣れることは釣れていましたが、それは福岡で"メイタ"と呼ばれる40cm未満のものがほとんどで、40cmを超えるチヌクラスになりますとめったに釣れた話は聞きません。
翌々日の日曜日、にわか記者になった私はデジカメと手帳を携えて現地へ取材に行きました。
早速久家波止側に車を回してみます。
問題のチヌはこの久家波止の中間部、外海側にあるイケスの近くで釣れたらしいという情報です。
午前10時という時間帯でしたが、すでに波止には結構な数の釣り人が来ていました。
そのほとんどの人達がサビキ釣りをしています。
10cmに満たない豆アジがそこそこ釣れているようです。
あちらこちらで家族連れの皆さんの嬌声が上がっていました。
相変わらずののどかな風景。
そうなんです、これがここ船越漁港の本来の姿なのです。
う〜ん、ここでチヌの日本記録が?(しつこい!)
向こうに見えるのが問題のイケスです。ここで釣れたらしいのですが・・・。波止で網を繕っていた地元の漁師さんに話を聞いてみました。
漁師さんは1週間前にここで起きた事件のことをご存知でした。
「おお、あのへんらしいで。おるんやなー、こげなとこになー。ん?そうよ。ここはせいぜいメイタが釣れる程度よ
波止の先端付近でイケス周りに浮きを流しているベテランらしき釣り人にも話しが聞けました。
なんとこの方はその大チヌの話を聞いて今日は船越に来たとのこと。
「ここいらでもチヌは普通オキアミかダンゴか虫えさたい。あれはサビキで釣ったカタクチイワシを泳がして、スズキを狙っとったっちゅう話らしかよ。道理で取り込めたはずたい」
イケスには長崎から運ばれてきたブリがバシャバシャ跳ねています。
「イケスにはえさ入れとらんて漁師さんば言うとったけん、このイケスに居着いとったわけでもないと思うんよねー」
サビキ釣りに興じる家族連れに挟まれながら、チヌの日本新記録が釣れたという久家波止中間部に立ってあらためて外海側を眺めてみました。
波止の根元から東は遠浅の海水浴場になっています。
水深はせいぜい5mの砂底のこの波止で、日本国中の釣り人が四半世紀ものあいだ成し得なかったチヌの日本記録更新があっさり達成されてしまったことに驚きよりも何か別の感慨が沸き起こってきました。
どうやら日本新記録のチヌはスズキ狙いの外道だった可能性が高そうです。
まァ、世の中案外こんなものかもしれません。
そんなことより、この日本国中に数ある"巨チヌの海"を差し置いて、この波止が日本記録更新釣り場なんていう名誉ある称号をいただいてしまって、本当にいいのでしょうか・・・。

(寺山海水浴場から見た船越漁港。手前が久家波止)
2002年6月9日 船越漁港 久家波止にて
Written by あらかぶ亭アジ介

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