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二酸化炭素削減不能の予測   98.06.13




 現在、温暖化防止対策大綱なる日本としての二酸化炭素対策の基本方針が検討されつつある。産業界の削減自主目標がこれに盛り込まれることになっているが、現在の事情をいろいろと考えると、この削減目標が達成できるかどうか、相当危ない状況のように思える。



C先生:昨年12月のCOP3以来、しばらく温暖化の話をしなかったが、最近になって、いくつか動きが出てきた。まず、通産省が産業界の削減自主目標を定めている。本当に自主目標とその達成を見張るという方式が良いのか、それとも、炭素税が良いのか、これも議論をする必要がある。最近の動きをA君。

A君:まず、通産省関係の話でして、自動車、電機などの主要業界が、温暖化ガスの業種別排出目標を決めたという話から行きます。個別の目標を合計したところ、1990年比で2010年の値がなんと9%プラスになっており、昨年、政府の関係合同審議会に提出された資料では、産業部門全体で7%の削減となってましたから、その差はなんと16%プラスです。ですから、この目標を達成したからどうこうと言えるようなものではないですね。産業界に身を置く自分で言うのもなんですが。
 それに、これら目標値そのものが、原子力発電の増設(20基)によって、電力の二酸化炭素排出原単位が減ることを前提としてますから、ますます怪しい。例えば、自動車業界は、20%削減という値を出してますが、もしも原子力発電が増設されない場合には、10%削減相当にしかならない値だそうです。電機産業は、原子力増設前提で18%削減。鉄鋼は9%削減ですが、この場合にはエネルギーが化石燃料に直接依存している量が多いですから、恐らく原子力発電の増設の有無にあまり影響されないでしょう。同様に、エネルギー多消費産業の化学、紙パルプ、セメントなどは10〜20%増加。電力は20%増加、石油業は13%増加。電子は23%増加となっているようです。
 
C先生:自主目標の合計値が2010年で9%増加になるというのは、本当の目標値といえるかどうか。まあ言えないだろうね。やはりなんとかして辻褄を合わせて6%削減程度にはして貰わないと。

B君:別の動きを少々。エネルギー調査会の需給部会は、2010年最終エネルギー消費量を原油換算で96年並みに4億キロリットルに抑えるとの中間報告をまとめた。
 しかし、これも怪しい値だ。なぜならば、現時点のようなエネルギー供給構造のままであったら、2010年の最終エネルギー消費量を1990年の6%減にしなければならないはずで、実際には96年は90年よりも13%増加していますから、2010年も同様に90年基準で13%増加を意味するからだ。となると、目標の6%削減と比較して、19%の増加ということになってしまう。
 96年並みのエネルギー総消費量で、しかも二酸化炭素の発生を抑えるとしたら、原子力発電を増加させるか、あるいは、自然エネルギーの利用量を増加しなければならない。原子力発電の増設は無理だろうし、自然エネルギーに過度の期待を抱くのは現時点では無理だ。

C先生:この目標も苦しい「こじつけ」みたいなものだな。
 ところで、このような目標の設定のやり方そのものが妙だと思わないかい。要するに、産業界だけに目標を定め、また、総エネルギー使用量に目標を定めても、肝心のところがざっくりと抜け落ちている。最近のエネルギー消費量は産業部門で伸びている訳ではなくて、民生部門、これは家庭とオフィスだが、それに運輸部門の両方の伸びが著しいのだ。産業部門だけをいじめてみても、民生・運輸の両部門のエネルギー消費が削減されないと全く効果はないのだ。言い換えれば、通産省が今みたいなやり方でいくらがんばっても駄目で、全く別のことを考える必要がある。

A君:炭素税ですか? 炭素税は、今の不景気のきっかけを消費税の増税が作ったことを考えると、駄目なのではないでしょうか。

B君:いや、そうとも言えない。炭素税の使い方次第だろう。民生・運輸部門における省エネルギー商品に補助金を出し、大量エネルギー消費型商品には炭素物品税を課すような方法を取ればなんとも言えない。例えば、自動車の場合であれば、燃費によって自動車税の枠組みを作り直して、そして、大食いの車から取った税収で低燃費の車の税を優遇する。テレビでも、冷蔵庫でもエアコンでもそんなことができるはず。消費税の一部を炭素物品税とでも読み替えることができれば。

C先生:確かにその通りだと思う。だから、運輸省あたりがどのように考えるか、自動車については重要だ。炭素物品税の考え方は面白いが、通産省内部だけの発想では出てきそうもない。

A君:メーカー側にしてみれば、例えば、商品に大幅な工夫をして省エネルギーを図ったとしても、その商品の製造に大量のエネルギーが必要で、結果として二酸化炭素の放出が増えてしまうようなものであれば、もしもそのメーカーの手持ちの排出権がぎりぎりといった状態だったら、そんな商品は作りませんよ。

C先生:ハイブリッド車などはその典型だろうな。プリウスについて言えば、まず、同車格の車に比べて約150kgぐらいは重いだろう。まず、電池が50kg弱、その他にモーターや制御装置があるからね。これらの装置を作るには、当然エネルギーが必要だから、プリウス製造に係わる二酸化炭素排出量は増加する。しかし、プリウスの一生、すなわち、ライフサイクル全体を考えてみれば、二酸化炭素放出量は減少する。非常に荒い近似を許して貰えば、車の製造に係わる二酸化炭素排出は、その車の走行1万キロ分のガソリンから出る量ぐらいだろう。プリウスのような車は複雑な構造を持っているから、製造時には普通の車の恐らく2割から3割増しの二酸化炭素を放出しているだろう。もしも、毎年1万キロ走るとして、7年間で比較すれば、普通の車は、製造に1万キロ分、その後、走行に7万キロ分、合計8万キロ分のガソリンを使う。ハイブリッドだと、3割(?)増しだとして製造に1.3万キロ分、その後、燃費が倍だとすれば、走行に3.5万キロ分、合計して4.8万キロ分となる。これはライフサイクルCO2と呼ばれる値だが、明らかにハイブリッドの方が少ない。
 冷蔵庫やテレビなどの耐久消費財でも、エネルギーは使用時が大きく、製造時はそれほどでもない。となると、やはりライフサイクルCO2という考え方が重要。

A君:そのような省エネルギー商品を作ったときには、その使用時の排出減少分を権利化して製造メーカーにある割合で割り戻すような仕組みが必要ですね。そうなれば、省エネルギー商品を作るインセンティブになります。

B君:その考え方の延長線上に排出権市場なるものがある。要するに、様々な権利獲得方法を決めて、そして、排出権が余れば足りない企業に売却するという方法だ。カナダなどでは、すでに二酸化炭素排出の総枠が決められ、そのために、排出権取引が行われているというが、実態を現在調査中です。

C先生:排出権市場ができて取引を行う場合でも、ライフサイクルCO2の枠組みを是非とも組み込んだものが欲しい。そうなれば、民生・運輸部門の二酸化炭素排出量が削減されるだろう。

A君:少々元に戻りたいのですが、正味20%近い削減を実際にはやらなければならないのに、日本全体がなんだか暢気ですね。20基の原子炉を作らなければならないというシナリオも変だし。

B君:考えすぎかも知れないが、原子炉の新設を認めない市民社会が悪いという責任転嫁をやるつもりかも知れないですね。原子炉を認めるのか、それとも、日本経済を潰すか、この選択をしろといって市民に迫るとか。

C先生:もう一つシナリオがありそうだ。日本で、二酸化炭素の処理処分の研究をしている国が出資している機関にRITE(地球環境産業技術研究機構)というものがある。もちろん、通産省関係機関でNEDOを経由して膨大な研究費が出ている。
 日本経済新聞(6月13日朝刊科学技術面)によれば、RITEが海外の専門家(とはいってもRITEの事業に過去応募したような同業者)にアンケートをしたところ、2005年以前に、処理処分あるいは有効活用技術が実用化されるという意見が大勢を占めたと報道されていた。
 要するに、2010年より前に、二酸化炭素の処理処分を始める気なのではないだろうか。この方法について、A君少々説明してくれ。

A君:二酸化炭素という気体は、温度が多少低い状態であれば、高圧にすると簡単に液化します。液化炭酸と呼ばれます。固化したものがドライアイスであることは良く知られています。この液化炭酸を海底とか地中とかに注入することがこの方法の概要です。海底、地中では、水とクラストレートというものを作って比較的安定に存在するようです。
 しかし、問題点もあります。まず、二酸化炭素の分離には、相当のエネルギーが必要だということです。関西電力の実験によれば、回収・処分をすると必要エネルギーが3割り増しになるそうです。すなわち、限りある化石燃料を3割も速い速度で使うことになります。
 深海に沈めれば、問題は無いのかという本当の環境問題もあります。やってから「しまった、やらなければ良かった」といっても取り返しが付かないですから、まあやらない方が良いと思いますが。

C先生:地球温暖化そのものに不確実性があることも事実なのだ。

B君:そう言えば、最近アメリカで「温暖化は事実誤認」というキャンペーンが力を得ているという話が有りますね。確かに、COP3にゴア副大統領が出てきましたが、議会は削減条約の批准をしないと考えられますね。アメリカが参加しなかったら、やるだけ馬鹿みたいなものですね。

C先生:そのことを言いたかった訳ではない。環境政治学の問題は別にしても、地球温暖化には不確実性がある。例えば、温暖化の温度幅にしても、2100年で1〜3.5度と言われるが、1度であれば、それほど問題にならない。3.5度だと相当きついだろう。
 このような不確実性がある事象に対しても、なんらかの意志決定をしなければならない場合に採用すべき判断基準が、「ミニマムリグレット基準」というものだ。すなわち、「いくつかの選択肢の中で、実行した場合の後悔(不可逆性とも言える)がもっとも少ないケースを選ぶ」、というものだ。
 二酸化炭素の処理処分のように、30%もの余分なエネルギーを必要とする上に、環境影響もわからない技術は、温暖化がどのぐらい深刻なのかもう少々見えてくるまで、最後手段としてぎりぎりまでとっておくことが賢い選択だ。そして、当面、「ミニマムリグレット技術」であることが確実な省エネルギーに向かって努力&努力だ。
 幸いにして、温暖化を防止するための二酸化炭素削減のやり方は一通りではない。2010年頃に余り削減できない場合でも、2020年以降に急激に削減することで、2100年の温度上昇は同じにできるという。だから、長い目で省エネルギーを目指すことが重要。もっともこの結論自身にも、相当の科学的不確実性を含んでいるが。

A君:それにしても、日本の温暖化防止大綱がどうなるか見物ですね。

C先生:せめて良い知恵を出し合いたいものだ。