2007年7月

2007年7月16日(月曜) 糸魚川編

ローカル線で行く温泉旅・北陸編の第2弾は、
JR北陸本線・糸魚川駅の駅弁を紹介する。
糸魚川の駅弁を“北陸編”の一部として紹介することに、
いささか、良心の呵責が働かないこともない。
というのも、糸魚川はれっきとした「新潟県」の街。
新潟を“北陸”としてしまうのは、ちょっと乱暴な気がする。
でも、糸魚川は、JRの区分では「西日本」でありながら、
NTTは「東日本」、電気は「東北電力」。
加えて、日本を東西に分ける“静岡・糸魚川構造線”の北端と、
全国のどの地域に属しているのか、全くよく判らない所なのだ。
つまり、日本一“カオスな街”と言ってもいいほどの場所である。



東京から糸魚川へは、上越新幹線の越後湯沢で乗換え、
特急「はくたか」号で2時間40分あまり。
「はくたか」は、新幹線「とき」に接続して、
日中の一部時間帯を除き、ほぼ1時間間隔で運行されているが、
一部の「はくたか」は、糸魚川を通過するので、停車駅には要注意である。



糸魚川で駅弁を販売するのは、駅前に調製所がある「たかせ」。
改札を抜け、駅の外へ出ると、右手前方に駅弁の看板が見える。
ここでは、毎朝6時から午後4時半まで販売されており、
常にできたての駅弁を味わえる。
ただ、もし4時半を過ぎても焦ることはない。
左隣で「たかせ」が経営する、喫茶「あかね」が夜11時まで開いている。
メニューにも糸魚川駅弁の数々が載っており、
あまりに遅い時間でなければ、駅弁を食べられるようだ。
この「あかね」、興味深いのは無線LANの電波が飛んでいて、
まさに“ユビキタス社会”を体現する喫茶店でありながら、
座席が全て、インベーダーゲームのようなゲーム機という、
昭和50年代半ばの雰囲気をそのまま残す貴重な喫茶店である。
日中は、地元の人の社交場的な存在になっている、実にのどかな店。
糸魚川を訪れたら、ぜひ「あかね」に立ち寄って、
インベーダーゲームの上で、無線LANをつなぐべし。
もちろんこの他に、駅待合室のコンビニ「チャオ」でも駅弁の販売がある。
(営業時間:6:50〜20:00、駅弁は随時補給)



さて、糸魚川を代表する駅弁といえば「えび釜めし」(900円)になろう。
駅から国道8号線を目指して5分も歩けば、
そこはもう、海の幸あふれる日本海なのだ。
プラスチック製の釜の中央に、クルッと弧を描いたエビが2尾。
だしの効いたご飯とあわせて、殻ごとバリバリといきたい。
何せ、作ってるのは駅前だから、出来立ての温もりが心に沁みる。



実は糸魚川の駅弁は、釜めしだらけである。
えび釜めしのほか、松茸釜めし、ほたて釜めしもある。
これらの駅弁のいいトコ取りをしたのが「夫婦釜めし」(1200円)である。
えび釜めしと松茸釜めしのハーフサイズが、1個ずつ入った駅弁。
どの釜めしにしようか迷ったら、この駅弁にしておけば間違いはない。
ちなみに、この駅弁を買おうとしたら、お店の方に、
「お箸は2膳つけますか?」と訊ねられた。
実に温かい心遣い。
ただ量は、女性2人の旅行で、一緒に食べるのがちょうどいいくらい。
男なら1人で、2個とも一気に食べられるだろう。
男女2人なら、男性は違う駅弁を買って女性が余った分を片付けるくらい!?



もう一つ、糸魚川の名物と言えば「田舎ずし」(1050円)である。
新潟には、笹だんごという名物があるが、
「田舎ずし」も熊笹にくるまれた、郷土料理感たっぷりな寿司。
越後では、稲刈りの後、祭りの時などに、この寿司が食べられてきたそうだ。
エビ、鮭、クルミなどが酢飯と一緒になって、いい香りを醸し出す。
糸魚川駅弁の中で、唯一「通信販売」を扱っていて、
自宅でも、駅弁が味わえるのは有難い。



糸魚川駅弁は、北陸本線を走る特急「はくたか」「北越」の
車内販売でも取り扱いがある。(主に「夫婦釜めし」)
特急で移動中に、ワゴンから買い求めるのもよし。
糸魚川で途中下車して、駅前で温かい駅弁を求め、
普通列車の昔ながらのボックスタイプの座席で、
日本海の青い海を眺めながらいただくのもいい。
北陸本線は駅弁片手に、のんびり旅が出来る数少ない路線である。

※「たかせ」…電話025−552−0014

■旅のワンポイント〜ローカル線で行く温泉旅・北陸編A「小谷温泉」

糸魚川から、1本のローカル線が分岐している。
その名は「大糸線」。
大町と糸魚川を結ぶ線という意味で頭文字をとったわけだ。
正確には、篠ノ井線の松本まで結んでおり、
JR東日本の受持ちである、途中の南小谷(みなみおたり)までは、
新宿(千葉)から、特急「あずさ」も直通する観光路線だ。
しかし、今回取り上げるのは、南小谷より北、糸魚川までの区間。
高原列車の雰囲気が漂う南部とは、全く色合いが違った、
とても“無骨”な印象を受ける区間である。



南小谷〜糸魚川間35.3キロは、JR西日本が受持つ非電化区間。
主役は「キハ52」と呼ばれる現在のJRでは最古参のディーゼルカーだ。
西日本エリアで活躍しているのは、もちろんここだけ。
東日本エリアでも、盛岡周辺では世代交代が進みつつあり、
残るは新潟周辺、米坂線のみとなりつつある。



このキハ52、パワフルな力が買われて、
今もなお、勾配のきつい路線にはなくてはならない存在。
老体に鞭打って、たった1両で、南小谷〜糸魚川間を、
1〜2時間おきに行ったり来たりしている。
この大糸線も、海抜がほとんどゼロに近い糸魚川から、
513メートルにある北アルプスの麓、南小谷へ一気に上っていくため、
馬力のあるディーゼルカーでないと、勝負にならない。
そこで今日も、日本の屋根に孤独な戦いを挑んでいるのだ。



日本を東西に分ける「フォッサマグナ」。
その西端は「静岡〜糸魚川構造線」と呼ばれる。
大糸線は、まさにその「静岡〜糸魚川構造線」に沿って、
姫川沿いを遡って行く。
造山活動が盛んな地域だけに、山肌も荒々しい。
一方で、糸魚川はヒスイの里。
急流の川も、心なしか輝いて見えてくる。



1時間ほどでJR西日本と東日本の境界駅・南小谷に到着。
ここから先、白馬・大町方面は電化区間。
昼時には、国鉄型最古参ディーゼルカーと
「あずさ」をはじめとした東日本の新しい電車とのジョイントがある。
普通、南小谷へ来る場合は、新宿から朝7時30分発の「あずさ」に
乗ってくるのが定番だが、こうして逆から乗ってみるのも新鮮な気分だ。
(ちなみに、新宿発7:30の「あずさ3号」は千葉始発。
千葉〜南小谷と乗り通すと、現在のダイヤでは実に5時間3分。
最近、少なくなった在来線特急電車による“長旅”を味わえる)



さっそく、今宵の宿・小谷温泉へ向かうことにするが、
小谷村営バスというから、マイクロバスでも来るのかと思いきや、
駅前に停車していた大きな松本電鉄バスが“村営バス”だった。
「村営」ではあるが、運行は民間委託されているようだ。
ただ、日曜日の昼間というのに、乗客は私と中年女性の2人だけ。
観光路線というよりも、生活路線に近いようである。
(実際、翌月曜日午前の便は、地元の人の乗車がかなりあった)



760円を降りる時に運賃箱に支払って、
終点の1つ手前「小谷温泉・山田旅館前」で下車。
そう、今回行ってみたかったのは、この「山田旅館」という宿だ。
小谷温泉は、南小谷から1つ糸魚川寄りの「中土」の駅から、
川沿いに12キロさかのぼった、標高850メートルにある「秘湯」。
駅からは、350メートルほど高い所にある。
道理で、大きなバスも少ない乗客の割に、
思い切りエンジンを吹かしていたわけである。



小谷温泉も「武田信玄の隠し湯」といわれた所である。
湯元に当たるのが、この山田旅館。
木造建築で古い感じのする旅館だが、壁には1枚のプレートが燦然と輝く。
実はこの山田旅館は、江戸時代末期の建築として、
「登録有形文化財」になっている文化価値の高い建物なのである。
本館前に建つ蔵は、明治初期の建築であり、
通常、一般客が泊まる所も、大正時代に建てられた古い建物。
部屋に鍵はかからないし、隣室と隔てるものは、ふすま1枚。
でも「文化財」に指定された旅館に泊まることなど、
そうないわけだから、こういう時は文句も言わず、
歴史の重みにひれ伏して、昔ながらの湯治宿を楽しみたいものである。



その木造建築には「内務省御選抜・独逸万国霊泉博覧会出泉」と、
右から書かれた木製のプレートも取り付けられていた。
実はこの小谷温泉のお湯は、明治時代にドイツで行われた温泉博覧会に、
日本を代表して、別府・登別・草津と並んで出展されたお湯なのである。
すなわち、小谷温泉は温泉の「日本代表」!
サッカーで言えば、中田英寿や中村俊輔といった選手と同レベルの(?!)
クオリティの高い温泉ということになる。



さあ、そのお湯だが、さすが日本代表というだけある。
旅館の裏から自然湧出したph6.8、44度のお湯は、滝湯として流れ込む。
その浴槽の周りには、お湯の成分がたっぷり。
加熱も加水もしない、湧き出したそのままのお湯に
浸かることが出来る温泉など、今となっては贅沢この上ない。
飲泉も薦められているので、味わってみると温泉ならではの金属臭。
ナトリウム炭酸水素塩泉(重曹泉)と呼ばれるお湯だが、
先日入った、温泉津の塩分を少なくしたようなお湯のような感じ。
年季の入った浴槽の端には、寝湯も用意されているが、
いつまでもゆっくり入っていたい気持ちになる。
観光目的の人にはあまり薦めないが、温泉好きと自認するなら
一度は入っておきたいお湯だ。湯治客が多いのも納得である。






山田旅館にも、新館には小奇麗な風呂や露天があるが、
開放的な露天風呂に入るなら、旅館から5分ほど登った
バスの終点「雨櫛荘」から2〜3分の「小谷温泉露天風呂」がお薦め。
村営の「雨櫛荘」による清掃管理が行き届いており、
山田旅館とは違った源泉が楽しめる。(56度のお湯)
緑の中で味わう温泉は、これぞ秘湯という感じ。
特に夏場は、視覚的にも癒されて気持ちよさそうだ。



長野・新潟県境付近は、温泉が多いエリアではあるが、
何かとスキー場と隣接しているケースが多いもの。
その点、この小谷温泉は「温泉」に特化しており、
冬場でも賑やかなスキー客に惑わされずにお湯を楽しめるのがいい。
出来ることなら、1泊よりも2泊。
本を何冊か持ち込んで、山深い温泉宿で、スローな時間を過ごしたくなってしまった。



JR最古参のディーゼルカーで訪ねる秘湯。
糸魚川の駅構内には、レンガ造りの車庫などもありレトロムード満点だ。
ここは敢えて、糸魚川回りで南小谷へ入って、
駅弁とタイムスリップを楽しみながら、時を忘れて心行くまで
「日本代表」のお湯を楽しみたいものである。



※「JR西日本・糸魚川地域鉄道部」…大糸線の情報はこちら



2007年7月11日(水曜) 福井編

そろそろ夏休みの計画を…という方も多いだろう。
休みの過ごし方の定番といえば、やっぱり温泉。
ただ、海に近い温泉は、どうしても混雑しやすいもの。
でも、日本海側に目を向けてみると、比較的空いていたりする。
そこで今回は、ローカル線で行く温泉旅・北陸編と銘打って、
北陸地方のローカル線と温泉&名所を紹介していきたいと思う。
1回目、まずはJR北陸本線・福井駅の駅弁から…。



東京から北陸へ鉄道でアクセスする時、
越後湯沢経由か、米原経由か迷うところだが、
福井の場合は「米原経由」が速い。
東京を毎時36分に出る、米原停車の「ひかり」から
特急「しらさぎ」に乗り換え、およそ3時間半の旅である。
ちなみに金沢だと、越後湯沢乗り換えでおよそ4時間。
米原経由では、4時間を若干越えてしまうことになる。



福井駅では、駅前にも店舗を構える「番匠(ばんしょう)本店」が、
駅弁を製造、販売している。
近年、将来の北陸新幹線に備えて、高架化が進められた福井駅。
駅弁売場は、改札を出て右手に「番匠本店」のほか、
北陸地区の数々の駅弁を取り揃えて、朝6時から夜7時まで営業している。
このほか、大阪・名古屋方面の特急列車が発車するホームには、
売店が設けられ、駅弁の販売が行われているほか、
どうしても「番匠本店」の駅弁を食べたい場合には、
改札正面の「プリズム福井」の入口付近にある店舗か、
西口へ出て、左手アーケードの入口に直営店があるので、
こちらへ足を運んでみるのも有効か。(営業時間7:30〜20:30)
駅の弁当が売り切れていても、こちらにはまだ在庫があることがある。



福井の看板駅弁といえば「越前かにめし」(1100円)。
デパートの駅弁大会でも常連なので、馴染みの方も多いだろう。
福井で水揚げされるズワイガニを「越前ガニ」というが、
その中でもメスは「セイコガニ」という。
この「セイコガニ」の赤い身やみそなどを一緒に炊き込み
ズワイガニの足をたっぷり乗せたのが「越前かにめし」。
オスとメスのバランスが、見事な味わいを生み出しているわけだ。
日本の「かにめし」の王道が、ここにある。



「越前かにめし」のグレードアップバージョンに位置づけられているのが、
「越前香ばしい焼かにめし」(1250円)。
香ばしいと銘打っているだけあって、パッケージを破り、
ふたを開けた瞬間、カニのにおいが辺りに充満したら、もうノックアウト。
ただ、これを食べていると、恐らく「沈黙の時間」があるに違いない。
そう、足に喰らい付いている瞬間だ。
でも、この沈黙は「福」を呼ぶ沈黙。
カニ料理メインの飲み会で、みんな黙々とカニに向かってしまうのと同じだ。
この駅弁こそ、越前ガニを最も手軽に満喫できる瞬間かもしれない。



魚介類だらけになってしまう北陸の駅弁の中にあって、
オアシスのような存在になりうる肉駅弁といえば、
ソースカツのおにぎり「ソースカツ棒」(840円)だろう。
以前、2004年の11月に「敦賀ヨーロッパ軒」を紹介したことがあるが、
本家の「ヨーロッパ軒」は、もちろん福井市内にある。
ところが、さらに起源を探すと、東京・早稲田にたどり着くというのだ。
元々、早稲田の学生街で生み出されたソースカツ丼だったが、
お店の主人が関東大震災で、故郷・福井へUターン。
そのまま「ソースカツ丼」が、福井名物となったようである。
ちなみに、早稲田ではその後、いわゆる「卵とじ」のカツ丼も生み出されており、
まさに早稲田は、カツ丼の“聖地”ともいえる場所なのである。
もちろん、この駅弁も学生街の庶民的な食堂のように、
誰もがペロリといけてしまう親しみやすさ、食べやすさを持っている。



残るは、寿司駅弁だ。
その一つは、地方でよく見られる「笹ずし」。
福井の「越前笹すし」(1000円)では、サーモン、あなご、鯖、鯛が笹で包まれ、
一口サイズで食べやすいのが特徴だ。
笹・酢・魚の交じり合った香りから楽しんでいける。
1人旅で食べるのもいいが、何人かで味見をしながら食べるのもまたよし。
味比べなどが出来れば、旅の楽しさも増すのではないか。
というより、1人で食べると結構な量なのだが…。



そして、忘れちゃならないのが「鯖姿すし」(1000円)。
肉厚のサバと、薄くのった昆布。
サバ好きには、脂がのったサバはたまらない駅弁だろう。
日持ちするだけに、土産としても重宝しそうである。

駅弁大会の実演コーナーでもおなじみ、
「越前かにめし」に代表される、福井「番匠本店」の駅弁。
よほどのカニ嫌いでなければ、一度は味わうべきだろう。

※「番匠本店」問い合わせ先…0776-57-0849

■旅のワンポイント〜ローカル線で行く温泉旅・北陸編@「芦原温泉」

福井は何かと「裕福な県」と紹介されることが多い。
そういや、福井の男性には「社長が多い」とも聞いたことがある。
(実際、人口10万人あたりの社長輩出率が1662人で全国一!)
ひょっとすると「福井」は、その名の通り「福」が多い所じゃないのか?
そこで今回は、福井のローカル線「えちぜん鉄道」に揺られ、
福井の「福」を探しながら、最後は芦原温泉を目指す。



「えちぜん鉄道」という名前は、あまり聞き慣れないかもしれない。
元々は、京福電鉄の路線だったが、慢性的な赤字に加え、
2度にわたる衝突事故を起こして、2年間にわたって運行停止。
廃止の危機を迎えることになる。
しかし、この2年という歳月が、思わぬ展開をもたらした。
運行休止の間、道路の渋滞が激しくなってしまったのだ。
そこで渋滞解消の一環として、鉄道に税金を投入することに、
住民の幅広い理解が得られるようになり、存続が決まった。
加えて「えちぜん鉄道」には、市民団体や商店街など、
住民が総額で6000万円を出資しているのも特徴である。
官民共同の形を「第三セクター」というのであれば、
住民参加型はいわば「第四セクター」。
地域住民も「株主」として積極的に経営に参加できるというのは面白い。



「えちぜん鉄道」のキーワードを一言で表すなら「温もり」になろうか。
「えちぜん鉄道」の福井駅に行って驚いた。
待合室に入れたての温かいコーヒーが用意されている。
セルフサービスで100円、これはいいじゃないか!
「えちぜん鉄道」に移行してから行われているようで、
実際、主な有人駅には皆、コーヒーメーカーが用意されていた。
そして、各駅停車は全てワンマン運転であるのだが、
乗ってびっくり、制服を着た可愛い女性の姿を見かけることになる。
実はこれ、日中を中心に乗務している「アテンダント」と呼ばれる女性で、
無人駅から乗ってきた乗客にさっそく声をかけ、切符を販売したり、
沿線の観光案内をアナウンスしている。
何気なく乗ってきた客でも、彼女たちを見かけるだけで嬉しくなってしまいそう。
「えちぜん鉄道」、実は乗るだけで「福」を感じられる路線なのだ。

●勝山永平寺線

えちぜん鉄道には「三国芦原線」と「勝山永平寺線」の2路線がある。
どちらも、判りやすい30分間隔で運行されているが、
まずは「勝山永平寺線」で、曹洞宗の総本山「永平寺」を目指す。



永平寺へは「永平寺口」で下車。
京福時代は、ここから永平寺まで線路が延びていたが、
永平寺までの線路は継承されず廃止となって、バスに転換された。
ただ、バスの接続は土・休日はいいが、平日はちょっと…。
訪問する際は、事前に接続を確認しておいたほうがいい。



禅宗には、栄西が開いた臨済宗と道元が開いた曹洞宗がある。
うち、道元が開いた曹洞宗の総本山が、福井・永平寺である。
最初は、京都に修業の道場を作ったそうだが、
1244年に、福井の今の山深い場所に開山。
今では、大小70あまりの建物が並んでいる。
永平寺というと、年末の「ゆく年くる年」の除夜の鐘くらいしか
イメージがない方も多いと思うが、福井を代表する名所のひとつ。
一年を通じて、多くの参詣客を集めている。



寺院の中には、境内は一切撮影禁止とする所もある中、
永平寺では修行僧にカメラを向けなければ、撮影は可とのこと。
昼どき、正午を迎えると、時刻を知らせる激しい鐘の音が聞こえて、
修行中のお坊さんが、質素な精進料理を、
迅速に配膳する光景なども見ることができる。

そもそも、禅宗というのは、仏教の中でも厳しいほうだと思う。
以前、興味本位で鎌倉・円覚寺(臨済宗)の日曜座禅会を体験したことがあるが、
座禅の時間は、20分+20分で、およそ40分。
この間、モジモジしないでじっとしているのは、意外に難しいのだ。
スポーツ選手などが、精神力を高めるために、座禅を行うことがあるが、
気持ちの面で、大きな修行になるのは確かだろう。
全国の禅宗の寺では、一般でも参加できる「座禅会」を開いているが、
日本を代表する古寺で、心を鍛えるのも貴重な体験。
機会があれば一度体験されて、心に「福」をもたらしたい。



永平寺のルートからは少し外れるが、城好きなら「丸岡城」も訪れたい。
実はこの「丸岡城」、1576年建造という日本最古の天守閣を持つ城なのだ。
しかし、昔からの天守閣は、昭和23年の福井地震で倒壊。
今、建っている天守閣は、昭和30年、丁寧に再建されたものである。
それにしても、この城のポイントは「急な階段」ではないか。
天守閣最上階への階段は、ロープを使わなくちゃならないのだ。
国宝である、あの「松本城」以上にきつい。
今では国の「重要文化財」ではあるが、間違いなく“国宝級”の城だと思う。
(福井駅から京福バス「丸岡方面行き」…およそ20分間隔で運行)

●三国線



さて、福井駅へ戻って、今度は「三国芦原線」へ。
こちらも、きれいな30分間隔で、とても利用しやすい。
終点の三国港(みくにみなと)は、東尋坊の最寄り駅。
福井からは、50分弱の所要時間となる。






終点の一つ手前、三国には古い町並みが残っている。
江戸時代から、北前船の寄港地として栄えた三国。
明治・大正時代にタイムスリップしたような古い洋館や、
江戸時代そのままの道幅が残った町並み、町家。
こういう所は、時代を超えて旅人になりきってしまいたい。



ご当地バーガー花盛りの今、ここにも「三国バーガー」が生まれた。
三国湊座という所で販売しているのだが、
福井産ビーフと国産豚肉のパテに、三国産のらっきょ、野菜に、
炊いたお米を使って作る米パン、バーベキューソースとマヨネーズで味付け。
今年で発売から1年を経過したそうだが、店員さん曰くなかなか評判とのこと。
ちなみに、三国名物ラッキョウの花というのは、
ラベンダーの花畑と見紛うばかりなんだと聞く。
今回は見られなかったが、シーズンにあわせて、
三国の“ラッキョウ畑”も見てみたいものだ。



せっかくだから「東尋坊」も見ておくことにしよう。
夕暮れの時間帯に、さすがに1人で歩いている人は少なく、
さすが“自殺の名所”と言われるだけある。
夕日の写真を、1人で撮りに来ただけでも、ほとんど不審者扱いだ。
公衆電話のボックスにも「救いの電話」の文字。
“旅先からふる里へ電話してみませんか?”と浮かび上がる。



この東尋坊の崖っぷちに「動くもの」を見かけたので、よく見ると猫だった。
随分とこの辺りに住み着いている様子。
崖をひょいひょいとよじ登ったり、いともカンタンに飛び跳ねたり。
観光客の姿を見かけると甘えて、エサをねだってみたり…。
そういう意味じゃ、人間に比べれば、ずっと猫はたくましいのかもしれない。
猫の無邪気な表情が、人の「幸“福”」について考えさせてくれる。



さて、旅の最後をスッキリと飾るには、やっぱり温泉!
福井行きに乗り込んで「あわら湯のまち」駅で途中下車。
芦原温泉は、明治時代、灌漑用水の確保のために、
井戸を掘ったら温泉が湧いてきたという、比較的新しい温泉。
掛け流しを味わいたいのであれば、駅併設の観光案内所で、
去年6月から発売されている「あわら温泉湯めぐり手形」(1500円)を確保。
係の人に「掛け流しの旅館」を訊いてみるとよいだろう。



今回は案内してもらった、老舗高級旅館「つるや」さんにお世話になる。
大きな旅館は、たいてい団体さんが多いのが常だが、
私が訪れた午後7時過ぎは、どうやら宴会中の様子!?
大きくきれいな風呂を独占で堪能させていただいた。
海が近いため、塩っぽいお湯ながら、うっすらと硫黄の香りも。
やっぱり、お湯は「掛け流し」である。
ただ、この「つるや」、平日2人泊、1泊2食付1人「23250円」とのこと。
普段の旅では、まず手が出ない金額の宿だが、
そんな宿の風呂を味わえるのも「湯めぐり手形」のお陰。
芦原温泉、なかなかの「福」がある。



そうそう、芦原温泉の玄関口となる「あわら湯のまち」駅にも、
1匹の猫が住み着いている。
チビなどという名前が付いているそうで、タイミングがよければ、
切符を買う時、窓口の横に座っていることもある。
カメラを向けると逃げてしまったが、とても人懐っこい猫である。
ちなみに、えちぜん鉄道のきっぷは、窓口での販売が基本。
列車に乗る時は、かならず「○○まで下さい」と言わなくちゃならないのだ。
しかも、無人駅を有人駅に改める取り組みもしている。



以前、とある著名人の対談を手伝った時に聞いた話だが、
今の世の中の問題、突き詰めていくと、その多くは、
「コミュニケーション不足」に起因するという分析があるのだそうだ。
人と人との温かいつながり、つまりはコミュニケーションこそが、
人に「福」をもたらしてくれるのではないか…。
“鉄”な旅のはずが、いつの間にか“哲”学的な旅になってしまった。
「えちぜん鉄道」、これからも注目していきたい存在である。

※北陸へのアクセスに「寝台特急北陸」「急行能登」



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下り:北陸…上野23:03→金沢6:34、能登…上野23:33→金沢6:38
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