SARAH 〜Boy Meets Girl〜

世界が平和になり、カーソン牧場に帰ってきたサラ。
そして少年はカーソン家の一員となった。
ふたりは仲の良いきょうだいのようにいつでもじゃれ合っていた。

天気のいいある日の午後。
サラと少年は家の脇にあるジャガイモ畑で収穫を行っていた。

と、そこに・・・・・。
黄色い袈裟懸け、質素な身なりの僧侶がこちらに向かって歩いてきた。
神王教団のリーダー、ティベリウスだ。
彼は神王の誕生を信じ、会える日をそれはそれは心待ちにしていた。
そして今、その神王がこの二人であると確信したため、
はるばるナジュ砂漠を越えてやって来たのだ。



「どうぞ。」
エレンはティベリウスを家に招き入れた。
(こういう人たちって、なに食べてるんだろ・・・・・)
彼女にはわからなかったが、とりあえず無難にお客様用のお茶を勧めてみた。
「あの・・・・それで、どういったご用件で・・・・」

ティベリウスは自信に満ちた顔でこう言った。
「実は用というのは・・・おふたりで、神王の塔に来ていただきたいのです。
 私達はもう長いこと神王様の降臨を待ち望んでいたのです。」

サラは顔を青くし、エレンにしがみついた。
「お断り・・・・します。 せっかく家族と暮らせるようになったのに・・・・・」
するとティベリウスは少年の方をちらっと見やり、
「では・・・・・彼だけでも。」
と言った。
ティベリウスの言葉に少年の肩がびくっと、大きく震えた。

サラはあまりにも突然のことに気が動転している。
ボーイ・・・まさか、行くなんて言わないよね?
心の中でそう祈った。

「僕は・・・・・・・・・・・・・・」
少年が肩をふるわせながら、小さく呟いた。
「僕は・・・・行きたくありません。」
今度ははっきりとした声で自分の意志を伝えた。

「いやです。 サラと別れるなんて、いやです! 僕を救ってくれたのは、サラだけだったんだ!!」
神王教団なんかじゃなく・・・・・僕をいつでも支えてくれたのは・・・・・・。
サラだったんだ。
ひとりぼっちで「死」の世界にいた僕を「光」の世界に導いてくれたのは
サラだけだったんだ!!

少年はふるえる腕を伸ばし、サラに助けを求める。
サラと少年はしっかりと抱き合い、ティベリウスに抗議の目を向けた。
サラが少年をかばうように叫ぶ。
「わたし達は崇められる為に帰ってきたんじゃないんです!
 みんなで幸せになるために帰ってきたのよ!!」

「う・・・・・・・・っ」
感極まってふたりの口から嗚咽が漏れる。
遂に少年とサラが大声で泣き出してしまった。

「うわああああーん」
「わあああああーん」

ティベリウスがその様子にぎょっとする。
まだまだふたりは「子供」なのだ・・・・・。
ティベリウスはふっ・・・と口の端に穏やかな微笑みを浮かべた。
「失礼いたしました。 私の非礼をお許し下さい。」
「・・・・・・・・・・・・・」
少年とサラは静かに泣き顔を上げてティベリウスを見た。
彼は優しく清廉な瞳をしている。

「私達はずっと神王様の存在を信じてきました。 そして神王の塔で一緒に暮らすのが
 幸せなことだと思っていたのです。 しかし私にはあなた方の幸せが何であるのか
 分かっていなかったようですね・・・・・。 私は帰ります。 でも・・・・もしも・・・・大人になって
 訪れてみたいと思ったその時には・・・・その時には私にも会ってくださいますか?」

ティベリウスが悪い人ではないと少年とサラは知っていた。
ここまで自分たちに会いに来てくれたティベリウスになにかしてあげたかった。
少年とサラは手を伸ばし、ティベリウスの背中にぎゅっと抱きついた。

「・・・・・・・神王様・・・・・・・」
ティベリウスは驚いたような顔をした。
そしてカーソン家を出て、再び砂漠に向かって歩き始めた。



「ティベリウスさん、さようなら・・・・・・・・・・・・」
そして・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・。

少年とサラはティベリウスの姿が道から消えるところまで見送った。
ふたり、手を振りながら。

少年の手をサラが優しくにぎる。
それを見た少年にいつもの笑顔が戻る。

「帰ろっか・・・・お姉ちゃんもきっと心配してる・・・・・」
そう、わたしたちの帰る場所はカーソンの家。
お父さんとお姉ちゃんが待っている暖かい家。

サラは人差し指を自分の唇に当て、少年に聞いてみた。
「ね・・・・・あなたの名前・・・・考えましょ?」
「うん・・・・・・」

ふたりが知り合ったときにサラが付けた「ボーイ」という仮の名前・・・・。
もっと本式な名前の方がいいのではないかとサラは考えたのだが・・・・。
「ううん、僕の名前はボーイだよ。 君の付けてくれた名前があるから、他にはもう要らない。」
ボーイはにっこりとサラに微笑んだ。

サラはその言葉を聞いて嬉しくなり、ボーイに微笑みを返す。
そして「我が家」へ、ふたり仲良く手をつないで帰るのだった。




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