●ストーリー● ●この絵本の力● 本書の主人公オーリーは「ある港のそばの海辺」で生まれた、ごくごく普通 のアザラシの赤ちゃんでした。でも、人間たちの手によって思わぬ方向へと導 かれていきます。次から次へと変わっていく境遇に、何とか適応していこうと するオーリーの姿を見ていると、同じ人間のせいで変わってしまったという意 識からか、何となく胸が痛くなるような気持ちになってきます。そして、やっ ぱりお母さんが恋しくなって涙をぽろぽろ流すオーリー。本当の自分の居場所 である海に帰りたい、お母さんに会いたい。そんな切実な思いが、エッツの黒 と白だけのやわらかなイラストから強く伝わってきます。143枚ものイラスト と、それぞれに添えられた文。オーリーの大冒険がテンポよく描かれており、 特に人間たちがオーリーをお化けと勘違いして大騒動を起こす辺りは、人間た ちの滑稽さが感じられます。一匹のアザラシの長い旅が語られている本書は、 さまざまな人間の姿を浮き彫りにしているかのような、読み応えのある絵本で す。読み終えてから、本文中の数々のイラストが揃っている見返しを眺めてい ると、しみじみとそう感じられました。 原書が今から56年も前に出版された本書は、決して色あせることなく今の時 代にも通じるテーマが扱われています。アザラシはアザラシの世界、人間は人 間の世界、生き物にはみんなそれぞれの世界があることを、改めて実感させら れます。それぞれがそれぞれの世界を生きていく、そうやって地球は穏やかに 回っていくのでしょうね。これからもきっと、いつの時代になっても、この絵 本は読み続けられていくことでしょう。 ●心に残る場面● |
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