2001年3月12日(月)
福ノ浦漁港 19:30〜23:00
中汐、満潮23:58
最近の日記を読み返してみた。
すると、ブッコミ釣りを中心にした釣り方に変えて以降、前回(3月6日)まで7回連続でさしたる釣果を上げていないことを再認識してしまった。
船越でアナゴとハゼが釣れたぐらいだ。
これはやはり、寒さの厳しい2、3月の波止釣りは止めておいたほうが良いという来シーズンに向けた貴重なデータなのであろうか?
それとも、試行錯誤を続けている私のブッコミの単なる過渡期と解釈すべきなのか。
この時期でも以前のように探りで根魚を狙っていれば、ある程度コンスタントに釣果を上げることが出来ていたのだろうか?
よくわからないが、間違いなく言えることはこの2、3月は天候の荒れる日が多くて、夜釣りの出来る日がかなり限られたということである。
それで今日。
天候が不安定なので、最近は週末にこだわらず、仕事と気象条件が折り合えば曜日に関係無く釣行している。
会社から177に電話をしたところ、今日の福岡地方は北西の風やや強く、曇り、夕方から晴れ、沿岸の海域の波の高さは2m、ということだった。
潮は中汐、干潮17:30頃、満潮23:30頃。
気温は少し低めに感じるが、仕事は暇だ。
「よし、行ってみよう!」
定時(17:15)のチャイムと同時に会社を出る。
18:00には自宅に帰りついてしまった。
マンションの駐車場に車がなかったので、またY介(6才)のお迎えかな?と思いつつ玄関のドアを開けるとR紗(4才)が一人で晩ご飯を食べていた。
「お母さんはお兄ちゃんをお迎えに行ったの」
案の定である。
一人でお留守番が上手に出来てるねぇ、とR紗をほめていたらY介と妻が帰ってきた。
「こんなに早いってことは、今日は釣り?」さすがに妻はするどい。
「なんか、この頃お父さんの釣った魚を見てない」とY介が言う。
「うっ・・・今日はお父さん釣れる予感がするんだ」と私。
「いつも言ってる」と妻が笑った。
「こ〜んな大きなお魚さん釣ってきてね!」と、R紗が両手を一杯に広げて可愛いことを言う。
そんなこんなで夕食を済ませ、19:00前には出発した。
途中、OS釣具店でイワムシを50g(700円、いつものことながらちょっと高いよなぁ)と万一の為にオキアミを1パック(320円)調達し、一路福ノ浦漁港へ向かう。
19:20頃現地到着。
他に釣り人はいないようだ。
風は先週より格段に弱かった。
気象情報の"やや強い北西風"は福ノ浦での釣りに影響なし、と覚えておこう。
潮は満ち上がり始めているはずだが、まだかなり低い。
ただし、私のブッコミにはさほど影響はない、というか元々潮回りを気にしていては平日夜のサラリーマン釣り師をやってられないだけなのだが・・・。
いつもの先端付近、犬走りの途切れる辺りに釣座を構える。
竿は3本、以下の通り。
・2号磯竿(ダ○ワ)5.3m、道糸3号ハリス2.5号、オモリ10号、チヌ針3号
・3号磯竿(シ○ノ)4.5m、道糸3号ハリス2.5号、オモリ10号、チヌ針4号
・3号磯竿(マ○ヤ)5.3m、道糸4号ハリス2.5号、オモリ15号、丸セイゴ14号
今の私としては万全の構えである。
大体40〜50m見当で投げ込んでみた。
犬走りに竿を立て掛ける。
少しだけ風と波の影響が竿先に出ているが問題なしである。
ケミホタルを眺めながら、熱いお茶をすすり、タバコに火を点けた。
夜の投げ釣りの楽しいひと時だ。
そのアタリは突然やってきた(まあ、だいたいアタリは突然だが)。
ぼちぼちエサの点検でもするかな、と思っていたマ○ヤ3号の竿先に大きめのアタリ。
すぐにリールのベールを起こし、1mほど道糸を送り込む。
ここまではもう手馴れた作業だ。
しばらくするとさらに竿先が暴れだした。
「よ〜し、行くぞ!」おっといけない、まずはタモを手近に持ってくる。
前回の教訓を生かさねばならない。
そうして大きく合わせを入れてみた。
リールを巻く。
掛かってるぞ!
マ○ヤ3号の図太い竿からでも魚の動きが伝わってくる。
「落ち着けよ〜」
心の中で何度もその言葉を繰り返してリールを巻き続けた。
時折手を止めて魚の感触を確かめる。
いいぞ、ついてる!
道糸のテンションを緩めないようにしながら犬走りの上に上がった。
足下の海面が見える。
魚はもう、そこにいた。
「タモだタモだ、タモいれだ」左手でタモを伸ばす。
海面にタモを差し入れようとするが、暗くて海面との距離感が全くつかめない。
5.4mの安物なので、またこのタモがかなり重いときている。
竿も、重い…。あの物干し竿マ○ヤ3号である。
左手でタモを操作しているのだが、「スカッ」あれれ、まだ海面に届いていなかった。
魚はまだ時々水面をバシャバシャと暴れる。
この時点で私はまだ何の魚が釣れているのか判っていなかった。
ただ、そんなに大きくはなさそうだ。
福山のRockin'Fishさんからお借りしたイラストです。左手で持っているタモは腕が疲れてもう操作不能状態。全然力が入らない。
「え〜い、くそっ」
タモ入れを諦めて抜き上げにかかる。
魚が浮いた。
ゆっくりと持ち上げる。
そのまま身体を反転させると、常夜灯の明かりに銀色の魚体が見えた。
 
「チヌだっ!」
チヌだ、ついにチヌを釣ったんだ。
心臓がドキドキしている。
手が震えて針がはずせない。
ラジオペンチでようやく針をはずし、改めて自分が釣り上げたチヌを手元で見た。
「きれいだなぁ…」心の底からそう思った。
タイ科独特のピンと張った背ビレや胸ビレが美しい。
精悍な顔つきが美しい。
何よりも常夜灯に照らし出されたいぶし銀の魚体が美し過ぎる。
雑誌や本やインターネットで何度も拝んだチヌが、やっと私の目の前にきた瞬間であった。
「もしもし、ついに釣ったぞ!チヌだよ、クロダイ!」
一息ついて妻に電話を入れたのが20:55だった。
まだ時間はたっぷりとある。
まだまだいけるぞ、とばかりに再び3本態勢でアタリを待つことにする。
その間に釣り上げたチヌを野締めし、水汲みバケツに突っ込んで血を抜いた。
せっかくのチヌだ、美味しく頂戴しなければならない。
さらに1時間以上が経った。
血抜きをしたり、エサを付け替えたりしていたらあっという間の時間である。
タモ入れの練習もやってみた。
犬走りの上に立ち、タモを脇に抱えると腰を落としてやっと海面に網がとどく程度だった。
22:00過ぎ、今度は2号磯竿に強烈なアタリがきた。
慌てて道糸を送るとすぐに第2波、一発目のアタリを上回る強いアタリがきて、竿先が海に突き刺さらんばかりに引き込まれた。
「おいおい、またか?」タモの位置を確認して合わせを入れる。
「乗った!」
2号の磯竿から伝わってくる魚の引きはさっきのマ○ヤ3号とは比べ物にならないくらい強くダイレクトに響いてくる。
すぐに犬走りの上に上がり、無理をしないようにリールを巻き続けた。
「おおっ、引く…」
時折竿をためてこらえなければならなくなる。
魚とのやり取りを繰り返しながら、やっと足下近くまで引き寄せることができたが、タモをあたふた伸ばしていると再びググッと潜りこもうとする。
右手でこらえる。
こらえながらタモを魚のほうに差し出す。
2度失敗した。
その度に魚がバレてやしないか心配になる。
「まだ大丈夫だ。掛かってる」今度はチヌだということが見て取れていた。
「さっきより、でかいぞ…」どうしても取り込みたい!
しかし3度めも失敗、魚が網に入らない。
このまま抜き上げるのは無理なような気がする。
どうする?もう左腕がしびれてきたぞ。
左?そうだ私は右利きなのである(これだから初心者は…)。
タモを右手に持ち替える。竿は左腕で抱えておけば良い。
狙いを定めてタモを海面に差し込んだ。
「やった!入った!」
これも福山のRockin'Fishさんからお借りしたイラストです。
ぐい〜っと応援団の団旗のようにタモを持ち上げて、犬走りを越えたところで力が尽きた。
ドサッと下におろすともう身体はヘトヘトだ。
「ハアハアハア…」本当に息が上がっていた。
「やった〜、チヌだ〜」うれしさがゆっくり込み上げてくる。
1尾めの興奮とは別の種類の、なんともいえない充実感で一杯の2尾めだった。
2尾めを野締めし、血抜きをしたところで時計を見ると23:00になろうとしていた。
まだ少し残っていたイワムシを全部の竿に付け替えて投げ込み、帰り支度を行なう。
結局今日は最後まで釣り人は私一人だったようだ。
ずいぶんとアタフタしたし、他に人がいなくて良かったな。
おかげで念願のチヌを釣り上げた喜びを一人でじっくりと噛み締めることもできたし。
久し振りに今日の釣果を記そう(長かった…)。
以下の通り、"記念すべき"という奴である。
■チヌ2尾(1尾め26cm、2尾め31cm)
生まれて初めて釣ったチヌです。
九州では40cmに満たないチヌをメイタと呼ぶ人もいる。
しかし、今回私が釣ったものは誰が何と言おうとも"チヌ"である。
私が生まれて初めて釣ったチヌである。
独学で一人で釣ったチヌである。
波止釣りを始めた昨年の晩秋から「俺だっていつかは釣りたい」と念じていたチヌである。
その「いつか」は今日2001年3月12日、中汐の夜だった。
場所は福岡県糸島郡の福ノ浦漁港、この漁港では4度目のチャレンジの出来事である。
「もう眠い…」という妻を「記念撮影するから帰ったら起こすぞ」と電話して帰路についたが、車中もずっと「チヌを釣ったんだよなぁ」と一人でニヤニヤしてしまった。
ハイポーズ、カシャッ!帰宅後、妻にビデオと写真を撮ってもらい、その後小さい方を刺身にして一人で祝杯をあげた。
こんなこともあろうかと、出刃包丁と刺身包丁は購入済みだ。
好きだねー、俺も。
チヌの刺身は言わずと知れた”美味”だった。
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