パーティナイトは「まだ」終わらない!!

1.AKT トーマス

トーマスがロアーヌに来てから早や半月が経った。
カタリナと城内ですれ違うことあっても、彼はごく普通な振る舞いをし、財務管理に打ち込んでいた。
そんなある日、シノンの村から彼宛に伝令があった。

「お祖父様が・・・・・・?!」

祖父が病床に伏せったため、トーマスは再びシノンの村に帰ることになった。
彼は青年達のリーダーとして皆をまとめあげなくてはならない。

「じゃ、ユリアン。 僕はシノンに帰るけど・・・城の警護、頑張れよ。」
「トーマス・・・・カタリナ様はこのこと、知ってるのか?」
ユリアンが少し不安げにトーマスに問う。
「彼女はもう、僕とは関係ないんだ。 だからユリアン、彼女には黙っててくれよ。
よけいな心配はかけたくない。 じゃ、また。 休暇取れたら、シノンに遊びに来てくれよ。」
トーマスは辛そうに目を伏せながら、ロアーヌ城の正門から表へと出ていった。

ユリアンはひとり、青い空を見上げて考えた。
「世の中、好きな者同士でも結ばれないことがあるんだな・・・・・。
 オレとエレンはどうなんだろ・・・・・。」



「トム君が?」

ユリアンからトーマスのことを聞いたカタリナはたいそう驚いた。

ユリアンはやっぱり黙っていられなかった。
自分が正しいと思ったことは自信を持ってやれ、が彼の信条だったから。

・・・・せっかくまた一緒にいられたのに・・・・。
もう、会えない。
もう二度と会えないんだわ。
そう思うと、カタリナの胸は息が詰まるほどに締め付けられた。

わたしは・・・・・・。
わたしはこのままここに居て、ミカエル様を騙し続けて生きていくの?
わたしが一番愛している人は誰なの?

カタリナは一晩中考え悩んだ。
そして翌朝。
シンプルなドレスに着替えたカタリナが謁見室でミカエルに会っていた。



2.AKT ミカエル


「ミカエル様・・・・。 これはお返しいたします。」
カタリナは聖剣マスカレイドをミカエルに手渡した。
「これは・・・・・・・。 何故だ。 何故お前はこれを私に返すのか?」

カタリナは遠慮がちに、しかしミカエルの目をしっかりと見つめた。
なにかを悟ったような、真剣な目をしている。
「ミカエル様。 わたし・・・・おひまをいただきたく存じます・・・・・。」

ミカエルはカタリナに尋ねた。
「・・・・・・・トーマス、か?」
前々から、ふたりのことがなんとなく気にはなっていた。
しかし、まさか、そんなことが・・・・・・・・。

「はい。」
カタリナは・・・真っ直ぐミカエルを見て言った。
その瞳には一点のくもりもない。
「わたしは・・・・わたしは彼を愛しています。 どうか彼の許へ行かせて下さい。」

ミカエルは大きなため息をひとつ、ついた。

まったく・・・・いつもお前は唐突に私を驚かす。
そしてその決断は誰がなんと言おうと、揺らぐことはないのだな。

「そうか・・・・ならば何も言うまい。 己の人生は己が決めるがよい。
 私にお前の人生を決める権利はないのだから・・・・。」

ミカエルは玉座から立ち上がり、カタリナの頬に別れのキスをした。
「幸せに・・・・・・・カタリナ。」

カタリナは瞳に涙を浮かべている。
「ありがとうございます・・・ミカエル様。
 さようなら・・・わたしの大切な・・・ご主人様・・・。」

そう言うとカタリナは馬にまたがり、ロアーヌ城を後にした。

玉座に残ったミカエルは、ひとり呟く。
「モニカを政略結婚の犠牲にしてしまった所為か。 お前をひとり旅立たせてしまった
 私の罪か。 カタリナ・・・・。 しかし、私だってお前を愛していたんだ!」

だがもう遅かった。
なにもかも総てが遅かった。
この運命は、マスカレイドを奪われたその瞬間から決まっていたのかもしれない。

「せめて幸せに・・・・・・・。 どうか幸せに・・・・・・・。」
お前の幸せを祈ることだけが私に唯一許される、お前への最後の愛。

ミカエルはマントを翻し、自分の部屋へと戻っていった。



3.AKT カタリナ


シノンの村へ・・・・・・!
馬を駆るカタリナの心はすでにシノンのトーマスへと翔んでいる。

シノンの村は、ロアーヌの城より馬で半日ぐらいの所にある開拓者の住む村だ。
ここの者達は主に農業、林業を営み、若者は共同作業で一日の大半を過ごす。
カタリナがシノンの村に着いた時、すでに時間は夕刻になっていた。

「夕焼けが綺麗だ。 明日もいい天気だな。」
今日の作業を無事終えて、トーマスはサラ、少年と立ち話をしていた。
その時、サラが夕陽に紅く燃え立つ木立の影に誰かを見つけた。

「カタリナ・・・・・・さん・・・・・??? カタリナさんだっ♪」
サラがカタリナに向かって嬉しそうに両手を振る。
トーマスは、はっとして振り返る。
まさか・・・・・何故貴女がここに・・・・・・・・・?
自分は幻を見ているのだろうとトーマスは思った。

「カタリナ・・・・・・様、どうしてここに・・・・」
「トーマス・・・・・・・」
カタリナはトーマスに歩み寄る。
トーマスもまたカタリナの方へ歩み寄った。
二人の距離があと少しと近づいた時、カタリナは突然立ち止まり、目を伏せた。

「・・・・・・・お城を出てきました。 なにもかも・・・・・捨てて参りました。 
 もうわたしは貴族でもなんでもない・・・・今あなたの目の前にいるのは、
 カタリナという名のひとりの女・・・・・。」
カタリナは顔を上げ、アメジストのような瞳でトーマスを見つめる。
「どうか・・・あなたと一緒に連れて行って下さい・・・・・わたしを・・・・・。」

トーマスは黙ってカタリナを見つめていた。
しかしやがて彼はカタリナに向かって大きく腕を広げた。

「あ・・・・・・」
カタリナは頬を薔薇色に染め、トーマスの広げた腕の中に飛び込む。
「夢みたいだ!」
トーマスは歓喜の声をあげ、彼女をしっかりとその腕の中に抱きとめた。

何度も忘れようとした、何度も諦めようとした、何度も涙を流したふたり。
ただ一度の思い出に生きる覚悟をしたはずだった。
しかし今ふたりは幸せの絶頂にいる。
見つめ合うふたりの瞳には喜びの涙が浮かんでいた。

「早く大人になりたい・・・・」
サラは目の前に繰り広げられるドラマチックなふたりの様子を見て、うっとりしている。
少年は少し照れくさくて、横目でちらとふたりを見る。

「ほんとに? 本当に僕についてきてくれるの?」
トーマスはまだ信じられないといった様子でカタリナに尋ねた。
彼の眼鏡の奥の優しいみずいろの瞳に彼女のアメジストの瞳が映る。
「ほんとよ。 アビスの底だって・・・・・天国(ヘヴン)だって・・・・。」

ふたりは夢見るような瞳を静かに閉じ、お互いの唇を重ねる。
それが永遠の誓いであるように・・・・・。
もう二度と悲しみに心奪われぬように・・・・。

・・・・・・・僕の美しいひと・・・・・・永遠にそばに・・・・・・



4.AKT サラ

ある晴れた日。
ふたりはシノンの教会で結婚式を挙げた。
ライスシャワーと美しく可憐な花々がふたりを祝福する。

カタリナはウェディングブーケをぽぉん・・・・と青い空に高く、たかぁく、ほおりなげた。
それは青空にまぁるいアーチをえがきながら・・・・サラの手の中にすぽんと落ちてきた。
まぁるくて、真っ白な薔薇のブーケ・・・・思いがけない、神様からの美しい贈り物に驚くサラ。

隣にいた少年が不思議そうにサラに尋ねる。
「それもらうと何かいいことがあるの?」
サラは頬を薔薇色に上気させ、「ないしょ♪」 と彼に向かって微笑んだ。

この次のお話はサラにバトンタッチです。


「外の世界の自由を知ってしまった」髪の短いカタリナさんです。
ふたまたなんて言わないで。
ミカエル様とははっきりとした約束は交わしていません。
もうこんなに悩んだのだから、ふたりを幸せにさせてね♪



小説の部屋インデックスに戻る


イメージイラストに行ってみる