Mystic Blue 〜恋人〜

高い梢を渡ってゆく風のようなすずしげな声・・・・・・・・・・
薔薇の吐息・・・・・・・・・・・・・・
わたしの・・・・・・・・・・・・・・



私の目の前にやさしい手がさしのべられる。

「わたし?」

ミカエル様が私の手を取り、優雅な円舞曲に乗って、ふたり、光の中で踊る。
「まぁ、まるで夢みたい。 貴方が私と踊ってくださるなんて。」

からだが軽い・・・・・・・ふわふわしてて、まるで雲の上で踊っているみたい。

「愛している・・・・・・」
ミカエル様が私の耳元で甘く囁く。
私は瞳を閉じて、彼のくちづけを待つ。

「夢みたい・・・・・・貴方が私を愛してくださるなんて・・・・・・・・・。」



ゆめ・・・・・・・みたい・・・・・・・・・・・

そこでカタリナは目が覚めた。
まだ夜が明けていないのか、周りは薄暗い闇に包まれていた。
(なんだ・・・・・夢か・・・・・ざんね・・・・・・)

「ふぅ・・・・・・・ん」
カタリナは寝ぼけまなこで反対側に寝返りをうつ。
彼女の目の前には、金色に輝く糸のような物があった。

(・・・・・・・・? なに・・・・これ・・・・・・きんいろ・・・・・・・?)
寝ぼけた目を凝らして、よーく見る。
(ミっ・・・・・・・・!! なんでミカエル様が・・・・・!!?)

ふと、自分の体に触れてみる。
(・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
「やん♪」
・・・・・・・・・・全裸である。
滑らかな肌の感触で一気にカタリナの目が覚めた。

(ええっっ!! うっそぉぉぉ!!!!!!)
カタリナは心の中で叫んだ。
彼女の隣では・・・・・・ミカエルが眠っていた・・・・・・・。



カタリナは寝ぼけている上に、大混乱する頭で考えた。

思い出せ、思い出せ・・・・・・。
えっと・・・・昨晩ミカエル様の部屋に呼ばれて・・・・・・・飲んで・・・・・・
それから・・・・・・・・・・それから・・・・・・・。

「きゃーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!」
カタリナはまたまた心の中で叫んだ。

思い出した!!
こうなると、死ぬほど恥ずかしくて、いてもたってもいられない。

(ミカエル様が起きる前に、逃げよう! 恥ずかしいもん。)
カタリナは、ミカエルに気づかれないよう、そおっとベッドから起きあがった。

(今の時間、人も少ないし・・・オーケー、おーけー。)
しかし、なにを思ったのか、彼女は傍らで安らかな寝息を立てているミカエルに目をやった。

きらっ・・・・。
ミカエルが息をする度に金色の髪が僅かな光を反射する。
薄暗闇の中でも黄金色に光るその髪に、カタリナはちょっとだけ触れてみたくなった。
こんなに近くに憧れのミカエル様がいる・・・・・・・・。
本当は、ミカエルのそばにいたくて仕方のないカタリナ。

(・・・・・・・それにしても・・・・・・・なんて綺麗なのかしら・・・・・・・・)
カタリナは少しかがんで、そっと黄金色の髪に触れてみる。
彼女の指の間から、さらさらと金の滝がこぼれてゆく。

カタリナは少女時代のことを思い出した。
まるで太陽神のように美しいミカエルをいつも遠くから見つめていた。

太陽の光を集めたような黄金色の髪
澄み切った青空のような碧い碧い瞳

ずっと手に入れたかった・・・・・・私のあこがれの方・・・・・・・・・

(昨夜、私がミカエル様を独り占めしたなんて・・・・・・・うそみたい♪)
いつの間にかカタリナはミカエルの毛先をひとさし指にくるくると巻き付け、くすくす笑っていた。

「????」
その妙な感触と気配を察知したミカエルが目を覚ました。

「・・・・・・なにが・・・・そんなに楽しいのだ・・・・・・・・・。」
ミカエルはカタリナに背を向けたまま、そう言った。
起きぬけで声が出にくいままだったが。

しまった、とカタリナは思った。
ぱっとミカエルの髪を指から離し、再び体を起きあがらせる。
「あ、あら、起こしてしまいました? ごめんなさい。 私、すぐに自分の部屋に戻りますわ。」
ミカエルはむっとして「何故だ。」と言うと仰向けになり、両手を頭の後ろに組み、
カタリナを睨みつけた。
カタリナはなんとか言い訳を考えようとする。

とにかくこの場から1秒でも早く逃げ出したかった。
恥ずかしくて、恥ずかしくて、とてもミカエルの顔を直視出来ない。

「あっ・・・・と、そう。 お仕事しなければなりません。」
「こんな朝早くから!?」
「あの・・・・・誰かに見られたらミカエル様、困るでしょう?」
「べつに困らないが!! それに二人の時は、ミカエルと呼べと言ったはずだぞ。」
次々言い訳を考えても、すぐにミカエルに切り返されてしまう。
しかも少し怒ってるみたいだ・・・・・・・・。
ついにカタリナは言葉に詰まってしまった。

「えー・・・・・・・・と・・・・・・・・」
言い訳ばかり考えるカタリナにミカエルのイライラはつのる。
やっと昨夜ふたりの気持ちが一つになったのに、なぜ彼女は私から逃げようとする。
そのイライラは頂点に達し、遂にミカエルの頭の中で何かが「ぷつっ」と切れたような気がした。

「まったく。 何を言っておるのだ、お前は。」
ミカエルはカタリナの手を掴み、背中に腕を回す。
そのままカタリナを優しくベッドに仰向けに寝かせた。
柔らかな羽布団と枕が、ぽすっっ、と音を立てた。
ミカエルはカタリナが自分から逃げられないように上から覆い被さった。

これではもう身動きが取れない。
カタリナは観念するしかなかった。

「今日は仕事はいい。」
カタリナの目の前にミカエルの顔が近づいた。
しかし、カタリナはまだむなしい抵抗を試みようとする。

「でも貴方だってお仕事が・・・・・・・・・」
「何のために影がいる・・・・・・・・」
「でも・・・・・・・・・」
「と・に・か・く・・・・・・・・・・・お願いだ。 私のそばにいてくれ・・・・・・・・・」
ミカエルは切ない声でカタリナに哀願する。

「ミカエル・・・・・・・・・・・・・・・」
改めて見るミカエルの新しい一面にまた少し驚きながら。
カタリナはミカエルの名を呼んだ。

(ミカエルの瞳・・・・・・・・空の碧・・・・・・・・・)

カタリナはもうミカエルから逃げなかった。
羞恥の心はもうどこかへ行ってしまって。
ただ黙ってミカエルの碧い瞳を見つめていた。

(引き込まれる・・・・・・・・・・・碧の魔力・・・・・・・・・・・・・)

「私から・・・・・・・・・・離れないでいてくれ・・・・・・・・」
ミカエルはカタリナのおしゃべりな口をふさぐ。
彼なりの方法で。
そしてカタリナをやさしく見つめる。
その碧い二つの瞳で。

(その魔力の前では、いかなる約束事も無に化してしまう・・・・・・・・)

「もう一度・・・・・・・・・・いいか?」
ミカエルが問う。
「はい・・・・・・・・」
カタリナは答える。

(・・・・・・・私を狂わせる碧い瞳・・・・・・)

ふたりは再びまつげを伏せる。
そして、ふたりだけの甘美な世界へと旅立つ。
朝が完全に目覚める時間まで・・・・・・あともう少しこのままで・・・・・・。



高い梢を渡ってゆく風のようなすずしげな声・・・・・・・・・・
薔薇の吐息・・・・・・・・・・・・・・
わたしの・・・・・・・・・・・・・・恋人・・・・・・・・



小説の部屋インデックスに戻る
イメージイラストに行ってみる