認定試験



13。歩行認定試験
午後の訓練で、デパートの帰りに失敗してしまって、落ち込んでいた私。
いよいよ明日はユーザーになれるかどうかの、認定試験である。
夕食後、明日の試験コースの説明があった。
これまで訓練して来た事の総まとめである。

頭の中にコースをたたき込む。
「何か聞いておきたい事や、気になる事はありませんか?」と訓練士さん。
「オードリーに後ろを振り向かせない様に、コントロールはできない」と泣きそうな気持ちで言った。
訓練士 「振り向いても良い。家にかえったらそれはなくなるから。」
私 「本当にいいの?」
訓練士 「良い」
これを聞いた私は、世界がパッと明るくなった。
それなら行けると思ったからである。

訓練士 「他に、心配な事は?」
私 「京都駅から、バス乗り場に行く時、援助依頼、うまくいくかなあ・・・誰も助けてくれなかったら、目的地にはいけない、そうなったらどうしよう」
バス乗り場は、全然説明無し、訓練も無し、ただのるバスの番号と、乗り場の番号だけを言われただけである。

訓練士、笑いながら 「大丈夫、誰かが助けてくれるから」
私 「そうかなあ」
ここが、私の一番心配な所であった。
「明日頑張って」と激励を背中に受け、その部屋を後にした。
援助依頼、うまく行きますように!と祈りながら眠った。


いよいよ試験当日の朝が来た。
又、同じ事を祈る。
幾つになっても、試験となると緊張する。

亀岡駅がスタートである。切符を渡された。
さあ!行こう。
改札口から試験である。
オードリー、頼むよと、心でつぶやく。オードリーもシャンとしている。
訓練を積み重ねて来た事をしっかりたたきこんで、応用もあわてずに、やろうと思った。

電車に乗る時から、援助依頼である。普通はオードリーがいれば簡単に乗れるのだが、皮肉な事に、その日から、暖房の関係で、止まっている亀岡始発の電車のドアが閉まっているのである。
ボタンを押してドアを開けなくてはならない。
そのボタンの位置がわからないので、援助依頼となるのである。
数人の人がホームで待って話をしていた。これは幸いと、その話し声のする方に、「すみません」と声をかけ、ボタンを押してもらった。

京都に着く。改札口までは、オードリーと行ける。
改札口を出て問題の援助依頼である。
「すみません」と声をかけた。女性が助けてくれる。
「××番のバス乗り場に行きたいのですが、連れて行っていただけないでしょうか」
「京都は、私も初めてなのでわかりません」と言われる。
お礼を言って、又他の人に依頼する。

今度も又女性であった。
調べてくれるが分からない様子である。
私はお礼を言って、又他の人を待つ。心細くなってきた。
このまま、誰もわからなかったらどうしよう。
思い直して、「すみませんと大きな声で言った。すると今度は男性であった。
同じように頼むと、その男性は連れて行ってくれた。
ああ、助かった。丁重にお礼を言った。

バス乗り場では、長い列が出来ていたようで、私は一番後ろに付く。
バスが来た、私の前の人がいない、何時の間に進んでしまい、私は取り残されてしまう。
色んな方面行きのバスが、いて、どのバスなのか分からなくなってしまった。
あわてて又「すみません、××番のバスに乗りたいんですけれど」と大きな声で言った。
女性が来て、バスの乗車口まで案内してくれた。
ああ、助かった。これさえ乗越えれば、後は、何とかなりそうである。

バスの中では、昨夜、言われたバス停の名前を案内するまで、耳をすませていた。
目的のバス停に着いた。バスを降りる。
分かっているのは、バスの進行方向に向かって歩くという事である。
オードリーは、どうやら進行方向と反対に向いているようである。バスの発車するのを待って、進行方向を確認する。

後ろに進みなさいとオードリーに指示を出し、歩き始めた。
さあ、ここからは、京都の繁華街を歩いていく。
音声信号の二つ目まで、前進あるのみ。
いくつもの横断歩道を渡る。
やっと一つ目の音声信号までたどり着く。さあ、まだ歩こう。

車の音に注意しながら、歩道を歩く。
又いくつもの横断歩道を渡って行く。
オードリーは、しっかりやってくれた。
ただ、信号を待つ間、やはり後ろを振り向いていた。
これは、昨夜、振り向いても良いと言われていたので、気にはしなかった。
前方から、音声信号の音が聞こえて来た。
やっと目的の二つ目の音声信号のある交差点に着いた。

ここで又、援助依頼である。阪急電車に乗る為である。
信号を渡る大分手前で、依頼の為「すみません」と声を出す。
今度は、直ぐに女性が助けてくれた。
「電車にのりたいのですけれど、切符売り場まで連れて行っていただけないでしょうか。」
「何処までいくの?」
私は、目的の駅名を言った。
その女性は券売機まで案内し、改札口まで連れて行ってくれた。
その方にお礼を言って、ホームまで下りる。

ここは、昨日の午前に、喫茶店に到着の目的地訓練が終わって、訓練士さんと、一緒に帰った所である。
なんとなくわかる。
昨日は、目的の駅で、電車をおりて階段を探すのに、大分歩いた。だから今度は、もっと後ろから乗ろうと、ホームを歩いた。
この辺位でいいかなと思い、入ってくる電車を待った。
普通でも急行でも良い。
急行だと、確か、一つ目で降りれば良かったはずだ。
駅名の案内を注意して聞かなくてもすむ。
急行が来てくれないかなあと思いつつ待っていたら、ラッキーな事に急行であった。

電車に乗る。次の駅で降りれば良い。
駅に着く、ホームに降りた。進行方向と反対側に進む。
と、直ぐにオードリーは、階段の一段目に足をかけて止まった。
ヒヤー!階段の直ぐそばで降りたらしい。
前の駅で、もう少し後ろまで進んでいたら、このホームの階段、探すのに苦労しただろうなと、冷や汗ものであった。

ここの駅は、何回か訓練した駅である。
階段を上って改札口へ行きなさいとオードリーに指示する。
改札口をでる。
もう直ぐ、ゴールである。
胸が高鳴る。
左へ行きなさいと指示する。
続いて階段を探しなさいと指示する。
下り階段の所で、オードリーは止まる。
ここを下りれば、ゴールである。
下りなさいと指示する。
下り始めた、と、階段の途中で、女性から「大丈夫ですか」と声をかけられた。
「ここは、大丈夫です。ありがとうございました。」とお礼を言ってまた下る。
下り終わったところで、オードリーをお座りさせた。
やったあ!ゴールにとうとう着いたのだ。

「ご苦労様」と、いつもの訓練士さんの言葉を待つ。
だが、なかなか聞こえて来ない。
一瞬間違ったかなと、不安がよぎる。
いや、間違ってるはずはない。
可笑しいなとキョロキョロする。
と、しばらくしていつもの言葉が聞こえてきた。
やったあ!!

訓練士さんも、私もしばし沈黙である。
私は胸がジーンとなっていた。そして訓練士さんの胸に飛び込みたい衝動を抑えていた。
「オードリー、よく頑張ったね」と訓練士さんが言った。
お座りしていたオードリーは、訓練士さんに飛びかかって行った。
もうこの時の感動を、私は、一生忘れないだろう。

14。ペーパーテスト
車でセンターに帰る。
昼食をすませ、午後からは、もう一人の訓練生と共に、盲導犬の歴史、法律、歩行理論、衛生管理、病気、等に関するペーパーテストである。
1週間前から、毎日、勉強を積み重ねていた。
これも合格点を取らないと、ユーザーにはさせてはもらえないという話を先輩ユーザーさんから聞いていた。

けっこう多くの問題が出されていた。
これは、自分一人ですれば良い。オードリーの状態は関係ない。
気が楽でもある。
このセンターには、小さな閲覧室があり、点字の本が並んでいた。
私は、三日目ぐらいから、そこの図書を借りて、盲導犬の歴史の本を暇な時読んでいた。
この本を、ちょうど読み終わった頃、それに関係する講義があったのである。
これは、入試とは違うので、そんなにピリピリする事はない。
獣医さんの講義も病名以外は、たのしく聞かせてもらった。
病名を覚えるのに、ちょっとだけ、苦労した。
そして、認定試験は全て終わったのである。
後は、結果を待つだけである。
もう、何とも言えない開放感であった。

しかし、私は、はしゃぎたい気持ちをおさえる。
何故なら、もう一人の訓練生の歩行認定試験が、次の日の午前に予定されていたからである。
この気持ちは、明日の昼まで待つ事にした。
やはり、彼女も終わらないと、私自身、心から喜べないからでもある。
どうか2人して、出発式が迎えられますように・・・
認定合格しますように・・・
と祈る私であった。


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