2007年9月

2007年9月5日(水曜) 七尾編

ローカル線で行く温泉旅・北陸編の第3弾はJR七尾線・七尾駅。
能登半島唯一の駅弁を紹介していく。
今回「能登へ行って来た」といろんな人に話してみたが、
意外に多かったのが「北陸って、東京からどうやって行くの?」という返答。
もちろん、小松空港や新しく出来た能登空港へ直接行く認識はあるようだが、
首都圏から鉄道で北陸へ向かうルートは、意外に認知度が低いのかもしれない。
今、鉄道で東京から金沢へ向かう場合、上越新幹線「とき」で越後湯沢へ行き、
六日町〜直江津を結ぶほくほく線経由の、特急「はくたか」に乗換えるのが普通。
所要時間はおよそ4時間で、ほぼ毎時1本のダイヤが設定されている。
ただ、およそ10年後には、長野新幹線が上越(高田)経由で
富山〜金沢と延伸予定なので、この最速ルートも過去のものになるはずだ。



金沢から七尾までは、大阪からの直通特急「サンダーバード」で50分あまり。
名古屋から「しらさぎ」、越後湯沢から「はくたか」の直通もある。
毎時1本程度走っている各駅停車では、1時間半ほどかかる。
七尾線は、金沢から3駅富山寄りの津幡で、北陸本線から分岐。
羽咋、七尾、和倉温泉を経て穴水までの路線である。
途中、電化されている和倉温泉までは、JR西日本の管轄。
和倉温泉〜穴水間は、第3セクター「のと鉄道」の管轄となるが、
普通列車は七尾で系統分割され、七尾以遠は「のと鉄道」のディーゼルカーが走る。
元々、七尾線は輪島までJR西日本の路線だったが、
1991年に和倉温泉まで電化した時に、和倉温泉以遠を「のと鉄道」に移管。
経営が思わしくなく、2001年に穴水〜輪島間が廃止された経緯がある。



能登半島の拠点・七尾で駅弁を販売するのは、市内の寿司屋さん「松乃寿し」。
観光用の市場「能登食彩市場」の前には、握りを出してくれる店も出している。
4年前に訪れた時は、改札を出て左側の待合室に専用売店があったが、
今回までの間に改装されたようで、待合室はコンビニ型店舗の一角となっていた。
駅弁も、無機質なコンビニ弁当のケースにあるのかと思いきや、
レジの斜め前に専用のスペースが設置され、販売されていた。
あまりに店に溶け込んでおり、七尾に駅弁があるということを知らない人は
スルーしてしまいそうな感じである。
売店の営業時間は朝6:50〜夜19:50で、駅弁もほぼ開店と同時に入荷するとのこと。
売り切れ時は店員からの連絡により、随時追加されていくそうだが、
夕方の補充はなく、大抵は午後3時ごろには売切れてしまうとのコト。
消費期限上、夜までの取り置きは出来ないが、午後に購入したい場合は、
予約をしておいたほうがいいということであった。






七尾の名物駅弁といえば「玉宝(ぎょくほう)」である。
てんぶやかんぴょう、ご飯を海苔の代わりに薄焼き玉子で
グルっと巻いた贅沢な「玉子巻」。
薄焼き玉子1枚に、3個半の卵を使うとも伝えられており、
売れる日には、大きな箱で仕入れた卵を、全部使い切ってしまうこともある。
酒を使っていることもあり、まろやかな香りと味わいも見事だ。
創業は明治元年で、初代が江戸で修業、七尾へUターンして出店。
以来、現在の社長さんが4代目とのこと。
5個入りが「550円」、7個入りが「800円」で販売。
1人で食べるなら、5個入りでお腹いっぱい。
温泉帰りに仲間でワイワイやりながら帰るなら7個入りがお薦めだ。



輪島の朝市にちなんだ「朝市弁当」は「900円」。
甘えび、いいだこ、茎わかめ、たにし、いかの塩辛、ばい貝、
舳倉島の天然わかめなど、海の幸満載の駅弁である。
掛け紙には「急行列車のデッキにはくず物入れが…」との表記。
その昔、金沢〜輪島・珠洲間を走っていた、能登半島唯一の優等列車、
急行「能登路」号を思い起こさせてくれる。



「幕の内弁当」(600円)も手堅い作り。
その中にあって、昭和50年代後半の空気を今に伝えるのが
(恐らく冷凍の?)チキンナゲットではないか!?
あの頃、少年時代を過ごした人なら、
母親の弁当箱にきっと入っていたであろうチキンナゲット。
“こんなチープなもの入れやがって…”と思わずに、
ここは25年前の空気がそのまま残ってたと、感慨に耽りたいものである。

この他に、鯵を使った特徴的な駅弁もあるが、現状では実質的に予約制。
かつて、専用売店で売っていた時は、常時置いていたのだが…とのことであった。
ちなみに、七尾の駅弁は、和倉温泉、穴水の駅でも販売がある。
こちらの両駅で購入の場合は、朝、少し入荷して終わりとのことなので、
確実な入手をしたい場合は、予約がお薦めである。

※「松乃寿し」…電話:0767−52−0053

■旅のワンポイント〜ローカル線で行く温泉旅・北陸編B「和倉温泉」



東京、朝7時ちょうどの「とき303号」で、
久々に200系新幹線に揺られて、1時間10分あまり。
越後湯沢で待ち受けるのは、北越急行の683系電車である。
特急「はくたか」として、時速160キロの在来線最高速度を披露し、
金沢へは昼11時前の到着。
ここから大阪始発の特急「サンダーバード」に乗り換えて1時間ほど。
東京からおよそ5時間かかって、ようやく「和倉温泉」に着いた。
東海道・山陽新幹線なら、博多に着いているし、
東北新幹線乗り換えでも、青函トンネルには達している時間である。
そんな遠い能登を、今回訪れようと思ったのは、
3月の地震の影響をこの目で見ておきたいと思ったからである。
よく「地震の被害があった所へ観光に行くのはいかがなものか」といわれる一方、
「風評被害」という言葉も耳にする。
その中で、観光関係者は「能登は元気です」と口をそろえて言う。
だったら、自分の目で「観光できるのかどうか」を見極めたいと思ったわけだ。



和倉温泉駅から温泉街までは、路線バスで10分あまり。
およそ30分間隔で、七尾駅始発で運行されている。
巨大旅館が多い温泉街の中心にあるのが、共同浴場の「総湯」(500円)。
地域の人たちや観光客が、入れ替わり立ち代り入ってくる人気スポット。
休憩所等もあり、共同浴場というよりも日帰り入浴施設といった印象も。









「和倉」という地名は、お湯が湧く港「涌浦(わくうら)」から生まれたという。
開湯は今から1200年前、海中で白鷺が水浴びしていたのを
人が目撃したのが温泉の起源とか。
てなわけで、温泉街の中心にあるモニュメントにも白鷺の像が…。
今では、源泉89度、ph7.4、毎分1600リットルの温泉は集中管理され、
配湯される所もガラス張りになっている。
舐めてみると、これが凄い塩!苦味すらある。
北陸随一の「海の温泉」は、強烈なインパクトだ。

●能登は元気か?〜被災地「輪島」を訪ねて



七尾から穴水までは、のと鉄道のディーゼルカーに揺られていく。
最近、各地の3セク鉄道に導入されている新しいタイプの
軽快なディーゼルカーには「がんばろう能登」というヘッドマークが。
午前中の車内は、座席が何とか埋まる程度。
依然として、経営が厳しい状態であることがうかがい知れる。






この区間は、進行方向右手に時折、海が眺められる。
日本海の荒波かと思いきや、能登半島に囲まれた静かな富山湾。
海の見える路線というのは、いつまでも乗っていたくなるものだが、
40分あまりで降りなければならないかと思うと、消化不良気味だ。
穴水駅のこ線橋からは、輪島へ、珠洲へ続いていたはずの鉄路には、
しっかりと車止めが…。
“線路は続くよどこまでも”とはいかないのが、地方の現状だ。






穴水から輪島までは、代替バスで40分ほど。
この区間、鉄道なら2駅しか停車しなかったが、
バスはきめ細かく停車して、お客さんを拾っていく。
昔の輪島駅の跡は「ふらっと訪夢(ほうむ)」という、
バスターミナル兼、観光案内所にリニューアルされていた。
実は、夏の輪島を訪れるのは20年ぶりである。
その頃は、駅にキハ58の急行「能登路」が着くと、
大勢の人で賑わっていったのだが、まさか鉄道までなくなってしまうとは…。
唯一、隣駅の所に「シベリア」と書かれた駅名票だけが
この地に鉄道が通っていたことを今に伝えるものになるのかもしれない。






輪島の名物といえば、何はさておき「朝市」だろう。
歴史は平安時代にさかのぼり、明治以降は毎日開催されるようになったという。
全国的に注目されるようになったのは、1970年代、国鉄が展開した
「ディスカバージャパン」キャンペーンの頃から。
海の女性たちの威勢のいい売り声が、通りに響く。
360メートルの「朝市通り」に並ぶおよそ250軒のお店は、
朝8時から12時まで営業しているが、概ね11時を過ぎると閉店モード。
いいものを安く手に入れたい場合は、この残り1時間がお薦めだ。
ちなみに、海鮮品から輪島塗まで、
輪島の朝市は「交渉で」値段が変わることがしばしば。
地元の方とのお喋りを楽しみながら、納得の行く買い物をしたい。
(毎月10日と25日は休み)



輪島の町は、朝市通りなどのメインストリートを歩いてもいいのだが、
ちょっとした脇道に入ってぶらぶら歩くのがポイント。
脇道には、昭和40年代のような路地がそのまま残っているのだ。
ただ、所々に地震の爪あとが残っているのも事実。
修理中であったり、ブルーシートが掛けられたままの家もある。
倒壊して整地が済んでも、再建の道はまだ始まっていない所もあった。
ただ、実際に歩いてみて思うのは、こんな家が壊れてしまうのかという
地震被害の実態が、リアルに感じられる点も大きいということだ。
ただ、輪島市街地へ観光へ行くのは全く問題ないだろう。
ある朝市のオバちゃんも「人が来てくれて賑わうのが一番復興になる」と話していた。
観光を楽しみつつ、被害の現状にも目を背けないことが大切ではないか。



●県境を越える路線バスの旅〜「氷見」で魚を食べる

石川県の七尾から富山県の氷見まで、路線バスを使って、
のんびりした旅が楽しめることは、ご存知だろうか?
旅の終わりは、路線バスの旅で締めくくり…。



七尾駅前から七尾バスの「脇」行きに乗るところから旅のスタート。
私が乗った10時発の便は近くの病院始発で、病院帰りのお年よりたちを
たくさん乗せて出発。
今や、路線バスで県境を越えられる路線は少ないので、
ある意味貴重な体験に、少しだけ気持ちも高まる。



峠道を抜け、途中からは富山湾に沿って、国道160号線を走る。
数分おきに、小さな漁村が繰り返し訪れ、
およそ40分で「富山県氷見市」の標識。
意外にあっさりと県境を越えると、間もなくこのバスの終点「脇」に到着。



「脇」バス停の辺りは、小さな漁村である。
砂浜や岸壁などを歩いてみたが、すぐに飽きてしまって、
近くに1軒だけあった雑貨屋さんに入り、棒のアイスを1つだけ購入。
ゆく夏を惜しみつつ、富山・石川県境を眺めながらいただくことにした。
お店の人に話を伺うと、この辺りは昔から半農半漁で変わらないねぇとのこと。
でも、こんな素朴な当たり前の風景こそ、今では懐かしい風景となりつつある。



15分ほどの待ち合わせで、高岡からやってきた加越能バスに乗換え。
先ほどの七尾バスより、少し大きな車体のバスである。
しかし、富山湾沿いの風景は変わらず。
のんびりと小さな集落を何度か繰り返しながら、氷見市内へと向かう。



30分あまり乗ると、ようやく氷見市内へ入る。
アーケードなどもあり、そこそこ賑わっている様子。
高岡行きのバスは、JR氷見駅には入らず、
「氷見駅口」が駅の最寄りとなるので、鉄道に乗り換える時は注意したい。
1時間半あまりのバス旅、1500円ほどかかるが、のんびりとした気分になった。






氷見といえば、魚の町である。
富山湾といえば、日本で最も魚の種類が多い海ともいわれるが
なんでも、立山連峰からの伏流水が、海中から湧き出しているからと
以前、訊いた記憶がある。
特にいいのは「寒ブリ」ということで、夏場はシーズンオフではあるが、
意外に市場は観光客で賑わっていた。
特にお薦めは、漁業関係者も訪れるという魚市場食堂「海宝」。
その日に揚がった魚だけを使って作られるという「刺身定食」は、
1050円とリーズナブルだ。



ラストは、JR氷見線の「ハットリくん列車」。
実は氷見が、原作者の藤子不二雄さん(安孫子さんのほう)の出身地。
そこで市内には、「忍者ハットリくん」のからくり時計など、
様々なモニュメントが設置されている。
この「ハットリくん列車」は、毎日6往復程度、通常の列車としてやってくる。
いつ、この車両が充当されるのかはあまり知られていないようで、
連結されているのがわかると、地元の女子高生などからも、
「あっ、ハットリくん列車だ!」という声も上がった。
※「ハットリくん列車」のホームページ



今回の旅は、氷見を代表する景勝地「雨晴海岸」。
澄んだ空気の時は、立山連峰など、北アルプスも一望ということだが、
列車からの景色もなかなかのもの。
日中なら、のんびりとディーゼルカーから素晴らしい景色を味わえそうだ。

これから秋〜冬に向かって、北陸の魚はますます美味しくなるシーズン。
能登半島〜富山への旅は、お薦めである。



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