しろいゆきがてのひらのうえでとけてゆく

(予感がするの・・・・・・・・・・・・・・。)

アタックチームから外れているコスモスは、モンクのジョブで戦っているローウェルを
見つめながらそう呟いた。

曇った空から、ひらひらと真っ白い雪が舞い降りる。
雪はコスモスの金の髪の上に、肩の上に、そのまつげに、静かに、少しづつ降り積もる。
彼女は白魔道士のフードもかぶらず、雪に濡れながら、じっとローウェルの帰りを待っている。
その手には柔らかそうで暖かそうな布が握られていた。

ここはアラグアイの森。
オーボンヌ修道院まであと少しのところである。



ラムザ達がガリランド王立士官アカデミーを旅立ってからはや数年の月日が流れていた。

あの頃はみんなまだ少年少女で、力も弱く、戦略を立てることもままならず、
時には瀕死の重傷を負ったこともあった。
しかし今、少年達は逞しい青年に成長し、並の敵ならものの数分で片づけてしまうほどの
実力を身につけていた。

「オーボンヌ修道院に行こう。 そこになにかがある・・・・。」
昨日ラムザはみんなにそう言った。
ラムザの気配がいつもとは違うことをみんな感じ取っていた。

「オーボンヌで決着がつく。」

(もしかしたら、もうここには帰ってこられないような気がする。)
言葉には出さないが、誰もがみんな、そう感じていた。



(予感がするの。 そろそろ大きな戦いになりそうで・・・・・・・・・・・・・。)
コスモスは冷たくかじかんだ自分の手にはあっと暖かい息を吹きかけた。

ランダムバトルが終わり、ラムザとローウェルが肩を並べて帰ってきた。
「楽勝だぜ。」
ローウェルは得意顔で、隣にいるラムザの肩をぽん、と叩いた。
ラムザはコスモスの姿を見つけると、
「あっ、おじゃま虫は消えるね。」
と、そそくさとあちらの方へ逃げて行ってしまった。

コスモスはラムザの言葉に、ぽぉっ、とほほを染めた。
そしてローウェルの肩に、先ほどまで手に持っていた布を、ふわっとかけた。
ちょっと背伸びをして・・・・・・・。

「はい・・・・・・・・・。」

「寒くない?」
「動き回ってるから暑いぐらいだよ。」
モンクのローウェルの体は汗ばみ、湯気まで出ている。

ふとローウェルは、コスモスの肩や髪に雪が積もっているのに気が付いた。
「コスモスの方が寒そうじゃない。 ・・・・・・・・・おいで。」
「きゃ・・・・・・・」
いきなりやさしく抱きすくめられて、コスモスは小さな叫び声を上げた。
ローウェルの汗ばんだ熱い胸が、自分のほほに当たる。
「あ・・・・・・・あ。」
恥ずかしさのあまり、また声を上げたが・・・・・・次の瞬間それは安堵感へと変わった。

(あたたかい・・・・・・・・・・・)

ローウェルはコスモスを胸に抱いたまま誓う。
「オレ・・・・・・・・勝つよ。 おまえが応援してくれる限り。 ・・・・・・・絶対。」

ローウェルの匂いがする・・・・・・・・・。
ローウェルの心臓の音が聞こえる・・・・・・・・。

コスモスはこの幸せがいつまでも続きますように・・・・・・・と、目を閉じて祈る。
だが心の中にわき上がった不安は完全に打ち消すことができなかった。


(なぜかいやな予感がする。
命に関わるほどの・・・・・・・・・・大きな・・・・・・・・・)



「いいなあ・・・・・・・・・。」
ラムザはこっそりと遠くからふたりの様子を見て呟いた。
そして前を向いた瞬間、ラムザのほほはバラ色に染まる。

「・・・・・おつかれさま・・・・・。」
ラムザの目の前には、少しはにかんだ顔のアグリアスがいた。

ラムザの胸は高鳴った。
まさか自分を待っててくれている人がいるなんて、思わなかったから・・・・・・。

「ありがとう。」
ラムザが照れながらそう言うと、アグリアスはにっこりと微笑んだ。
ラムザはアグリアスの腰に手を回す。
ふたりは寄り添いながら、みんなが待つ方角へ一緒に歩いて行った。

ローウェルは静かに自分の胸にコスモスを抱いている。

コスモスは思う。
(あなたを失うのが怖いの・・・・・・・・・・・・。 不安なの・・・・・・・・・・・。)



最期の刻(とき)が来る。
恋人達の時間(とき)を奪ってゆく・・・・・・・・・・・・・・・。


この掌で溶けてゆく淡雪のように・・・・・・・・・・・・・。




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