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         水道水はどこまで安全か

環境問題のうち、健康問題と呼ばれる問題に、市民の関心が集まっています。水道水安全性問題はその一例です。 どうも真相がWWW上で語られていないのではないか、と考え、これまでばらばらに掲載してきた文章をまとめてここに掲載します。恐ろしく長文です。悪しからず。
                             

目次:
水道水は塩素消毒は安全か−水道その1
水道問題のテレビ批判−水道その2
安全な水−水道その3
クリプトスポリジウム汚染とCDC見解 −水道その4
資料クリプトスポリジウムによる感染症Q&A、CDC版


水道水は、塩素消毒は安全か−水道その1

C先生:まず、水道水の安全性を例にして、どのような考え方があるかについて、述べてみようか。

B君:水道水が危険だという考え方の基本は塩素消毒にあるわけですよね。

A君:塩素が無いと感染症が蔓延してしまうという考え方は古いのですか。

C先生:まあ、一つのポイントがそこだ。水道用の原水に有機化合物が多く含まれている場合には、塩素消毒をすると塩素と有機化合物が反応して、有機塩素化合物を作ることがある。有機塩素化合物というものは、殺虫剤、殺菌剤、農薬などに使われており、最近話題のダイオキシンもその一種だ。人体が摂取すればプラスの作用をするようなものではない。昔の水道関係者は、原水の質が悪くなれば悪くなるほど、衛生上の観点からいっても、加える塩素は多いほど良いと考えられていたらしい。東京都の原水でも、金町浄水場関係のものは余り良いとは言えない状態であった。特に1980年代はそうであった。なぜそんなことをしたか、と言えば、水道水のリスクは主として細菌による感染症にあるという考え方が長らくとられていたからであう。現在でも開発途上国においてはそれが正しい見解で、すべての病気と死亡者の原因の半数以上は、汚染された水の使用が原因だという報告もある。日本の状況は全く違う。水道が原因となった日本における赤痢の発生は、1970年にはほとんどゼロになった。むしろ、塩素消毒によって水道水中にできてしまうトリハロメタンなどの有機塩素化合物の発ガ ンリスクの方が、感染症のリスクよりも高い状態になっていたのである。また地下水にも有機塩素化合物が混入するようになってきた。それは、工場などで部品の洗浄につかう溶剤、ドライクリーニングに使用する溶剤なども有機塩素化合物の一種だからである。さらに、ゴルフ場建設にともなう水道原水の農薬汚染も問題になった。
 現在の水道水は、こんな状況から見ればかなり良くなっている。金町浄水場には、オゾン殺菌・活性炭方式が導入され、投入する塩素の量にも注意を払って、水道水中の残留塩素濃度に上限が決められ、必要最小量を使うことになって来ているから。

A君:とはいっても、まだ、水道水を信用していない人もいますよね。ミネラルウォータ信仰の人が。

B君:先日、日本経済新聞(97年7月22日朝刊)を見ていたら、「21世紀の水を考える」というシンポジウムが行われ、そこで、残間里江子女史が「自分はここ10年ぐらい前から水道水を飲んでいない。疑っているというのが率直なところだ。」と発言してましたね。これを見てもまだ、そのような人がいることが分かりますね。

A君:僕も読みましたが、同じシンポジウムで瀬田東京都副知事が「東京の水は飲んでも絶対に安心であり、おいしい。ミネラルウォータの増加は、水道に対する信頼感が無くなったというよりも流行だと思う。」と述べているのが対照的で面白いですねえ。

C先生:そう。ミネラルウォータなら安全とは言えないところが実はつらいところなのだ。なぜならば、発ガン性物質といわれているひ素の基準が、水道水の場合にはかなり低いが、ミネラルウォータは食品の基準で管理されているために基準が甘い。だから、実際に自分で分析をしてみないと、含まれているひ素の量が分からないので、なんとも言えない。水道水の場合でも、ひ素基準値(10ug/l)の根拠となっている発ガンリスクは、6×10**−4と比較的高い値だ。すなわちその水を一生飲み続けたときにそれが原因でガンになる可能性が10万人に60人という値で管理されているが、この値は他の物質に比べると60倍ぐらい高い基準値なのだ。ひ素は自然に存在しており、管理しにくいということ意味する。山岳地帯で産出するミネラルウォータも、そこが石灰岩地帯であったら、ひ素含有量は多い可能性がある。もしもひ素量の多いミネラルウォータは避けるのが賢明ということになるが、分析するまでそれが分からない。

B君:発ガンリスクの値だけれど、高いような低いような。どちらか分からない。

A君:これもなんとも見方次第だと思う。中西準子先生も化学物質による発ガンリスク分配率として、水道2%、大気6%、その他2%、食品90%として議論をしている。要するに、水道由来の発ガンリスクはもともと比較的低いために、余りそこだけを厳しくしても意味がない。

B君:そう言えば、喫煙のリスクなどは異常に高いといわれているよね。

A君:どうもけた外れに高いようだ。同じく中西先生によれば、すべてのガンによる死亡の30%ぐらいが喫煙が原因、35%ぐらいが食品が原因。それに対して、環境汚染による原因は水道水や大気汚染などを含んで2%程度と桁が違う。環境汚染の話に喫煙による室内大気環境汚染を含めると、環境汚染の割合は非常に上がることになってしまうが。少なくともガンに関する限り、喫煙対策を行わないとすれば、他の環境対策はほとんど無意味になるぐらいだ、と述べている。

C先生:だから、残間女史のように、現在の水道水を飲まないという対策を取ったとしても、例え分析を完璧に行ったミネラルウォータを飲んだ場合でも、余り有効な健康対策であるとは言えない。これが実情なのだ。

A君:確かに、隣の人がたばこを吸ったら、水をどんなに選択しようが努力が無駄になりそうだ。となると、水源の各種の汚染を防止するのは水道だけではなくて、食品経由の汚染が減るから効果があるが、水だけを高度処理して安全にするのは余り有効ではないですね。

B君:エネルギーを相当量消費する高度処理せよと要求することは、反持続可能型行為だと言えるね。これを見ると。

A君:残間女史のようなオピニオンリーダが、もう少々このあたりを理解してくれないと。いわゆるマスコミ系文化人の枠を出れないという批判が当たりそうですね。


水道問題のテレビ批判−水道その2

A君:最近、夏になったせいか、水の話題が結構テレビにも出てますね。97年8月2日、日本テレビのウェークアップというワイド番組、「拡大する腐敗・水行政の怪」という番組のビデオを持ってきました。ちょっと見てみましょう。

C先生:なるほど。こんな放送を見せられていては、うどん汁をビニール袋に詰めて可燃ゴミに捨てるという人がいても不思議ではないな。特にいけないのは、問題の整理ができていないことだな。要するに「センセーショナル」が情報を示す際の方針になっていて、全く論理的な構成になっていない。

A君:まず、最初からしておかしい。亭主がまずい味噌汁を流しに捨てようとすると、女房の「環境破壊!!!!味噌汁1杯を捨てた川の水を魚が住めるぐらいに綺麗にするには、お風呂5杯分の水がいる。牛乳1杯だとお風呂10杯分。天ぷら油だとなんと330杯分の水がいる。」と叫ぶことから始まっている。

C先生:良く引用される有名な例え話だね。最初に言い出した人の意図は、それらを直接川に流すとどうなるかということを分かりやすく表現したかったのだろう。

A君:下水道が完備されているところの住民でも、自分のところもそうなのだと考えるように仕組んでいるのだろうね。

B君:確かに、その話が終わるとすぐ下水道の話に移ったね。下水道が来ているところで味噌汁一杯を捨てることがそんなにも環境破壊的行為だったら、自分の排泄物を流している水洗トイレなどはなんだと思っているのだろうか。

C先生:意図的にそうしているというよりも、このような番組を作っている人の環境に対する理解がその程度だということだ、と考えたい。

B君:先生、それは甘いのでは。直後に、大坂経済大学 稲場紀久雄教授が、「下水道は万能ではない。有害な微量汚染物質は下水道ではとれない。そういうものを下水道に入れられると合法的な巨大汚染源になってしまう。」という画面に続きますね。これを真面目に見ている人には、話の連続性から「味噌汁=そういうもの」に取れる訳ですよ。おそらく、稲場先生が言いたいのは、ある種の化学物質、例えば、といっても想像ですが、工業洗浄用の有機溶剤や農家に残っている農薬などを下水に流すとといった状況を意識しているような気がするのでね。だから、これは、番組をいかにセンセーショナルにするかというプロデューサの浅知恵によって、意図的に情報が歪曲されてます。

A君:そういう見方で番組を解析するのも面白い。次に、男のナレータに、「水道水なんて飲めないな。まずいだけじゃ無くて、発癌物質まで含まれているというじゃないか。」と言わせてますが。これは、「言外でのミネラルウォータ&浄水器の薦めというスポンサー対策」のようにも見えますね。

B君:A君もたまには厳しい見方をできるようになった。

C先生:次の塩素殺菌の話にも多少誤解があるようだけれど、まあ許容範囲内だ。そこで、クリプトスポリジウム原虫の話
に移って、埼玉県越生の感染の話、さらに、アメリカで400人死亡の話になる。たしかに、次から次へと危険性を指摘していく手法は、マスコミ特有のやり方だ。

A君:そして、お決まりのパターンだけれど、水行政がなっていないという話になる。厚生省、建設省、農水省、環境庁、通産省、国土庁の縦割り行政批判。

C先生:これもマスコミの最近の特性だとは思うが、実際問題、この縦割り行政は水だけではなくて、他の環境問題にも非常に有害だね。だからこの批判は正しいと思うが、このような文脈の中でこの批判をもってくるのは、現在のマスコミ共通の手法だね。

A君:最後に、男のナレータに「当分水道水はごめんだな。もっと美味い水が飲みたい」と言わせている。これもB君的見方から言えば、スポンサー対策かい。

B君:当然ですよ。飲料業界は、今やテレビ業界にとって重要なスポンサーですからね。

安全な水−水道その3

A君:でも、先生がこんな発言をすると、「御用学者!」なる非難が帰ってくるのではないですか。

C先生:こと「環境」に関しては、残念ながら、東京都からも政府からも「御用」が来ませんね。まあ、自治体、政府、業界、市民、マスコミ、文化人などすべてを「切る」からかもね。孤立系が元々好みなのかも知れない。

A君:確かに「環境報道無責任」なるマスコミ批判がこのところの主たる論調だし...それはそれとして、水の最も安全な飲み方は?

C先生:まあ、水道水を十分に沸騰させて、しかも、できるならばヤカンの蓋を開けて沸騰状態を数分続ける。これは、トリハロメタンなどの生成が高温ほど多いということへの対策だが、蒸気圧が高いから数分沸騰させれば空気中出てしまう。清潔なガラス容器に入れて冷ましてから冷蔵庫へ。そして、24時間以内に飲みきる。これは塩素も無くなっているので、雑菌の繁殖対策。

A君:そんな面倒なことをやっているのですか。エネルギー消費も多いし。

C先生:いや自分ではやってない。水道水をそのまま飲んでいる。あんまり気にしないことが最大の発ガン防止策なのだということもあってね。

2日後......(8月1日に追加)

A君:朝日新聞97年8月1日号に水の話が出てますね。原虫による水道汚染の話で、クリプトスポリジウムですが。

C先生:細菌による水道水のリスクは、このところ下がったと話したが、それ以外の病原性ウィルスや原生動物嚢子による危険性は高いとも言えるが実際のところ、まだまだ未知数に近いとも言える。しかし、危険性があることを前提として防御策を考え出さないといけない。日本でも例が見られるようになったし、米国などでは、大規模な汚染が有って、重大な被害が出たりしているからね。

B君:どうやって防御するのですかね。

C先生:嚢子は塩素消毒オゾン消毒などでは死なないとされているから、やるとしたら、膜による「ろ過」しかないだろう。しかし、サイズが5ミクロンぐらいだから、限外ろ過をするのだろう。となると相当のエネルギー消費を伴うことになるだろうね。

A君:となると防衛のためには、C先生ご推薦の煮沸法ですかね。

C先生:まあそうだろうね。個人で逆浸透膜法による浄水機を備えるという訳にも行かない。まあ、ミネラルウォータで全部まかなうよりも安全で確実かも知れないし、コスト的にもそんなに違わないかもしれないが。中空糸形式のものでも有効かも知れない。

B君:そこまでしてやるか。これは環境倫理、哲学の問題ですね。

C先生:そうなんだね。日本人はもはや人工環境の中に生きていて、自然の中で生きているという感覚を失いかけている。もともと、自然の中で生きるということは、例えば猛獣に食われる、毒蛇に襲われる、食糧が取れない、水中や土中の細菌に感染するといったいろいろなリスクがあって、そのリスクと戦えるだけの体力、免疫力、知力、自己防衛力を身に付ける必要があり、それを身に付けたものだけが生き残れるという社会だった訳だ。
 現代は明らかに違う。それでは、どこまで「自然の中で生きること」と違うことが正しくて、どこから先は「生物としての人間の領域を超すこと」なのか、これが問われる訳だ。しばらく前に問題になったが、臓器移植問題にしても、人間が自分の寿命を延ばすためということであれば、「何をやれる」のか、「何はやるべきではない」のか、ということに対する一つの回答を求められているということなのだろう。
 「人類の健全なる持続」ということと「個体の健康の持続」とはもともと違うが、この両者、以前はそれほど矛盾する事柄ではなかった。しかし、「地球の有限性」が明らかになった現代では、この両者はかなり矛盾するからね。どちらかがある程度犠牲になるというトレードオフの関係にある。環境問題に関心があるという人は多いが、この2種類の問題の両方に関心があって、どの程度のところで調整をとるべきなのかを真剣に考えている人はごく少ないのが現状だろうね。



クリプトスポリジウム汚染とCDC見解 −水道その4

A君:C先生、こんなものをインターネットから探し出しました。CDCのクリプトスポリジウムに関するQ&Aです。

C先生:なかなか適切なものを探し出したね。CDC(Centers for Disease Control and Prevention)というのは、感染症の「世界の番人」とでも言える存在で、米国政府直属の疾病管理予防センターなのだ。莫大な予算と強大な権限をもって、集団発生の動向を監視しているそうだ。(「現代の感染症」相川正道他著、岩波新書513) この分野では世界で最も信用できる機関だろう。 ざっと訳したので、読んで貰おうか。翻訳は多少いい加減だが。

下の資料を参照のこと。


A君:この文書を探すきっかけになったのは、相川先生の本でして、クリプト大規模感染が起きたミルウォーキーの死者数が、日本のテレビ報道などでは400名と言われていますよね。日本では幸いにして死者が出ていない。この差はなんなのだろう、とまず思いました。そして相川先生の本を読んだら、米国で死亡したのは「エイズ患者69名」と有りました。あれ? 一般人が400名死んだというニュアンスの放送だったのに。さて真相は? というわけで、インターネットを探し回りました。

C先生:またまたテレビの「センセーショナリズム」が馬脚を露わしたね。なんとこのQ&AでCDCはミルウォーキーの死者はエイズ患者などが中心だが、その数は不明としているのだね。実態は本当のところなんとも言えないというCDCの主張は、分かる気がする。

B君:米国でエイズのような免疫不全患者が多く、死者が出るからクリプトが問題になっているのは分かるけれど、日本で問題になるのはなぜなのでしょうね。

C先生:それは多くの人がクリプト症に感染するからさ。当たり前だ。日本人は最近超潔癖症候群とでも言える人が多く、抗菌剤などを使用して雑菌皆殺しをやっている。このような環境だと、細菌感染に対して抗体をもっている人が少ないので、なにかあると感染者が多く出る。まあO−157と同じく、先進国病の一つだと思えばよいのだろうね。

B君:細菌皆殺し法が駄目なことは、やっとそう主張する人が出てきましたね。

A君:CDC報告書ですが、全体として、なんだか、強烈な合理性を感じますね。特に、エイズ患者などの免疫不全の場合でも、すべてのそのような人が水の煮沸などの処理をすることは合理的とは言えないといった主張などに。日本の感情的なあるいはムード的な環境論との差はなんなのだろう。

B君:米国では、リスクからは「自分で自分を守る」、という根本原則があるような気がする。それに対して、日本では、すべてを政府や自治体に任せておいて、そして、それらを信用しない。というよりもできない状態がしばしば起きるし、また、政府・自治体も一般市民に十分な情報を開示しないから当然とも言えるが。
 たまたま、リスク的事態が何か発生すると、テレビやマスコミの論調は、それを一斉に政府自治体などのせいにする。「我々は100%の安全を求めている」といってね。マスコミを含めて、我々一般市民は政府などによって作られた「かなり安全な傘」の下に無邪気に存在していると思うけどね。そして、ミネラルウォータに逃げて「自分さえ良ければ」的態度を取る人もいる。 市民一人一人が自分で自分を守ることができるように、真実・事実を追いかけてそれを正しく伝達するということが本来のマスコミの役割だと思うが。

A君:まあ、実際のところ民主主義の歴史の差、あるいは、本物と偽物の差を感じますね。

C先生:この問題に関する基本的な考え方が、CDCのQ&Aの中に示されているね。それぞれの地域社会で、どのような質の水を供給すべきなのか、これを市民と行政とが一緒になって考え議論して結論を出すべきなのだ。そして、より高度な水を供給することに決まれば、それに応じて高い水道代を払い、あまり高度処理をしていない水を供給する場合には、安い水道代で済むが、自宅に浄水機を付けたり、ミネラルウォータを買ったり、あるいは煮沸消毒が必要になるから、そのコスト別途かかることになる。どのようなレベルの水を選択するのか、これを市民と行政が共に責任を分担して決めるのだ。
 このような考え方が、21世紀の健康問題について基本的な考え方になるだろうね。

資料クリプトスポリジウムによる感染症Q&A、CDC版
 Centers for Disease Control and Prevention

Q:クリプトスポリジウムとは何か。どのように伝染するか。
A:クリプトスポリジウム(以下クリプト)は小さな寄生虫で、感染している人間や若い動物の大便中にある。この嚢子(oocyst=オオシスト)が存在している水、食物、手、あるいは、他の物を摂取すると感染する。

Q:どんな症状が出るか。
A:免疫システムが正常な人の場合、感染すると下痢状態になる。1〜2週間継続し、しばしば腹痛、吐き気、若干の発熱を伴うこともある。嚢子を摂取してから、5〜9日で発症する。 免疫システムが極度に弱っている人の場合には、感染症は慢性的になり、また、重症になる可能性がある。下痢状態が長く続き、衰弱を伴い、ときには致命的になりうる。

Q:どのような人が危険性が高いのですか。
A:エイズ患者。ガン患者。臓器移植や骨髄移植を受け、そのために免疫システムを押さえる投薬が行われている人。生まれつき免疫システムが弱い人。

Q:どのぐらいの患者がいるのか。
A:米国では、通常下痢患者の便の1%からクリプトが見つかる。感染を経験したことにより15〜30%の成人がクリプトに対して抗体を持っている。エイズ患者の下痢のかなりの割合はクリプトによるもの。しかし、実数は把握していない。多分5〜10%のエイズ患者がクリプトによる下痢に感染する。

Q:飲料水に関して問題にされる理由は。
A:湖沼、河川などから採取された水は、いくらかクリプト嚢子を含んでいる。嚢子は、他のバクテリアを殺す塩素や他の消毒剤に耐性をもっている。嚢子は4〜6ミクロン程度であるために、通常の上水処理によって100%除くことができるとは保証しかねる。
 繰り返しテストすると、河川、湖沼の水を処理、ろ過して使っている半分以上の公共水道は、低レベルながらクリプトを含む。

Q:自宅の水道にクリプトがいることは分かるか。
A:水道水中のクリプトを調べるのは難しい。大量の水をろ過して、そのフィルターを特殊な顕微鏡で調べるためにテストが高価である。

Q:クリプトに感染したら治療法は?
A:多くの人は、何もしないでも、免疫ができて直る。免疫システムが弱っている場合には、ある種の薬は有効のように見えるが、全く安全で汎用の治療法はない。薬としては、パロモマイシンが現時点では有効のように思える。

Q:ミルウォーキーのクリプト症大発生で何人が死んだか。
A:分からない。クリプト症で重症になるのは免疫不全あるいは免疫抑制剤を投与されている人だ。このような人は、他の感染症で死ぬ可能性が高い。何人かのエイズ患者が衰弱と脱水症によって寿命を短くしたのは事実だろう。しかし、ミルウォーキーエリアで何人がクリプト感染症で死んだか分からない。クリプトが原因で死んだのか、クリプトに感染して他の原因で死んだのかの判断はできないからだ。

Q:CDCは水道水からのリスクがあることを知っていながら、なぜ、水を煮沸してから飲め、あるいは、ろ過してから飲め、ミネラルウォータを飲めと勧めないのか。エイズ患者への感染を防止するために、あらゆる可能な対策を講じるべきではないのか。
A:短い回答:CDCは、免疫不全あるいは免疫抑制中の人に対しても、そのような推奨を国レベルで行うつもりはない。なぜならば、蛇口からの水を飲むことによるクリプト感染のリスクは他の経路による感染よりも非常に低いからである。そして、飲料水からのリスクを下げるための対策(煮沸など)は、不便でありコストが掛かり個人の負担になるからである。
A:長い回答:まず、蛇口からの水道水を飲むことによりクリプトを摂取するリスクを明らかにする必要がある。データによれば、多くの場合において、このリスクは、感染者の便に触れて手から口という経路の感染や、プールで泳ぐことによる感染のリスクよりも低い。
 例えば、都会に在住し、ろ過されていない水源からの水を摂取するHIV保有者のクリプト感染の割合が、他のタイプの安全な水が供給されている地域に住むHIV保有者のクリプト感染よりも高いという証拠はない。
 第2に、良い水源からの水を摂取している人々によって、水道水からのクリプト感染のリスクは極端に低いだろう。従って、国レベルでこのような差を無視して、なんらかの処置を推薦することは適当ではない。
 第3に、クリプト感染のリスクを全体的に減少させようとすると、それには、ライフスタイルの大幅な変更が要求される。単に飲料水を変えるだけではなく、他のすべてのことにおいて。煮沸した水、ろ過した水、あるいは、ミネラルウォータだけを飲むことは、単に不便なだけでなく、高価でもある。
 情報:最近のクリプト症発生において、このような対策(煮沸など)を飲料水に対しておこなった人のリスクは、処置を全くしなかった人と大差がなかった。 結局、国全体に対して、そのような推奨をすることは、個人に対して負荷が大きいだけでなく、高価でもある。多くの場合、そのような推奨は不必要であり、飲料水だけを注意することは、他の重要な感染経路を無視することにつながることになって、かえって有害である。

Q:CDCが国全体に対してそのような推奨をしないとするならば、免疫制御をしている人に対するメッセージはどのようなものなのか。
A:免疫システムが極端に弱くなっている人は、クリプト感染が重症な下痢を起こす可能性があることを十分理解し、患者や動物の便にふれて手から口という経路、あるいは、汚染されたプールの水を飲むこと、蛇口からの汚染された水を飲むこと、汚染された食物をとることによって感染する可能性があることに注意を払うこと。
 水道水からのリスクは、都市によって全く違う。水を煮沸などの処理をすることは、高価で不便なことだから、CDCは、まず、免疫不全な患者は、保健関係者と相談することをお勧めしたい。

Q:ある州や地方の公衆衛生局などは、免疫不全な人々に対して、煮沸した、ろ過したあるいはミネラルウォータを摂取するように勧めている。これに対して、CDCの見解は?
A:国全体としてのデータを持っていない。ある地方の衛生局はその地方のリスクを評価して推奨をしているのだろう。そのような推奨をしない地方では、可能性は非常に低いものと理解している。

Q:そのような対策(煮沸など)をとるべきか、否かをどのように判断すればよいか。
A:これといった判断基準はない。もしもエイズ患者であるのなら、あるいは、ガン患者とか臓器・骨髄移植を受けて免疫抑制剤を服用しているのなら、あるいは、生まれつき免疫システムが弱いならば、クリプト症が致命的になる可能性がある。CDCは、そのような場合には、免疫抑制の程度をどのようにするか、また、どのようにして感染のリスクを減少させるかについて、医者と相談すべきだと考える。
 公衆衛生局の専門家が、あなたの住む地方の水の質について情報をくれるだろう。もっとも、クリプトに関しては、危険性の評価は大変に難しいことだ。多くの都市では、クリプトの評価が余りにも高価であると同時に、解釈が困難であるために試験をしていない。クリプトが存在しているといっても、すぐリスクがあるという結論にはならない。また、クリプトが検出されないからといって、リスクがゼロとは限らない。もしも水源が湖沼や河川からのもので、ろ過されていない場合、下水道からの排水を含むような水源になっている場合、畜産廃棄物が流入しているような水源である場合、これらの場合には、クリプトで汚染されている可能性が高い。

Q:これまで述べられたような対策(煮沸など)以外になにか感染を防ぐ方法はあるか。
A:次のようなことを考えて欲しい。
・湖沼や河川の水をそのまま飲まない。
・湖沼や市のプールで泳がない。
・おむつをしている子どもたちとの接触を避ける。
・便に触れる可能性のあるような性的行為を行わない。
・すべての動物の便に触れない。特に子牛などのような幼い動物。
・動物や土に触れた後、おむつを替えた後には手を完全に洗う。

Q:米国の水は安全か。
A:世界で最良のものの一つだ。もっと安全にすることはできるが、それには金が掛かる。それぞれの地域社会で、どこまで水の質を改良するか議論し決めるべきである。

Q:なぜわれわれはクリプトを余り良く知らないのか。
A:クリプト感染は20年前に初めて分かった。他の感染症と同様、われわれには、感染のリスクとその病気そのものの理解に対する研究と診断のためのツールが不足している。

Q:飲料水中のクリプトは新しい問題なのか。
A:クリプトは我々の飲料水中に何年も何年も存在していただろう。最近、免疫を抑制している人々が増えたために、この問題に気がついた可能性が高い。このような人は、すべての感染症に対して重症になりやすいから。これに加え、クリプトを検出する方法が開発されてきた。一方、水の中の嚢子の数は増加している地方があるが、それは、人間用の下水道システム、畜産廃棄物からの処理水が水源を汚染し始めていることに原因がある。

Q:CDCは飲料水中のクリプトに対して何をしているのか。
A:CDCは次の3点に関わっている。
・この危険性について米国公衆衛生局と協調している。
・飲料水からのリスクを定量化しようとしている。
・水源に含まれる嚢子のよりよい検出法開発と人間への感染の検出法開発。

以上

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