ガチャ、ガチャ、ガチャンと、騒々しくなり、このマンションのペンキ塗り替え工事の為、足場が組まれて行く。オードリーは、何が始まったのかとソワソワしている。 あっと言う間に、5階建ての建物は、周りを囲まれてしまった。 修復もしながら塗るので、2ヶ月から3ヶ月はかかると言う。 たった2日で、足場は出来てしまう。早いなあとベランダに出て、手を伸ばすと、パイプみたいな物に触れた。 ウヒャー!こんな所を歩くんだ。ここは4階である。 高所恐怖症の人には、とてもじゃないけれど出来ないなと思いつつ、現場で働いている人に、感心してしまった。 外から中が、丸見えになるので、カーテンは閉めておくのだが、オードリーは落ち着かない様子。 3日位して、やっと慣れた様子であった。 ひと月半ぐらいした頃、南側のベランダが使えなくなった。 オードリーは、風呂場でトイレをしなくてはならない。 仕方ないね、練習しておいて良かったね。 狭い所でするのは、やはり、オードリーも好きではなさそうである。 ペンキ塗りの最後は、階段であった。 半分ずつ塗ると言う。 オードリーと一緒だと、階段の巾の3分の2は必要である。 責任者の方々と、実際にオードリーと歩いてみて、どうしたら良いかを検討する事になった。 何とかオードリーが、階段の中央の線を認識できる方法はないか・・・ 私もわからなければ、はみ出してしまう。 真中にテープを貼って実験である。 私が先に下りて、オードリーは後を、付いて来させなくてはならない。 外側を歩く時はいいのだが、内側半分を歩かなくてはならない時は、どうしても踊り場の所で、オードリーの足が、半分より外側にはみ出してしまう。 小回りが難しい。 私、「通れるまで、オードリーは外には出せませんね」 関係者、「いやいや、それは可哀想だから、何とかします」 私、「2センチメートル位の高さがあれば、足探りでわかります」 関係者「何とか考えてみましょう」 私、「あの、もし良かったら、オードリーを抱っこして下まで降りて下されば、私は、手すりを触れながら下りれますけれど。そうして頂ければ、何もされなくても外出できるのですが、それは駄目でしょうね?」 関係者、「そうしても良いの? 抱っこしてもいいの?」 私、「はい、いいです」 という事で、話はまとまった。 良かったね、オードリー、外に出られて。 ピンポンとチャイムの音。 「今から、階段のペンキ塗りを始めますので、外出される時は、遠慮なく、連絡して下さい」と、携帯電話の番号を教えて下さった。 携帯に電話すると、直ぐにNさんは来て、オードリーをひょいと抱っこして、下まで下りて下さった。 私は、手すりを伝って、下りて行く。 オードリーは、私が下りて来たら、喜んで飛びかかって来た。 初めてだったので、ちょっと不安だったのだろう。 帰って来たところで、「今、帰りました。宜しくお願いします」と電話。 どこからかNさんが来て、オードリーは、尻尾を振って喜んで、Nさんに抱っこされて、4階まで上って行った。 その後を私が上って行くと、玄関のドアの前で、喜んで飛び回るので、足が、塗りたての所に、はみ出ないかとヒヤヒヤする。 「おとなしい犬やね。我が家にも、ラブラドールがいるんやけど。」と、Nさんが言われた。道理で、オードリーが懐くはずである。 「明日も出かける時は、お願い致します」と私。 「はい、遠慮しないで、言って下さい」とNさん。 1日中、どこにも出かけないでいたら、リーン、リーンと、電話のベル。 「Nですが、今日は出かけなくてもいいの? 遠慮せんで言うて、下さいよ。そうでないと、こっちも気になりますから。」と・・・ 私は、私ひとりの為にわざわざして頂くのは申し訳ないと思っていたので、外出を控えるつもりでいた。 ありがたいやら嬉しいやら・・・人の優しさに触れ、とても幸せな気持ちになってしまう。 そんな或る日、外出から帰って「お願いします。」と電話したら、「所長は、ちょっと重要な用事でいないので、替わりに私がします。」と、他の人が来て下さった。 「私でも抱っこして大丈夫かな」と言いながら、その方は、ひょいと、オードリーを抱き上げて、4階まで上がって行って下さった。 Nさんて所長さんだったんだ。私は、その時初めて知った。 何とまあ、とても優しい所長さん!自らして下さっていたとは・・・ こうして、2週間位、N所長さんにお世話になってしまった。 オードリーは、すっかり所長さんが好きになってしまい、階段のペンキ塗りが終わっても、所長さんを見かけると、尻尾をビュンビュン振って、私を、所長さんの所へ連れて行く。「 行ってらっしゃい」 「行ってきま〜す」 工事が全て終わる日まで、この光景は、続いたのであった。 工事関係の皆様、本当にありがとうございました。 オードリー、又何処かで、所長さんに逢えるといいね。 2002年12月26日
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