『わすれられないおくりもの』
”Badger's Parting Gifts”
スーザン・バーレイ 文・絵
小川仁央 訳
評論社 1986年

〜アナグマが残したもの、それは忘れられない贈りものでした。〜

『わすれられないおくりもの』邦訳 ”Badger's Parting Gifts”原書
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●ストーリー●
  森の動物たち、みんなから慕われているアナグマは、何でも知っていました。 年老いた自分の死がもう近いということも。死ぬことを恐れてはいませんが、 あとに残る友人たちが悲しみはしないかと気がかりでした。ある晩、アナグマ は素晴らしい夢を見ます。長いトンネルの中、杖も使わずに軽やかに走ってい る夢。そのうち体が軽くなってきて、アナグマは自由になるのでした。そして 翌朝、アナグマが死んだことを知ったみんなは、悲しみで途方に暮れました。 やがて冬が過ぎ、春が来て、みんなはアナグマとの思い出を徐々に語りはじめ ます。アナグマからはたくさんのことを教えてもらいました。モグラは紙の切 り抜き方、カエルはスケートの滑り方、キツネはネクタイの上手な結び方を。 悲しみに沈んでいたみんなは、アナグマの死をどう乗り越えていくのでしょう。

●この絵本の力●
 生きとし生けるものすべてに訪れる「死」。子どもの頃、私にとって「死」 はまだほど遠く無縁のところにいたせいか、余り考えていませんでした。ただ 漠然と「死」とは誰もが直面するもので、やがて自分にも訪れるものだと思っ ていました。ところが、同年代の友人の死に直面したとき、言いようもない悲 しみが押し寄せてきて、そのとき初めて死を身近に感じたのです。彼らがもう この世に存在しない。それがどういうことなのか想像もつきませんでした。確 かにいたはずなのに、ある瞬間からもう存在しないということが理解できなかっ たのです。それからこの絵本を読み、さまざまな経験を通ってきた今、私はこ う考えます。彼らは「思い出」となったのですね。人々の心の中に大切なもの、 「忘れられない贈りもの」を残してくれたのですね。その贈りものは私たちの 中でずっと生き続け、時に私たちを励ましてくれます。すべてが消え去るとい うことは決してありません。彼らが残していった贈りものは、いつまでも心の 中に大切にしまっておかなければならない。そして自分もまた人々の心にたく さんの贈りものを残していきたい。そう思いながら生命の尊さを感じるのでし た。

 子どもの周りでも「死」がないことはありません。周りの人の死、ペットの 死などに直面するときはあり、自分自身の「死」について考えることもあるで しょう。そんな時、この絵本は「死」というものの意味をやさしく説き、生き ることの尊さをそっと語りかけます。こういうエピソードがあります。とある 病院に脳死状態の幼い子がいました。その子の兄弟にやがて訪れる死を分かっ てもらおうと、病院の先生がこの『わすれられないおくりもの』を読んであげ ました。すると、その兄弟たちは弟の死をしっかりと受け止め、死んでいくの は怖くないということを理解できたのだそうです。

 淡い色彩に強めの輪郭線が印象的なスーザン・バーレイのあたたかいイラス トからは、森の動物たちがいつも仲良く助け合いながら暮らす様子が伝わって きて安らぎを感じます。この絵本は、きっと本当の意味で「忘れられない贈り もの」としてそばに置いておきたい、貴重な1冊となることでしょう。

●心に残る場面●
 「死」とはどういうことなのか。一体どこへ行くのか。生きる者、誰もが考 えることでしょう。アナグマが永遠の眠りにつくとき、どこまでも続く長い暗 いトンネルへたった独り入っていきます。長い長いトンネル。この世とあの世 を結ぶトンネルをアナグマが杖を捨てて自由に走る姿を見ていると、怖いはず のそのトンネルも心地よいところのように見えてきて、「死」とは決して怖い ものではないのだと思えてくるのです。「長いトンネルの向こうに行くよ」と 言って去っていくアナグマ。恐れることなく死をきちんと受け止められること は素晴らしいことです。生きている間、周りの者たちの心の中にたくさんの宝 物を残してきたからこそ出来ることなのでしょう。

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