邦画にほえろ!
2002年(前期) 新作のみ寸評


「6週間」
 塩屋俊さんという、俳優であり、またアクターズクリニックという俳優養成所 を主宰されている方がいて、テレビなどでも意欲的な映画製作を語られている。  その塩屋さんの監督作品である。6週間のオーディションを経て、役へと選抜 されていく若き俳優たちの群像劇。  塩屋氏独特のオーディションスタイル(演技査定)が展開され、いささか手前 味噌な映画ではあるが、面白いと言えば面白い。  俳優たちの喜び、怒り、悲しみも定番ながら青春ドラマとしてそこそこに楽し い。  小粒な面白味のある作品。

 「化粧師」
 東映番線に乗った大作ながら、どうにもこうにもすきま風を感じる作品。思わ せぶりなエピソードを抱えたキャストが次々に出てくるが、羅列的であってそれ がどうにもお話として積み上がってこない。お金をかけているだけに薄ら寒く感 じる。  主人公にある秘密を持たせてあるのだが、それは別に秘密にしておく必要は物 語の流れとしてない。ないにも関わらず持たせてあるので、秘密が単なる足かせ になっている。

「助太刀屋助六」
 鬼才・岡本喜八監督の最新作。アバンタイトルは主演・真田広之自身さんの編 集とのことで、少々粗さ・拙さはなくはない。しかしタイトルバックは音楽とも あいまって躍動的でそれだけでも楽しく、しびれる。  パッと背を向けて歩き出す助六の姿にタイトルがパンと出、山下洋輔の音楽が じゃんと入るのは素敵だし、同じタイトル音楽での笛のメロディと、助六が木の 葉を口に当ておどけるあたりのシンクロぶりは絶妙である。  若干中だるみの箇所もあるが、これまで助太刀専門だった彼が、父の仇討ちを 決意してから一気にクライマックスへなだれ込む。いかにして腕の立たない助六 が仇討ちを決行していくかが見もの。  劇場ではシルバー層の姿も少なくなかった。テレビからこういった層が楽しむ 番組が淘汰され、映画館に楽しみを求めてやってくるのだろうか。

「まぶだち」
 一昔前の長野県の中学を舞台に、厳格な教師の下でそれぞれにうごめく3人の 男の子の物語。  J-MOVIE WARS全体の特徴だが、映画がミニマムである。  閉塞された状況での煮詰まったドラマは、確かにしっかりとある部分を描き、 突いて来る映画群ではあるのだが。難解な私小説を読んでいるようだ。  この映画も丁寧に描写されていてよくまとまっているのではあるが、爽快感が ある内容ではないので、いささか辛くなってくる。高揚感がないのだ。  例えば成瀬巳喜男監督作品の「乱れ雲」とか「乱れる」とかでも、苦しみをに じませた、ストマックに来る映画ではあるが、観終えてその世界にカタルシスを 感じる。そういう高揚感がないのだ。   海外の映画祭では賞も獲得しており、作品としての質は悪くはないのだが・・ ・。訳の分からない素人監督のダメ映画とは一緒にできないが、一般向けという ところではその延長線上でぎりぎり合格ラインに入っている、という気もする。

「ソウル」
 予想より面白く観られた。  長瀬智也のアクションが実にかっこよく決まっている。  冒頭の暴走車から母子を身を挺してかばい、さらに車に飛び乗って、銃をかわ しつつ犯人を引きずりおろす一連の動作から目を奪われた。  もっともっと、映画の世界でアクションを観せて欲しい。アクションスターの 思わぬ発見だった。  ただ映画としては底が浅い。特に人物造形が。  例えば主人公の長瀬の役も、今風のヒーロー然としていて魅力的ではあるが類 型的だ。パンフレットには「命を守るDNAを受け継ぐ新米刑事」なんて記述があ るが、こういう頭でこねくりまわしたような人物設定では苦しい。  一方の韓国人刑事役のチェ・ミンスがパンフレットで語っている(もちろん彼 はこの作品を擁護する立場なので、正確には語ってしまったというべきか)とお り、この映画は「ほとんどの場面が状況から状況へつながる」ものであり、「韓 国映画での刑事役はより人間的」だそうだ。  うがった解釈かも知れないが、それはつまり「人間描写よりも状況(話の展開 )が重視され」、「登場人物が人間的でない」映画ととらえられる。  犯人も類型的だし、犯行も妙にまわりくどい。  そういう種々の要素により、彫りが浅い印象を覚えた。  ただこの映画をけなしきってはいけないことも事実で、再びパンフレットから の引用だが、「ソウル」は「ホワイトアウト」の系列につながる映画である。  映画にもいろんなジャンルがあるが、この2作はよい意味での「ハッタリ」の 映画だと思う。何の理屈もこねず、娯楽に徹して、入場料金分きっちり楽しませ てくれる・・・とでも定義できるような。そしてこの「ハッタリ」には、アクシ ョン、特撮、時代劇、いろいろなタイプのものがある。  現在の邦画界は、メジャー/インディペンデントの二極から洞察するとよく見 えてくる。  一般層は「邦画はつまらない、暗い」という偏見を持ち、映画ファンは逆に「 邦画は面白い、質が高い」と言うが、これはつまり、観ているところが違うので ある。  一般の人は東宝だとか東映だとかでかかっているメジャーをとらえて邦画全般 を語るし、映画ファンは単館系のインディペンデントを重要視するからだ。  単館系は確かに質は良いものの、予算がないからいわゆる物量的側面では弱い。 前述した「ハッタリ」には向いていないわけだ。  物事には何でも初心者コースというものがあり、そこを経て旨味を覚えた者が もっと渋好みと言うか、マニアックな領域に足を踏み入れるようになるわけであ る。  「ハッタリ」は映画の初心者コースとして重要だ。そこを持ち得ない単館系に イキナリ来いと言っても、一般の人々はなかなか来れない。だいいちそんなマイ ナーな映画館の場所すら知らない。  で、メジャーに目を向けると、質は残念ながらあまりよろしくない。なぜよろ しくないかはまた別の機会に触れるとして、問題は質のよろしくない作品が連打 されてしまいがちなメジャーの方に、映画の初心者は目を向けがち、足を向けが ちなところにある。  で、「やっぱり邦画はダメだ」ということになり、それが二度三度と続くと、 決定的な邦画への不信感になってしまう。    つまりは役割分担であって、メジャーはもっと「ハッタリ」をがんばって作り、 「一般人を邦画に目を向けさせる」ことに勤しみ、インディペンデントは「目を 向け始めた初心者を、深く定着させる」ことに主眼を置けばよいのではないか。  「ハッタリ」と言っても、これだって作るのは相当に難しい。上手な嘘という のは、つくのが難しいのだ。東宝は比較的「ハッタリ」には熱心だし、東映も最 近はコツコツ当ててはいるのだが。  もちろん、メジャーで質量ともに充実した作品(文芸大作とか)を作っていく のに越したことはない。  今はインディペンデントで作って、メジャーの中規模館やシネコンでかける、 という中間形態も生まれつつあるが、これについては別の機会に譲ろう。

「ぼくの生まれた日」
 毎年恒例の「ドラえもん」における、30分サイズ感動シリーズの一篇。  このシリーズ、「帰ってきたドラえもん」「のび太の結婚前夜」「おばあちゃ んの思い出」「がんばれ!ジャイアン」と継続してきて、本作で5作目となる。  第1作目の「帰ってきたドラえもん」では劇場で号泣したくらいで(周囲の客 席を見ても、子どもよりも大人が泣いていたのが印象的)、以降だんだんと感動 の幅、出す涙の量が減少傾向にある。  本作でもホロリと涙を流すシーンはあったが、できればまた大泣きさせて欲し いものである。私を泣かせてくれる映画は数少ないのだ。

「ミスター・ルーキー」
 この作品は大阪の劇場で観るのがいちばんである。何せツッコミが凄い。竹中 直人の大阪弁は、リアルタイムで観客から修正の声が飛ぶ。おなじみの場所や人 が出るとわいわい言い合う。ラストでの阪神外野手のファインプレーには拍手が 沸く。つくづくラテン系と言うかアメリカ風と言うか、面白い地域性のある観客 である。  内容も娯楽作として及第点ではないか。謎の覆面投手が阪神のピンチを豪速球 で救う。その設定だけで面白い。「ハッタリ」としてのそのアイディアを思いつ いたのは見事だと思う。

「害虫」
 これも観ていて疲れてくるタイプの映画で、もちろん内容が空疎であるとか、 そういうわけではないのだが、息が抜けなくひたすら重くで、少々大変なのであ る。  孤独を抱え家庭の問題を抱えた少女を宮崎あおいが好演しており、重苦しい作 品の雰囲気を、彼女の純文学の香り漂う佇まいが救っている。  クライマックスの友人宅への放火も、半ば自暴自棄なまでのラストシーンも、 なぜそうなるのかが理解できないのだが、宮崎あおいのキャラクターが不問にし てしまう力を有している。  女性を食い物にしてしまいそうな男としりつつも、その男の車に乗り、自ら転 落していくヒロイン像はすさまじく、この後彼女がどうなっていくのか、興味を そそられる。

「ハッシュ!」
 ゲイムービーではあるが、ゲイとしてではなく、一つの世代論として観ること ができる秀逸な作品。今年のベストワン候補である。  30代はリアルな年齢であって、若くて夢中で過ぎてきた20代までと違って、 例えば親が定年を迎えたりして、今度は自分が親を見守っていく側に廻るとか。 本当の意味で大人にならざるを得ない。  同時に、結婚とか子どもの有無とか言われ出したりと、なんとなく年齢に相応 した人生の営みをしているものと世間が見なし始める年齢でもある。  そういう世間の流れと違う所に自分がいる、自分のアイデンティティがあると いう場合は、怖いことでも不安なことでもあると思うのだ。  「ハッシュ!」での男女もそういう怖さや孤独を抱えながらも、自分らしく生 きていこうとする。そしてその「孤独な個」同志が連帯し共闘する、という擬似 家族的な生活のスタートを告げるラストシーンには、橋口亮輔監督なりの1つの 回答・結論であるのだろう。  観ていて、じわっと自分の人生について考えてしまった。苦しくも貴重な体験 だった。こういう鑑賞体験ができるということが、いい映画である証とも言えよ う。

「Laundry」
 主人公の持つ不思議な味わいが、作品全般に行き渡っていて、独特のムードを 醸し出している。  そのことが、まるで天然を装うアイドルを観るように、鑑賞に際してどうにも 警戒心を解けないでいる。「どうです?不思議な味わいでしょう?いいでしょう ?」と売り込みされているような気がするのだ。  ただそれは邪推かも知れない。素直に味わえばけっこう楽しめてしまう。  窪塚洋介をはじめとする、主たるキャラクター3人はそれぞれに魅力的で、擬 似家族を形成する中盤がいちばん楽しい。

「突入せよ!『あさま山荘』事件」
 「金融腐食列島[呪縛]」の路線を継承した群像劇で、ぎっしり詰め込まれた情報量 の多い物語を、実にサラサラと淀みなく展開している。  様々な技巧が凝らされているので、それが肩透かしに終わることはないが、個人的 にはもっともっとコクのある展開をして堪能したいエピソードもあった。  スピード感あるストーリーの流れを重視したのだろうが、その点が物足りないのも 事実である。

「KT」
 こちらは金大中誘拐事件を、盛り上げるべきところは比重を置いて描写しており、 誘拐シーンなどは布袋寅泰の音楽とも相まって、かなり興奮度が高い。  70年代初頭を表現しようとした、美術や俳優人の風体にも努力の跡がうかがえる。  ドキュメンタリータッチで描かれた物語は、じっと鑑賞するに値する重厚さを有す るが、つまらないことはないのだが胸にじわっと染みないのは、ドラマ性がやや廃さ れているからだろう。  取り上げるのが困難な題材に取り組んだ姿勢は高く評価したい。

「同窓会星団」
 ビデオ製作とおぼしきミニマムな映画。  ここでの私の関心は磯村脚本にあり、妻を亡くし息子を育てる神田正輝をはじめと する男性キャラクターは総じて元気がないかおとなしめなのに対し、その同級生役で 同じく離婚しハイティーンの息子を持つ原日出子演じるヒロインが、たたずまいとし ては控え目なのだが、神田正輝を殴ってしまった自分の息子に対し、私が人を好きに なってはいけないのか、と叫ぶなど、その情熱的な一面が描かれている。  磯村映画は秘められた強い意志の女性の映画である、との思いを強くした。

「とらばいゆ」
 女性棋士の世界を描いたという点でも面白味があり、かつ丹念に描かれた夫婦の描 写も十分に楽しませてくれる映画である。  これに主人公の妹(将棋のライバルでもある)のカップルを絡ませた、四者の恋愛 模様もまた楽しい。  主人公は、あれほど高慢でわがままな女もない、というくらいのある種の悪女なの だが、瀬戸朝香が好演し、嫌味を感じさせない。  監督として名高い塚本晋也も夫を好演しており、味わいのあるラストシーンを生み 出している。  秀作。
      
「模倣犯」
 才人・森田芳光監督の作品で、彼らしい技巧は目立つものの、中身は空疎でどうに も訳のわからぬ点が多い。  犯人の末路も意味不明で観客は置き去り。ラストも「羅生門」を踏襲したがごとき の展開なのだが、取ってつけたみたいで何の感動もない。  あるいは高等な思想があっての作品かも知れないが、伝わらなければ意味がない。

「陽はまた昇る」
 VHS誕生をめぐる物語で、昔風に言えばスポ魂的と言うか、今風に言えば「プロ ジェクトX」的目的達成のための熱い映画。  熱いとは言うものの、主たるターゲット中高年向けに、ほどほどの温度に保たれて いて、個人的には少々物足りない。火傷するくらいの熱い物語が私的には好みである。  ソツなくまとまって、ストライクゾーンは外していない。入場料金きっちり楽しま せてくれる作品。  客層は中高年からシルバー層だった。やはり邦画はこの世代をメインターゲットに マーケティングすべきなのか。少なくとも軽視してはいけないと思う。

「GUN CRAZY 復讐の荒野」
 二本立て「GUN CRAZY」の一本。内容に深度はなく、ひたすら活劇に徹しているが、 それはそれとして「あり」だと思う。今はそういった割り切ったエンタティメントが 少な過ぎる。  米倉涼子がスタイルの良さも相まって、ワイルドでエレガントなヒロイン像を形成 している。時折見せる可愛らしい顔が、この人はこんな表情も持っていたんだ、と新 鮮に感じた。

「GUN CRAZY 裏切りの挽歌」
 二本立て「GUN CRAZY」の一本で、時間軸としてはこちらの方が後なのだが、2作品 間に直接の関係性は薄い。  菊川怜演じる弁護士が、法の正義など世の不正の前にはなす術も無い、と己の無力を 感じ、ふと出会った闇の世界の人間に感化され、銃を持ち殺しに手を染めていく。  この転落ぶり、悪の甘い魅力に恍惚となる菊川怜が素晴らしい魅力を放っている。  アクション映画ではあるが、そういう一個の女性像を描いているという点で、私個人 は高く評価している。

「パコダテ人」
 実に可愛らしくほのぼのしたファンタジーで、家族愛も心地よく、理屈なしで観てい て楽しい。  元々は函館の映画祭におけるシナリオコンテストでの入選作品であり、翌年の映画祭 ではこの作品が、メインプログラムの一つとして上映された。これはなかなか面白い試 みだと思う。映画祭も、ただ受け手として映画を上映するだけでなく、そこから作品を 発信する送り手としての役割を担っていくことができるからだ。  従来暗く、笑わない役が多かった宮崎あおいがあ、ここでは屈託なく、時に切ない女 の子を演じていて新鮮である。

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