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「地球温暖化対策大綱」決定   98.06.21




政府は地球温暖化対策推進本部(橋本竜太郎本部長)は6月19日午前に「地球温暖化対策推進大綱」を正式決定した。

大綱は中期的な対策として、(1)省エネルギーの促進や新エネルギーの導入、原子力発電所立地の促進 (2)公共交通機関の利用促進や交通渋滞の緩和 (3)壁面緑化や地域冷暖房の導入などの都市基盤の整備、(4)CO2などの温暖化ガスの排出権取引や発展途上国への支援など国際的な取り組みの促進、(5)夏時間の導入など温暖化防止につながる生活様式の見直し、などを提案。

原子力発電については、2010年度に原発の発電量を97年度より5割以上増やすため、事故や不祥事で失われた国民の原子力への信頼回復に務める必要があるとした。98年度中に温暖化ガスの排出削減目標などの行動計画を作るように求めるとともに、国民にも省エネルギーの徹底などを呼びかけた。

政府が率先して取り組む姿勢を月に1度の「ノーカーデー」を実施するほか、低公害車や低燃費車を公用車に採用する。

大綱は京都会議における公約を守るために、必要な対策をまとめたもので、資源を節約、リサイクル利用する循環型の経済や社会を築いていくことが不可欠としている。



C先生:地球温暖化防止推進大綱が正式決定を見た。いくつかのことが提案されているが、これについて、諸君の感想を聞こう。まず、例によって基本的考え方の整理から行こうかね。

A君:それでは。まず、地球温暖化の科学から少々。原理そのものは大変に簡単です。地球の温度は、太陽からのエネルギーで暖められ、そして、赤外線を宇宙に放出して冷えます。入力すなわち太陽エネルギーと出力すなわち赤外線の放出エネルギーのバランスが取れているために、一定の温度を保てるのです。もしも、大気中に赤外線を吸収するようなガス、これを温暖化ガスと呼びますが、それが全く無かったら地表温度はマイナス18°になるとされています。ところが、現在の地表温度の平均値は大体15°ですから、現時点で33°ほど温暖化していることになります。温暖化ガスとして最大の寄与をしていると考えられるものが水蒸気でして、ご存じのように地球は水の惑星と呼ばれているように、大量の水をもっていますから、これが全温暖化ガスの2/3以上の寄与率だろうと言われております。次に寄与率の大きなガスが二酸化炭素です。これ以外に、亜酸化窒素、メタン、特定フロン、代替フロンなども温暖化ガスです。昨年の温暖化防止京都会議で、3種の気体、HFC、PFC、SF6が削減対象の温暖化ガスになりました。水は、もともと大量に存在しており、人間活動による放出 の影響が多いとは思えないもので、規制の対象にはなりません。特定フロン(CFC)、代替フロン(HCFC)は、オゾン層破壊に関係するガスとして、すでに規制の対象になっているためか、温暖化ガスとしての規制対象からは外れております。

B君:交代。そして、最大の話題は、二酸化炭素の放出規制です。これは化石燃料を燃やせばでるガスですし、それ以外のものでもなんでも燃やせば必ず出る気体ですから、人類が薪とか炭のようなエネルギーを使用し始めたときから、人間活動によって環境に放出し続けた気体です。エネルギー消費量が経済発展の一つの尺度に使えるということからも分かるように、二酸化炭素排出規制はある種の経済活動抑制規制であって、発展途上国にとっては、経済発展のための足枷に見える訳です。先進国にとっても、本音は同じかも知れません。
 COP3で、先進各国の削減目標が決まりましたが、IPCCが言っていることが正しければ、温暖化を本当に防止するには、50%以上の削減を行う必要があるということでして、97年12月に決まった日本6%削減などの数字は、温暖化の環境科学という観点を完全に離れた数字で、環境政治学の妥協の産物です。すでに、温暖化は、科学を離れて、自力走行をはじめたのです。
 
C先生:そして厄介なのが、その影響の評価だ。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によれば、2100年に1〜3.5°の温度上昇が、そして、15〜95cmの海面上昇が起きるとされているが、その幅が大きいのがまず難点の一つ。東京の場合だが、1800年頃から現在までの200年で、恐らく4°近い温度上昇を経験しているはずだ。すなわち、1800年頃は寒かった。そして、地球レベルの気候変動と多少の温暖化、さらに最近の都市のヒートアイランド現象による温度上昇がその原因だ。この温度変化で、たしかに雑木林の植物相が変わったという話もあるが、それでも明治神宮の森はそれなりに元気だ。要するに、もしも2100年における温度上昇が幸いにしてもっとも低い値である1°に終わったとしたら、それほどの被害はでないかもしれない。3.5°上昇だと被害もかなりでているだろう。もっとも2100年に1°上昇だといっても、以降に急に上昇するかもしれないから、そこで安心するのは禁物で、遠い将来になって、はじめて結果がでる問題ではあるのだ。
 こんな不確実な問題に対してではあっても、何としてでも6%目標は達成しなければ、京都会議の議長国としての面子が無くなる。さてさて賢く対処する方法は何だろうか。

A君:いくつかの選択肢があって、全体として不確実性が高い場合には、ミニマムリグレットと呼ばれる基準を使うのが原則なのではないでしょうか。これは、前にも説明がありますが
 最悪の事態が起きた場合の不可逆性=後悔が一番少ない選択肢を選ぶべきだという考え方。温暖化に関して言えば、温暖化には不確実性があるために、もしも温暖化が思ったよりも少なかった場合には、「後悔」をしそうな選択肢がある。例えば、二酸化炭素を分離して、地中や深海に処分するという方法が典型例です。まず、30%以上も余分なエネルギーが必要になって、言い換えれば30%も速い速度で限りある化石燃料を消耗することになりますし、また、深海などに処分した二酸化炭素が別の環境問題を起こさないという保証はないですから。

B君:それでは、私案だが後悔が少ない順に、いくつかの二酸化炭素放出対策技術を並べてみよう。
0.HFC、PFC、SF6の完全クローズドシステム化。
1.省エネルギー。
2.合理的リサイクル。
3.エネルギー転換。
(0)風力エネルギー。
(1)石炭−>天然ガス。
(2)太陽エネルギー。
(3)地熱エネルギー。
(4)原子力エネルギー。
(5)高速増殖炉。
4.二酸化炭素の再資源化。
5.二酸化炭素の分離(膜技術、吸収技術、純酸素燃焼)。
6.二酸化炭素の処分(油田、帯水層、深海)。
 これ以外にも、植林も後悔が少ない、吸収側の能力を増やす方法だ。

C先生:もっとも後悔が少ない技術にHFC、PFC、SF6の完全クローズドシステムをもってきた理由は? 

B君:まあ次のような理由です。HFC、PFC、SF6は、いずれも大気中の寿命が非常に長い気体です。特にPFCは数千年から数万年の寿命があると言われてます。これまでの環境問題の鉄則の一つに、環境中で分解しない化学物質を出すなというものが有ります。特定フロンも安定でしたし、DDT、PCBなどといった有機塩素化合物も安定です。これは、地球にはそれらの物質を分解する能力は無いことを意味しますが、そのような物質は、どんなに無害であっても放出すべきではないと考えるからです。完全クローズドシステムにすることで、資源・エネルギーを多少余分に使ったとしても、その後悔は少ないと考えます。

C先生:ひとつの考え方だな。

A君:省エネルギーは無条件に後悔が少ないだろうから、賛成。合理的リサイクルという言葉が意味するところは、例えば過度のリサイクルやゼロエミッションをやればエネルギー消費が馬鹿にならないことになる、ということだろうか。

B君:勿論。それに加えて、PETボトルからシャツを作るような、格好だけの無理なリサイクルを否定しているつもりだ。

C先生:エネルギー転換の最初に風力を持ってきたのは?

B君:ばれたかな。実は、新エネルギーというと、皆さん太陽電池だというから、それへの単なるアンチテーゼ。多少理屈をこねれば、太陽電池は昼間は良いが夜は駄目。すなわち、ベース負荷を支える技術にはなり得ない。風力は風が無ければ駄目だけど、まあ、夜は駄目といった完全に駄目な条件が少ないから、多少はましかと思ったのです。

A君:僕も同様の感覚は有りますが、現時点で我々が知っているような二次電池(鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、ナトリウム硫黄電池、など)を遥かに超えるものはできないのでしょうか。もしもそれが完成すれば、太陽電池もベースロードを支える技術になると思いますが。

C先生:多くの人が研究しての結果だから、簡単ではない。むしろ、水素にでもして貯めるか。あるいは揚水発電か。

B君:そういえば、水素といえば燃料電池ですよね。6月20日の日経新聞に、次のような感じの記事が出てました。


サッポロビール千葉工場、燃料電池が稼働。
 サッポロビール千葉工場内に建設を進めていた燃料電池が完成、19日から本格運転を始めた。工場排水の処理設備で発生するメタンガスを同装置で電気と熱に変換し、エネルギーの有効利用を進める。大気汚染の原因となる窒素酸化物などがほとんど発生しないのが特徴で、メタンガスを利用する燃料電池は民間では初めてという。
 燃料電池は、水の電気分解と逆の反応を利用したもので、メタンガスから取り出した水素と酸素を反応させることにより電気と水(温水)を取り出す仕組み。化石燃料を燃やす通常の発電システムと異なり低公害で、電気と熱の利用効率も80%台と、都市ガスなどを燃やして電気と熱を発生させる通常のコジェネレーションシステム(70〜75%)を上回っている。
 同工場の燃料電池は、毎時200キロワットを発電。これにより、1キロリットルのビールの生産に要する電力量の6%をまかなえるうえ、作り出した温水をビールの製造工程の殺菌・洗浄用に利用すれば、「年間3200万円のコストの削減が必要」という。


C先生:メタンガスを燃料にするのは、温暖化にとって二重のメリットだ。メタンガスそのものも温暖化ガスで、温暖化係数は二酸化炭素の何10倍だから、まずそれを空気中にそのまま出さないメリットがある。さらに高効率だから省エネ技術でもある。
 でもその新聞記事は多少分からない部分があるね。メタンガスを直接燃やす燃料電池を使ったのか、それとも記事のように、リフォーマというものを使って、メタンから水素を取り出して燃料電池に入れるのか、どちらなのだろうか。メタンを燃料電池で燃やすのは実は難しいのだ。溶融炭酸塩型の燃料電池が必要になる。しかも、リフォーマで分離される炭素分をどうするかという別の問題も出てくる。この事実関係は確認してみよう。

A君:そういえば、先生のプリウスのようなハイブリッド車というのは、一時的な車の形式で、将来は車も燃料電池になるという話ですね。ベンツはすでに開発をしていて、Aクラス(車種名、転覆しやすいということでドイツでは販売中止になって大騒ぎ。その後改造が行われた)の試作車が走っているらしいです。

B君:車といえば、大綱によればノーカーデーを作るということですが、政府が範を示すということだと、橋本首相もその日は電車通勤なんですかね。

C先生:それは無いだろう。きっちり警備をすることによる一般社会への影響が大きすぎる。せめて、その日はプリウスか電気自動車にでも乗って欲しい。

A君:政府がプリウスを購入することになれば、ますます低燃費・低公害車の補助金問題を追及すべきことになりそうですね。

C先生:さて、話をもとに戻すが、サッポロビールの年間3200万円の経費の削減になるとはいっても、設備投資額を何年で取り戻せるのだろうか。これもそのうち調査してみよう。このような設備投資に対して、補助金を出す制度を設けることも、本当ならば大綱に盛り込むべきだ。補助金の原資はやはり炭素税になるだろうか。また、大綱に排出権取引も盛り込むべきだ。

B君:政府の温暖化防止大綱に「対抗」して、対抗大綱ABC版を作りましょうか。

A君:これを次回のテーマにしましょう。それには、大綱全文を手に入れないと。