MINION CHILDREN OF FORTUNE 〜運命の寵児たち〜


四魔貴族を倒し、最期のアビスゲートを閉じようとサラが立ち上がった。
すると少年が同時に立ち上がり、サラを突き飛ばした。

「アビスゲートは僕が閉じる。 サラはそこにいて!」
「えっ・・・・・・・・」

少年の姿がアビスゲートに吸い込まれる。
周りにいるユリアン達も何事が起こったのか理解できない。
しばし呆然と立ちつくす。

「サラ・・・・・僕と君は運命の寵児。 死食の時、僕ら二人だけが生き残ったのが何よりの証拠。
 アビスゲートを閉じるのは僕の役目。 君はこの世界に居て。 
 僕がアビスにいれば、君はこの世界で幸せでいられる。」
少年はサラを優しく諭す。

いままでもずっとひとりだったから・・・・・・・つらくはないよ・・・・・・・
たのしいおもいでをたくさんありがとう・・・・・・・・・・・サラ・・・・・・・・

「そんなの・・・・そんなのっ、ホントの幸せじゃないじゃないっっ!! 行かないで! 
 ボーイっ!! 行かないでっっっ!!!」
泣き叫ぶサラ。
しかし少年は悲しそうな顔をして、無言でアビスへ消えてゆく。

「サラ・・・・・・」
ユリアンがサラを抱きしめる。
サラは涙が枯れるぐらいユリアンの胸で泣いて泣いて・・・・・・・。
いつの間にか泣き疲れて眠ってしまった。
サラが気が付いたのは、雪の街ランスにある、天文学者ヨハンネスの家のベッドの上だった・・・。

「・・・・・・・・・・ここは・・・・・・・・・・?」
「サラ、気が付いたんだね。」
ユリアンが優しく言った。



ヨハンネスによると、忘れられた東の土地に最後のアビスゲートがあるという。

その話を聞いたサラは起きあがり、
「行かなくちゃ・・・・・・・・ボーイを助けなくちゃ・・・・・・・・・・」
と、うわごとのように言った。

「莫迦な。 東に行った者で今まで無事に帰ってきた人はいませんよ!!」
ヨハンネスの必死の説得も今のサラ達には届かない。
「でも、わたしは行くの・・・・・・・・。 ボーイはもうひとりのわたし。 
 半分だけの心臓では生きてゆけないの。」
サラの決意は堅かった。
「さよなら、ヨハンネス。 今まで、ありがとう。」
サラはにっこりと微笑んだ。

この小さな少女のどこにそんな度胸があるのか・・・・。
死をも恐れない、その心。
ヨハンネスはかぶりを振った。
「あなたの決意がそこまで固いのに、今更 私がなにを言えましょう。
 どうか、お気を付けて・・・・・。」

サラとユリアン達はランスを後にし、東へ向かった。
もうひとつのアビスゲートを探すために。
そしてそれは黄京にあった。
ここに来るまで試練の連続だったのは、言うまでもないことだ。

サラ達は少年を救うために遂にアビスまでやって来た。



サラたちは混沌とした幻想の世界で少年を捜す。
サラ達より先に少年がその姿を見つけた。

「サラっ!!」
少年が叫ぶ。
「ボーイ!?」
サラが空中を見上げる。
少年が居る。
彼はバリアのような物の中に閉じこめられていた。

「むかえに・・・・・・きたよ。」
サラは少年のいる方に向かって手を伸ばし、、優しく言った
「来てくれた・・・・・・・・・」
少年は嬉しそうに微笑もうとしたが、すぐさま、ぎゅっと唇を噛んだ。

「どっ・・・・どうして来たの!! 
 君がここに来なかったら、次の死食まで世界は生き延びられたのに!!」
(サラ・・・・君を巻き込みたくなかったのに・・・・・・・・・)
「どうして・・・・どうしてそんな事を言うの? わたし達が本当に運命の子供なら、
 破壊だけでなく創造の力も生み出せるはず・・・・」
そのサラの言葉を少年が遮った。
「二人の力が合わさったら、なにもかも破壊されてしまう!!」
「僕らの宿星は「死」だ・・・・・。
  破壊の力が創造の力に勝ってしまう。 創造の力を生み出すには先に破壊の力を
  滅亡させないといけないんだ。 僕らにそんな強大な力はない・・・・。」
「終わりだ・・・・・・・・・」
少年は額に手を当て、瞳を閉じた。

それを聞いたサラは愕然とし、膝をついたまま悲しく嗤う。
サラの心に絶望の闇が広がった。
「ど・・・・・・・・・・・うして・・・・・・・どうして、そんな定めなの・・・・・そんな・・・
 わたしたち・・・・・すべてを破壊してすべてを終わりにしてしまう・・・・・・・・・・・」
「サラッ!!」
アビスの中心部に吸い込まれてゆくサラにユリアンが叫ぶ。

「始まったわ・・・・もう誰にもこの破壊は止められないの?
 みんな、みんな・・・・・・・ごめんね・・・・・・・・・・っ」
泣きじゃくるサラの肩をやさしく少年が抱く。

「サラ・・・・・・・・・・・・」

どうすればいいのか少年にも分からなかった。
今の彼に出来ることは、ただ黙ってサラの肩を抱くことだけだった。
目の前で今まで形のなかった「破壊するもの」が徐々に具現化していく。
邪悪な神の顔・・・・おぞましき、何物とも形容しがたい本体・・・・・・。
しかしそれは美しく光り輝き、善の物とも悪の物とも言えなかった。

「これが・・・・僕らの破壊の力なのか・・・・・」

とてつもなく大きな恐怖が少年とサラを包み込む。
ユリアン、ロビン、シャール、そしてハリードがサラ達を見つめている。

「サラっ!!!」
絶望に打ちひしがれているサラにユリアンが叫ぶ。
「あきらめるな!!! ふたりで「生」の力を生み出せ!! 
 こいつ(破壊するもの)はオレ達が倒す!! 必ず倒してみせるからッッ!!!」
ユリアンは親指をぐっと立て、サラに笑いかけた。
「サラ、あきらめるな。 オレ達も戦うぞ!」

シャールが剣を構える。
「この世界の混乱と不幸を・・・断つ!」

ロビンが槍を回す。
「世界の破壊など、このロビンが許さん!」

ハリードが胸に手を当て、サラに誓う。
「サラ、お前のために この命ささげよう!」

サラは瞬きもせず、彼らを見つめ返している。
「みんな・・・・・・・・・・・・・!!」

横にいる少年も、みんなの姿に勇気づけられたのか、諦めの心を捨て、戦うことを決意する。
そしてサラの手を取った。
「サラ・・・・・・・・僕と一緒に祈ろう。 僕達もみんなと一緒に戦うんだ。」
「ボーイ・・・・・・・」
「今の僕達に出来ること・・・・・・。 信じるんだ。 自分の心の中の「生」の心を。
 破壊の力を越えて創造の力を生み出すんだ。
 君と僕と、そして・・・・・・仲間達と一緒に。」
 
サラと少年は向かい合い、瞳を閉じて手を組み合わせる。

生きて
生きて
生きて・・・・・・・・・・・
自分と自分の仲間が無事に元の世界に帰れるように。
いつかかならず・・・・・・・・・・・光溢れる世界に帰るために!!

しかしバトルは想像以上に厳しかった。
「破壊するもの」は時に天使となり、時に悪魔となり・・・・・・・。
サラと少年の祈りも限界に近くなっていた。

「もう僕たちでは「破壊するもの」を押さえきれない!」
「早く・・・・・・早くこいつを倒して・・・・・・・・・」

その時ユリアンが最後の力を振り絞って剣をたたき込んだ。
「破壊するもの」の姿は、まばゆい閃光に包まれた。
そして、サラ達が住む光の世界を破壊する。
惑星がこなごなに粉砕される。
しかし・・・・・。

次の瞬間、惑星がもとの丸い姿に戻ってゆく。
サラと少年の「創造する力」が世界を元の姿に戻した。
いや、正確に言うと、「破壊するもの」や「四魔貴族」のいない新しい世界に再生されたのだ。



サラ達が気が付くと、そこは緑広がる平原だった。
眩しい太陽の光、白い雲が空を駆けてゆく。
爽やかな風が平原の草をそよがせ、吹き抜ける。

サラは緑の匂いを胸一杯に吸い込んでみる。
切ないほどのその感覚に、思わず涙がこぼれそうになった。

これが「生」の世界。
わたし達、戻ってこられたんだ・・・・・・。
「・・・・・・。 そうだ、ボーイは・・・・・。」
サラは慌てて起きあがり、少年の姿を探す。
離れた所にいた少年もサラに気が付いた。

「サラっっ!!」
「ボーイっ!!」
サラは力一杯少年に抱きつき、わんわんと泣き出した。
少年もサラにつられてわんわんと泣き出した。

ボーイはもうひとりのわたし。 
半分だけの心臓では生きてゆけないの・・・・・・・・・・。

ユリアン達はその様子を見て、楽しげに笑っている。
緑の平原にみんなの笑い声とサラ達の泣き声がいつまでも響いていた。



さぁぁっ。
カーソン牧場に強い風が吹いた。
エレン=カーソンはベッドシーツを干していた。
「もぉ。 風が強いから、シーツがすぐに飛んじゃう。」

サラ・・・・・・・。
今頃どうしてるのかしら・・・・・。
半年前、冒険に出かけたきり、家にも戻ってこない・・・・・・。
おねえちゃん、毎日一人分多くごはん、作ってるんだよ。

その時エレンの背後から、小さな声が聞こえた。

・・・・・・おねえちゃん・・・・・

はっとしてエレンが振り返る。
「・・・・・・サラ!?」

エレンの目の前にはサラが居た。
少し大人びて見えたが、たしかに妹のサラがそこに立っていた。

「おねえちゃんっ!!」
サラはエレンに飛びついて涙を流した。
その後からハリード、少年、ロビン、シャールがやって来た。
遅れてユリアンが走ってきた。
エレンは懐かしい顔に会えて、ふたたび、驚きと感動の涙を流した。

これからは姉妹揃って、シノンの村で生きていこう。
サラはそう決意した。



「ボーイ・・・・・・・・もちろんあなたもここに居てくれるのでしょ?」
サラは少年に尋ねた。

「・・・・・・僕、ここに居てもいいの・・・・?」
少年は遠慮がちにそう言った。

これから彼は、カーソン家の一員になる。
サラと少年の物語はこれからもずっと続いてゆく。



不幸な運命は自分で切り開き、逆転させることが出来る。
これからふたりは新しい世界で生きていくのだ。
どんな運命かは・・・・・彼らが自分自身で切り開いていくことだろう。



*MINION OF FORTUNE ・・・「幸運児」という意味もあるらしいです。



小説の部屋インデックスに戻る
イメージイラストに行ってみる