EPILOGUE

「破壊するもの」が滅亡し、新しい世界が誕生した。
今まさにカタリナの旅は終わりを告げたのだ。
共に泣き、共に笑った仲間達に別れを告げ、ロアーヌへ戻ってきたカタリナを
迎えたのは・・・・・・・。
ロアーヌ国領主、ミカエル=アウスバッハ=フォン=ロアーヌだった。



月夜のロアーヌ候宮殿で聖剣マスカレイドが盗まれたのが数ヶ月前のこと。
カタリナの不注意からだった。

聖剣マスカレイドはロアーヌ候家の宝物。
カタリナは聖剣を取り戻す旅に出た。
自慢の長い髪を切って・・・・・・・・・・。

ミカエルは祈った。
カタリナが無事に帰ってくるようにと。
それは誰にも知られないように・・・・・・だったのだが。

聖剣マスカレイドを取り戻し、ロアーヌ候宮殿へ戻ってきたカタリナを、
ふたたび冒険の旅に送り出したのもまた、ミカエルだった。

「お前にはまだなにか大きな仕事が残っているようだな・・・・。  
 行って来い。 そして、それが終わったら、必ずここに戻ってきてくれ。」

それはこの世界を破滅に導く「破壊するもの」の殲滅。
そんな大きな役目を背負ったカタリナを、ミカエルはただ見送るしかなかった。

そして、カタリナがミカエルの元から旅立つ真際、彼は言った。
「カタリナ、髪を伸ばしたらどうだ? 今の短い髪もいいが、長い髪も良かったぞ。」
カタリナはまた髪を伸ばし始めた。
彼女が敬愛するミカエルの好きな長い髪。
それだけで、カタリナは辛い旅も乗り越えてこられた。

いつかあの方の元へ帰れるように・・・・・・。
それだけを希望の糧として・・・・・・・・・。



ここはロアーヌ候宮殿内、謁見の間。
ミカエルが玉座に鎮座している。
今、大臣も従者もここにはいない。
二人だけである。

「ミカエル様、これはお返しいたします。」
カタリナが恭しく、聖剣マスカレイドをミカエルに差し出す。

聖剣マスカレイド。
カタリナが9年前、ミカエルの妹、モニカのボディガードを命じられた時、
先代のロアーヌ候から授けられたのが、この剣だった。
モニカがツヴァイクに輿入れした今、カタリナがボディガードする相手はもういない。
自分は、もうこの聖剣を持つ資格がないと彼女は判断したのだ。

だがミカエルは意外な言葉をカタリナに返した。
「返す必要は・・・・・・・・・・・・・・ない。」
ミカエルが続けてカタリナに告げた。 
「それはお前が持っておけ。」
「えっ?」
顔を上げ、不思議そうにミカエルを見上げるカタリナ。
「なぜ、わたしに。 もう私の護るべき人はここにいないのに・・・・・・・・・。」
その時、ミカエルが玉座から立ち上がった。

「カタリナ。 マスカレイドと共に・・・・・私に・・・・・・・。 私に一生仕えてくれ・・・・・・・・・。」
そう言った途端、いつもは冷静なミカエルの顔が真っ赤に染まった。
つられてなぜか、カタリナも頬を赤くした。
「は・・・・・・・・はい。」
(赤面してるミカエル様なんて初めて見た・・・・・)

カタリナは、さっと身構える。
忠誠のポーズである。
「ご主人様。 このカタリナ・・・・一生貴方様にお仕えいたします。」
ミカエルは軽く微笑んで、カタリナに右手を差し出す。
カタリナはミカエルの手の上に自分の手を重ねて握手をした。

ふとミカエルの脳裏に9年前のカタリナの姿が浮かんだ。

肩にかかる、柔らかな髪。
アメジストのようにきらきらと輝く瞳の15才の少女が微笑んでいる。
18才のミカエルには、それがとても眩しく見えた。

そしてミカエルは、今自分の目の前にいるカタリナを静かに見つめる。
彼女は美しく、思慮深い大人の女性に成長したが、きらきらと輝く瞳は9年前のあの日と
同じだった。

「これからも、よろしく。」
ミカエルの言葉に、カタリナの胸の鼓動は高まるばかりである。
これからもミカエル様のお側に居られる・・・・・・。
その嬉しさにカタリナのアメジストの瞳がきらきらと輝く。


いつまでも・・・・・・・いつまでも・・・・・・・・そばにいて・・・・・・・・・・・・



ところで、ミカエルが赤面したワケは・・・・・・・・・。

実は聖剣マスカレイドは「ロアーヌ候代々の后に受け継がれる」物らしい。
ミカエルの父は、こうなることを見越していたのだろうか?

「マスカレイドと共に私に一生仕えてくれ」

カタリナはミカエルの言った言葉の意味を、まだよく分かってないようである。
これが分かるのは、もう少し後のことになるのだが・・・・。

そのお話は、また今度・・・・・・・・・。


髪の長いカタリナはミカエル一筋と決めました。
彼女なら堅苦しい宮廷の任務もばりばりこなせると思います。
髪の短い方は「外の自由を知ってしまった」カタリナです。
その結末だけだとミカエルがあまりにも哀しすぎるので、こちらのカタリナも考えた訳です。



小説の部屋インデックスに戻る

イメージイラストに行ってみる