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少々専門家向けのページ

これまで、市民向けということでホームページを作ってきましたが、やや専門的であっても、掲載の価値が有りそうな文章を書いたとき(書かざるを得なくなったとき)には、ここに掲載させていただくことにしました。

文献請求などがございましたら、ご連絡下さい。






目次:
(1)地球環境問題からエレクトロニクス材料の回収・リサイクルの必要性を考える  new11.29 
    (社)溶接学会マイクロ接合研究委員会シンポジウム 平成9年11月14日

(2)環境の地球へのインパクトをどのように定量化するか new11.29
    (社)環境科学会1997年会北九州市 平成9年10月16日






地球環境問題からエレクトロニクス材料の回収・リサイクルの必要性を考える

(社)溶接学会マイクロ接合研究委員会主催のシンポジウム用  平成9年11月14日


1.はじめに
 1997年は、京都における第3回温暖化条約締結国会議(COP3)という環境問題にとっての大きなイベントのある年となった。COP3それ自体は、環境問題の解決と言うよりは、むしろ、地球の二酸化炭素処理能力をどのようにして国の間で分配するか、といった政治的な決着の場であるが、別途、極めて重要な意味を有する会議である。その最大のものが、世代間調停という概念があることを広く知らしめることである。すなわち、現代人にとってなんら害のない二酸化炭素の放出も、環境変化によって未来世代にとってはかなりの影響を被る可能性が否定できない。そのため、将来世代を考えたときに、現代人も多少の犠牲は甘受すべきであるという議論が世代間調停である。
 エレクトロニクス材料のリサイクル問題も、単に、現代人の健康を害する可能性があるというだけではなくて、最終的には同様の考えか方を持ち込まなければならない。

2.環境問題とは何を解決するものなのか。
 環境問題は、歴史的には公害問題から始まっている。公害問題の場合、基本的な意識は、どのようにすれば住民の健康を維持できるかということであった。一般に、環境問題では、ある対象物を保全するということが目的意識となっている。目的対象物としては、さまざまなレベルのものがあるが、地球そのものは対象にされず、もっと脆弱なものが選択される。
(1)地球全体の生態系
(2)広域の生態系
(3)地域の生態系
(4)ある生物種
(5)ある個体
(6)その他(景観など)。
 平成5年から9年度までの5年間プロジェクトとして文部省科学研究費重点領域研究の中で行ってきた「人間地球系」の研究では、「人類の長期間(500年程度)の健全な持続」を目的として、そのための社会体制などを検討するものであった[1]。この研究の目的を上記基準で分類すれば、「ある生物種」としての「ヒト」、地域を日本列島とする特殊問題であった。このような問題意識ではあっても、他の目的対象物の保全を無視することはできない。「ヒト」の健全な持続にとって、環境全体の維持がある程度必要であるからに他ならない。
 以下の議論も、「人類の健全な持続」を目的意識としたものである。生態系保護などを第一義的な目的とした場合には、議論が相当違ったものになる可能性は否定しない。

3.環境問題を解決する際に考えに入れるべき調整・調停
  「人間地球系」の研究グループにおいては、解決を目指すこと、すなわち、「持続可能な社会」をいかにして実現するかを目的に置いた。それには、いくつかの可能と考えられる解決法を評価しなくてはならない。そもそも環境問題は、公害問題から派生したことからも分かるように、調停を解決法の基礎としている。しかもその解決法には100%完璧というものは存在せず、いくつかの対立する概念を適切に調整しながら解決策を探る必要がある。どのようなものを考慮すべきかというと次のようになる。(1)世代間調停 (2)生態系保存のための調整 (3)国家間調整 (4)国内調整(費用負担、地域間調整、業種間調整など) (5)当該解決法を採用しない場合におきる健康影響、環境影響 (6)当該解決法を実施した場合に起きる2次的な健康影響、環境影響。 以上の6種類について、すべてを考慮した形で、評価を行う必要がある。
 「人間地球系」では、しかしながら、これらの調停・調整のすべてを考えることは、余りにも問題を複雑にするとして、現時点の環境問題の解決では軽視されがちである(1)の世代間調停をどちらかと言えば重視する方針で研究チームを構成してきた。すなわち、国家間の調整問題はしばしば南北問題と呼ばれるが、これを余り考慮に入れず、生態系保存も「人類の健全なる持続」に関わる事項として取り上げる方向であった。
 ここから先は、個人的な考え方になるが、このような単純化作業によって、解決法あるいは、それに限ることなく、すべての人間活動について、以下の3項目に集約した考え方を採用することとした。
(1)将来世代が使用可能な地球資源の減少
(2)生態系への影響とその跳ね返りとしての人体影響
(3)社会的コストの負担

4.21世紀に直面するであろう危機の種類
 以上のような環境科学の枠組みを、個々の問題に適用して、何がもっとも危機的な状況にあるのかを予測し、これを元にして環境負荷の定量化ならびに対策の優先順位を付けるという作業が必要となる。そのため、「人間地球系」の研究では、次ぎのような21世紀環境危機予測を行ってみた。
21世紀環境危機予測:

2005年 地球温暖化の一つの原因とされている二酸化炭素の放出規制は、結局国際的な取り決めが無効のままとなる。
2005年 日本国内において、廃棄物の最終処分地不足が顕在化。
2005年 ごみ焼却制限された。完全分別した単品の焼却のみ許可。
2010年 世界的な食糧供給危機が到来。温暖化のためではなく、むしろ、米国、中国、ロシア、オーストラリアが同時に低温になったため。異常気象かもしれない。
2010年 紫外線は確実に強くなっている。皮膚ガンなどの影響が白人種を中心に見えている。
2010年 ダイオキシンなどの化学物質によるものと見られる遺伝子異常が多発。
2020年 原油価格が急騰する。エネルギー危機再来。しかし、第一次石油ショックほどではないが、着実にエネルギーの価格が上昇。
2020年 海外出張が大幅に制限された。一つは、エネルギー価格が上昇したため。もう一つは、日本産業界の活力が大幅に低下したため。
2020年 企業の生産活動中止に伴う、昔の公害型環境問題が増加。倒産した企業からの残留物質の処理ができないため。
2020年 米国、月面基地の建設を開始。太陽発電衛星を打ち上げて、将来のエネルギーを確保する戦略。
2025年 エネルギー源を石炭に依存し始めたために、酸性化が進む。同時に、バナジウム、マンガンなどの排出量が増加している。
2030年 先端電子機器による土壌汚染が問題に。ガリウム砒素やその製造装置からでる廃棄物などの不適切な処置が問題。
2030年 リンの価格が高騰した。化学肥料としてのリン酸肥料は実質上製造中止に。
2030年 やっとのことで鉛が完全回収以外は使用禁止に。鉛に付随して産出する金属が不足。水銀もやっと完全回収義務化。
2040年 人口の増加はやはり止まらない。
2050年 原油の生産量は、最盛期であった2030年の半分に減った。その減少量は、やはり原子力に依存せざるを得ない。
2050年 太陽発電衛星がいよいよ軌道を周回し始めた。宇宙居住人口が4000人になった。しかし、宇宙線の影響が心配。
2050年 地球温暖化が目に見えるようになってきた。海水面も50cm程度上昇したようだ。モルジブなどの島国では被害が出ている。
2050年 世界人口が100億人になりそうだ。

 さて、このようなシナリオを元にして、環境危機の総合的な評価を行うと、概ね次のようになる。

環境危機の総合的評価

エネルギー供給危機    100年から500年スケールの問題
金属資源供給危機     金属種に大きく依存。リンは危機的になる可能性あり。
二酸化炭素限界      100年スケール
廃棄物限界        25年スケール
環境汚染限界
 −ダイオキシンなど   20年スケール
 −重金属(水、土)   20年スケール
 −大気         このまま推移する

5.個別問題としてのエレクトロニクス材料の環境問題
 以上の準備を元にして、エレクトロニクス材料の環境影響を評価してみたい。まず、重金属などの環境汚染源として重要なものは、どのようなものが有るだろうか。
(1)毒性元素としての考察
 まず、ハンダなどを始めとするエレクトロニクス材料に使われている鉛を上げることができる。量的には、鉛畜電池が最も多いことは事実であるが、蓄電池は、リサイクルへの取り組みが比較的やり易いので除外する。となると、鉛で使用量がもっとも多いのは、ハンダと鉛ガラスであろう。鉛ガラスは、CRT用に大量に使用されている。どのぐらいの量の鉛があるかと言えば、15インチ程度のモニターテレビ1台には、元素換算でPbが800グラム程度含まれている。
 それ以外には、ヒ素がある。ガリウムヒ素が半導体の主力になるようなシナリオは当面実現性がないが、携帯電話などのICに使用されているガリウムヒ素の量は急増していることも事実である。ガリウムヒ素の状態であれば、特に問題となるような毒性もないが、一度間違って焼却炉に入れてしまうと、亜ヒ酸になって毒性が一気に跳ね上がる。どのぐらいの確率で使用されなくなった携帯電話が焼却炉に入るのか、余り定かではないが、少なくとも横浜市のような全量焼却を基本原則とする自治体では、相当高いように思える。しかし、量としてはかなり少ない。
 さらに、水銀もまだまだ無視はできない。蛍光燈には、少ないとは言え、1本あたり数10mgの水銀が含まれている。これを一般廃棄物として処理すれば、当然ながら最終処分場には水銀が廃棄されることになる。
 アンチモンといった金属も、難燃化剤として使用されるために、エレクトロニクスに使用されるプラスチック材料には比較的共通して見つかる元素である。アンチモンそのものは、毒性元素というよりは、要監視元素といった方が適切かもしれないが、人体への影響が全く無視できるものでもない。
 以上述べてきたように、毒性元素としての問題がある元素があって、現在のような処理方法をとっていたとしても、当面現代人にすぐにでも健康被害がでるような問題ではない。しかしながら、将来世代のことを考えれば、毒性元素をあらゆる場所に埋め立てることは、余り賢い方法であるとは言えない。そこで、なるべく完全循環型の使用法を心がける必要があると思われる。

(2)資源としての考察
 金属資源で、枯渇の可能性があるものとしては、金、銀、スズ、鉛などが挙げられる。金・銀は、高価な金属であるために、すでに相当の努力で探鉱がされている。金の場合、地球上に存在する金の総量のうち、すでに1/3程度は使用してしまったのではないかとの推定もされている。スズ、鉛などは、40年程度の確認埋蔵量があるが、実際にはそれ以上の埋蔵量があると考える専門家も多い。しかし、天然鉱物として硫化物の形で発見されるものは、酸化物の形で存在する金属よりも資源が局所的であり、脆弱である場合が多い。銅もこの分類に入る。
 鉄などの元素は、天然には酸化物として存在しているが、現在鉄鉱石として使用されているものの純度は極めて高く、若干品位を下げることによって、利用できる鉱石の量は増大するものと考えられている。
 アルミ、シリコンなどの岩石構成元素は、ほぼ無限にあると考えて良い。

(3)廃棄物としての考察
 一般にリサイクルを行うことが可能、別の表現をすれば、資源的な価値がある廃棄物の条件としては、(1)単純であること (2)大量に入手可能なこと といった条件が必要である。ところがエレクトロニクス材料の場合には、多くの場合にプリント基板上に配置された部品をリサイクルしようと考えてみればすぐに分るが、非常に組成的に複雑な複合材料(ガラス−エポキシ−銅−ハンダ−フィラーなどなど)という状態になっており、リサイクル対象としてはかなり不利なものである。したがって、現状では、金の回収などを目的とする場合を除くと、経済的な価値は高くない。
 廃棄物としてみたときに、どのような特性があるかと言えば、やはり毒性の元素の流出、焼却するとそれこそ何が出ても不思議ではないという特性、などがある。
 廃棄する際には、少なくとも部品を落として、また、ハンダは回収して、ガラス−エポキシ板は焼却に回すことぐらいしか対応できないように思える。回収された部品にしても、再度使用できるとも思えないので、それこそものによっては金を回収し、それ以外のものは、埋め立て処分にすることが適当だろう。
 一方、ケース、外側などに使用されているプラスチックは、大量に収集できれば、それなりの有効利用法があるだろう。しかし、そのためには、同じような用途には、同一組成のプラスチックを使用すると言った、業界内での申し合わせができないことには、一品一品組成を確認する必要があって、とても実行できるとは思えない。少なくとも、部品を取り外して見れば、どのようなプラスチックからできているか、一目瞭然といった材質表示を始めることが第一歩である。

6.廃エレクトロニクス製品は何が本当に問題なのか
 ここまで指摘したように、廃エレクトロニクス製品の環境負荷が問題になるのは、毒性元素の使用、埋め立て処分を必要とする廃棄物の生成などである。それならば、他の製品とそれほど違いがないと思うかもしれない。
 電気製品と同様の多種類のものからなる自動車の場合には、リサイクル率を高くすることが可能だとされている。それは、当然のことながら、鉄、アルミといった金属からできている部分が多いことから当然である。また、電気製品に比べれば、部品一つ一つが大型であることも、重要な要因である。それでも95%以上のリサイクル率を達成することは、恐らく困難であろう。それは、自動車とは言え、プリント配線板などのリサイクル困難物が多いからである。
 もう一つ電気製品について問題にされるのは、商品寿命の短いことである。その典型的商品が、一にパソコン、二に携帯電話である。このような未だに発展途上の製品である以上仕方がないという主張も有り得るが、5年間利用できるとはとてもとても思えない商品が多い。パソコンの場合には、MS−DOSからWindowsへというOSとソフトの変化によって、使用できないパソコンが一気に増えてしまった。技術的な進歩が行われること自体は歓迎すべきことではあるのだが、大量の製品を廃棄しないと新たな技術を入手できない構造になっていること、それ自体が問題である。
 それではどうすれば良いか。パソコンの場合には、モジュール化を進めるしかないだろう。要するに、もっとも進化の早いCPUと周辺チップセットを一まとめにして交換ができるシステムとすることである。すでにモジュール化がされているグラフィック周り、メモリー周り、ハードディスクと同様に、CPU周りをモジュール化することが可能だと考えられる。実際、インテルの提案によるそのようなマザーボードの形式もあると聞く。そのような体制にしておけば、ユーザから引き取って、メーカーがCPUモジュールを交換するという作業を行うことによって、少なくとも、テレビの寿命である10年程度の商品寿命を確保することができるものと思われる。
 携帯電話については、まだまだ発展途上であるが、そろそろ軽量化競争も限界に近くなってきたから、商品寿命もそれほど短くはならないのかも知れない。

7.回収を前提とした製造業の勧め
 現時点においても、コピー機のような業務用の機器では、かなりの部品がリユースされているものと思われる。家庭用機器でも、パソコンように比較的高価で短寿命なものでは、部品のライフはまだまだあるにも係わらず、廃棄の運命となるものも多いだろう。そこで、自社製品は原則として自社で引き取る形式とし、回収率を確保するためにやや高額のデポジット制を採用すること、これがまず第1段階である。そして、回収された製品から使用可能な部品を再生し、次ぎの商品に生かせるものは生かす。これによって、材料を廃棄することによって、経済的な価値を売るのではなく、部品を再生することによって得られる経済的価値を売る方向に変化をさせることができるようになる。
 材料を廃棄することが前提となっている製造業は、地球環境から見ても持続可能型であるとは言えない。さらに、そのような製造業は、製造拠点を人件費の安いところに移すということを未来永劫続けざるを得ないだろう。それよりも、日本における産業活力を維持し、日本における雇用を確保するためにも、高品位超寿命の部品からなる製品を提供し、材料をなるべく廃棄しないで、再生再利用によって付加価値を与えるようなタイプの製造業を早期に実現すべきであろう。

8.まとめ
 日本における環境問題で、もっとも危機的な状況は、焼却炉などから出るダイオキシンやその他の不明物質による人体影響であるかもしれない。しかし、その次に来るものとして、廃棄処分場不足という事態が待っている。日本全体では、北海道のようにまだまだ余裕のある場所があるが、都道府県内部での処理が原則となると、いくつかの地域では危機的状況になるだろう。
 しかし、もっとも重要なことは、持続可能性というキーワードをどのようにして実現するかである。さらに、日本国内における雇用をどのように確保するか、である。ここ数年来製造業が行ってきた製造の合理化は、製造拠点の海外移転などといったグローバリゼーションを原則としたものであった。しかし、21世紀の地球環境問題、特に、人口の制御、貧困の克服などを考えると、ある地域内で産業を完結させることの重要性が見えてくる。そのためには、リサイクルから再生といった工程によって付加価値を与えるような製造業の存在が必須であるように思える。
 環境全般に関するご質問は、http://plaza13.mbn.or.jp/~yasui_it/で常時受け付けております。

参考文献
 未だに未完の部分が多い領域なので、引用文献などはまだ無い状態です。
そこで、参考文献をいくつか挙げます。

[1]報告書
   平成5年、平成6年、平成7年、平成8年成果報告概要、(計画概容、研究者名簿もあります)
      重点領域研究「人間地球系」総括班、代表者安井 至
[2]環境総説
   (1)安井 至、「環境調和型産業の実現に向けて」、環境管理、Vol.33, No.1,14-21 (1997)
   (2)安井 至、「環境科学の今後の課題」、資源と素材、Vol.113,No.2,p83-87 (1997)
[3]LCAについて
    “LCAのすべて”、エコマテリアル研究会、日刊工業新聞社(1994)、
    ISO14000、長銀総研、日刊工業新聞社(1995)など
[4]リサイクル
   (1)安井 至、「循環社会とリサイクル−プラスチック系材料を中心に」、
      化学工学、60巻、5号、285―288、(1996)
   (2)リサイクルのすすめ、安井至編、丸善(1995)
[5]環境雑学
・二酸化炭素問題ウソとホント、小島紀徳著、アグネ承風社、(1994)
・地球の破産、小西誠一著、ブルーバックス、(1994)
・環境倫理学のすすめ、加藤尚武著、丸善ライブラリー(1991)
・環境倫理、中村友太郎他著、北樹出版(1996)
・現代環境論、高月紘他著、有斐閣ブックス(1996)
・地球環境と人間、アン・ナダカブカレン著、岡本悦司訳、三一書房(1990)
・人間と地球環境、長谷川三雄著、産業図書(1996)
・地球の危機的状況、エリック・チヴィアン他著、海老瀬潜一他訳、森北出版(1996)
・知識人の生態、西部暹著、PHP新書(1996)



環境の地球へのインパクトをどのように定量化するか

平成9年10月16日 (社)環境科学会北九州年会で発表

S5−01   「人間地球系」における環境インパクト評価
       Evaluation of Environmental Impacts in the Man-Earth Research Project
          

1.はじめに
 ライフサイクルアセスメント(LCA)を実際問題に適用しようとすると、最終的には、どのように解釈するか、どのように評価をするかといった問題に直面せざるを得ない。しかし、これまでのところ、この解釈ならばあるいは、この評価法ならば絶対であるという方法論は存在しないものと考えられている。その主な理由は、評価の基礎となる環境に対する見方、やや大袈裟に言えば環境哲学が異なるからだと結論するしかない状態である。
 さて、重点領域研究、「人間地球系」も平成9年度が最終年度であることもあって、さまざまな解決策の評価を行わなければならない状況に至っている。そこで、この問題をどのように考えているか、その概要に付いて述べてみたい。

2.何を最終的目的とするか
 環境影響評価においてもそうであるが、何を最終的な目的として考えるかによって、評価基準が異なる。「人間地球系」の研究においては、「人類の健全なる持続」を最終目的として採用してきた。本来、環境科学とは、ある目的対象物の健全性の維持が目的で行う学問であって、対象物としては、つぎのようなものが考えられる。(1)地球そのもの (2)広域の生態系全体 (3)ある地域内の生態系 (4)ある生物種。「人間地球系」が対象としているものは、第4のカテゴリに属する特殊なものであるとの理解も有り得るが、だからといって不必要なことあるいは些細な問題と見ることはできない。
 なぜ、「人間地球系」がこのような立場をとってきたのか、それは、このように最も単純化した目的意識だけでも、21世紀における「人類の健全なる持続」はなかなか困難であると予想されることが最大の理由である。ここで求められる結論は、人類にとってもっとも有利なものであり、他の目的対象物の健全性をも同時に満足させるとしたら、それは、人類にとってより厳しい境界条件を付加することになる。要するに、最も容易なシナリオでもこの程度ということを明らかにすることに意味があると考えたからである。

3.評価を行う際に必要な「調整」「調停」の概念
 「人間地球系」の研究グループにおいては、解決を目指すこと、すなわち、「持続可能な社会」をいかにして実現するかを目的に置いた。それには、いくつかの可能と考えられる解決法を評価しなくてはならない。そもそも環境問題は、公害問題から派生したことからも分かるように、調停を解決法の基礎としている。しかもその解決法には100%完璧というものは存在せず、いくつかの対立する概念を適切に調整しながら解決策を探る必要がある。どのようなものを考慮すべきかというと次のようになる。(1)世代間調停 (2)生態系保存のための調整 (3)国家間調整 (4)国内調整(費用負担、地域間調整、業種間調整など) (5)当該解決法を採用しない場合におきる健康影響、環境影響 (6)当該解決法を実施した場合に起きる2次的な健康影響、環境影響。 以上の6種類について、すべてを考慮した形で、評価を行う必要がある。
 「人間地球系」では、しかしながら、これらの調停・調整のすべてを考えることは、余りにも問題を複雑にするとして、現時点の環境問題の解決では軽視されがちである(1)の世代間調停をどちらかと言えば重視する方針で研究チームを構成してきた。すなわち、国家間の調整問題はしばしば南北問題と呼ばれるが、これを余り考慮に入れず、生態系保存も「人類の健全なる持続」に関わる事項として取り上げる方向であった。
 ここから先は、個人的な考え方になるが、このような単純化作業によって、解決法あるいは、それに限ることなく、すべての人間活動について、以下の3項目に集約した考え方を採用することとした。
(1)将来世代が使用可能な地球資源の減少
(2)生態系への影響とその跳ね返りとしての人体影響
(3)社会的コストの負担

4.定量化のための手法
 これまで、インパクト分析においては、さまざまな立場から、環境放出などのインパクト係数が出されている。有名なものでは、スウェーデンのELU、スイスのエコポイントなどがある。このような数値を出すには、まず基準の議論をしなくてはならない。例えば、エコポイントでは、自国の環境容量のようなものを基準に用いている。「人間地球系」においては「人類の健全な持続」を評価基準として使うために、「21世紀危機予測」を作成し、どのような要素が何年先に危機的状況になるかを基準とし、ある人間活動が危機到来の時期をどの程度早めているかを目安にできないだろうかと考えることとした。
 このような考えに基づいて、「人間地球系」に参加した研究者のご協力を得て、大枠の危機到来の時期を考えてきた。
 さらに、地球が自律的に持っている環境容量を考え、地球の再生能力以内の負荷は、「持続可能の範囲内」であると考えることとした。地球資源の減少については、したがって、再生可能資源と枯渇性資源とを区別し、さらに、生態系への影響としての環境放出も、ある閾値以下は無負荷と考える方法を提案した。
 現時点では、まだ係数などを算出する作業は完了していない。この枠組みに基づいて、いくつかの例題を対象として細部の議論とその定量化を行っている段階である。

5.おわりに
 日本におけるLCAの検討もかなり進んできた。しかし、相変わらずインベントリーの基礎的なデータすら公表されていない状況である。このような状況下でインパクトを議論することは、あるいは意味が無いことなのかもしれないが、各企業にインパクト分析的な評価活動を行わせることが、実は、その企業の環境哲学・環境倫理体系の構築につながって、社会的な意義は大きいものと考えている。「人間地球系」は平成9年度で終了するが、それ以後も主として産業界の協力を得ながら、インパクト分析手法の枠組み構築に取り組みたい。



以下使用したOHPの内容



「人間地球系」における
環境インパクト評価
東京大学
国際・産学共同研究センター
安井 至


何を最終目標にするか
○ 人間地球系の目標
 =「人類の健全なる持続」
   主として日本列島、500年間程度

○ 人類にもっとも有利なシナリオを設定


環境問題の意識
○ 目的対象物の健全性の維持
○ 対象物とは?
1.地球全体の生態系
2.広域生態系
3.ある地域内生態系
4.ある生物種
5.生物個体
6.その他


解決法ー「調整」「調停」
○ 地球環境問題時代の特徴
ー目的対象物のみを目的とはできない

○ 上位、下位概念ともある妥協を行う必要性


目的対象物と調整
○ 「人間地球系」は、4.生物種としてのヒトの健全なる持続(特殊問題)
○ 対象を超えた調整として、生態系(広義)との調整を要する
○ 目的対象物内の調整として、
(1)世代間、(2)国家間、(3)セクター間


要調整リスト
○ 生態系保護のための調整
○ 健康影響(5.個体への影響)
○ 世代間調停
○ 国家間調整
○ 国内セクター間調整
○ 解決法不採用による影響
○ 解決法採用による2次的影響


「人間地球系」における
調整の単純化
○ 世代間調整、資源問題、温暖化問題
○ 生態系への影響
○ その跳ね返りによる人体影響
○ 社会的コスト負担

○ 国家間調整は不採用


定量化のための手法
○ 危機予測による全体の把握
○ 時間的スケールによる危機到来時期
○ 総合的判断による優先順位設定
○ 個々の行為の時間による評価
○ 時間軸(Year)による総合化

○ 社会コスト(Yen)による評価


危機予測第2版:その1
○ 2005年 二酸化炭素規制、実質無効のまま。 先進国の怠慢と途上国の我侭。
○ 2005年 最終処分地の不足顕在化
○ 2010年 異常な低温化による穀物不作
○ 2010年 紫外線強度が急増
○ 2010年 ダイオキシンによる不妊化顕在


危機予測第2版:その2
○ 2020年 原油価格着実に上昇開始
○ 2020年 企業活動低下による公害問題
○ 2020年 月面基地の建築準備開始
○ 2030年 石炭・地熱発電依存による酸性化および重金属汚染深刻
○ 2030年 先端電子機器汚染、ガリ砒素
○ 2030年 リンの価格が高騰


危機予測第3版:その3
○ 2030年 ごみ焼却がやっと大幅制限
○ 2030年 鉛がやっと完全回収義務化
○ 2040年 人口増加がやはり止まらない
○ 2050年 原油生産量、半減。原子力依存
○ 2050年 太陽発電衛星による宇宙居住
○ 2050年 海面上昇明らかに
○ 2050年 世界人口100億に


総合的評価
○ エネルギー限界  100年から500年
○ 資源限界 リン50年
○ 二酸化炭素限界  100年
○ 廃棄物限界    25年
○ 環境汚染限界
ダイオキシンなど 20年
重金属(水、土) 20年
大気 このまま推移




枯渇性と再生可能性
○ 鉱物資源、化石燃料などは
  「使用量=枯渇負荷」
○ 森林資源、紙資源などは、
  「使用量<再生量なら問題なし」
○ 重金属汚染などは「枯渇型」
○ 酸性化などは「再生可能型?」


人間活動の評価法
○ LCAインベントリー分析をラフに行う
○ 枯渇性項目(単位Year)
  年間平均使用量から地球負荷算出
再生可能項目(単位Year)
  年間平均使用量、再生能力、地域性などから地球負荷算出
 「本来は、地域の再生能力を超さないように、法的規制が必要」


結論
○ 環境インパクト評価には
まず、その枠組みに関する合意が必要
それには、正確な未来予測が必要
LCAインベントリー分析は必須
枯渇性・再生可能概念による評価法
環境規制も再生可能概念によるものへ
社会コストの評価項目への追加を是非