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プリウスでスキー:環境負荷考察 03.09.99






研究室の学年末恒例行事、スキー場における研究室解体旅行に行きました。2月28日〜3月1日の1泊2日でした。当然ながら、プリウスで行きましたが、いつものことながら、色々と考えさせられるデータを提供してくれる車です。ついでに、スキー場の環境負荷、特にゴンドラや往復交通などの考察を加えてあります。


C先生:OB連中も数名来てくれたが、AB両君は今回参加できなかった。一方的に報告をするから、疑問が有ったら言ってくれ。
 まず、用意したもの。(1)トヨタ純正合金鋼製ワンタッチチェーン。(2)トヨタ純正スキーキャリアー。両方で3.5万円。(2)は安全のために純正品を選択した。(1)はどうでもよかったのだが、なにせプリウスはタイヤサイズが特殊なものでね。今回は面倒だったので純正品にしてしまった。

A君:本当にワンタッチで付くのですか。

C先生:幸運にも道路上に雪が無かったもので、使わないですんだ。テスト装着をしたが、まあ簡単。内側はプラスチックで補強してあるしっかりとした棒状になっていて、これを車輪の向こう側を回して接続。鎖には二ヶ所に切れ目が入った構造で、まあ、50タッチで装着可能かも。

B君:さっき見ましたら、キャリアーは空気抵抗が大きそうですねえ。

C先生:その話から行くか。2月28日の朝9時に六本木の生産研を出発。都内が空いていたためと、外苑東通りから目白通りは、ほとんど坂が無いために、都内とは思えない高燃費で、大体20km/リットル。スキー4本、3名搭乗、荷物トランクに一杯(チェーンを含む)重いといった状況にしては信じられないぐらいの好燃費だった。ところが、高速に入って、巡航速度を110km程度に維持しようとすると、CVTが動作してエンジンの回転数がかなり高くなってしまう。燃費も14〜16km/リットルといった状況。燃費が悪くなる理由は、明らかに空気抵抗だ。道路状況は空いていたが、実は北風の向かい風が強烈だった。風速20m近かった(?)。もしも時速100kmで走っていたとしても、風の72km分を足して、時速170kmで走行しているのと同じ空気抵抗になってしまう。だから、逆に追い風であれば、相当の高燃費になったはず。ちなみに、帰り道は無風で追い風がほとんど無くて残念だったが、燃費も16〜20km/リットル程度になっていた。帰りは若干道が下っているということもあるけれど。
 通常の車なら、いくら空いていた都内だとはいっても、やはり信号では止まる訳だから、町中の燃費が高速道路の燃費よりも良いということは無いだろう。

A君:沼田の標高が何メートルか知りませんが、わずかな登り降りがそんなに利きますかね。

C先生:体験的には登り降りが燃費に実に良く利く。でも150km走って、標高を500mかせぐのだとしたら、勾配は300分の1だ。0.3%。走行曲線からみたらゴミみたいなものだな。宿のある片品から沼田までの帰り道は、途中で一部登りがあるが、おおむね降り。ほとんどの区間で、30km/リットルまで計れる燃費計が振りきれた状態だった。この区間でも、降り勾配としては、たいしたことはないはずだが。

B君:空気抵抗に戻って、プリウスの走行曲線を見ると、時速100kmでは40kmのときの走行抵抗に比べて、1.8倍ぐらいになっている。この0.8倍分は空気抵抗。時速170kmでは4倍ぐらいになる。このうち3倍分は空気抵抗。これにスキーキャリアの抵抗が増えているから、高速道路で燃費が悪い。

C先生:そんなことなんだろうね。プリウスは、デザインとしては妙な形状をしているが、どうも空気抵抗を極限まで低くすることを考えたようだ。

A君:とすると、エコカーのスキーキャリアーは、やはり空気抵抗を十分に考慮したものにすべしということですね。

B君:別にエコカーに限ったことではない。むしろ、トランクスルーを活用して車内にスキーを積めるようにすべきではないだろうか。

C先生:プリウスだと、トランクスルーには出来ないね。リアシートの後ろに電池が鎮座しているし、その冷却システムなども装備されているから。

A君:高速道路ですが、渋川から先の赤城山のところで長い登りがありますよね。あそこはどうだったのですか。亀マーク(電池中の電気が不足すると出るらしい、まだ見たことが無い)は出ましたか。

C先生:いいや。高速を走っていると徐々に充電が行われているようで、電池に電気が一杯溜まった状態で登坂に突入したが、115kmぐらいのペースで登れた。エネルギーの流れを見ていると、ときどき充電状態にもなっていたから、エンジンだけのパワーで登れたということなのだろう。しばらく前の話だが、中央高速の談合坂手前の登りも、まったく問題はなかった。高速道路程度の登りなら十分にこなせる。

B君:プリウスは寒いと言う話は、その後どうなったのですか。

C先生:今回は太陽がさんさんと照っていたので、まったく寒くはなかった。太陽のエネルギーは強烈だからね。というわけで、今回のような条件だと、向かい風による燃費の低下を除いて、まあ合格。快適だった。

A君:尾瀬岩鞍スキー場のコンディションはどうだったのですか。

C先生:日曜日は、北風が夕方まで吹き続けたため、雪が真横になって降っていた。リフトに乗るのは辛かったので、ゴンドラ専門。
 こんな状況で、何回もゴンドラに乗ったから、どのぐらいの動力で動いているかといった検討をした。このスキー場のゴンドラは、スイス製で6人乗り。距離は約2000m、標高差624m。輸送能力1800名/時というものだ。さて、ここで問題。このゴンドラを駆動しているモーターは何kWでしょうか。

B君:ゴンドラ本体の重さが無いと計算できない.....ことは無いな。登りと降りとでキャンセルしているからか。なるほど。

A君:これは簡単だ。毎秒の仕事を計算するだけ。1時間=3600秒で1800人なら、1秒あたり0.5名。体重をスキー、靴の重さを込みにして、70kg/名と仮定。重力加速度9.8m/sec2。ゴンドラによって1秒あたりで得られるポテンシャルエネルギー(PE)は、mghを使って、
  仕事率=PE/秒=mgh/秒=70×0.5×9.8×624=214kW
最低限必要な仕事率が214kWだから、摩擦などを考えて余裕をどこまで取るかですが、まあ2〜3倍とすれば、400〜600kWぐらいでしょう。

C先生:お見事。実際には、500kWだった。そして、停電のときに使うであろう補助エンジンが250馬力。これは理論的な必要量に満たないが、非常時には運転速度を下げれば良いからだろうね。
 さて、このゴンドラを使って得られるポテンシャルエネルギーは、1回あたり、一人あたりだと、
   70×9.8×624=428kJ
もしも自由落下をしたとすると、110m/秒=時速400kmにもなるが、ゴンドラ乗り場ではまた停止しているから、これだけのエネルギーが、摩擦によって、どこかに熱の形で捨てられていることになる。このエネルギーは、ヒトが毎日摂取する食料から得られるエネルギーの1/20ぐらい。
 値段の解析もついでに。1時間このゴンドラを運転したとして、消費電力は500kWhを多少下回る程度だろう。価格的には、電力1kWhを20円だとしても、1万円/時間。1800名が1回1000円払えば、180万円/時間。すなわち、このゴンドラの使用料は、主として装置使用料と人件費というサービスに対して支払っているのであって、得られるポテンシャルエネルギーには1回5円程度しか支払っていないことが良く分かる。
 この価格の計算からも分かるように、スキー場におけるエネルギー消費は、環境負荷の面から見てもどうもたいしたものでは無いようだ。むしろ自然(森林)破壊、排水による負荷などの方が環境負荷は高そうだ。
 まず、排水処理だが、このスキー場では、排水は下までパイプで送っていて、浄化槽で処理されているらしい。この浄化度が環境負荷を決めている可能性がある。
 作るときに森林を破壊している。しかし、その木材はチップにされて製紙用に販売されたらしい。除草剤などを使っているかどうか判明しなかったが、雑草や潅木の除去作業などは毎年必要だろう。しかし、一担作ってしまえば、後々の環境負荷はそれほどでも無いのかもしれない。貴重生物種でも生息していなければというのが、勿論条件ではあるが。

A君:往復にもエネルギーを使っているじゃ無いですか。

C先生:今回、3名乗車で往復380km走っている。そのためのガソリン使用量が、多目に見積もって25リットル。この燃焼による環境汚染の予想値は、プリウスの場合には、通常の車の約1/10だとされているが、CO:0.29g/km、NOx:0.03g/km HC:0.02g/kmがカタログ値。380倍すれば、CO:0.11kg、NOx:0.011kg、HC:0.0076kg。CO2は、普通の車の1/2で大体60kgぐらい。3名乗車だったので、いずれも一人当たりならこの1/3。ガソリン価格は2250円ぐらいで、ガソリンというものが、得られるエネルギーを基準にして考えるといかに安いか。しかも、このうち2/3が税金だから、正味の値段などまさにタダに近いね。
 一人のスキーヤーがゴンドラに毎日10回乗ったとして、そのための電力消費が、500kWh/1800×10回=2.8kWh。この電力からの環境汚染の予想値は、CO:0.0005kg、NOx:0.0025kg、SOx:0.0008kg、CO2:1.1kgぐらい。
 となると、CO2基準で、スキーヤー50名分の1日の消費エネルギーが、車の東京・尾瀬往復1回分。スキーをやる環境負荷は、やはり往復に使うガソリンが最大の環境負荷だな。となると、スキーに行くなら列車かエコカーでということかも。

B君:プリウスのNOxの放出量ですが、CO2放出に比べて極端に低いですね。CO2を1kgに規格化すると、NOxが180ppm、COが1800ppmぐらい。一方、電力の場合ですと、CO2を1kgあたり、NOxが2300ppm、COで450ppmぐらい。電気自動車の総合効率を30%、プリウスの総合効率を15%だとしても、今回のように走った場合のNOxの放出はむしろ、電気自動車(1100)よりもプリウス(180)の方が低いという計算になりますね。

C先生:電気自動車は、酸性化に限って言えば、本当のところは低汚染型ではなく、「他所(ヨソ)で汚染型」移動手段だと言われるのは、そんなところにあるのだろう。特に、火力発電所からのNOxの排出を考えれば、電気自動車というものは、発電所周辺に汚染を押しつけている。しかし、発電所は一般に僻地にあるから、NOxの人体への影響は余り多いとも言えない。生態系への影響もNOxだけだとどうなんだろうね。酸性雨の影響はあるのだが、森林が枯れるのは、必ずしも酸性雨ではなくて、オキシダント(オゾンなど)のためだといわれているし。
 もちろん、電気が何から作られているかは、国によって非常に異なる。ネパール・カトマンズの電気自動車(サファテンポ)は、水力発電の電力で動いているから、NOxゼロだ。だから、この国の電気自動車は環境負荷が決定的に低いだろう。ダムを新しく作るとなると、また別の問題が出てくるが。

A君:最近のスキーは、板をあらかじめ宅急便で送って、新幹線というパターン。これだと環境負荷はどうなりますかね。また輸送のためのエネルギーが必要のようだし。

B君:宅急便をどう取り扱うかだろうな。この問題は、スキー場を離れてしまったので、「どちらが環境負荷が低いか スキー場までの交通手段」といった形で後程の宿題にしよう。