●あと20年は作品をつくって欲しかった近藤喜文さん(「耳をすませば」の監督)
  
〜スタジオジブリで近藤さんにお話をうかがったときのこと〜
 
   (そう記、1999年1月発行の「家族新聞」第8号より)

▼宮崎駿さんと次回作をつくろうとしていた矢先に

1998年1月21日、近藤喜文さんが、解離性動脈瘤により、47歳の若さで亡くなられました。
近藤さんは、スタジオジブリでの「耳をすませば」(1995年)の監督をはじめ、
「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」「赤毛のアン」「名探偵ホームズ」の
キャラクターデザイン・作画監督 (あの「火垂るの墓」の節子ちゃんを生み出したのが近藤さんです)や、
「魔女の宅急便」「もののけ姫」の作画監督など、数々のすばらしい仕事をされました。

高畑勲さんは、近藤さんの存在なしでは、「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」「赤毛のアン」などの
作品はありえなかったと語っています。

そして、宮崎駿さんも“日本屈指のアニメーター”として、近藤さんを
高く評価し、「耳をすませば」に続く作品をいっしょにつくろうとしていた矢先だったそうです。

私は、近藤さんの早すぎる他界は、日本の映画、文化、芸術にとって
たいへんな損失となってしまったと思っています。
近藤さんには、あと20年は作品をつくって欲しかった…かえすがえすも残念でなりません。

私(そう)は、1996年、「もののけ姫」を制作中のスタジオジブリにおじゃまして、
近藤さんにお話をうかがう機会をえました。
そのときのことを紹介して、近藤さんの追悼をさせていただきたいと思います。

▼名作「火垂るの墓」は、近藤さんの平和への願いの結晶

「子どもたちに戦争の事実を伝える努力をしなければ、風化する一方だと思います」
「戦争をテーマにきちんとした仕事ができて本当によかった」
「侵略戦争の加害責任を問うようなこともやらなくちゃいけない」
と 「火垂るの墓」に関するところで、お話しくださった近藤さん。

じつは、高畑勲さんと中国を舞台にした、日本の侵略戦争、加害責任を問う企画の映画が、
「火垂るの墓」の後、進んでいたのだけど、天安門事件の影響などもあり
実現に至らなかったエピソードも話してくださいました。

最近の学校教育や教科書問題に見られる状況などにも 非常に危機感を抱き、
「アニメ文化も平和があってのものですから」と真摯に語る近藤さんの平和への願いが、
“実写を超えたアニメ芸術の最高峰”と呼ばれる名作「火垂るの墓」を生み出した原動力だと感じました。

また、エピソードとして、「火垂るの墓」をつくるにあたって、
近藤さんと高畑勲さんは、いわさきちひろさんの「戦火のなかの子どもたち」から、
子どもの表情などを学んだことを語ってくださいました。

▼手取り6万円で保育料4万円

子育て時代のこともお聞きして、
近藤さんも共働きで(パートナーの山浦浩子さんは、宮崎駿監督作品「ルパン三世・カリオストロの城」の
色指定をはじめ、 「パンダコパンダ」「名探偵ホームズ」などの仕上げ〈彩色〉チーフなどで
活躍されている方です)、子どもを最初は民間の保育園にあずけたのだけど、
当時の浩子さんの給料が手取り6万円で、保育料が4万円もしたこと。
これではやっていけないと、なんとか公立保育園に入れてもらおうと、
近藤さん自身が何度も市役所に出かけて、生活がいかにたいへんかという話をして、
やっと公立保育園に入れたこと。
アニメ業界の低賃金で、5段階ぐらいのランクの中で、いちばん下のランクの保育料ということで、
4万円からいっきに千円になったエピソードなどを話してくださいました。
そして、共働きの子育てにとって、保育行政をきちんとすることが、いかに大切かを
実感したと語ってくださいました。

また、日本映画放送産業労働組合(映産労、現在は映像・文化関連産業労働組合)の
とりくみにも積極的にかかわって、アニメ業界に働く仲間の労働条件改善にも奮闘されたこと、
そうした労働組合運動の中で、組合活動の先輩だった浩子さんとも結ばれたこと、
そして、「“本当に人間らしく生きるとは”“民主主義とは”という話をする中で、
労働組合の仲間から多くのことを学びました。仲間は信頼できるものなんだということも、
組合から学んだとても大切なことだったと思います」と、近藤さんの原点を話してくださいました。

主人公に女性の作品が多いのはなぜかと聞くと、
「やはり、女性が自立しているからじゃないでしょうか。
炊事洗濯など家庭生活も含めて、男性より女性の方がちゃんと生きていく感じがしますよね」
と語ってくださった近藤さん。“男性より女性が自立している”という言葉の中にも
近藤さんの描く女性の原点を見た思いがしました。

▼灰谷健次郎さんの『天の瞳』のようなアニメ作品をつくりたい

次回作のことについて、うかがうと、近藤さんは、
「灰谷健次郎さんの『天の瞳』のようなアニメ作品をつくってみたい」と語り目を輝かせていました。
それを聞いて、私は、近藤さんなら、数年後にすばらしい作品をつくるに違いないと確信していました…。

▼子どもをひとつのモノサシではかるのはやめて

最後に、作品とともに子どもたちへ寄せる近藤さんの想いを語ってくれた部分を紹介します。

「耳をすませば」の後で感じるのは、いまの子どもたちが置かれている状況が、
僕らの頃とはずいぶん違っていて、すごくたいへんになっているんじゃないか、
子どもが希望をもって生きていくのが困難になっているんじゃないか、ということです。

いまは、子どもをひとつのものさしで、はかっている感じがします。
そのものさしの基準に、子どもをあてはめて、子どもの価値が決まるみたいになっている。
ものさしで、はかれない子どもは、居場所がなくなるし、
生きていく希望がなくなるような状況になっている気がします。

勉強ができる子もいるし、できない子もいる、スポーツの得意な子もいるし、そうでない子もいる、
いろんな子がいていいんだということを、子どもたちに言ってあげる必要があると思います。

うちの子どもの友だちなんかを見ていると、みんな、それぞれの置かれているところで、
一生懸命がんばってるんですよね。そういう子どもたちを、はげましてあげられるようなものが
できたらいいなと思うんですよ。

子どもを、ひとつのものさしで、はかるのはやめて、
すべての子どもたちに、「あなたはすばらしい」と言ってあげる必要があると思います。
そういうメッセージを子どもたちに届けられる作品をつくりたいですね。(1996年、近藤喜文監督談)


●ちひろ&りん、近藤喜文さんの作品大好き
(近藤さんがキャラクターデザインや作画監督などでかかわった作品)

▼ちひろの大好きな作品

○「耳をすませば」 
ちひろの歌う「カントリーロード」は、絶品で、思わず動画を撮って、
徳島のおじいちゃんのところへメールで送ったこともあります。(※あいかわらずの親バカ)

○「魔女の宅急便」「赤毛のアン」「名探偵ホームズ」「未来少年コナン」「パンダコパンダ」
近藤さんの生み出したキャラクターの中でも、ホームズの登場人物(登場動物?犬?)は、
とっても楽しくて、すばらしい。ちひろは、何度見てもあきません。

○「火垂るの墓」
アメリカがアフガニスタンに報復戦争を始めたとき、
ちひろが、「アメリカの戦争で、『火垂るの墓』のせっちゃんや
お母さんみたいに、アフガニスタンの人たちがたくさん死んじゃってるの?
日本は戦争にならない?」と子ども心に心配していました。
「平和でなければアニメ文化もない」と言われた近藤喜文さんの渾身の名作ですね。

▼りんの大好きな作品

○「パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻」
とくに、りんは、洪水につかってしまった家の屋根の上で朝食をとる場面で、パパンダが、
バランスをくずして屋根から落ちてしまうところが大好き。
(※このシーンは、近藤喜文さんが作画を担当しています)

○「未来少年コナン」
とくに、りんは、「第3話 はじめての仲間」の中で、コナンがジムシーと初めて出会い、
すったもんだの力くらべのあと、仲間になるところが大好き。
何度見てもゲラゲラ大受けのりんなのです。
(※このシーンも、近藤さんが作画を担当しています)

○「もののけ姫」
りん(4歳)は、「もののけ姫」のことを、「ももから姫」と言います。
「桃から生まれたお姫さまじゃないんだから」「日本むかし話じゃないんだから」
などと、ちひろにつっこまれています。



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