海士(あま)

2009年8月
所沢ミューズ「触れてみよう能の世界」での能楽上演によせて
ブログ記事より転載。

『「海士」(観世流では海女と書かずにこう書きます)は、藤原家北家創生期の伝説を元にして作られた能です。
シテは海女ですが、物語の主人公は、藤原房前の大臣です。
彼は、自分の母が誰か知りませんでした。ただ、自分が生まれてすぐに亡くなったとだけ聞かされていたのでした。しかし、
実はその母は、藤原家を取り巻く殿上人達ではなく、海辺に済む海士だったのです。ある時、周りの者から讃岐で母が亡く
なったと聞き、身分の違う海女が、実の母でる事を悟るのです。
そして、房前は母を供養する為に、志度の浦を訪れるところから、この能は始まります。

志度の浦に行くと、一人の海女に出会いまうす。
そこで、かつて中国から日本に送らた宝物が、海を渡る途中に海中にある竜宮に取られてしまったこと。
父、藤原不比等は、それを取り戻す為に、この浦に来たこと。
そこで、この浦の海女と間に子供が出来たこと。
その海女が竜宮から宝珠を取り戻したら、子供を大臣にすると海女と約束したこと。
房前の知らなかった出生にまつわる秘密をその海女から教えられます。

そして、海に飛び込んで竜宮から宝を取り返した時の様子を再現して房前に見せるのです(玉の段)
海女は、竜宮から玉を取り返したものの、海の中で悪竜に囲まれ逃げ場を失います。
覚悟を決め、胸を自ら切り裂き宝珠を体の中に入れ、脱出します。
そして、陸に引き上げられると、宝珠を不比等に渡して息絶えます。

母の最期のいきさつを語った女は、房前の大臣に向かい云うのです。

「私こそ、ほんとうは、その海女の幽霊よ・・・」

その母の幽霊は、息子に会う為に現れたのでした。
そして、息子である大臣に手紙を渡すと、波の底に消えて行きました。


<ここまでが前半です。>

間狂言の語り  珠取り伝説が再び語られる。

<後半>


母の手紙には、この13年、弔う人もいなかった無念と追善を頼む願いが書いてありました。

房前は、早速追善供養を営みます。
やがて、母は竜女の姿で現れ、法華経の功徳で成仏出来た喜びを伝え、報恩の舞を見せて消えて行きます。


この物語の主人公とも言える、藤原房前を演じるのが、夏のミューズワークに参加したのがきっかけで、子方を務めるように
なった小学生です。船弁慶ほか、いくつかの舞台を経験しまして、今回が子役卒業の舞台になりそうです。(悲しいかな、子
役は永遠に子役ではいられないのです)
能では、こうした貴人の役を子役にさせることが多いのですね。
子供の純真な姿やエネルギーに花があり、素顔の成人が演じるよりも相応しいのです。もちろん面はかけません。

昨日も何度目かの通し稽古をしまして、よい当日を迎えられることでしょう 』

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