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廃プラスチック油化技術は使えるか
  −環境技術開発の有り方を考える      98.08.25






この文章は、8月28日、東京工業大学において行う、新規産業研究会における発表の一部になるものである。

プラスチック油化技術は、なぜかかなりの企業によって研究されたが、良く考えるともともと使えるはずのない技術であった。
この技術を使えるものだと錯覚した人が多いのはなぜなのだろうか。その考察である。

環境技術の場合には、このような例が他にも多く存在するのでは無いだろうか。

(1)廃プラスチック油化技術とは
 使用済みの材料の再利用、すなわち、リサイクル技術には、いろいろな形態が存在する。それは材料の特性によってかなり異なった状況である。なかでも最も複雑なものが、廃プラスチックリサイクルである。プラスチックとは、化学プロセスによって作られた高分子物質の総称であるが、実用になっているものは、石油起源(さらに細かく分類すればナフサと呼ばれるガソリンに近い軽い成分起源)のものが大部分である。もともと石油であるから、固体になってはいても、燃やせば石油と同等の発熱量を持ったものも多い。ポリエチレンやポリプロピレンはそのような例である。したがって、最悪の場合でも、熱量の回収は行うべき材料である。これをサーマルリサイクルと呼ぶ人もいるが、リサイクルの語源が、re(再び)、cycle(回る)であることを考えれば、適切とは言い難い。一旦燃やしたプラスチックは二酸化炭素と水になって、地球の物質循環能力に依存することになるが、そもそもリサイクルは、人間活動内部で完結してはじめてリサイクルである。
 それなら、ナフサ相当品に戻すこともリサイクルとして有りうるだろうか。理論的にはありうるものの、それが経済的に成立するという条件下で実施することは不可能に近い。それは、そのようなプロセスには熱エネルギーが必要で、投入するエネルギー量に見合う収量が得られないからである。
 そこで、プラスチックを灯油や軽油のようなナフサよりもやや重たい石油製品へ戻すこと、これが油化の狙いである。
 
(2)他のリサイクル技術
 リサイクルの基本は、水平リサイクルである。すなわち、もともとの利用されていた形態に戻すことである。そして、リサイクルの道筋、これをリサイクルループと呼ぶことが多いが、これは、なるべく短い方が良い。短い長いの基準となる距離の定義は、元の製品との化学的な類似性である。分子構造をどこまで変更するか、これが距離の定義であり、全く分子構造を変更しないものを「マテリアルリサイクル」と呼ぶ。
 最良のリサイクル技術は多くの場合、マテリアルリサイクルによる水平リサイクルである。しかし、その製品に市場性が無い場合や、余りに多くのエネルギーが分離・回収・洗浄プロセスなどに必要となるようならば、他のリサイクル形態を考えることになる。
 プラスチックの場合には、原料分子に戻す方法をケミカルリサイクルと呼ぶ。これは、高分子状態を再び低分子状態に戻すことを意味し、重合反応(低分子が高分子になる反応)は、一般にエネルギーの低い状態に向かう反応で、この逆向きであるケミカルリサイクルあるいは分解には、エネルギーの供給が必要になる。すなわち、熱分解プロセスが採用される。
 ケミカルリサイクルには、元の物質に戻さないで、別の化学製品の原料にする方法を含む場合がある。例えば、高分子を分解して、ベンゼン、トルエンなどのそのプラスチックを合成した原料とは異なった物質を合成する方法である。これが経済的に成立すれば、それはそれなりに意味があることであるが、多くの場合には、廃プラスチックが混合系であるために、分離・精製プロセスが必要になって、経済的に引き合わない。
 それなら燃やしてしまおう、これが熱回収=サーマルリカバリーの発想である。どのような形で燃料にするのか、これによって、いくつかの方式がある。(1)RDF化:これは、家庭やオフィスから出るゴミに、炭酸カルシウムなどを混ぜて固形燃料化しようとするものである。カルシウム分が塩素と結合するために、多少の塩化ビニルが混じっていてダイオキシンの発生を押さえることはある程度可能である。(2)フラフ状態で溶鉱炉への吹き込み:プラスチックを細かく切ったもので、空気と一緒に溶鉱炉へ吹き込む方法。これは発熱のためだけではなく、還元能力も利用しているので、より高度な燃焼方法だとも言える。(3)プラスチック油化:油状にするメリットは、燃料のもっとも一般的な形態にすること。すなわち、輸送・燃焼などの方法論が確立していることである。
 
(3)プラスチック油化の現実
 実際のプロセスはどのように行うか、と言えば廃プラスチックを加熱し溶融した状態にして、そこに触媒を入れる。熱エネルギーが供給されるために、分解が進行して、気体が発生する。この気体を液化温度によって分離し、適当なものを装置から取り出す。
 さて、理論的には極めて明瞭な方法ではあるが、原料が複雑に混ざっている場合には、なかなか思った通りの反応は起きない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンだけが反応容器に入れられた場合には、割合と良質な燃料油が得られる。ところが、ここでも問題になるのが塩化ビニル、塩化ビニリデンである。塩化ビニルは、熱をかけると塩化水素を放出する。これが出ても別途回収する装置を付けておけばなんとかなるが、まあ、出ない方が望ましい。問題は、それ以外にある。塩化水素を放出した残りが、ネバネバの状態になって、分解されずに残りやすい。さらに、塩化水素の放出が完全ではないので、一部の塩素は生成した油に含まれることになる。どうも数100ppmの塩素を含んだ油ができるようである。このような油を燃料にすれば、この塩素が原因となって、ダイオキシンが発生する。ネバネバになって始末が悪いことは、塩化ビニリデンの方がさらに激しい。
 このように、塩化ビニル、塩化ビニリデンが混じった廃プラスチックは、油化原料としては不適当なのである。混合率は恐らく数%に過ぎない塩化ビニル、塩化ビニリデンが、このようにプロセス全体の邪魔をする。
 それでは、廃プラの素性が良く分かっていて、塩化ビニルなどの不純物を含まない産業系廃棄物に対して、油化プロセスを適用すれば良いだろうと思うかもしれない。しかし、そのように良質なかつ均質な廃プラスチックであれば、よりリサイクルループが小さな方法であるマテリアルリサイクルを行うことが可能になって、その方が総合的環境負荷としてもよほど少ない方法である。
 なぜならば、ポリエチレンを熱分解することを想像すれば分かることだが、水素の量が足らない。すなわち、分解油は不飽和炭化水素、あるいは、芳香族炭化水素からなるものになることである。現在、ガソリン中の芳香族炭化水素は、発癌性の恐れから、減少させる方向であって、ポリエチレン、ポリプロピレンのような油化がやりやすいプラスチックから得られる燃料油の場合においても、石油から作られる燃料と比較すると、市場性には問題が有る。

(4)プラスチック油化が成立する条件
 となると、プラスチック油化が成立するには、どのような条件が必要になるだろうか。まず、熱力学的な検討が行われる必要があるだろう。次に原料がどのような条件を満たすべきか、といった検討が必要である。
 熱力学的検討とは次のような意味である。廃プラスチックを油化するには、これまで述べてきたように熱エネルギーを供給する必要がある。そのためには、場合によっては、電気ヒーターが採用され電力が消費される。これらが供給されるエネルギー総量となる。そして、油化で得られる油をどこかに輸送し、燃料として使用することによって、エネルギーが得られる。輸送のためにも勿論エネルギーが必要である。
 このようなエネルギー収支が有利かどうか、比較すべき対象は「廃プラスチックの直接燃焼」である。それにも輸送プロセスを伴うだろう。確かに輸送に関して言えば、油化プラントで作られる燃料油は積み降ろしが簡単で、エネルギー的にもコスト的にも有利だろう。
 要するに、図1(最後に掲載)のような二つのケースについて、発熱量の比較がまず必要になるだろう。また、コストについても同様の比較が必須だろう。要するに、油化プロセスを採用すれば、油化に必要なエネルギーを引き算する必要があるから、トータルな発熱量が減少することは避けられないが、得られる燃料油の売却によって、コスト的に見合うという判断が下せるのならば、油化プロセスが資本主義的判断から成立することになる。言い換えれば、油化プロセスはエネルギー効率を高めることによって環境負荷を低下されるために行うという種類の技術ではなく、単位商業的に有利であれば行うという種類の技術なのである。
 総合的に考え直してみても、輸送コストの点でのメリットが非常に大きいというかなり特殊な条件が満たされない限り、プラスチック油化は絵にかいた餅に終わる可能性が高い。

(5)なぜプラスチック油化技術の研究が盛んに行われたか
 このような考察によって、プラスチック油化技術の成立には相当特殊な条件が満足される必要があること、さらに、環境負荷低減を目的とした技術ではなく、経済効果だけを狙う技術であることが分かる。その割には、これまで油化技術の開発に従事した企業の数が余りにも多いのは何故なのだろう。一つの可能性は、このような基本的検討を行っていないことである。マスコミにも責任があるが、社会全体として「プラスチック油化は行ける」という雰囲気作りがあって、これが多数の企業の参入を招いたとも言える。
 もう一つの重要な要素が、プラスチックは手に余る廃棄物だ、という市民社会の一部からの抵抗に抗する手法としての位置づけである。社団法人プラスチック処理促進協会といった組織が作られ、油化プロセスの検討を国家的な課題であると位置づけることによって、プラスチック廃棄物の処理にはこんなに良い方法があることを提示する意図から、油化の研究が推奨された可能性があるだろう。

(6)結論
 このような非常に簡単な考察から結論を導くのも問題ではあるが、上述の社団法人を認可した通産省基礎産業局の産業政策が、多数の企業を実用化される可能性が極めて低いプラスチック油化プロセスの開発に参入させた張本人であると言えそうだ。一言で言えば、国家プロジェクトの魔術に掛かったのである。

図1  廃プラ処理の比較。直接燃焼と油化/RDF化。