THE ENDRESS WALTZ

ラムザとアグリアスが宿屋を出たちょうどその頃。

コスモスとクッキーのあとを追いかけてきたローウェルとハリーは
一足お先に、村の中央・・・・踊りの輪の中心に来ていた。

「コスモスとクッキーを早くつかまえなきゃ・・・・・。」
ローウェルは気が気ではない。
早くしないと彼女が誰かと踊ってしまうかもしれないから。

しかしそれは杞憂にすぎなかった。
ハリーが人垣の中から素早く彼女たちを見つけ出したのだ。

ハリーはコスモスがよそ見をしている間に素早くクッキーの手を掴み、
沢山の群衆の中から彼女を器用に引っ張り出した。

「はっ・・・・・・・ハリー?!」
突然の事に驚くクッキーの手をなおも引っ張りつつ、ハリーは遂に彼女をコスモスから
完全に引き離してしまった。

「な・・・なにを・・・・・・。」
焦るクッキーを後目にいつもの静かな口調で語りかけるハリー。
「しっ。 コスモスを見てごらん。」
クッキーの視界にコスモスとローウェルの姿が映った。

「あはん♪ そーゆーワケね。」
「・・・・ささ、ではではクッキーは僕とデート♪」

「うふふ・・・・・・・・・」
なにかしら含み笑いをするふたり。
なんとなくこのふたりは似ているような気がする・・・・・・・。



その頃のローウェル。
彼は念願かなって、コスモスとふたり、踊りの輪の中で踊っていた。

ちっちゃくてかわいいなあ・・・・・♪
他の男に指一本触れさせるもんか。
尾けてきて良かった・・・・・・・。

しかしコスモスは不思議顔。

どうしてローウェルわたしと踊ってくれてるのかな?
(一緒に来てないのに・・・・・・・)

どうしてクッキー、突然いなくなっちゃったのかな??
(一緒に来たのに・・・・・・・)

と、その時、次の曲にうつる雰囲気をコスモスは感じ取り、ローウェルから手を離そうとした。
「・・・・・・曲・・・・・・が変わるわ・・・・・・・・」

普通ならここでダンスが終わるか、パートナーチェンジである。
ローウェルは咄嗟にコスモスの可愛い手を掴み直す。

「お・・・・願い。 パートナーチェンジしないでおくれよ。」
「え・・・・・・・っ?」

コスモスはローウェルの態度に戸惑いつつも、返事をした。
「うん・・・・・・」

(どうして・・・・・・・・かな・・・・・・・)



曲は先ほどのアップテンポなものからスローなワルツに変わった。
グッドタイミングである。



終わらないふたりのワルツ

どうして胸が高鳴るのかしら・・・・・・・
今まで感じたことのない・・・・・・・不思議な・・・・・・・・・・

風に乗って流れてゆく音楽
かかとに羽根が生えたみたい

エンドレス・ワルツ
ずっとこのままふたりで踊っていたいような・・・・・・・・・



終わらないふたりのワルツ

可愛い君をこの腕の中に抱きしめて
はなさずに・・・・・・・・・・・

やっと訪れたこの瞬間を
壊さないように踊りたい・・・・・・・・

エンドレス・ワルツ
君をこの胸に抱いたまま・・・・・・・・・・・

エンドレス・ワルツ



「はい。」

踊り疲れたコスモスのおでこに果汁の入ったコップがこつん、と当てられた。
気配りローウェル、アフターフォローもばっちりである。

「わぁ、ありがと♪ 久々に踊って汗かいちゃった♪」
「オレも。 なんかかなり久しぶりなような。 息あがっちゃて、もう・・・・。」
ふたりとも頬が紅潮している。

コップに入った果汁をひと口、飲んでみる。
井戸の水で冷やされたそれは、熱くほてった喉に 体に きんっ、と しみわたった。

コスモスはふと隣のローウェルをちらり、と見やる。

(アグリアス様とのダンスも良かったけど・・・・・でも、とても素敵だったわ。
 あなたも・・・・・・・・。)

前に・・・・・・・ローウェルが自分を好きとほのめかせたこと。
そのことは嬉しかったコスモスだが、アグリアスに憧れる彼女の耳にはあまり届いていなかった。
ここにきてようやくローウェルのことを少し意識し始めたのかも知れない。

さあっ、と爽やかな風が梢を渡った。
その風はコスモスのほほをかすめ、金の髪をなびかせた。
コスモスは青く澄み渡った空を見上げる。

「風が・・・・心地よい・・・・」

ローウェルはこんなコスモスを上気した頬のまま見つめている。
果たしてそれは先ほどの踊りのたまものなのか、それとも・・・・・。

一息ついたコスモスがローウェルに尋ねる。

「あ、そうだ。 ねえ、ローウェル。 クッキー知らない?」
「ああ、彼女なら、ハリーが連れてった。」

「ハリーが!?」
(いったい、いつの間に・・・・・・。 しかも・・・・・・・・。
 あのふたりそーいう関係だったの???)

あらぬ誤解をするコスモス。
しかし疑われても仕方ない行動である。
コスモスはまた一口、果汁を飲んだ。



「ま、友人のためにひと肌脱ぐって事で・・・・・・。」
「あきれた。 あんたって、ほんと、お節介★」
酒場でハリーとクッキーがふたり並んで話し込んでいる。

「とゆーか、面白いことが好きなのサ。 僕は。」
ちょっと不敵な笑みをたたえながら、ハリーは彼女の髪をひと房、自分の人差し指に絡めた。
「クッキーみたいな美女とデートできるしね。」

クッキーは背が高くスレンダーな体型の割には、胸が豊かだ。
さらさらの金の髪が揺れるたび、周りの視線が彼女に集中する。
今日は大きく胸の開いた白いドレスを纏っているからなおさらのことである。

「ありがと♪ そのセリフ色んなオトコに言われたわ。」
クッキーは静かに、ハリーに微笑み返す。

さすがである。
彼女は男のあしらい方もしっかり身に付いているのだ。
クールビューティとは彼女のためにある言葉かもしれない。

♪ヒュ〜

ハリーは口笛を鳴らす。

「でも私は恋より仕事に生きたいの。 あなたも色々な方とおつきあいしたいのではなくて?」

「正〜解。 大人だねぇ、クッキー♪ いい女だよ。」
ハリーは流し目でそう言うと、先ほど絡ませた金の髪にキスをした。

このふたりはラムザ達と同じ年ながら、精神的にはかなりの大人である。
いや、もしかしたらアグリアスよりも上なのかも知れない。
少なくとも恋愛ごとに関しては・・・・・・。

「ま、それでも今日は・・・・・。」

「僕と」「私と」

「一日楽しみましょう♪」

二人はワインの入ったグラスを傾け、乾杯した。



再び舞台はローウェルとコスモス。

コスモスがためらいがちにローウェルに尋ねる。
「ね・・・・・・・え。 ローウェル・・・・・。」
「なに?」

「ど・・・・どうしてわたしなんかと踊ってくれたの?」

ローウェルの顔色が一瞬青ざめる。

(ど・・・・どうしよう。 言い訳なんか考えてなかった・・・・・・。
 そ・・・・そうだ。)

「いや。 だって・・・・・あの・・・・オレ、知らない女の子と踊るなんて・・・・・。」
ごにょごにょと口ごもるローウェル。

(よし! これで何とかごまかせたぞ。)

しかし、コスモスが一瞬、沈んだような瞳でローウェルを見た。
そしてコスモスは少しおどけて言ってみた。

「そうね。 わたしも知らない方と踊れないわぁ。」

(なんだ・・・・・そうだったんだ。
 ・・・・別に私じゃなくても・・・・知り合いなら誰でも良かったんだ・・・・。
 ちょっと残念かな・・・・・。)

(・・・・・・・!! しまったぁ!!!!!!)
ローウェルは後悔したが、もうあとの祭りであった。

(違うよ! オレ! オレ、コスモスと踊りたくって・・・・・・)
天使のローウェルが心の中で叫ぶ。

(ああ!! だけどこっそり後を尾けてたなんて・・・・・・言えやしない。 
 きっと軽蔑されるに決まってる!!)
悪魔のローウェルが心の中で舌を出す。

せっかくきちんと「好きだ」と言えるチャンスだったのに・・・・・。
ローウェルはそんな自分が情けなくて、木にもたれかかって男泣きした。
(ああ、オレのばかばか・・・・・)

コスモスは彼の行動にまたまた?マークが。
クッキーと言い、ローウェルと言い・・・・・なんかおかしい。
いったい今日はなんなんだろう???

「ローウェル。 ・・・・・どしたの・・・・?」
コスモスはどうしたらいいのかわからず、この一言を言ってから、少しの間 黙っているとにした。



しばらくしてコスモスが口を開いた。
「あのね・・・・・まだ宿に帰るの早いし・・・・・一緒に見て回らない?」

思ってもいなかった言葉に、ローウェルがコスモスの方をそろりそろりと振り返る。

「クッキーもいないし、一人じゃ・・・・・」
ちょっと困って、首をちょこんとかしげているコスモスは可愛い子犬のようだった。

(うわ・・・・っ!! 可愛いっっ!!!(*^_^*))

先ほどまでのローウェルはどこへやら。
嬉しそうに首をおもいっっきり、縦に振る。
「うんっっ♪」

「うふ・・・・・・。 良かったぁ♪」
元気になったローウェルの様子を見て、コスモスも少し嬉しくなった。



再び露店が並ぶ所へふたりで戻ることにした。
すごい人だ・・・・・。
ローウェルはコスモスより先に進んで、彼女のために道をあけていた。

「きゃん★ ろっ・・・・・ローウェルぅ〜★」
コスモスが人の波に押されて悲鳴を上げる。

「わっ! なにやってんの。」
ローウェルが振り返ると、コスモスが人の波に押されて、見る見る間に遠く
離されてゆくのが見えた。
ちいさいのはこういう時大変である。

ローウェルは腕を伸ばす。
コスモスの手首をしっかりと掴み、自分の元へと引き寄せた。

ローウェルのその手の大きさと ぬくもりと 力強さに、コスモスは胸がどきりとした。
そして、ほほを薔薇色に染めた。

(アグリアス様とは・・・・・・ちがう・・・・)

偶然とは言え、手をつないだローウェルは人混みのせいにしてコスモスに提言する。
「ひっ・・・・・人混みに流されちゃうよ・・・・・手・・・・つなごうか・・・・・」

コスモスは嬉しそうに微笑んでローウェルに返事した。
「うん♪」

そしてコスモスの手はローウェルの手の中に。

お祭りはまだまだこれから。



楽しまなくっちゃね♪
だって久しぶりのホリディだもの!!




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