デスティニイ

ボクハ・・・・・ボクハダレ?
僕は誰なの・・・・・・・・?

暗闇の中、一人の幼子が血にまみれ、呆然と座っている。
周りは血の海、魔物どもが血を流し、息絶えている。



その少年はただひとり旅をする。
「見捨てられた東」からやってきた。
漆黒の髪を高く結い上げ、漆黒の瞳、褐色の肌を持つ少年。
紫の紗を纏い、その背中には東方不敗という東の国の刀が紐で体に結わえられていた。

誰かが僕のことを知っているかもしれない。
その「答え」を見つけるために、もう長い間旅をしている・・・・・。
しかし、今だ「答え」はなく。
少年はあてどもなく彷徨い続けた。

そして少年はポドールイに辿り着いた。
ここは一年中が夜のままで、雪が降り積もっている、ヴァンパイア伯爵レオニードが統治する土地。
少年はパブに入り、カウンターで暖かなミルクを飲んでいた。
ここでも-僕を知る人は誰も居なかった・・・・。
ひとりため息をつきながら、少年はまたミルクを口に運んだ。

その時、後ろに何者かの気配を感じ、少年は振り返った。
「だれっ!?」
その手は刀の柄を掴んでいる。
今にも抜刀しそうな雰囲気にサラが悲鳴を上げた。
「きゃっ!!」

!! 
おんな・・・・・・・のこ・・・・・・・・・?!
少年は刀の柄から慌てて手を離し、少女に正面から向き合った。

「こんにちは・・・・わたし、サラって言うの。 ごめんなさい・・・・・驚かせて。
  あなたがとても寂しそうだったから、つい声をかけてしまったの・・・・。」
とサラはにっこり微笑んで言った。
すると突然、少年がサラから体を離しながら言った。
「ぼっ、僕に近づかないでっ!!」
「えっ・・・・・?」
あっけにとられるサラ。

「僕に近づいた者は、みんな死ぬんだ。 僕を助けようとした人も、殺そうとした者も。」
少年は小さく肩をふるわせた。
「僕の知らない間に殺戮は起こる・・・・。 だから僕はずっとひとりで生きてきた。
 僕は自分の名前すら知らないんだ!! 君も僕に近寄らない方がいい・・・・・。」

自分の名前すら知らない・・・・そんなことが本当にあるのだろうか。
サラは不思議に思った。
しかし、この子をひとり、ここに置いていくことがサラには何故か出来なかった。
彼の漆黒の瞳には深い悲しみの色が映り、そして涙が溜まっていた。

「・・・・いっしょに行こう?」
サラの口から出た言葉に少年が驚く。
「えっ。 でも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そんなに自分を責めないで・・・・。 大丈夫だよ、そんなので死ぬなんてウソだよ。
だから、ねっ、一緒に行こう。」
サラはまたにっこりと少年に微笑んだ。
少年のかたくなな心がサラの笑顔でとけていく。
まるでポドールイの雪を総て溶かす、暖かな春が来たような・・・・・。
少年は不思議な感覚にとらわれた。
なんだろう・・・・・心の中がすごくあたたかい・・・・・
この子なら・・・・この子となら・・・・・大丈夫かもしれない。
僕の「答え」も見つかるかもしれない・・・・・・・。

「うん・・・・・」
少年はこくりとうなづいた。
サラは少年の手を取り、彼女の仲間達の所へ彼を連れて行った。

サラ達と少年はポドールイの街を出た。
ポドールイの外は文字通り、春のようなうららかな天気だった。
あの万年雪はヴァンパイア伯爵のなせる業なのか・・・・・。

「眩しい・・・・・・・・・」
空を見上げた少年が呟き、そして驚いた。
僕は今まで気が付かなかった・・・・・・・・・・・。
世界はこんなにも綺麗だったんだ・・・・・・・・。

「生」の世界。
青く澄んだ空と、飛び交いながら歌を歌う小鳥たち。
緑の木々や草が風に揺れて囁きあっている。
一人ぼっちだった時、そんなことは微塵にも感じなかった。
サラが仲間になった今、少年は初めて「生」の世界を感じることが出来たのだ。
彼は「死」の世界から脱出出来たのだ。

「ボーイ・・・・」
「えっ?」
少年がサラのその声に振り向く。
サラがためらいがちに言う。
「あのね・・・・名前・・・・あなたの名前がないのなら・・・・。
 あなたのこと・・・・・”ボーイ”って呼んでもいい?」

ボーイ・・・? 
僕の「なまえ」?
少年は目を輝かせた。

「うん! うん、サラ!! ありがとう、サラ!!」
少年は感謝の言葉を込めて、サラに抱きついた。
サラは少年に喜んでもらえて、嬉しそうに笑った。

見つけた。 僕の「答え(サラ)」・・・・・・・・・。



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