1。オードリーと歩けば・・・



1。一人で歩くのが、こんなに素晴らしい事だったなんて!!
オードリーとの生活が始まって、毎日午前、午後の2回、家の周りを30分位ずつ散歩し始めた。
初めは、知っている道を歩く。
白杖の時の、倍以上の速さで歩く。
周りの様子を、楽しめる。
白杖でも周りの様子を観察できるが、やはり、杖を持つ手に神経を集中させているので、周りへの観察は、楽しむまでには至らなかった。
太陽の柔らかな陽射しを受けて、私の心も優しくなっていく。
風がとても心地好い。空気を切って歩くという実感。
なんだか、視力0,1ぐらいの頃が、蘇ったような気持ちである。
季節は冬である。この冷たい風が、頬に、とても気持ち良い。
ぶつかる心配は、ほとんどなくなって、神経を使わなくていい。
ついつい、顔もほころんでニコニコ顔になるらしい。
「何処へいくの?」
「この犬が、盲導犬?」
「賢そうな優しい顔してるね」
「歩くのが早いね」
と言って、出会った人が通り過ぎて行く。
私は、白杖歩行を、ラッシュ時の、のろのろ運転の車に例えれば、盲導犬歩行は、高速道路をスイスイ走る車に例えたい。
こんなに歩くのが、素晴らしい事だったなんて!
若い頃の自分は、こんな風に歩いていたんだなあ!
視力がほとんどなくなった私は、その事を忘れていた。
オードリーと歩けば、いつも通っているセンターまで、半分の時間で着いてしまう。
アレッ!もう着いたんだ。なんて驚いてしまう事も多くなった。
足も丈夫になった。
オードリーのおかげで、早く、安全に、楽に楽しく歩けるようになった私。
風を切って走ると言うが、まさしく私には、風を切って歩くである。
この感動は、盲導犬ユーザーになった人のほとんどが感じる気持ちのようだ。
ああオードリー、本当にありがとう!!
こんなに、歩く事が素晴らしかったなんて!!

2。ちょっと探検
知っている道を歩いていると、オードリーが左にある道を教えてくれる。
あら、ここにも道があるんだ。ちょっと行ってみようかな。
左へ行きなさいと指示する。
この道、どこに続くのだろうか?
わからなくなったら、道行く人に尋ねればいい。
しばらく歩くと、車の多く走っている道に出た。
これを左に行けば、きっと私の知ってる道にでるのかなと思いながら、歩いて行った。
すると、信号のある交差点に来た。
そこを渡ると、いつも歩いている道に出た。
なるほど、そういう風になっていたんだ。
私の頭に新しい道の地図ができた。
この様にして、家の周囲4キロの道の探検が始まったのである。
ある程度、地図が出来上がってきた。
曲がりくねった道は、なかなか地図が描けない。
方向がわからなくなってしまう。
オードリーが左の道を教えた。
行ってみたら、人の家に入る門であった。
中から家の人が、「何処へいくの?」と聞いてきた。
「ここは何処あたりですか?」と尋ねてみたら、私の考えていた所とは90度違っていたのである。
知ってる場所への行き方を教えてもらい、無事に、迷い道から脱出できた。
オードリーが来てから、6ヶ月間は、もう歩くのが嬉しくて嬉しくて、そんな事ばかりやっていた。

3。商店街を歩く
電車に乗って町へ行く。
乗車券の券売機の所まで行って、オードリーに「切符、切符、切符、これが切符よ」と、券売機を教える。
これを2〜3回やると、オードリーは覚えてくれた。
その駅で「切符、切符」と言えば、券売機の所まで連れて行くようになった。
「オードリーは賢いなあ」と誉めると、益々、賢くなっていくように思う。これは、親バカなのかもしれない。
改札口へ行きなさいと指示して改札口を通り抜け、電車に乗る。
目的の駅についた。
ここは、よく知っている場所である。
指示さえ間違えなければ、スイスイである。
繁華街を歩く。
人、人、人である。
オードリーは上手に誘導してくれる。
ダイエイに、買い物である。
ここも、よく利用していた所なので、指示を出しやすい。
4階までエスカレーターで上がる。
さて、レジを探さねば、大体の場所を覚えているので、そこら辺りまで行く。
確かこの辺だと思うのだが・・・
ピッ、ピッ、ピッというレジの音が聞こえない。
仕方がないので、援助依頼である。
レジまで連れて行ってくれた。
ここまでくれば、店員さんが、手伝ってくれる。
そこで又、オードリーに「ここが、レジよ」と教えた。
これは、覚えてくれるかどうか疑問である。
目的の買い物をすませてダイエイを出る。
この時、お店の方が、出口まで案内してくれた。
とても買い物がし易い。
ありがたい事である。
さあ帰ろう、又、人、人、人の中を歩く。
駅へ行く近道がここにあるはずだがと、オードリーに左に行きなさいと指示した。
オードリーはしばらく歩いて左に行った。
あ良かったと思ったが、数歩、行って止まってしまった。
可笑しいなと、手を伸ばしたらどこかの店のドアであった。
「オードリー、行き過ぎたみたいだね」
「行き過ぎちゃったよ」と話していると、通りすがりの人が、このオードリーと私の会話を、聞きつけて、「お手伝いしましょうか」と声をかけてくれた。
どうやら、私の指示が遅かったようである。
白杖では、間違った時、心の中で、行き過ぎたみたいだなあとつぶやくが、人にも聞こえるような声で言うと、「この人、ちょっと変」と、思われそうである。
オードリーと一緒だと、オードリーに話しかけてる感じで、ちっとも変ではない。
白杖で歩いていた頃に比べて、声をかけてくれる人が、3倍は増えた。
オードリーが、どうやら、女神を呼んでくれるようである。
援助依頼も、大分慣れてきて、外出が、とても楽しくなった。
電車に乗って家に帰る。
家を出て、帰り着くまでの時間が、今までの5分の3に縮まった。
こんなにも、違うのかと、驚いてしまった私であった。

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