愛にすべてを

1.AKT ローウェル=カートライト

ある晴れた日の午後のこと。
ローウェル=カートライトは宿屋の裏に広がる花畑でコスモスを見かけた。

ローウェル=カートライト。
さらさらとしたワンレングスの金髪の持ち主で、その髪は肩まで掛かる。
こういっちゃなんだが、結構な男前である。
男気もあるが、色気もある。
士官アカデミー卒業後、ラムザについてやってきた一人である。

彼はコスモスのことが好きだった。
白い肌、ピンクのくちびる、ちっちゃな背丈、鈴のような笑い声。
そしてふわふわとした柔らかそうな金色の髪。
彼女もまた士官アカデミーからラムザについて来た一人なのだ。
かなりドジだが、持ち前の明るい笑顔で乗り切っている。

・・・・・・・・・思い切って声をかけてみようか・・・・・・・・・・・・・・。
胸の動悸を押さえつつ、彼女に近づき、平静を装う。
ローウェル・・・・はさらさらの金の髪を垂らし、コスモスの頭上から話しかける。

「コスモス。 なにしてんの?」
コスモスは振り向き、笑顔で答える。
「花を摘んでいるの。 とてもきれいなんですもの。」
彼女の笑顔はいつでも輝いて見えるのだが、戸外にいるせいだろうか、
今はまた一段と輝いて見える。
「へ・・・・え。 それ、だれかにあげるの?」
「うん。 ・・・・・・・・・わたしの・・・・・・いちばん好きな人に・・・・・。」
コスモスはぽぉっとほほをばら色に染める。
「ふーん、好きな人・・・・好きな人! 好きな人っ!? 誰? 誰にあげるの?!!!」
一寸考え、焦りまくるローウェル。
コーフンしすぎて何度も同じ語句を叫んでいる。

(コスモスのいちばん好きな人って、いったいだれなんだ!!!)

コスモスは、いたずらっぽい笑顔でローウェルから逃げていく。
「ふふっ、ないしょ♪」
あっという間に彼女の姿は宿屋の方角に隠れてしまった。
あとに残されたのは哀れなローウェルのみ。
眉をひそめ、不満そうな顔をして、花畑にただひとり佇んでいた。

「気になる・・・・・・・・・・。」
よし、コスモスの思い人を今日の食事の時間にチェックだ。

2.AKT 彼女の思い人

宿屋近くの料理屋。
今日はここで夕食をとることにした。

「おなかすいたぁ。」
「なにが出るのかなぁ。」
若さに加えて、ランダムバトルの後なので、もうみんなお腹がすいて待ちきれない、という感じだ。
ただローウェルだけは違っていたのだが・・・・。

(コスモス・・・・・・・誰を見ているんだ・・・・・・・・・・・)

コスモスは食事を口に運びながら、ちらちらとある方向を盗み見している。
(あの視線の先には誰が・・・・。 メリアドール・・・アグリアス・・・の隣は・・・ラムザ・・・・。)

(ラ ム ザ!!!)

ああ、なんていうことだ。
まさか彼女がラムザにご執心とは・・・・・・・・・。
あ・・・ああいう可愛いタイプが好みなのか?
オレじゃだめだよ。
勝てっこないよぉ。

あまりのショックに、ローウェルの食事の手が止まる。
「オレ、もうメシいいわ。」
ローウェルは席を立とうとした。

「えっ、でもおまえちっとも食・・・・・・・」
とハリーが言うやいなや。
「あ・・・・・・れ?」
ローウェルが椅子から床に転げ落ちた。
激しい音をとどろかせて・・・・。
そしてそのまま彼は気を失ってしまった。

「ローウェルッッ!!」

遠くでハリー達の声が聞こえた・・・・・ような気がした・・・・・・・・・。



「不覚・・・・・・。」
ローウェルは運ばれたベッドの上でつぶやいた。

「ローウェル、気が付いたんだね。 よかった。」
目を開けるとラムザが傍らにいた。
倒れたローウェルを宿屋まで運び、介抱していたのだ。
「う・・・・・・・・」
目の前がふらふらする。
あんだけ動いたのに、オレ、ちっとも食ってないもんな・・・・・・・・。

「だめだよ。 急に起きたら。 きっと疲れてるんだよ、ローウェル。」
ラムザが慌ててローウェルをベッドに優しく横たえさせる。

「ラムザ。 ずっと・・・ついててくれたのか。」
「うん。 ローウェル、あんまり食べてないんでしょ。 だめだよ、疲れてても少しは食べないと。
体壊しちゃうよ。」
・・・・倒れたオレにつきあってりゃ、それはおまえも同じじゃないか・・・・・。

まったく・・・・・お人好しだぜ・・・・。
お人好し・・・・・・じゃないよな・・・・・・・・優しいラムザ・・・・・・・・・・・・・・・・・。
いいよな・・・・コスモスがおまえを好きでも。
ラムザ、おまえはいいやつだよ。
男ローウェル、潔くあきらめますか・・・・・・。

その時だった。
扉を小さくコンコンとノックする音が聞こえた。

「ラムザくん・・・・・。」
この声は・・・・コスモスだ!
しかも、しかも!
あの例の花束を持っているじゃないか!!

「ラムザくん、これ・・・・・。」
コスモスはラムザに先ほど花畑で摘んだ花束を手渡した。

うわああああー!!!!
なんでオレの目の前で渡したりするんだよお!!!!
んな残酷な・・・・!!
前言撤回!!!
ラムザのばかやろう!!!!
ぼすっっっと乱暴にローウェルは毛布をかぶった。

「ローウェル・・・・・・・・・?」
ラムザはなぜローウェルがそうしたのか分からなかったのだが、
「眠たくなったのかなあ?」
などど天然ボケをかましつつ、ドアの外に花瓶を探しに行った。
二人きりになったコスモスは、こっそりローウェルに耳打ちする。

「ローウェル・・・・わたしね、ふられちゃったの・・・・。」
「えっ???」

ローウェルは毛布を蹴っ飛ばしてコスモスをまじまじと見る。
(寝てなきゃいけないんじゃなかったか???)

「わたしね、憧れていたの。 アグリアスさまに・・・・・・・・・・。」
(あ・・・・・・・・アグリアス様ぁ・・・っっ?!!!)
思わず目を丸くするローウェル。

「でもね、アグリアス様はおっしゃったの。」

すまない、私は女だし、忠誠を誓った姫がいる。
でも気持ちは嬉しい。 一輪もらっておくよ・・・・。

「もちろんこの願い、叶うわけない・・・・・・って思ってた。 でも、でも、言いたかったの。
だって、素敵なんだもん。 あんな女性になりたいって・・・・ずっと思ってたんだもん・・・・・。」
そう言うとコスモスの大きな瞳に涙が溢れてきた。
その姿は可哀想でもあり、またとても愛らしく・・・・・・・。

「ごめんね、アグリアスさまの花でお見舞いなんて・・・・。」
「いやっ、オレ、オレ、コスモスからもらえるなら、なんだって!!」
「え・・・・・・・・・?」
すかさず言ったローウェルの言葉にほほを紅潮させるコスモス。

「オレ・・・・・・・・・・・・・・おまえのこと・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ラムザは扉の外でことの一部始終を見守っていた。
そして花瓶を扉のわきに置き、静かに外へと出ていった。



夜風が涼しかった。
いつの間にか星も瞬いている。
外にはコスモスからの花を持ったアグリアスがいた。

「ローウェルは大丈夫か?」
「ええ、コスモスがついてくれてますから・・・・。」
「そうか・・・・・。」
ふたり並んで少し歩いた。

「聞きましたよ。 まさかコスモスの思い人が貴女だったなんて・・・・。」
アグリアスが微笑む。
「私もだ。 まさか女の子に告白されるとは・・・・。」
ラムザはチャンス到来とばかりに思い切って聞いてみた。

「ア・・・アグリアス様は、好きな人とかは・・・・・・・・・いないのですか?」
「私の思い人・・・・か?」
風に髪を遊ばせてアグリアスは続ける。
「私は姫に忠誠を誓った・・・・・・・・・・・。」
「そして・・・・。」

ふいにアグリアスの琥珀色の瞳がラムザを捉える。
ラムザは自分の心の中を見透かされそうな気がして、心臓がどきっとした。

「貴公にも申したはず・・・・・。 この身も心も貴公に預けると・・・・。
 今のところ、それ以上の思い人は、私の心に存在しない。」

(アグリアス様・・・・・・・・・)

この言葉はどういう意味だろう・・・・・・・・。
ただの忠誠の言葉なのだろうか・・・・・・・・それとも・・・・・・。
少しは男として期待してもいいのだろうか・・・・・・・・。

アグリアスはいつも言葉少なく。
なかなか心の内を見せてはくれない。
言葉の端々から彼女の心の底を探るのは容易なことではないのだ。

「ラムザ殿。 夜風が冷たい。 そろそろ宿に帰ろう。」
「はっ、はい。」
ラムザはあわててアグリアスの後を追う。

ああ、でも。
でもいつか・・・・いつか平穏な時が戻って来たら・・・・・。
ぼくも貴女に・・・・・・・・・・・。

今はただ前に進むしかない。
貴女を好きなこの気持ちはぼくの胸の奥に大切にしまっておいて・・・・・。

3.AKT ふたりの恋は始まったばかり

翌日もからっと晴れた。
いい天気だ。

「みんな揃ったね。 じゃ、出発!!」
先頭を行くラムザによろよろとローウェルが近づいてきた。

「やあ、ローウェル、体の方はもういい・・・・」
ラムザがそう言うが早いか、ローウェルがしゃべり始める。
「らむざぁ・・・・・・・。  体はいいんだけど、心が・・・・。」
失意のローウェル、聞いて欲しくてたまらない様子だ。

(おかしいな・・・昨日はコスモスといいムードだったはず・・・・・・・・)

「聞いてくれよ。 彼女ったら・・・・・・

 ありがとう。 あなたの気持ちはとても嬉しいわ。 
 でも今はあの方だけ見ていたいの・・・・・・・。 もう少し・・・・・・・・・・。

・・・って言うんだぜ!!!」

ラムザはがっくりと肩を落とすローウェルにかける言葉もなく一緒に歩いていると
今度は横から陰陽士のハリーが話しかけてきた。

「ラームザッ♪」
ローウェルとは反対に、こちらは満面に笑みをたたえている。
この男がニッコリするときは必ず何か裏があるのだが・・・・・・・・・・・。

ハリーはラムザの首に腕を回し、ラムザのほっぺたを人差し指でつんつんとつついた。
「昨日の晩アグリアス様とふたりきりでな〜に話してたのぉ?」

(見られてたんだ!!)

瞬時にラムザの顔が紅くなる。
「べっ、べべべべつになにも・・・・」
もう、しどろもどろである。
本当に何も特別なことは話してないのだから赤くなる必要はないのだが
「アグリアスとふたりきり」の語句に異常に反応してしまうラムザ。

ハリーは知っていた。
ラムザがアグリアスのことを好きだということを。
彼の視線が知らず知らずのうちに彼女のことを追っていることも。

ハリーはおもしろおかしいことが好きな男だ。
話術巧みで、周りをどんどん引き込んだり時には惑わせたり・・・・。
まあ、戦場ではそれが大いに役立つのだが。
口八丁手八丁を地でいく男なのだ。

ハリーはラムザの反応が面白くてついついからかいたくなってしまう。
(しっかし、わかりやすい男だな。 根が素直すぎるのか単純すぎるのか・・・・・・・。)

ぐっ。

首が絞まる感覚にラムザはのけぞった。 
ハリーがラムザにヘッドロックをかけたのだ。

「うるぁ! 素直に吐け!! さもないとぉ〜♪」
笑いながら技をかけるハリー。
「いたたたたたっ! ぐえっっ!!!」
苦しそうに、抵抗を試みるラムザ。
しかし、その目は笑っていた。

周りのギャラリーが遠巻きに笑っている。
なんともにぎやかで楽しい光景ではある。

ラムザとローウェル。
ふたりの恋はまだ始まったばかり。
秋の空は高く、鮮やかに晴れ渡っている。

                          
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