ホリディ!! 〜 TODAY IS REST 〜


1.AKT 小さな街

「わぁっ・・・・・・・・。」
街に入ったとたん、コスモスが感嘆の声を挙げる。

(大丈夫、ここに手配書は回っていないようだ・・・・・ )

僕達はとある小さな街にたどり着いた。

「おや、この街のお祭りにきんさったか。 どうぞ、ごゆっくり。」

普段あまり訪れる人もいないのか、宿屋の主人も上機嫌だ。
いや、それは久々に催される祭りのせいだったのかもしれないが・・・・・。
とにかく、祭りの人混みにまぎれて、ゆっくりと休みは取れそうだ。

と、ラムザの視界に、ほほを赤らめてもじもじしているコスモスの姿が入った。
何かを言いたげな視線をこちらに向けている。

「コス・・・・・・・・・。」
「あ、あのね、ラムザくん・・・・・・・・。」
ラムザが気付いて、口を開いたが早いか、コスモスが遠慮がちに言った。
「あのね、もし良かったら、お祭り・・・・・・・・・・・・。」

可愛いな、とラムザは思った。
きっとローウェルも彼女のこんな所が好きなのかもしれない。

「いいよ。」
にっこりとラムザは微笑んだ。
「たまには息抜きも必要だよね。」
「きゃあん。 ありがとう!!」

若い女の子が毎日血なまぐさい戦闘を繰り返している。
この年頃の女の子なら、恋をしたり、お洒落をし楽しんだり・・・・・。
毎日が生き生きと輝いていることだろう・・・・・・なのに・・・・・・・・。
自分が、その道に巻きこんでしまった。
(巻き込まずとも、今のご時世、別の戦争に巻き込まれたであろうが・・・。)

ラムザは自責の念にかられたが、自分ではどうすることも出来なかった。
大きな運命の渦の中に巻き込まれてゆくのが判る。
だから、せめて、彼女の小さな願いだけは叶えてあげたかった。

「うふふ。 久しぶりに踊れるのね・・・・・・・・・。」
くるん、とコスモスはターンした
しあわせな記憶が甦る。
ふと、彼女の手を後ろから取った者がいた。

「ダンスのお相手はいかがかな? 男性のステップも踏めましてよ。」
くすくすと笑う声が聞こえる。

「・・・・・・・・・アグリアスさま!!」
コスモスのほほが見る見る間にバラ色に染まる。
コスモスはアグリアスが大好きだった。
同性同士で?

・・・・・・・・・・・憧れていた。
聖騎士と呼ばれるほどの神々しさと気高さを併せ持つ、まるで女神のような・・・・・。
美しく、優しく、強いアグリアスに。

手と手を取り合って、ふたりは踊る。
アグリアスはコスモスより背が高いので、絵にはなる。

(まるでほんとうの殿方と踊っているみたい・・・・・・。)
コスモスは夢見ごこち。

「そうそう、じょうず、じょうず。」
華麗なステップでコスモスをリードする。
音楽は無くても、コスモスの心の中では天使が音楽を奏でていた。
彼女の瞳が、もう、うるうると潤んできている。

そうして・・・・・いきなり、ぴたっとステップが止み、アグリアスの顔が近づく。
「・・・・たのしんでおいで。」

コスモスは胸が高鳴った。
(ああ! この方が本当の殿方だったら!! もう、この手、一生洗えないわ〜。)

今のコスモスの気分を例えると、春の青空高く舞い上がる一羽の雲雀だろうか。
宿屋の部屋に入り、さっき買ってもらったドレスに袖を通す。
ふわふわとした淡い水色のドレスに着替えるコスモスの手は心なしか少し震えていた。
そして傍らでその様子を伺っていたラムザの心も高ぶっていた。

(はぁ・・・・・・・・やっぱり素敵な人だぁ・・・・・・・・・・・・。)

そして一度でいいから彼女と一緒に踊ってみたいと思った。

きっと華麗に優雅に踊るんだろうな・・・・・・・。

「ふう・・・・・・。」
アグリアスは大きな息をつき、椅子にもたれかかった。

コスモスとクッキーは、村で買ったドレスとアクセサリーをそれぞれ身に付けて
街の中へと飛び出していった。
続いてローウェルとハリーがその後をこっそりと追いかけていった。

しかしアグリアスは・・・・・・・アグリアスだけはひとり宿屋の椅子にもたれて
ぼんやりと外を眺めていたのだ。
綺麗なドレスに着替えもせずに・・・・・・・・・・・・・。

何故なんだろう・・・・・・・とラムザは思った。
とても気になった。

そして声をかけずにはいられなかった。

「アグリアス様。」
ラムザは懸命に平静を装い、話しかける。

「となり、あいてますか?」


.AKT 秘められた想い

「ダンス、お上手ですね。 舞踏会には、よく?」

「いや・・・・・・。 あんまり好きじゃなかったもので、ほとんど・・・・・・・・。
 まあ、しかしだ。
 小さい頃から「淑女のたしなみ」というものだけは両親にたたき込まれたので
 ダンスなどは多少踊れるつもりだがな。 ・・・・・・ふふっ。」

アグリアスは遠い目をして微笑んだ。 

「それからアカデミーを卒業してからは近衛団にすぐ配属され・・・・・。」

急にアグリアスの言葉がつまった。

オヴェリア様・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

私が使えたアトカーシャ家の姫君、オヴェリア=アトカーシャ様。

我が命に代えてもお守りしなければならない方。
なのに、守れなかった。
私は追われる立場になってしまった・・・・・。
オヴェリア様・・・・・・・・。
今頃どうしているのだろう・・・・・・・・・・。

時々アグリアスが見せる翳り。
それはオヴェリアを守れなかった自分への叱責の念だった。

「アグリアス様・・・・・・・?」

ラムザにそう問われて、アグリアスははっと我に返った。
そうしてそのまま沈黙してしまった。

ラムザはちらと外を見る。
外は秋の陽ざしで明るく輝き、祭りの露店や大道芸で、通りは賑やかだ。

ラムザは一大決心をして、アグリアスに話しかけた。

「あっ、あの、もし良かったら、一緒にお祭りに行きません?」
そう言い終わったラムザは、ほほから耳たぶまで真っ赤だった。

(こ・・・・・困ったな。 女の人なんか誘ったこと・・・・・・・ないから・・・・・・・。)
ラムザは恥ずかしさのあまり、口をぱくぱくと動かしたまま、うつむいてしまった。

アグリアスはその様子を見て、くすっと笑った。
「いいよ、行こうか。」


.AKT 私と一緒に踊りましょう

いつもうしろで束ねられていた金の髪をほどき、裾にフレアーのかかった
ドレスを着たアグリアスは、とても美しかった。
ラムザはたっぷりとした袖の服を着ている。

(周りの人が見たら、姉弟かと思うだろうか? それとも・・・。)
そんなことを、ひとり、ラムザは考えていた。

ラムザは、とても幸せな気分に包まれていた。
自然と顔がほころんでくる。

ふたりで祭りの雑踏の中に紛れてゆく。
大道芸人の音楽や、楽しい奇術。
あちこちに行商人の出店が並んでいる。
匂いの良い花があちこちに飾られ、行き交う人は、皆、笑顔だった。

「そこのお兄さん、べっぴんさんの恋人に花はいかがかね。」

(恋人・・・・・!!)
行商人のかけた言葉にほほを上気させ、ひとりほくそえむラムザ。
隣にいるアグリアスも、その言葉にほほを染めた。

(どうしてだろう。 ラムザと一緒にいると心が落ち着く・・・・とても楽しい・・・・。)
アグリアスは不思議に思った。

と、その時ラムザはある行商人の出店に何かを見つけ、立ち止まった。

「ちょっと待ってて下さいね。」
と、建物の壁の隅にアグリアスを待たせておいて、ラムザは雑踏の中に消えていった。

ラムザは店先で熱心に何事か話し込んでいる。
「そう、それとこれも包んで。」
その様子を遠目に見てアグリアスはくすっ、と微笑んだ。
(楽しそうだなぁ・・・・・なに買ってんだろ・・・・・。)

そして思い出した。
ラムザの瞳に時々、悲しみの影が映っていることを・・・・・。

父バルバネスの死、親友ディリータの裏切り、イヴァリースからの追放、兄弟からの絶縁。
・・・・・・・異端者として生きてゆくことの悲しみ。
その上、最愛の妹アルマは未だ行方がしれない・・・・・・。

ラムザは多くを語らなかった。

だが、そういうことは隠していても自然と判るものだ。
いつもラムザのそばにいて、ラムザを見つめている彼女は・・・・・・特に。

なぜ自分がいつもラムザの傍らにいるのか・・・・。
それがなぜなのか、アグリアス自身にも分からないのだが・・・・。

(あんなにいろいろ辛いことがあったのだから・・・・・・・ラムザ・・・・・・・・・。
  せめて・・・・せめて今日一日だけでも、なにもかも忘れて、楽しんでくれれば良いのだが・・・・。)

「おまたせしました!!」
ほほを紅潮させて、ラムザが走って帰ってきた。
手にはなにやら紙包みが握られている。
その紙包みは・・・・・・・・とアグリアスが言う間もなく、ラムザが言った。

「手を・・・・・・・・。」
(??? 手を出せと言っているのか?)
手をおもむろに広げて差し出す。
「両手がいいな・・・・・・・・。」
(???????????)
ほどなくアグリアスの手の中に色とりどりの小さな紙包みがばらまかれた。
「これは・・・・・・・。」
紙包みの中身はチョコレートやタフィ、といった甘いお菓子類だった。

「半分こですよ。 ほら、ぼくも。」
ラムザが嬉しそうな顔をして、残りの紙包みをかかげている。

「アグリアス様・・・・・・・・甘い物は心と体を癒します。」
「?!」
アグリアスは気付いた。

ラムザ・・・・・・・・・・・?!
!! ・・・・・・・・この子は私を励ましてくれてるんだ!!

自分が傷つき、倒れそうになってもなお、他人(ひと)を気遣うラムザにアグリアスは心打たれた。
アグリアスは自分の手のひらにある一つの包みを指先で開け、ラムザの口元に差し出した。

「ありがとう・・・・・・・・。」

ラムザは正直アグリアスの行動に驚いたが、黙って受け入れることにした。
まるで子供のように口を大きく開けて受け取る。
口に含んだそれは甘く、ラムザを幸せな気分にさせてくれた。
多分今まで食べたタフィの中でも、一番甘かったのではないか、と思われた。
ラムザの顔が幸せでほころぶ。

「おいしいです♪」
「そうか、じゃ、私も。」
大きな口を開けて、アグリアスはチョコレートをひとつ、ほおりこんだ。
甘い味が口中に広がる。

「アグリアス様の分、ひとつ減っちゃいましたね。」
と、ラムザ。
「いいよ。 もともと私はお金払ってないし・・・・・・・。」
アグリアスは、ばつが悪そうに答えた。

ふと、ふたりは顔を見合わせて、くすっと笑った。
ふたりの間のぎこちない雰囲気が少し、和んだような気がする。

アグリアスは賑やかな音のする方向を見やった。
そこではいろんな人が音楽に合わせて楽しそうに踊っている。
きっとコスモスたちも踊っていることだろう。

アグリアスは立ち上がり、笑ってラムザに手を差し出した。

「踊りに行こう。 一緒に・・・・・・・・・!」

その笑顔にいつもの翳りはなかった。
逆光に照らされた彼女は、とても眩しかった。
ほどかれた金の髪が、さらさらと風に遊んでいる。

驚くラムザ。
しかし、次の瞬間、ラムザは心からの笑顔を浮かべて、返事をした。

「はい!!」

ラムザもアグリアスに向かって手を伸ばす。

しっかりと手と手をつないで・・・・・・。
離さないように、もう迷わないように・・・・・・・・・・・。



空は高く、青く澄みきっている。
ふたりは手に手を取り合って、踊りの輪の中に消えていった。

だって、ホリディだもの。
楽しまなくなくちゃ、ね。



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