少年よ大志(?)を抱け!

「にゃー♪ おいでおいで・・・・・うふ。 いい子ね。」

とある日の午後。
コスモスが猫に話しかけている。

どこかの飼い猫だろうか。
やけに人なつっこい。

「人なつこい子ね。 お前は何処の子?」
動物好きなコスモスは、猫と遊べて上機嫌である。

「可愛いなあ・・・・・♪」

コスモスの少し後ろの方で、ローウェルがこっそりと彼女を見ていた。
もちろん彼の言う「可愛い」は彼女であって、猫ではない。
そこに面白いことが大好きなハリーが通りかかった。

「ほうほう・・・・これはこれは・・・・・♪」

彼は早速、ローウェルをからかってやろうと背後から近づいた。

「これはこれはローウェル君。 なにを見ておいでで・・・・?
 ほぉ、コスモス嬢。 これはまた・・・・・♪」
ローウェルの肩にぽんっ、と手を置き、ハリーはわざと抑揚のない言葉で話しかける。

ローウェルはいきなりのハリーの攻撃にぎくっとした。
「ややや、やだなあ。 別に何にも見てないさ。 天気がいいからひなたぼっこしてて
 ・・・・・・なっっ?」
返す言葉がどもりまくりの焦りまくりである。

(コイツもラムザ同様、わかりやすい男だな・・・・)
ハリーはそう思い、ローウェルに向かって静かに言った。

「おや、そうですか? ・・・・・いいですか? 恋は早い者勝ちですよ。 
 誰かが彼女をさらっていったあとでは遅いんですよ?」

そんなこと、わかってらい。
オレだって彼女に話しかけ・・・・。

「とゆーワケで。」
ハリーがすたすたとコスモスの方に向かっていく。

「コスモスを呼んできてやるから、うまくやれ。」
「・・・・・って、おいコラ! 待て! ハリー!!」
ローウェルは真っ赤になってハリーに叫んだが、そんなもん、この男が聞くわけがない。

「コスモス・・・・」
ハリーはコスモスの傍らに立って、なにやら話し始めた。
ローウェルはその様子を羨ましく思った。

あいつの話術ってすごいんだよな。
初めて会った人間でも、すぐ仲間にしちゃうぐらい・・・・。
オレも彼女とあれぐらい話せたらな・・・・・。

ハリーのモットーは「舌先三寸で世の中しあわせ♪」である。
そんな男に純情照れ屋のローウェルが敵うわけがない。

ハリーは猫をだっこしたコスモスを後ろに従え、
「ぐっどらっく♪」
とローウェルの耳元で囁き、建物の中に消えていった・・・・。

「ローウェル・・・・」
夢見るような瞳で、彼女が微笑みかける。

ハリー、一体なんて言ったんだ???
ローウェルは少しいけない期待をしてしまう。

「はい♪」
コスモスが猫を差し出す。
あっけにとられるローウェル。

「ローウェルも動物好きだなんて嬉しいな。 一緒にお話ししましょ♪」

オレが・・・・・動物好き・・・・・・・?
まあ、なんにせよ、結果オーライということで。
ローウェルはハリーに感謝した。



「ふふふ・・・・・・・・」
ハリーがほくそ笑みながら、ラムザとカーツの前に現れた。

「おい、ラムザ、カーツ。 来いよ。 面白いモン見られるぜ。
ハリーはウィンクしながら、彼らを誘った。

その頃・・・・。
ローウェルとコスモスは隣同士に並んで、柔らかな草の上にぺたんと座り込んでいた。
春のうららかな日差しがぽかぽかと暖かい。

「いらっしゃい」
コスモスはその辺にいる小鳥にまで声をかけていた。
白魔道士のローブの上に先ほどの猫が丸くなってあくびをしていた。

「ひぃやあ〜! オレ、オレ、今コスモスと二人きりなんだあ〜!!!」
ローウェルは心の中でガッツポーズをとった。
(ああ・・・・しあわせ・・・・)

ウェル・・・・・・・
ロー・・・・

「ねえ、ローウェルってば。 聞いてる?!」
いきなりコスモスの顔がローウェルの目の前に近づいて、彼はパニックを起こした。
「うっ・・・・うわっっ♪」

しかし、必死に冷静を装う。
オレはクールに決めるのさっ。
しかしその声は上ずっていた。
その額には汗が光っていた。
「ななな、なにかなっ?」
冷静に、冷静に・・・・・・・。

「この子寝ちゃったよ・・・・どうしよう・・・・・。」
ふとコスモスの膝の上を見ると、さっきの猫が完全に昼寝を決め込んでいた。

(はァ???)
・・・・・羨ましいぞ、このやろう。
いやいや、クールな男がそんなことを言ってはいけない。
ふと見ると、コスモスもなんとな〜く眠そうに喋っている。
「こんなぽかぽか陽気だもの。 眠たくなるのも当然よねぇ・・・・。」

「もしかして、おまえも眠いんじゃあ・・・・・。」
「えへへへ。 正解♪」
コスモスは舌をぺろっと出して、笑った。

「いいよ。 ちょっと眠りなよ。 オレ、見ててあげるから。」
「うーん・・・・・・・・・・」
コスモスは少し迷った。

「じゃ・・・・・。」
ふわりと彼女の金の髪がローウェルのほほにかかった。
「お言葉に甘えて・・・・・・。」
彼女はローウェルの肩に自分の頭をもたれさせ、そのまま体を預けた。

「うっ・・・・・・うわっ!」
ローウェルの心の叫びは悲鳴に近かった。
こんなに近くに大好きな彼女の無防備な姿。
ローウェルは頭から湯気が出そうなぐらい真っ赤っ赤になってしまった。



「どう? 面白いだろ・・・・?」
ハリーが上機嫌でラムザに言った。

「悪趣味だなあ・・・・・・。」
と言いつつ、今後の参考のためにこっそりと覗くラムザ。

「しッ! 気づかれちゃうよ・・・・・・・。」
カーツも真剣である。

三人は、もっとよく見える所まで、こそこそと移動した。
ローウェルは舞い上がっているから、少しの雑音は耳に入らないだろうと思ったが、
念には念を入れねばならない。
今の三人の気分は忍者だった。
まだそのジョブにはお目にかかってないので・・・・気分だけ・・・・。

ローウェルは今ナイトのジョブに就いている。
彼女の肩が冷えないように、騎士のマントをそぉっと掛ける。

(起きないでね・・・・・・)

この幸せな時間は、彼女が眠っている間だけのもの。
ローウェルはもっとこの時間が続けばいいと思っている。
こんなチャンスは滅多にないのだから。
だから彼女を起こしたくなくて、彼の行動は必然的に慎重になる。

一方、ギャラリーの方はと言うと・・・・・・。
「肩を抱いた!!」
と、静かに(笑)大騒ぎ。

コスモスは熟睡している。
眠っている今なら、大丈夫かも・・・・・・。
ローウェルは眠る彼女に顔を近づけ、
「すきだよ・・・・・」 と囁いた。

ギャラリー、大興奮。
「次は・・・・・・次は絶対・・・・・・・だよな。」
高まる期待にみな真剣顔。
目がらんらんと光っている。
なんせまだナマで見たことないひよっこ達なんです・・・・・。

ローウェルが瞳を閉じた。
・・・・・・それから・・・・・・?

ギャラリーは固唾を飲んで事の成り行きを見守っている。
かつてこんなに真剣な彼らをバトル以外で見たことがあっただろうか?

ところが・・・・ローウェルはそのまま彼女の肩に手をかけているだけである。
幸せそうに微笑んでいるだけである。

「あ・ら?!」
ギャラリーはこの意外な展開に拍子抜けしてしまった。

「あ・・・・あいつバカか? なんでなんにもしねーんだよ。」
ハリーは残念そうである。

「嘘みたい・・・・・・。」
カーツが呆れる。

「・・・・・・・・・・・・・・・」
ラムザは無言だった。



「ちぇ、せっかくスタンバイしてやったのにぃ。」
ハリーは実に残念そうである。

「どきどきしちゃったぁ。」
ラムザが真っ赤になって言った。

「・・・・・・・・・・・・・・・」
今度はカーツが無言である。

ラムザは思った。
ローウェルでさえ、ハリーにかかったらネタ決定なんだもんな・・・・。
ぼくがあの人を好きだってコトはみんなにひみつにしておかなくちゃ・・・・・。

その雰囲気を感じとったのか、ハリーがあさっての方を指さし、一言叫んだ。
「あっ、アグリアス様だ!」
茂みに隠れていたラムザはいきなり背筋をしゃきん★と伸ばし、その場に勢いよく立ちあがった。
悲しいかな・・・「アグリアス」という言葉に否応なく体が反応してしまうラムザ。

がさっ!!!
茂みが大きく揺れ、ローウェルがギャラリーに気づく。

「あーっ! おまえら・・・・・・っ!!!」

ローウェルはつい、大きな声を出してしまった。
コスモスの体がぴくっと動き、ひざの上の猫がびっくりして目を覚ました。

カーツが短く
「やばっっ!」と叫んだが、時すでに遅かった。

「う・・・・・・・・・ん」
この騒ぎにコスモスが一寸、起きそうな気配を見せる。

(ま、今回ばかりは大目に見るか・・・・・なんたってハリーのおかげなんだし・・・・・)
ローウェルはひとさし指を立て、ギャラリーに「しーっ」と、ジェスチャーした。

「しずかにしてね。」

そして彼はふたたび至福の時を満喫しようとしていた。



その向こうでは次のターゲットにされたラムザが真っ赤になってハリーを追いかけていた。

「ははは〜。 うっそぴょ〜ん♪ バレバレじゃん、ラムザ。」

「うそつき! も〜っ!!」

「ごゆっくり。」
ローウェルに片手をひらひらとさせて、カーツがそのあとを追う。



ローウェル=カートライト、18才。
恋はまだ始まったばかり。



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