「11時に明石駅の改札口で、動かずに待っています」とYさんから、点字の便りが、届いた。Yさんと、サラと言う名の盲導犬、そして、近くに住んでる点訳ボランティアさんと一緒に、明石公園に行く事になった。 Yさんは全く聞こえないし、全く見えない盲聾のユーザーさんである。 私は、音と、見上げた時の空に移る影らしき物をを頼りに、周囲の認知が、ある程度できる。 音も、便りにできないYさんは、嗅覚と触覚、そして深部感覚等を便りに判断される。 点訳ボランティアさんとは、時々手紙のやり取りをされてるようである。 JRの明石駅まで、サラちゃんと一緒に、一人で電車に乗って来るという。 人は、ある機能を失っても、残された機能をフルに、活用し、訓練すれば、不可能と思われがちな事も出来るようになるから、すごいなと思う。 一人で大丈夫かなと思いつつ、はて、来てるかな? 「Yさ〜ん」と呼ぶ訳にもいかず、オードリーが、仲間の盲導犬を見つけて、引っ張っていくのではと期待しながら改札口の周りを歩いて行く。 だが、オードリーは尻尾を振る様子もなく歩く。 どうやら未だ来てはいないらしい。 その辺にいる人に尋ねてみたが、盲導犬を連れてる人はいないという。 そこへ、仕事を終わられたボランティアさんが、急いで来られた。 「Yさんはまだ?間に合って良かった」と、言われながら、周りを探された。 しばらくして、盲導犬を連れている人が、改札口を出て来た。 右の肩をトン トト トン、と叩くのを合図にする事を、手紙で連絡してあった。 Yさんの掌に、指でひらがな文字を書いてこちらの話を伝える。 Yさんは、声にだして話すから、会話が出来る。 「こんにちは、えみです」と文字を書いて挨拶をした。 ボランティアさんも、会うのは初めてだという。 Yさんは、掌に文字を書いて会話するのが、良いと言うので、その方式を取った。 明石公園は、駅の北側にある、まだ自然がいっぱい残っている市民の憩いの場である。 入り口を入ると直ぐにレストランがあるので、昼食をそこで食べる事にした。 メニューを読んで下さる。私はそれで解るが、Yさんには解らない。 流石に点訳のボランティアさんである。直ぐにそれを点字に書いて、Yさんに渡された。 結局、3人とも、日替わり定食のコロッケとエビフライにした。 食べてる時は、私とボランティアさんは、食べながら話できる。 Yさんは、箸を置いて、話さなくてはならないので、食べる事に専念している。 私が半分食べた頃、Yさんはもう食べ終わってしまった。 食べ終わったYさんが話してきた。私は、箸を置いて文字を書く。食事ができなくなった。 これは、食べるのに専念しておけば良かったと思ったが、もう遅い。 仕方なく、「未だ食べ終わっていないから、待っててね」と、急いで食べた。 Yさんは、「ごめんなさい」と言って待っていてくれた。 会話も、手に書いて話すので、普通の会話の数倍も時間を要する。 それでも、けっこう話せた。 1時間ぐらい話してから、公園を歩く事にした。 バラ園の花をてで触れていたら、そこの管理をされてる方が、一本取ってYさんにプレゼントされた。 Yさんは、ガーデニングもされていて家の庭には、色んな花が咲いていて、この花を触れたり、匂を楽しむのが、とても好きだという。 トマトやキュウリも栽培しているから、いつも新鮮なトマトを食べてる、近くだったら持って行ってあげるのにねと、話されていた。 木陰のベンチに腰掛けて、そこで又、色んな話をした。 平日だったので、人は少なかった。 オードリーとサラちゃんは、静かにしていた。 喉が渇いてきた。 もう少し歩いて、公園にある喫茶店に行く事にした。 喫茶店で、ジュースを飲みながら、話は続く。 家から駅まで、信号を渡らなくてはならないという。 「どうやって解るの?」と聞いてみた。 Yさんは、私の手を取って、自分の胸に着けている、道具を触らせながら、テーブルを軽く叩いた。 するとその道具がブルブルと振るえた。 強く叩くと大きく震えた。 その震える道具は20センチメートルぐらいはあっただろうか、けっこう大きかった。この道具で音があるかないかを判断しているのである。 これを首からかけて、胸に着けている。 夏は、とても暑いという。もっと小さくて大きく震えるものが開発されると良いのになと思った。 これで、車の音とか、ドアの開閉だとか、チャイムとかのなにか音がしていると解るのである。 なるほどそうやって知る事ができるんだと、感心してしまった。 Yさんは、サラちゃんと、散歩をしたり、手紙をホストに入れたり、近くのスーパーまで、買い物に行ったりされている。 目も見えなくて、全く聞こえなくても、サラちゃんと歩いているのである。 Yさんは、とても負けず嫌いで、頑張りやさんなのである。 そろそろ帰る時間が来た。 駅まで戻って分かれる時、「ギョーザを買って帰るわ」と私が言ったら、Yさんも、「私、ギョーザ、大好きだから私も買って帰る」と言われた。 美味しいギョーザを売っている店まで、一緒に行って買った。 「ウーン!美味しそうなにおい」とニコニコされていた。 駅の改札口で「帰りは一人でも大丈夫?」と聞いたら、大丈夫だと言ったので、心配ではあったのだが、そこで分かれる事にした。 私は、近くのボランティアさんと一緒に帰った。 このボランティアさんが、一緒にいて下さったおかげで、楽しい1日を過ごす事が出来た。 日本で、盲聾の盲導犬使用者は、このYさんだけである。 私も私なりに、頑張って行こうと感じた1日であった。 2002年6月19日
PS サラちゃんは、今年の5月に、引退されました。 2002年7月17日
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13。オードリーのパピィウォーカーさんへ
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