『海のおばけオーリー』
"OLEY, THE SEA MONSTER"
マリー・ホール・エッツ 文・絵
石井桃子 訳
岩波書店 1974年

〜小さなアザラシが、海のおばけになっちゃった〜

邦訳『海のおばけオーリー』
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●ストーリー●
 海辺でアザラシの赤ちゃんが生まれました。お母さんがエサを取りに沖に出 ているときのこと、一人の水平が赤ちゃんを連れて行ってしまいます。赤ちゃ んは動物屋に売られ、オーリーと名付けられました。少し大きくなると、今度 は水族館に。たくさんの人がオーリーを見にやってきました。でも、そのうち、 オーリーはお母さんのことを思い出して、すっかり元気をなくしてしまいます。 オーリーをかわいがっていた飼育係は、湖に放してあげました。すると、湖に 出没するオーリーを見てみんなはびっくり。お化けだと思い込んでしまうので す。大勢の人たちがやってきて、捕まえようとしますが……。

●この絵本の力●
 今、この絵本を読まれた人は、きっと誰もが思い浮かべるものがあるでしょ う。そう、今やわが国でおなじみのアザラシのタマちゃん。本当にびっくりす るほど似ているんですよ。一匹のアザラシを巡って、人間たちが大騒動を起こ すなんて。タマちゃん、今頃どうしているのかな?なんて、ふと考えてしまい ました。

 本書の主人公オーリーは「ある港のそばの海辺」で生まれた、ごくごく普通 のアザラシの赤ちゃんでした。でも、人間たちの手によって思わぬ方向へと導 かれていきます。次から次へと変わっていく境遇に、何とか適応していこうと するオーリーの姿を見ていると、同じ人間のせいで変わってしまったという意 識からか、何となく胸が痛くなるような気持ちになってきます。そして、やっ ぱりお母さんが恋しくなって涙をぽろぽろ流すオーリー。本当の自分の居場所 である海に帰りたい、お母さんに会いたい。そんな切実な思いが、エッツの黒 と白だけのやわらかなイラストから強く伝わってきます。143枚ものイラスト と、それぞれに添えられた文。オーリーの大冒険がテンポよく描かれており、 特に人間たちがオーリーをお化けと勘違いして大騒動を起こす辺りは、人間た ちの滑稽さが感じられます。一匹のアザラシの長い旅が語られている本書は、 さまざまな人間の姿を浮き彫りにしているかのような、読み応えのある絵本で す。読み終えてから、本文中の数々のイラストが揃っている見返しを眺めてい ると、しみじみとそう感じられました。

 原書が今から56年も前に出版された本書は、決して色あせることなく今の時 代にも通じるテーマが扱われています。アザラシはアザラシの世界、人間は人 間の世界、生き物にはみんなそれぞれの世界があることを、改めて実感させら れます。それぞれがそれぞれの世界を生きていく、そうやって地球は穏やかに 回っていくのでしょうね。これからもきっと、いつの時代になっても、この絵 本は読み続けられていくことでしょう。

●心に残る場面●
 オーリーは、湖から海を目指します。ミシガン湖を上り、ヒューロン湖、エ リー湖、ウェランド運河、オンタリオ湖、そしてセント・ローレンス川へと。 その長い長い旅の道のりは、見開きいっぱいに描かれた地図で一目瞭然。オー リーがどれだけ頑張ったのかがよーく分かります。オーリーは本当にえらい!

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