Tout bon est fait s'il est facile de finir.


プロローグ

総ての終わりは総ての始まりへと繋がる。
たとえそれがちいさなものであっても
ゆっくりとゆるやかに
しかし確実に動き始める・・・・・


1.AKT 総ての終わり

断末魔の絶叫が轟き渡る。

「・・・・・殺った・・・・・か・・・・・?」

ここは飛空挺の墓場。
イヴァリースの民に神と崇められし聖アジョラは、狂気の聖大天使アルテマとなりて降臨し、
今まさに、ラムザ達と死闘を繰り広げていたのである。

「モット・・・チカラ・・・ヲ・・・・・。」
そう言い放った狂気の聖大天使アルテマは、体中から閃光を放ち、爆音を轟かせた。
その爆発は・・・・・こともあろうに、ラムザ、そして仲間たちをも巻き込んでしまった。

・・・・・今までそこにあった死闘の痕跡など・・・・・なにひとつ、残すことなく・・・・・。



「まだ若いのに・・・。 兄弟全員が逝ってしまうなんて・・・・・・・・。」

「末弟のラムザは墓にも入れないそうじゃないか。 嘆かわしいことだ。」
「これで300年続いたベオルブ家もおしまいね・・・。」

弔問に訪れた者達は、みな、口々にそう言ってベオルブ家の墓を後にした・・・。

その弔問客たちが帰るやいなや、1人の青年が木の陰から現れた。
肌の色は浅黒く、漆黒の髪はきっちりと束ねてあり、少し上まで刈り上げられている。

彼の名は、オーラン=デュライ。
偉大なる剣聖、シドルファス=オルランドゥの義理の息子であり、類い希なる占星術士。
その彼にしても、この事態だけは、予測できなかったに違いない。
次いでその後ろから魔道士バウマウフラが現れ、墓前に花を手向ける。

「ラムザ・・・・・・・」

青い空を仰ぎつつ、オーランは呟く。

「なあ・・・・・オレにはお前達が死んだなんて、まだ信じられないよ・・・・・。
  だって・・・・・そうだろ?」



総てはここで終わってしまったのだろうか?

いや、そうではない。

この世界に聖アジョラ以上の神がいたのか・・・・・。
それとも、ただの偶然が招いた結果なのか・・・・・。
それは誰にもわからない。

しかし、今また何かが、確実に何かが、始まろうとしていた。


2.AKT 総ての始まり

「・・・・・・・・・・・・・ウド・・・・・・・・・・・・・」
「クラ・・・・・・・・・ド・・・・・・・・・・・・・・・・」

(だれ・・・・・だ・・・・・オレの名を・・・・・・・・・・・・・。
 俺は死んだは・・・・・・・ず・・・・・・・・・・・・・・?!)

「・・・・クラウド!!」

(・・・・・・・・・・・・ああ・・・・・・ティファ・・・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・!!???
 ティファ!???)

今度ははっきりと、聞こえた!
ティファの声だ!!

大丈夫、俺はまだ死んでなんかいない!!!

クラウドは、目を覚まし、がばっと跳ね起きた。
そしてティファの姿を探した。

「ティファ!!!」
「クラウド!!! ああ、良かった!!! 気が付いたんだね!!!」

「ああ・・・・・ティファ・・・・・俺、戻ってこられたんだ!! 
 ティファのいる、この世界に戻ってこられたんだ!!!」


「クラウド・・・・・あのね・・・・・。」

喜び勇んでいるクラウドをなだめるようにティファが続ける。

「この人たち・・・・・だれ?」

ティファのその言葉に、クラウドがふと周りを見渡すと・・・・・・・。
そこにはさきほどまで異世界でともに戦った者達が、みな一様に気を失って倒れていた。



(くらい・・・・・くらぁい・・・・・闇・・・・・・・。
 なに・・・・・・・が・・・・・・・・あった・・・・・・。
 最後の敵・・・・・閃光・・・・・・・爆風・・・・・・・に巻き・・・・・・・こま・・・・・・。)

「ケアルジャをかけたんだ・・・・・もう少しで目が覚めるはず・・・・・。」
一足先に目覚めたクラウドが、傷ついた仲間達の身体に癒しの魔法をかけてくれたのだ。
戦闘に直接加わった者も、加わっていない者もみんな含めて、目を覚ました。

・・・・・ただひとりを除いては・・・・・。

彼は・・・・・ラムザだけは目を覚ましてはいなかった。

「兄さん・・・・・。」
アルマが今にも泣きだしそうな顔をして、ラムザの顔をのぞき込んでいる。
その反対側には・・・・・アグリアスがいた・・・・・。

こちらも心配そうな顔つきではあったが、泣き出しそうな気配はない。
その分アルマよりずっと大人なのかもしれない。

ただ、自分の愛したひと・・・・・今ならはっきりと言える、が、未だ目覚めないというのは
胸が張り裂けんばかりの思いではないだろうか。
その時。

「・・・・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・・・・・・・っ。」
ラムザがようやく長い眠りから覚めたようだ。

「兄さん! ラムザ兄さんっ!!」

(・・・・・・・アルマ・・・・・?
 無事だったんだな・・・・・・・良かった・・・・・・・。
 はは・・・・・涙で可愛い顔がくしゃくしゃだよ・・・・・。)

ふと、傍らを見やる。

(・・・・・アグリアス・・・・・!)

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

アグリアスはなにも言わなかった。
ただうっすらと涙を浮かべていた。
それだけで、彼は彼女の心を察することができた。

(アグリ・・・・・・・・アス。)
ラムザは微笑み、心の中で、そう呟いた。
愛しいひとの、その優しげな名前を・・・・・。

泣きじゃくるアルマを胸に抱き、アグリアスの肩をこちらに引き寄せて
ラムザは、今自分たちが置かれている状況を懸命に把握しようとしていた。

燃えさかる火の玉(メテオ)。
暗黒の世界。

・・・・・・・・ここは・・・・・・何処だ?


3.AKT 新しい世界へ

「じゃあ、ここがクラウドのいた世界なんだね。」

クラウド・・・・・聖なる石の力によってイヴァリースに召喚された蒼い瞳の青年。
今また計り知れない不思議な力によって、元の世界に引き戻されたのだった。

彼の住むこの世界は、実際、ラムザの住んでいた世界とはかなり違っていた。
ロケット、ミサイル、街が夜でも明るい光に煌々と照らされている。
ラムザ達にとって、見るもの聞くものの総てが驚異的であり、幻想的でもあった。

この世に奇跡というものがあるのなら、こういうことを言うのかもしれない、とラムザは思った。
一度は生を断たれた身。
なのにこうして生きているのは、まだなすべきことが残っているということなのだろうか。

「しかし・・・・・これからどうする・・・・・。」
クラウドが重い口を開いた。

「俺達はセフィロスを倒しに行かなければならない。」

それはまたも、ラムザ達の生と死を賭することになるだろう。
それでも・・・・・。

「クラウド殿。」
重い沈黙を破って、アグリアスが口を開いた。

「もし、差し支えがなかったら・・・・・私達もお供させてはもらえないだろうか。
 私達に、もう帰る処はない・・・・・。」

白魔道士のハリーが声を張り上げ、手で首を切るまねをする。
「帰れたとしても、即、死刑さ。」

「・・・・・・・・・・・・・・。」
クラウドは迷っていた。

「これは俺達の戦いだ。 あんた達を巻き込んではいけない。」
・・・・・かと言って、全く知らないこの世界に放っておくことも、出来ない。

その時、ずっと黙っていたちっちゃな・・・・・と言っても、立派な大人の女性なのだが。
白魔道士のコスモスが、ちっちゃな声で言った。

「わたしは・・・・・。 わたしは愛する人と一緒なら、どこへでも・・・・・。」

驚いたのは隣にいたモンクのローウェル=カートライト。
今、彼の胸の中では天使が鐘を鳴らしているに相違ない。
なぜなら彼は彼女のことをとても深く愛していたから。

「それって、もしかして・・・・・オレ?」
半信半疑のローウェルに向かって、「うんっ。」とコスモスは大きく頷いた。
「およめさんにしてね♪」
にっこりと微笑む彼女に、ローウェルはもう真っ赤である。
「しょっ、しょうがないなあ〜・・・・なんて。」

ああ・・・・・。

住む世界が違っても、過去も未来も、愛のかたちは変わらないんだね・・・・・。
私がクラウドのことを想うように・・・・・。
ティファは思った。

そして、次の瞬間、彼女はコスモスの手をとっていた。


4.AKT 仲間たち

「ねえ、白魔導士さん・・・・・。」

人は生きてゆける。
愛する人が、仲間たちが自分のそばにいる限り。
たとえどんなところでも、どんな時代であっても・・・・・。

「愛する人といっしょに・・・・・生きてゆこう。」
答えはまとまったようだ。

「というワケで・・・・・。」
にっこりとティファが微笑む。
クラウドもこれには弱かった・・・・・・。

「みんな、飛空挺でしゅっぱあ〜つ♪」



初めて見る飛空挺にラムザたちは驚きの色を隠せなかった。

「本当に、こんな物が空を飛ぶのかい?」
「魔法でもかかっておりますの?」

中には、興味津々の者もいたが・・・・・。

機工士ムスタディオである。

今まで見た中で最高の機械というのが労働八号だったのだから、
まあ仕方がないと言えば仕方がないのだが・・・・・。
あちこちをきょろきょろと物珍しそうに探索している。

「なあ、それって、どうやって動かすの?」
「あわわわ。 仕事中に話しかけないで下さい!!」

「こらっ! そこのシッポ!! 航行中のパイロットに話しかけるんじゃねぇ!!」
見かねたシドがゲキをとばす。
同じシドでも大違いである。

「しっ・・・・・・シッポ・・・・・。(^_^;)」

こんなことではちっともこたえないムスタディオだったが、大事な決戦前だ。
少しは控えた方がいいのかもしれない。

仕方がないのであちこちを探検しては、感嘆の声を挙げるのみ、となった。

その後、クラウドたちは見事セフィロスをうち砕き、エアリスによって、解き放たれた魔法ホーリー、
そして、たくさんのライフストリームによって、この星の命を救うことが出来た。

最後の戦いは筆舌に尽くせないぐらいの凄まじさであったが・・・・・。

そして、一行が向かった先は・・・・・。


.AKT 「ニブルヘイムにようこそ!!」

ニブルヘイムは自然が残る片田舎の小さな村である。
どこか、イヴァリースと雰囲気が似ている・・・・・とラムザは思った。

青い空に小鳥がさえずる。
緑の草原は果てしなく広がる。
小高い丘に登れば、眼下に蒼い海がひろがってゆく・・・・・。

ここにきた仲間達・・・・・カーツ、ローウェル、ハリー、テイシア、コスモス、クッキー、ムスタディオ、シドルファス、ベイオウーフ、レーゼ、メリアドール、アルマ、ラファ、マラーク、ラッド、そして、クラウドとアグリアス。
みんな次に何をすべきかを探り始めている。
シドにコンピューターを教えてもらう者、異世界の文明に興味津々の者・・・・・様々だ。

でも、今は少し休みたい。
いろいろなことがありすぎたから・・・・・。

小高い丘に登って、海を見に行きたくなった。
丘に続く小径を歩いていると、同じことを考えている何人かと出逢った。
ラムザの傍らには、アグリアスがいた。
ふたり肩を並べて歩く。
頬を染め、少しぎこちない言葉でアグリアスはラムザに問うた。

「昨日ラムザが言ったこと・・・・・・・本気にしていいのか、いや、いいの・・・・・?」

(・・・・・いけない! こんな話し方では!!)
彼女の堅い口調は、昔からだったが・・・・。

(馬鹿なアグリアス。
 もう聖騎士などではなく、ひとりの女性なのだから・・・・・。)
そう頭で判っていても、長年使ってきた男言葉がつい、口に出てしまうのだった。

「ぼくは貴女にうそはつかない。」
真剣な目をしてラムザが言った。

昨日、妹のアルマに、ラムザはアグリアスを正式に紹介したのである。
自分の「恋人」として。

いつでもふたりはいっしょだった。
バリアスの谷で逃げまどう彼女を助けてから・・・・・いや、本当はもっと以前から
ふたりの出逢いは始まっていた。
雨の降りしきるオーボンヌ修道院・・・・・あの時から。

「最後の戦いが終わったら・・・・・ぼくは貴女に求婚するつもりだった。
 生きてゆく世界は変わってしまったけれど、なにもかも失ってしまったけれど。
 けれど・・・・・ぼくには貴女がいる。」

「・・・・・・・・・・・・・・アグリアス、ぼくと・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ラムザが意を決し、言いかけたその時だった。

「早く! 早くおいでよ!!」
「なにしてんのさ! いい眺めだよ!!」

仲間たちの声だ。

・・・・・まったく、せっかくいいとこだったのに・・・・・。
絶好の機会を逃し、くさるラムザにアグリアスは微笑んだ。

「行こう、ラムザ。 丘の上で、仲間たちが待ってる!」


6.AKT おわりよければすべてよし

丘の上に立ち、眼下を見下ろす。
蒼く広がる海、緑の草原・・・・・。

ぼくたちはイヴァリースを遠く離れてしまったけれど、忘れた訳じゃない。
嫌いになったりなんかしない。

遠い故郷に思いを馳せては涙ぐむ者、はしゃぐ者、これからのことに少し不安を抱く者。
それぞれ感じ方は違うけど、みんな、しっかり生きていこうとしている。

風に金の髪を揺らして、傍らにいるアグリアスがラムザに微笑みかける。
それにこたえるようにラムザも微笑みを返す。

大丈夫。
愛するひとがいる限り、信頼する仲間がいる限り、歩いてゆける。

いつだって・・・・・。



ここからがクラウドとぼくたちの出発点。
愛する者達といっしょに、生きてゆこう。

ああ、それでも・・・・・。
それでも時々は丘の上に立ち、想おう。

ぼくたちのイヴァリースを。

ぼくたちの生きてきた・・・・・あの時代を・・・・・!!


エピローグ

総ての終わりは総ての始まりに繋がってゆく。

過去から未来へ。
未来から過去へ。

繰り返される永遠の歌・・・・・。

Tout bon est fait s'il est facile de finir. ・・・・・ おわりよければすべてよし。




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