夢見る吟遊詩人


彼(ラムザ)、我(ハリー)に問う。
「ねえ。 いつから気づいてたの?」

ハリーは「しれっ」と答える。
「最初(はなっ)から。 
 はッ♪ だってラムザ、アグリアスさんとすれ違った後とか、じっと見てるじゃん。」

「いっ、言わないでよ! あの人には絶対、言わないでよ!」
ラムザは真っ赤になって真剣にハリーに抗議する。

「大〜丈夫。 あの人とはあんまり話したことないもん。」

えっ・・・・・・・・。
そ・・・・うなのかな・・・・。
ぼくのそばにはいつも居てくれるみたいなのに・・・・。

その時ラムザの脳裏に色んなアグリアスの姿が浮かぶ。
優しい笑顔
明るい笑顔
凛々しい顔
夢見るような琥珀の瞳
閉じた瞳の長いまつげ・・・・・それから・・・・・・・・・

ラムザはだんだん顔が赤くなる。
それを鎮めようと頭の中からアグリアスヴィジョンを取り除こうとするが・・・・。

あっ・・・・あれ?
きっ・・・・・消えない! どうしよう!!!

ラムザは焦る。
しかし焦れば焦るほどラムザの頭の中のアグリアスヴィジョンは鮮明になっていく。

その時離れたテーブルで食事をしていたアグリアスは、仲間にお休みを告げ、
席を立った。
そして、ラムザとハリーに気が付いた。

う・・・・・・・・・ううう・・・・・・・・。
ハリーがあんなこと言うから・・・・・・・・・。

もうラムザの顔は真っ赤っ赤である。
目は潤み、汗まで出てきた。
なのにアグリアスから目が離せない。

「? どうした? 熱でもあるのか?」
アグリアスはラムザに近づき、手を伸ばし、ラムザのおでこを触った。

「ぴゃっっっ!!」
ラムザは緊張のあまり、変な声を心の中で発した。

「熱はないみたいだが・・・・・。 ふふっ、もう今夜は休まれてはいかがかな?」
くすくすと微笑んで、アグリアスは自分の部屋へと向かって行った。

ひゃああああ〜。
さわられちゃった、さわられちゃったぁ。
ラムザは完全に舞い上がっている。
ハリーは
「よかったね♪」と言って、ラムザのほっぺをつんつんとつついた。



その夜、ラムザは寝付けなかった。
布団にくるまったり、ごろごろころんだり。
しかしそのうち彼は癇癪を起こし、枕を抱いたまま、じたじたと暴れ始めた。
「ああ、もう! ハリーのばかばか! 眠れなくなったじゃんか!!」

どうしよう・・・・・・・・・・・・
ラムザはため息をついた。
「はあ・・・・・・・・・・」
そしてアグリアスのことを思った。

自然にラムザの口から詩が出てきた。
彼はまだ吟遊詩人のジョブを持ってない。
おそらくベオルブ家の書庫で古い詩集を読んだのか、たまたま聞いたことがあったのか。
恋の詩を口ずさむ。
ラムザはその詩に器用に旋律をつけてゆく。
なかなか優雅だ。


♪ 金色の長き髪 太陽の光の如し

   その瞳は 夜露に濡れた菫の如し

   愛しの君 君は我が総て


「・・・・・・・? 今、なにか聞こえたような・・・・・・・気のせいか。」
その調べは風に乗り、アグリアスへも届いたが、残念ながら彼女には
気づいてもらえなかったようだ。


♪ 薔薇の如き 紅き口唇 

   我を誘う 甘やかな香り

   求めてやまぬ 君は我が・・・・・・・・


そこでラムザの詩はぴたりと止まる。

好きなんだ・・・・・・・・
あの人のことが・・・・・・・・・・・・

ああ、あの人がぼくだけのために微笑んでくれたら
どんなに幸せだろう・・・・・・・・

ラムザは枕をぎゅっと抱きしめ、抱え込む。
それはまるで夜の暗闇におびえる幼な子のよう・・・・・。

でも・・・・・・・今はそんなことしている場合じゃない・・・・・・・・・
優しい愛の言葉も温かい手も今は・・・・・・・・求めることが出来ない・・・・・・・・・・
ああ、それでも・・・・・・・・・・

ラムザのほほにひとしずく、涙がつたう。

この想いを口に出してあの人に伝えたい。

いつかいつか平穏な時が来れば・・・・・・・・・・・



アグリアスは先ほど着ていた服を脱ぎ、生成の綿素材の寝間着に手をかけた。
後ろで束ねられた髪の毛をほどく。
髪が金のなみなみを形どる。

アグリアスは鏡に人差し指で線を描きながら考える。
「あの子・・・・・・・・・もしかして私のこと・・・・・・・?」
もしそうなら・・・・・・・・いいや、そんなわけない・・・・。

「自惚れ屋のアグリアス。」
彼女は鏡に映った自分にそう言った。

4つも年上で・・・・・こんな男みたいにがさつな女・・・・・・・・・・。
「ふふっ・・・・・・・・・」
アグリアスはベッドに仰向けに倒れ込んだ。

ラムザ・・・・・・・
誰にでもやさしくて可愛いあの子・・・・・・・・・・
私は・・・・・・・・・・・好きなのだろうか・・・・・・・・・・・・・・



ラムザはいつの間にか眠ってしまった。
ほほの涙はすっかり乾いてしまった。

ラムザは幸せな夢を見る。

いつか愛しいあの人に・・・・・・・・甘い言葉を囁くその時を。
恋の詩を捧げるその時を・・・・・・・・・・・・




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