2007年5月

2007年5月18日(金曜) 岡山編

週末、TVの日テレさんには2つの旅番組がある。
土曜日は首都圏近場向けの「ぶらり途中下車の旅」。
日曜日はJRグループ提供の「遠くへ行きたい」。
でも、旅慣れない人にとって“途中下車”という行為は少々難しい。
そして”遠くへ”行っても、一度目的地を決めてしまったら、
“途中下車”は、結構難しいのである。
そこで、今月の「駅弁膝栗毛」は「ぶらりじゃない途中下車の旅」と題して、
遠くへ出かけた時、どうしても通過駅、中継地になってしまう駅を
ピックアップしてご紹介!



1回目は、四国、山陰への玄関口となっているJR山陽本線・岡山駅。
何度も乗り換えに使ったことはあったが、意外と途中で降りることは少なく、
改札を抜けてみたのは、今回が初めて。
東京からは、新幹線「のぞみ」が毎時3本運行され、
最速3時間20分弱で結んでいる。



岡山の駅弁は米問屋に起源を持つ「三好野(みよしの)本店」が調製している。
売り場は、新幹線ホームのほか、在来線は四国方面のホームと、
山陰方面(特急「やくも」)の発着ホームが基本となる。
ただ、メインは大規模な橋上化工事が行われて出来た、
中央改札を入って正面の売り場。
土産物売場のような一角だが、ここだけは早朝5時45分頃から開いており、
始発の新幹線に乗る時でも購入可能。
夜は原則的に9時頃まで開いているが、繁忙期は売り切れることが多い。
実際、連休最終日の夜、四国から最終の「のぞみ」で東京へ戻ろうとして、
岡山で弁当を買う算段でいたのだが、弁当棚は既に空っぽ。
車内販売の弁当も売切れで、東京まで腹を空かせた経験がある。
これは、四国方面の特急列車に車内販売がないことも大きいのでは。
岡山での駅弁購入は早めが鉄則。買える時に買っておきたい。



岡山の名物駅弁といえば、何はともあれ「祭ずし」。
駅前の「三好野」のビルにも「祭ずし」と書かれている。
その中で、最もベーシックで入手が容易なのは、
桃太郎の絵が描かれた「桃太郎の祭ずし」(950円)である。
そもそも「祭ずし」とは、岡山の郷土料理「ばらずし」の駅弁版。
「ばらずし」の起源は、岡山藩主・池田光政の時代にさかのぼるといわれ、
長い歴史の中で「ハレ」の日の食べ物とされてきた。
これを昭和38年、三好野が駅弁として販売する際、
従来のものと差別化を図るため「祭ずし」と銘打ったのである。
注目のねたは、ままかり、さわら、しゃこ、つなし、たこの酢漬け。
焼き穴子、きざみ穴子煮、海老の煮つけ。
笠岡の特産で祭ずしに欠かせないとされる「も貝」の煮つけに、
竹の子、椎茸の煮もの、錦糸玉子、菜の花漬、花れんこん、生姜とまあ、
ねたの「お祭り騒ぎ」といったところか。
桃の形をしたかわいらしい容器も、旅気分を高めてくれる。
私「祭ずし」定番の食べ方は、好きな「サワラ」に向かって、
そのほかのねたを徐々に片付けていくパターン。
無秩序に食べていくと、意外に味覚が単調で飽きてくる。
ま、本来は、1人で食べる料理じゃないということで…。



駅弁として40年以上の歴史を誇る「祭ずし」。
少し高級感を味わいたければ、300円プラスで塗り箱になる。
その名も「塗り箱入り祭ずし」(1250円)。
中味は950円のものと大して変わらないので、雰囲気だけの違い。
ま、桃太郎バージョンに飽きたら、これもアリということで。



「祭ずしを土産に」という時に最適なのが「贈答用…」(2500円)である。
店員さんに伺ったところ、3人前の「祭ずし」ということで、
寿司ねたもそれぞれ三個ずつ。ボリュームも3人分しっかりある。
ちなみに私、前日の晩飯を抜いて、始発の「のぞみ」号車内で、
朝から食べてみたが、岡山発車と同時に食べ始め、
およそ50分後の新大阪で、4分の3あまり食べたところで、
リタイヤを余儀なくされた。
やはり「贈答用」は一人で食べちゃいけない。
本来の「祭ずし」のように家族揃って、または大勢で食べるべきである。



さて、私の岡山イチオシ駅弁は「まんま借り借りままかり鮨」(700円)である。
「ままかり」とは、ニシン科の小魚で、正式名称は「さっぱ」という。
瀬戸内のものは特に、速い潮の流れに揉まれ、脂がのっているとか。
お隣から“まんま(飯)”を“借りる”ほど美味いと「ままかり」と称されるように。
まあ、まんまを借りるというのは大げさだが、
この駅弁には確かに「また食べたい」と思わせる美味さがある。
特に甘酢につけた大根との組み合わせがいい。
同じような味わいに、釧路の名物「いわしのほっかぶり」があるが、
光りモノと酢に漬けた大根というのは、やはり合うのだろう。



桃栗三年というが“桃”の駅弁もあれば“栗”の駅弁もあるのが岡山。
こちらも栗の形をした愛嬌のある容器だが、土産には難しいか。
伝統の「栗おこわ弁当」(850円)は、比較的軽めのボリュームで、
腹を空かせている時は、やや物足りなさを憶える可能性もあり。



最近、駅弁にも「地域ブランドの肉」を使ったものが、続々登場しているが、
岡山も例外ではなく、牛と豚に地域ブランドを使ったものが現れた。
「岡山和牛肉弁当」(1050円)は、やわらかい肉の食感が非常に好印象。
でも、何故か「酢飯」を使っているのが???
錦糸卵も乗って、祭ずしの“肉バージョン”のよう。
私が出入りしている放送局のそばにある鹿児島の物産館の
人気メニューでも、酢めしが付いてくるのだが、
やはり、私、肉は普通の白いご飯でいただきたい。
“肉殺しの酢”とするのは、厳しすぎるか。



「豚トコTON」(900円)は、いい食感だ。
たれ&辛子マヨネーズがいいスパイスになっている。
一時、米国産牛がストップしてからか、地域の豚が注目されてからか、
「豚肉」を食べる機会が多くなってきたように思うが、
改めて、豚とは「こんなに美味しかったか!」と気付かされることがある。
この駅弁も、そんな“豚・再発見”の一翼を担っているといってもいいだろう。



四国、山陰方面の特急から「のぞみ」への乗り換え時間は、
原則7分(07.5現在)となっているが、
各線に単線区間があるために、数分遅れることが常である。
岡山乗換え時の駅弁購入は、岡山からの「下り」列車をお薦めする。

■旅のワンポイント〜ぶらりじゃない途中下車の旅@「倉敷・児島」

現在、JRでは岡山の「ディスティネーションキャンペーン」を行っている。
首都圏の通勤電車にも、岡山のキャンペーンの車内広告が出ている。
簡単に言えば、ちょっと、てこ入れしたいトコのキャンペーンなのだが、
たいていは、おトクなきっぷとセットになって展開されることが多い。
今回は東京都区内からも「岡山・倉敷ぐるりんきっぷ」が32000円で発売。
岡山エリアのフリー区間や、バス・路面電車などが乗り放題になっているほか
観光施設の無料入場券や、繊維産業が盛んな岡山らしく、
「倉敷帆布」のトートバッグなども、今回は切符を買った人に1つずつ付いてきた。
今までに行ったことのない場所へ出かける時は、
JRの戦略に乗せられてみるのも悪くない。

「岡山・倉敷ぐるりんきっぷ」
(JR東日本の指定席自動券売機でも購入可能)



今回のターゲットは「倉敷・児島」。
土曜朝の番組が終わってからでは、昼過ぎの出発、岡山到着は夕方。
この夕方に見たいスポットが、児島にある。
児島へは、5両編成の高松行・快速「マリンライナー」で20分あまり。
先頭の1号車は、JR東日本の2階建グリーン車の設計を使った車両。
残る2〜5号車は、JR西日本の新快速とほぼ同じ車両。
東西のいいトコ取りをした列車といえようか。
ちなみに、大方の車両を保有しているのはJR四国である。
で、児島で観るものとは…。



まさに絶景!鷲羽山から眺める、赤く染まった瀬戸内の島なみ。
小さく点在するのは、瀬戸内を行き交う小さな貨物船か、
それとも、下津井漁港から出た小さな漁船か。
この景色が見られるのは、国民年金健康保養センター「しもつい」の前。
児島駅を夕方5時半(5〜7月は6時)に出発する「鷲羽山夕景鑑賞バス」が
鑑賞スポットとして立ち寄る場所の一つである。
もちろん、このバスにも「ぐるりんきっぷ」で乗車できる。



もう一つの絶景スポットは、瀬戸大橋の袂、鷲羽山の展望台。
バスが着いたのは、まさに今、瀬戸大橋の向こうに日が沈もうとする瞬間だった。
自然の大きな動きの前には、巨大な近代建築も添え物でしかない。
毎日起こる、ありふれた光景でありながら、
日の出・日の入りほど、厳かな気持ちにさせてくれるものはない。
改めて、自然に「生かされている」と感じる瞬間である。



その時、下津井瀬戸大橋を、四国へ向けて列車が渡っていった。
あの列車の乗客は、夕日を観て、何を思い、どのような声を上げたのだろうか。
私、何度も列車の旅をしているが、こんな貴重な瞬間に出会えることは滅多にない。
仮に通勤・通学の途中に出会ったとしても、これほど羨ましいことはない。
日本の景色・百選に選ばれるだけある場所だ。



20年目を迎えた瀬戸大橋のライトに灯がともり始めた。
ライトアップは、土曜日限定なんだそうだ。
ひょっとすると、ご紹介した景色に見覚えのある方もいるのではないか?
それもそのはず、JR西日本の竹内結子サンのCMで登場する
「あの景色」である。
今回、出かけてみたのも、あの景色は本当に観られるのか?
これを確かめるのが、大きな動機だった。
少しキツめの日程ながら、オンエア終わりで
飛び出した価値があったというものである。



瀬戸大橋が開通する前、本州と四国は「宇高連絡船」で結ばれていた。
東京からもブルートレインの「瀬戸」が宇野行として運行されていた。
その当時は、大いににぎわっていたと想像される宇野であるが、
20年経った今はどうなっているのか?
宇野へ向かう列車は、瀬戸大橋線の茶屋町から発着している。
日中は、かつて快速「マリンライナー」として運行されていた車両が、
2両編成に短縮された上、ワンマン運転の改造を施されて、
1時間に1本程度運行されている程度。
宇野駅も、むかし写真で観た時とは違って小ぢんまりとして、
駅近くの“宇野港銀座”のアーケードも寂しさに拍車をかける…でも!



意外に「宇野港」は盛況。
JRの「宇高連絡船」こそなくなったものの、宇野と高松の間は、
四国フェリーや宇高国道フェリーなどがそれぞれ、ほぼ30分間隔で運航。
概ね1時間に双方向で8本のフェリーが行き来しているのである。
フェリーが残っているのは、瀬戸大橋の通行料金が高いことが影響しているとか。
このため、産業便やマイカーに、今も船便は愛用されているというわけだ。



ドライバーにとってみれば、1時間ほどハンドルを休められるというのは、
この上ない休憩時間。
おまけに安いとなれば、船便を選択するのも納得である。
今回、訪れたのは、ゴールデンウィークの真っ只中。
甲板の上では高松の街を目前に、鯉のぼりが気持ちよさそうに泳いでいた。
ちなみに、人が1人で乗っても「390円」。
東京のタクシーの初乗り料金より、ずっと安いのだ。



高松からは、鉄道で再び本州へと戻る。
こちらも毎時2本の快速「マリンライナー」は大盛況。
今や、高松の辺りは、岡山の通勤・通学、観光・買物のエリアとして一体化、
岡山市“高松区”のような印象すら受ける。
これがいわゆる“ストロー現象”というものなのか?
改めて、開通から「20年」という年月が経ったんだと実感させられた。



再び、昼間の児島へやってきた。
児島には、日本唯一のジーンズの博物館「ジーンズミュージアム」がある。
ベティ・スミスがやっているものだが、この地には他にも
学生服を作っている業者が多く、各社の営業マンは全国行脚していた。
ある時、アメリカの古着のジーンズに人気が集まっているのに注目、
国産ジーンズの開発に着手したという。
最近は「デニム」と称することも多くなってきたが、
多種多彩な柄を生み出す「洗い加工」は、日本生まれなんだとか。
元々は、新品を趣味でブラシやこすったりして出していた中古感を、
メーカーが機械で生み出すようになったというわけだ。
ある意味、日本的なサービスとも言えよう。
なお、ここでは3万円程度で1日3本限定の「オーダージーンズ」を作ってくれる。
せっかく、ここを訪れたのであれば、奮発してみるのも一興。
気乗りしない人は、側のアウトレットでお買い得品をゲットするのがお薦め。
そんなに大きい施設ではないので、冷やかし半分くらいがいい感じ。



さて、倉敷のメジャーな名所といえば「美観地区」になろう。
この辺りは、幸運にも戦災を免れたのであるが、
町並み保存に大きな役割を果たしたのは、クラレ社長の故・大原総一郎。
昭和初期、ドイツ留学中に見た中世の町並みに感銘を受けたことから、
戦後間もない昭和20年代、倉敷の町並みの文化的価値を訴えて、
「美観地区」として町並みが保存されるきっかけを作ったのである。 






昭和54年には、国の重要伝統的建造物郡保存地区に選定された倉敷。
江戸から明治の町並みが、手厚い保護を受けているが、
夜のライトアップもなかなかの見もの。
本町辺りの古い町並みや狭い路地も、ゆっくり時間をかけて歩きたい。



東京から概ね3時間半の岡山。
「のぞみ」で揺られて行くには、程よい旅気分を味わえる距離感だ。
四国や山陰の“玄関口”にしておくには、勿体無いエリアである。



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