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再びダイオキシン。宮田先生の本。
                98.04.21






 
C先生:最近、環境ホルモンという言葉が一般に認知されたようだ。我々は、人類の健全な持続という観点から、「奪われし未来」以来、この問題はひょっとしたら再重要課題かもしれないという感触をもって、動向を眺めてきた。これからも、ダイオキシン問題を含めて、注意深く考えて行きたい。

B君:それにしても、日本のゴミ焼却問題は次々と色々な事実・事件を露呈するものだ。最近の大阪府能勢町の焼却炉の疑惑は、この処分場だけの問題だとは思えない。他にも有りそうな話で、困ったものだ。何を問題にしているか、と言えば、「事実隠し」の体質だ。三井造船が焼却炉を作って、その子会社が運用を任されているらしいけれど、ダイオキシンの濃度測定が入ることになると、その日のために、普段は一緒に燃やしている塩ビや他のプラスチックを分別して見たり、空焚きを行って見たり、まあ、表面だけを取り繕うとしたらしい。これは、原子力関係にも共通する一般的な体質のようだが、ますます市民からの信頼を失うことになる。まあ、親会社に不利なことをして、一旦睨まれると、自分の将来にも影響すると考えるのが、サラリーマンの習性とも言えて、気の毒という面は無い訳では無いけど。

A君:それにしても、能勢町から検出されたダイオキシン濃度の高さは相当なものだ。

C先生:まあ、注意深く見守ろう。
 最近、といってもこの3月に、摂南大学の宮田秀明先生が、「ダイオキシン汚染」の本を出版した。宮田先生は、また、前任者の故樫本先生も、文部省の環境プロジェクトの研究グループの一員でもあった。

「よくわかるダイオキシン汚染」、宮田秀明著、合同出版、1998年3月 1400円

これを読んで貰って、感想を聞こう。


2〜3日後:

C先生:何を読みとってきたかな?

A君:少なくとも、これまでのダイオキシン本を、データの量と質の両面で確実に凌駕しているという印象でした。

B君:マスコミでもしばしば間違うことですが、ベトナム戦争時代の枯葉剤の中身の話、すなわち、2,4,5−Tという枯葉剤に微量(〜10ppm)に含まれていた不純物としてのダイオキシンというあたりの記述が見事ですから、一読を奨めたい。値段も1400円と安いし。

C先生:分った。分った。本の価値は分った、推薦に値することは異議はない。

A君:なんだか、不満があるような口ぶりですね。

B君:私でも、そう言われれば、確かに若干の不満が無いわけではない。例えば、上に述べた2,4,5−Tとダイオキシンの話にしても、実は、2,4,5−Tそのものにも毒性、催奇性などがあるわけで、ダイオキシンの方が3万から10万倍も毒性が高いとしても、量が丁度10万分の1なのだから、量まで考えてトータルに見れば、2,4,5−Tの毒性とダイオキシンの毒性は等しいか、場合によっては2,4,5−Tの方が高いことになる。しかし、ダイオキシンだけが問題なのだというようにも読める記述になっている。(p40−46)

C先生:これは自分の専門分野の重要性を主張することだから、まあ、すべての研究者が知らず知らずの内にそのような記述をしてしまうのだ。ベトナム戦争の話は終わったことだからまだ良いが、他の部分にもいささかダイオキシン問題を解決すればよい、という隠れた主張を感じた。
 大分前になるが、朝日新聞の論壇で、横浜国立大学の中西準子先生が、「環境問題は、常に総合的に見る必要があって、ダイオキシンの問題も環境問題の一つに過ぎない」といった感じの記事を書いたら、それに対して反論されたということが有ったが、今回の宮田先生の本は、その逆のケースに属するようにも思えるね。

A君:そういえば、塩ビをどう考えるかで、多少違和感を感じましたが。食塩中の塩素がダイオキシンの原因になるかどうかのところですが。(p146−149)

B君:確かにそう思った。宮田先生は、塩ビメーカーが食塩もダイオキシンの原因だという言い訳をしているのが気に入らなかったのだろう。食塩中の塩素の寄与は無視できて、塩ビを主な原因だという実験結果を強調している。

C先生:この問題に正解を出すことはなかなか難しい。なぜならば、量的な検討が必要だし、また、どのような元素が存在しているか、これらの影響が非常に大きいからだ。また、実機の焼却炉では、条件がまちまちなのでさらに難しい。
 宮田先生が引用している実験を、A君、ちょっとまとめてくれないか。

A君:その前に、宮田先生の本にも記述されていることですが、もう一度、基本を繰り返します。食塩を水分などと一緒に加熱しても、塩化水素HClは普通の状態では出来ない。硫黄が存在するか、あるいは、ある種の酸化物、特に、酸化ケイ素SiO2の存在があると(宮田先生の本では酸化アルミニウムAl2O3、酸化鉄Fe2O3が挙げられているが)、HClが出ることが知られています。このHClがあると、他の金属(銅など)が触媒になって、温度が適切であると有機物を塩素化する。すなわち、ダイオキシンが発生することになります。
 さて、宮田先生の実験ですが、燃料・有機物質源としては石炭を使ったようです。石炭には、硫黄が含まれてますし、石炭灰には酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化鉄も含まれているでしょう。微量の銅なども含まれている可能性が強いでしょう。ですから、NaClと石炭を燃やすことによって、HClが微量発生したようで、ダイオキシンが微量生成したようです。確かに、ダイオキシンが発生する条件を満たしてはいますが、この一種類の実験条件だけから、食塩はダイオキシン発生にとって重要ではないと結論することは、余り科学的ではないと感じました。

C先生:塩ビを燃やせば、ダイオキシンが容易に発生することは事実だし、この事実が有りながら、食塩もダイオキシン発生の原因だなどといって、「塩ビ無罪」を主張するのは、余りにも理不尽だ。勿論、「塩ビだけが犯人ではない」と言うのも、フェアーではない。このような私個人の感覚は、宮田先生が持っておられるだろう感触と一致している。
 しかし、この実験結果から、食塩はダイオキシン発生にとって重要な要素ではないという結論を導いてしまうと、それがどのような条件でも成立する唯一無二の事実ならば良いのだけれど、もしも、間違っていたときに、日本のゴミ処理政策に誤った方向性を与える可能性が高い。すなわち、塩ビの焼却だけが問題ならば、包装材料に塩ビを使うことを禁止し、塩ビ・塩化ビニリデンが焼却されないようにすればよい。化学業界からの猛然たる反対はあるだろうし、焼却炉メーカーからは、そんなことをしなくても、技術的に解決できるという反対が出るだろう。しかし、いずれにしても、ヨーロッパのように、塩化ビニル・塩化ビニリデンを包装材に使用しないことは、法律的に処理できるし、十分実現可能だ(しかし、その日はいつなのだろう)。
 しかし、これで問題が確実に解決できるのなら良いが、現状で、焼却されるゴミ中の塩化ビニル・塩化ビニリデンの量が1%以下だとしたら、塩ビ類だけを規制しても、余り効果が無いという結果が出る可能性が高い。食塩を含む生ゴミの焼却も規制する必要があるのか無いのか、単に、塩ビ・塩化ビニリデンを規制すればことは解決するのか、この判断ががかなり重要な問題なのだ。
 まだ、解が出ていないのではというのが正直なところ。横浜国立大学の浦野先生の直感では、ダイオキシン発生に対する塩化ビニル・塩化ビニリデンの寄与率は10%で、残りが他の塩素源ではないかとのこと。一方、京都大学環境保全センターの高月 紘先生の直感では、50%以上が塩化ビニル・塩化ビニリデンだと考えているそうな。科学的には簡単にできそうな問題なのだけれど、繰り返すが実機の焼却炉では条件がまちまちなので、結論を出しにくい。

A君:もう一つ良いですか。アトピー性皮膚炎の話とダイオキシンが関連しているという話も、まだ断定できるとは思えないのですが、宮田先生の”カン”ということで許容できますか。

C先生:難しい問題だ。私の立場なら、不確実なことは書きにくい。宮田先生は不確実だと言いながら書いているから、まあ許容範囲かも知れない。この件については、2つの考え方があって、「不確実でも告発するマスコミ型」でやるか、「確実になるまで待つ学究型」でいくかだ。前者が環境問題の場合に、ある程度の役割を果たすことも事実。後者のような立場で物を書く人が必要なのも事実。要は、大学人がどのようなスタンスでやるか、これは哲学の問題かな。