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  ビニール紐からダイオキシン? 
    市民向け「プラスチックとダイオキシンとの関係」入門







 この文章を書くきっかけとなりましたのは、朝日新聞の声の欄に、次のような主婦からの投書が載っていたからです。「紙ひものすすめ回収用古新聞紙などを束ねるのに使うビニールの紐からも焼却すればダイオキシンが発生する。昔から使われている紙ひもなら安心です。

 ところが実際には、その「ビニールの紐」は実はビニール(=ポリ塩化ビニル)ではないのでして、したがってダイオキシン発生の直接原因ではないのです。製造者が消費者に対して、製品に使っている材料が何かをもっと積極的に情報開示しないと、ゴミの最適処理なども実現不可能なのだなと思った次第。


C先生:最近、日常品に使われる材料がまさに多種多様になった。特に、プラスチック製品は、それが何でできているか我々が見ても分からないことが多い。ということで、この主婦の投書のようなことになる。なんとかならんかね。

 

A君:売る側の人間として、若干の反省はしなくてはならないですね。まあ、余り材質表示をしないですから。

 

B君:製造業が全体としてリサイクルに向けて努力するというのならば、第一にやるべきことは、その製品がどのようにリサイクルされるかをマニュアルなどに明示すること。次に、使用している材質が分かるように製品に表示すること。この2点をやらないと、リサイクルをやる気が有るようには思えないね。この2点を始めない限り信用できない。

 

C先生:製品を作る際には、その製品のリサイクル/廃棄過程まで明らかにした上で、それに対して責任を持つことが次世紀の製造業のあるべき姿だろう。となると、ユーザによってリサイクル/廃棄が行われる製品では、材質表示が最低限の義務になるだろう。まあ、こんなことを言っても、材質表示が行われるのは相当先のことになるだろうから、今日は、家庭でどんなプラスチックが使われているか、また、プラスチックとダイオキシンの関係を明らかにしてみよう。

 

A君:まず、家庭でプラスチック類を呼ぶときに、柔らかいフィルムですとビニールと呼ばれますが、本当は何なのか、この辺りの整理から始めるべきでしょうね。

 

B君:確かに。ビニールとは本来は塩化ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル)(成分は炭素C、水素H、塩素Cl)のことだろう。ところが、プラスチックのフィルム/シートで、本当にポリ塩化ビニルが使われている量は減ってきている。現在でも使われているものは、壁紙、テーブルクロスなどで、これらはかなりの割合でポリ塩化ビニルだ。薄いフィルムでラップとよばれる製品には、実は3種類のものがある。まず、ポリ塩化ビニリデン(成分炭素C、水素H、塩素Cl)で、商品名としては、サランラップ、クレラップなど。そのほかに、ポリエチレン製(成分炭素C、水素H)のものがある。これはぺちゃぺちゃした感覚のものが多く、また、くっつきにくい性質なので、消費者には評判が良くない。スーパーから買ってきた肉や魚のトレイをカバーしているのは、業務用でポリ塩化ビニル製が多い。一部の環境重視型のスーパーでは、ポリエチレン(成分炭素C、水素H)のものを使用しはじめた。このように、見ただけではなかなか分からない。

 

C先生:そうなんだ。それが問題だ。焼却してダイオキシンの直接の原因になるプラスチックは、ダイオキシンの成分である塩素Clを含んだものだ。すなわち、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン樹脂だ。他のプラスチックは、不完全燃焼を起こすと、間接的な原因にはなりうるが、直接的な原因ではない。その見た目での区別が難しい。

 

A君:投書した主婦が言っている「ビニールの紐」というのは、恐らくポリエチレンかポリプトピレンの紐でしょう。一方向に延伸したポリエチレン、ポリプロピレンは強いですから。これはダイオキシンの直接の原因ではないですね。

 

C先生:まあ多分そうだろう。それでは、ついでに他にどのようなプラスチックがあるか紹介してもらおうか。

 

B君:それでは。ポリスチレンと呼ばれるプラスチックがあります。スーパーの白いトレイは発泡ポリスチレンでしょう。火をつけると黒い煙がでて、かなりいやな臭いがします。ベンゼン環(いわゆる亀の甲)がその理由ですが。キャンディーなどのケースに使われる透明で硬い樹脂もポリスチレンである場合が多いでしょうかね。

 

A君:では交代。アクリル繊維も問題です。青酸基というものを含んでますから、不完全燃焼すると青酸ガスがでる可能性があります。日経トレンディの記事中にあった紙による畳おもてでは、紙をこの原料アクリルニトリルで処理してます。

 

C先生:それではPET。これはポリエステル繊維と同じものだね。商品名テトロンなどがそうだ。構成元素は(炭素C、水素H、酸素O)。ガスバリア性というのだが、気体を通さない性質のプラスチックだから、炭酸飲料などの容器にも使える。そこでいわゆるPETボトルに使用されている。このプラスチックは繊維へのリサイクルも可能なのだが、本当はボトルに戻すべきだろう。技術的には可能なのだけれど、見かけが若干悪くなるので、飲料業界には売れないらしい。困ったものだ。

 

B君:清涼飲料業界は、リサイクル派にとって当面の敵かもしれないですね。

 

A君:エポキシ樹脂(成分炭素、水素H、酸素O、窒素N)。これは、接着剤にも使われている。商品名セメダインスーパーはこれだ。多くの樹脂は高温にすると溶けるが、エポキシ樹脂は溶けない。そこで、熱硬化性樹脂と呼ばれている。プリント配線板とかスキーの構造材、漁船やボートなどにも使われている。この樹脂は、補強剤としてガラス繊維を使っていることも多い。またリサイクルが不可能に近い。熱回収ぐらいでしょう。

 

B君:いろいろと混ぜたものもあります。ABS樹脂は、アクリルニトリル、ブタジエン、スチレンを混ぜたもの。ブタジエンは合成ゴムみたいなもの。家電製品のプラスチックのかなりのものがABS樹脂。

 

C先生:まあ、こんなところで良いとしよう。しかし、さらに重要なことがある。柔らかい樹脂には、可塑剤などが添加されていることだ。添加物が危ないという話も、実は多い。その他にも難燃化剤としてアンチモンの酸化物なども含まれている場合がある。

 

A君:焼却という立場から言えば、ポリエチレン、ポリプロピレン(成分炭素C、水素H)、PET、ポリスチレンなどは、燃やしても精製されたガソリンを燃やしているようなものだから、まあ問題は少ないでしょう。エネルギー回収という立場からも、また、最終処分地不足の立場からも、日本のような国では、リサイクルできない程度に質が悪くなったら焼却でしょう。

 

B君:一方、塩化ビニル、塩化ビニリデンは燃やさない方が良いですね。

 

C先生:リサイクルできない程度に質が悪くなったらということだが、諸外国では、PETボトルはリフィルすなわち、ビール瓶みたいに複数回使っている。まず、これからだろうね。それには、業界で標準ボトルを作る必要がある。日本の業界は、こういうことが不得意だけれど、そんなことを言っているような時代ではない。実は優等生といっているビール瓶も、キリンビールのものと、その他の会社のもので違うことを知っているかい。形が全然違う。これも全日本的立場で効率を考えたら、まあ統一すべきだろう。

 話を戻して、プラスチックの焼却について言えば、塩化ビニル、塩化ビニリデンを特別扱いすることが妥当だと考える。まず、塩化ビニルについて言えば、一般家庭のゴミから塩化ビニルがでないように、包装材に使用することを禁止。寿命の短い商品への利用も原則禁止。塩化ビニリデンも禁止で良いと思うが、消費者がどうしても必要だと言うのなら、塩化ビニリデンのラップには、どんな切れ端でも成分が分かるように表示を入れて、別に回収する。消費者がどんな素材を使うか選択する権利を持つ時代が望ましい。自分たちで使うと決めた材料であれば消費者は回収をするようになるだろうから。

 いずれにしても、プラスチックは表示義務が必要。できるならば、同じ製品だけを分別して回収したいところだね。回収コストは、商品価格の中に含ませて、ゴミとしてでなく、販売網で回収する。特に飲料ボトルなどは、商品を配送した帰りの空き便を使った逆輸送を行うことで、回収コストは大幅に下がるからね。回収を地方自治体に任せると、わざわざ回収のためにトラックを走らせ、また、そのためにわざわざ労働力を掛けることになるからコスト高になって当然なのだ。したがって、住民税をいくら高くしても追いつかないことになる。まあ、雇用の創出だと言えばそれはその通りだけれど。

 

A君:塩化ビニル樹脂業界は、ポリ塩化ビニルがダイオキシン発生の原因だといういうのは濡れ衣だ、誤解だ、と言ってますが、本当のところはどうなのでしょうか。

 

C先生:きわめてクリアーな結果を出すのは難しいのも事実。というのは、ダイオキシンの発生量は微量であり、また、実際の焼却炉を使った実験では、他の条件の影響が余りにも大きいので。何が問題化といえば、燃焼温度、その後の公害防止装置の状況、燃焼時の酸素濃度、助燃剤の有無などが影響するからだ。塩素源としても食塩が存在しているから、なかなか複雑なことがおきているようで、相当に難しい。

 でも、主観を述べれば、ポリ塩化ビニルばダイオキシンの直接原因であることは事実だろうと思う。業界の反論として、ゴミ中のポリ塩化ビニルの割合は1%以下だから無関係と言っているが、この意味を検証してみようか。A君頼む。

 

A君:まず、1立方メートルの空気で燃えるゴミを量を考えます。ゴミとしては、植物繊維であるセルロースを代表として採用します。セルロースは、炭素:水素:酸素の比が約1:2:1の化合物です。そこで燃焼を示す反応式は、

 

   CHO+O → CO+HO を使います。

 

1立方メートルの空気には、約200リットルの酸素が含まれます。これは約10モルですから、この酸素で燃えるセルロースの量は、ちょっと計算すると約300グラムです。燃焼後の排ガスの体積は、やや増えて、1.2立方メートルになりますが、まあ無視しても良い程度の増加です。さて、300グラムのセルロースに1%のポリ塩化ビニル、すなわち、3グラムが含まれていたとします。塩化ビニルの化学式は、CClで示します。分子量は97。だから、3グラムは約0.03モル相当。ダイオキシンの代表選手の分子式は、C12Clでして、分子量は、251。ポリ塩化ビニル3グラムに含まれる塩素がすべてダイオキシンになったとすると、0.015モル=約4グラムです。現在の暫定規制値は80ng/立方メートルだから、たった1%のポリ塩化ビニルが含まれていたとしても、その中の塩素がすべてダイオキシンになったとすると、なんと規制値の5000万倍の濃度になります。こ んなことは有り得ないのですが、この塩素の5000万分の1がダイオキシンになることは、有りそうな気がします。

  

C先生:すごく荒っぽい近似だけれど、最後が5000万倍だからまあ許容範囲内の精度で、結論はとにかく1%でも塩素量十分というだろう。ところで、食塩中の塩素も原因の一つということが指摘されているが、その妥当性はどうなんだい。B君。

 

B君:食塩NaClもたしかに塩素を含む化合物ですから、ダイオキシンと無関係とは言えないようです。しかし、NaClは安定な化合物ですから、それだけを有機物と反応させてダイオキシンを作ろうとしても、そんな反応は起きません。ダイオキシンを発生させるには、HClという分子にならないと駄目なようですが、例え水があっても、

  NaCl+HO → NaOH+HCl 

の反応はまず起きません。これは、中和反応の逆反応ですから中学生程度の化学の知識でも分かると思います。ですから、これ以外に何か中間反応物が必要だと考えられます。その候補が、SOxです。これは、助燃剤に重油を使っていれば、その中にかなりの硫黄分を含んでますから、燃焼ガス中には高濃度で存在していても不思議では有りません。

 SOがあると、それは硫酸があることと同じでして、

   2NaCl+HSO → NaSO+2HCl

となります。このHClは、ダイオキシン発生の原因になるでしょう。ということは助燃剤なしで燃やせる状況をつくることが、ダイオキシン発生の防止策になるものと思われます。

 

C先生:日本では、生ゴミにはなぜか水分含有量が多いので(みそ汁問答を参照)助燃剤として重油を使うことになる。何回も言うが、スイスの焼却炉では、生ゴミは燃やしていない。助燃剤も使っていない。だから、トータルにゴミ処理システムを改めないとダイオキシン問題は解決しない。

 

B君:もう一つ提案されている機構があります。それは、SiOの存在時には、

  2NaCl+HO+nSiO → NaO・SiO+2HCl

という反応が起きて、これでHClが発生するというものです。SiO源はどこにあるかと言えば、それはどこにでもあって、実際焼却灰の主成分の一つですから。稲のワラが直立できるのも、その軸の部分に、SiOがかなり大量に含まれているためということですから、ほとんどすべての植物にはSiOが含まれていると考えて良いです。さらに、土の主成分もSiOですから、土が混入すればそれも供給源です。

 

C君:良く分かった。ところで、根本的解決策は何だと思うかね。諸君。

 

B君:まあ焼却の方式を大幅に変えるのも大変でしょうからね。まずゴミの有料化をやれば、包装剤を減らせという声になって、プラスチックもゴミではないという話になるでしょう。最もてっとり早いのは、有料化ですね。

 

A君:しかし、有料化したら裏庭でたき火が増えるというのが結構あるらしい。たき火禁止にしないと。

 

C先生:現在では、市街地が増えたから、たき火の煙が回りに迷惑を与えない場所も減った。廃棄物処理業者が野焼きをしているというが、これも法律で禁止すべきだろう。同時に、廃棄物業者の小型炉の規制も重要だろう。

 

B君:そしてやはり完全分別でしょう。

 

C先生:原理的には焼却炉の公害処理技術でもなんとかなるだろうが、完全な解決法は、やはり完全分別のように思うね。このあたりの思い切った対策と市民の知識の向上が両輪となって、より環境調和型社会になるのだろう。

 最後に、NaClからHCl発生に関する久保田宏先生の論文を紹介してくださった、豊橋技大の藤江先生に感謝感謝!!