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宮田先生の岩波新書「ダイオキシン」 04.20.99




 宮田先生から著書の岩波新書「ダイオキシン」をご寄贈いただいたので、皆様にご紹介いたしましょう。これまでも宮田先生は「ダイオキシン」本を多数執筆されている。今回の岩波新書は、したがって、従前のものと大して変わらないのではないかと思ったが、データ量は格段に増えており、ダイオキシンに対して何か情報を得ようとする人にとっては、恐らく最善のものになっている。しかし、宮田先生のダイオキシンへの個人的見解が述べられている部分や、いくつかの新しい知見に関しては、依然としてより合理的説明が求められると思われる部分もある。市民向けの図書だと考えたとき、そのまま丸ごと推薦という訳にもいかないかと考え、お読みいただく際の注意事項などを含めて、評論してみたい。

追加:2名の方から、この書評は評価が甘くて認めがたいというご批判をいただきました。私自身が、最近のダイオキシン情報を必ずしもフォローし切れていないことも甘くなった理由の一つだと反省していますがお二人の御意見の一部を勝手ながら紹介させていただきます

本ページをお読みになった方へ。
 宮田先生の岩波新書「ダイオキシン」に対して何か御意見がございましたら、メールをいただけますか。賛否両論公平に御紹介させていただきます。



C先生:宮田先生の何冊目かのダイオキシン本が岩波新書として出版された。99年3月19日発行。ご寄贈感謝。これまで、宮田先生のダイオキシンの著書では、「よくわかるダイオキシン汚染」(合同出版)などを参照させていただいた。今回の岩波新書版は、以前ものよりもさらに事実関係のデータが充実している。ダイオキシンに関してなにか知りたい、という人がいたら、まずこの本を読むことからはじめるべきだと言える。その意味では、皆様にお勧めして、買っていただきたい。

A君:そうですね。これまで疑問に思っていたいくつかの事実についてもかなり詳しく説明があります。有用な情報が多いです。

B君:前の本に比べても、客観性が上がったように思える。

C先生:同じような感想だね。それでも、まだ科学的事実になっていないいくつかの事柄については、見解の相違と言える部分がある。さらに、まだまだ未解決の課題も多い。こんなことを指摘して貰おうか。

A君:まず、例によって、本の構成の説明をちょっとやってから、そのような議論に行きたいと思います。
 全7章構成になっていまして、
1.日本のダイオキシン汚染:日本の現状。
2.カネミ油症の原因物質:例の油症事件の詳細。
3.どこでつくられるか:自然発生、副製品、ゴミ焼却、漂白などなど。
4.環境中の挙動:植物、動物、分解。
5.ヒトの摂取ルート:魚、肉、卵、野菜など。
6.人体におよぼす作用:致死毒性、肝臓障害、発ガンなど。
7.対策を考える:欠けていた予防対策、などの項が16。
 さて、まず、日本のダイオキシン汚染ですが、大気中のところでの指摘事項の最重点はやはり「世界で最大量のゴミが焼却されていること、発生抑制対策が遅れたこと」としています。土壌汚染の項では、水田土壌の汚染がちょっと触れられていますが、大部分はやはり焼却炉起源の話。現時点のダイオキシンは確かに焼却炉由来が大部分だから、これで良いのかも知れません。しかし、水田除草剤によるダイオキシン負荷が高かった時代もあったということは、CNPについては議論が有るとしても、すくなくともPCP(ペンタクロロフェノール)については事実なのですから、そのあたりが少々足らないように思いました。

B君:どうも先日中西先生・益永先生が出した水田除草剤によるダイオキシン負荷が1970年代から80年代にかけてかなり大きかったということに対して、かなり反対の立場の人々がいるようだ。このあたりは、中西先生のHPを参照されたし。中西先生に対する個人的な攻撃がかなりあるということだけれど、困ったことだ。なぜかダイオキシン問題にも裏があるのだろうね。CNPから2,3,7,8−TCDDといった毒性の高いものが検出される訳がないとか、農家の納屋に入っていたものなど、信用できないとか、いろいろと言われているらしい。そのとばっちりで、宮田先生も水田除草剤のことは記述できなかったのでは。

A君:その情報はこの本の執筆に時間的には間に合ったのだろうか。

C先生:あとがきが3月になっているところから判断すれば、最終原稿は、12月には提出しただろう。となると、中西・益永先生の発表は十分に知られているはず(訂正:正式の発表は1月だったようです。したがって、12月の最終原稿提出時には、情報が無かった可能性も有ります。とはいえ、校正時に何か付け加えることは可能だったかも、というきわどいタイミングでしょう)。しかしながら、久米さんの所沢ダイオキシン騒動は、間に合わなかっただろう。

B君:今回、これまで余り知らなかったカネミ油症と台湾の油症について、詳しい情報が有ったのが有益だった。油症患者の日本におけるガンによる死亡率が通常の死亡期待値と余り変わらないのに、台湾の油症患者は、相対死亡率で1.8倍であるといった異なったデータが出ていることなど、何か有るかもと考えさせられた。ダイオキシンの発ガン性についても、モンサントのデータはウソだったらしいなど、いろいろと裏が有りそう。

A君:私は違った意味で、油症事件から重要な情報を得ました。カネミ油症ですと、原因が特定されるまでの135日間の平均摂取量は154ngTEQ/kgで、最小発症量は28ngTEQ/kgだということです。今の規制値(環境庁)だと5pg/kg/dayですよね。積算で28ngになるためには、5600日分(15年)の摂取量になります。体内のダイオキシンの半減期を5年と見れば、TDIが5pg/kg/dayでも、まずまずの値なのでは無いかと想像しました。しかも、日本の油症の場合から判定すれば、ダイオキシンの発ガンリスクがそれほど高くないとすると、少なくとも、5pg/kg/dayでも死に至ることは可能性が極めて低い。アレルギー、免疫不全、子宮内膜症などといった発症は有りうるでしょうが、史上最強の毒物で、サリンの2倍の毒性というのとは意味が相当違うことだけは、確実なのではないですか。

C先生:そのあたりの議論が宮田先生の本では、明確になっていない。でも、A君の推論(想像)が間違っていないように思える。しかし、宮田先生も一時ほど、史上最悪の毒物とは言わなくなったような気がする。

B君:人体中での半減期だが、5.8〜11.7年となっていたぞ。

A君:その値、どう解釈するのでしょうか。ラットが17.4〜31日、マウスで9.4〜24.4日、ダイオキシンに弱いモルモットが30.2〜90.7日、ダイオキシンに強いハムスターが10.8〜15.0日。ヒトだけオーダーが違いますね。何故でしょう。

B君:研究の価値有り!

A君:いつも宮田先生の本で疑問を感じるのは、ダイオキシンの発生が焼却炉が主であると断定的に述べられていることとに加えて、さらに、焼却炉中における食塩がダイオキシンの塩素源になるかならないかの議論で、いつでも、塩化ビニル、塩化ビニリデンだけが犯人であって、食塩がダイオキシンの発生に寄与する割合は低いと主張されていること。まあ反応温度などの条件によっては正しいのでしょうがないか。しかし、この本でもデノボ反応、すなわち、銅、コバルトなどが有ると、あるいはそれらを含んだ焼却灰があると、塩化水素が塩素に変わる反応があり、それがダイオキシン生成には寄与するとしているから、本当はどのように理解しているのか、どうも良く分からない。食塩が塩化水素に変わることも、記述されているので。まともに解釈すれば、食塩はダイオキシンの塩素供給源になりうると読めるのだが、そのように記述がなされていない。

B君:塩化ビニル、塩化ビニリデンがダイオキシン発生の主因で、したがって包装材から追放すべし、これは宮田先生と同意見だ。化学業界にとって見ても、これをやったところで、全体的な存続にかかわる重要な問題ではないと思われる。もしこれがいやなら、完全回収をするのだろうが、それはさらに費用がかかるだろうから。

C先生:長期的には、我々が主張している完全分別リサイクル&焼却と、焼却灰のセメント化の方向になるだろうが、そうなると、塩素はセメントのためにも邪魔のようだ。最近では、焼却灰を洗ってからセメント原料にすれば良いという考え方もあるようだが、最初から塩素が少なければそれに越したことは無い。とはいっても、塩素はほとんどすべての材料に含まれる。最近、紙の分析をしているが、白度の高い再生紙には、塩素が多いようだ。塩素をどのように取り扱うか、これは再検討の価値があるように思える。なぜならば、塩化ビニルを作らなと仮定すると、食塩電解工業をどのように考えるかといった別の問題が出るからだ。

A君:塩化ビニルですが、私は、存在意義がいまだにあるという立場なのです。包装材料への利用を日本が止めても、台湾・米国などで作られている電気部品の包装はほとんど塩化ビニルですから、輸入まで制限する必要があって、なかなか難しいのではと思います。包装材の塩ビを止めるにも、リスク・ベネフィット論を持ち込んで、きちんとした検討が必要だと考えます。

C先生:リスク・ベネフィット論だが、現在の環境専門家の大部分が寄って立つ理論が、リスクゼロ論と予防原則。これをリスク・ベネフィット論と「予測」原則に変えるべきだという主張をこれまでもしてきた。実際にある問題に適用しようとすると、リスクゼロ論は簡単だ。しかし、リスクを定量的に評価して、リスクの多い順番をつけるとなったら、理論的な整備がまだ未完成なので不可能に近い。ベネフィット論は金銭価値を尺度にすることになるだろうが、本当にそれだけで良いかといった議論は有りうる。哲学的価値とか審美的尺度とかを付け加えるべしという議論になると、これはこれでまた議論が発散しそう。

B君:ベネフィット論を金銭価値だけでやるのはなんとなく産業界の手先になったような気がしていやですね。

A君:話が脱線しすぎでは。

C先生:そろそろ、終わろう。最後の「対策を考える」のところはどうだ。

A君:大体、我々の主張と変わらないのでは。

B君:余り違和感は無かった。しかし、「ダイオキシン」の対策を考えるているよりは、ゴミ問題の対策を考えるというスタンスのように思えた。

C先生:確かに。若干私個人とニュアンスが違ったところが、2点ぐらいか。ひとつは、樹木の剪定枝をコンポストにしようとしていること。私は、燃やした方が合理的だと思う。「燃やすことが毒を造ることだ」という理解は、簡単で分かりやすいが、昔からやっていることは、伝統として残すべきだということも、同時に理解すべきだろう。もしも焚き火でダイオキシン汚染が有ったとしても、これまでの歴史を見れば、それ自身が有害なレベルだとは思えない。他の要素(農薬や焼却炉)由来のダイオキシン摂取が多いから、少しででもダイオキシン摂取を少なくするために、焚き火を止めようというのは、筋違いではないか。焼き芋の文化を大切にしたい。
 もうひとつは、「緑黄野菜や魚類は、産地で判定して、ダイオキシン含有量の少なそうなものを買おうという」のは、いかがなものか。通常の消費者が、たまたまダイオキシン濃度の高い食品を食べたとしても、まあ問題になることは無いだろう。特定産地蔑視(?)の発想をすると、先日のスーパーマーケットが所沢野菜不買運動の尻馬にのったことを批判できない。先日のAREAのダイオキシン摂取を少なくする方法も同様に笑えたが。「健康、健康」という現代人の生き方そのものも批判の対象にすべきだというのが私の主張。現代の日本人は、現状のままでも史上かってない生存リスクの少ない状況にあって、これが逆にヒトの生命の有り方そのものに悪影響を与えかねない。「戦う相手のいない生命は劣化する」、これが常識。

A君:その発想は、いささか刺激が強いのでは。

B君:いや、しかし事実だ。だけど危険思想の一種かも?


お二人からのコメントです。勝手ながら、若干の変更を加えました。

X氏からのコメント:
>今回の評価は常日頃の評価を考えると大変甘いと思いま す。
> 水田除草剤問題を等閑にふして、主たる発生源が焼却炉というのは誤り。
> 近年母乳中のダイオキシンが減ってきている点の原因を輸入食品摂取としているのは
> 考察が不十分。
> また母乳中のダイオキシンと甲状腺ホルモンの相関図(長山説)を長山さん本人が否
> 定さるべきデータを出しているというのに、依然として採用していることなど、誤り
> や検証不十分な点が多々あり。
> もっと十分に内容を検討して評価を提供してもらえるとありがたい。
>

Y氏からのコメント:
>この間の日曜日に宮田先生の岩波本を買いに行ったのですが、結局
>中をパラパラめくっている間に「違和感」が生じて止めてしまいました。
>「焼却灰は安定型の処分場に捨てることができる・・・」という記述が
>あったのです。・・・プリントミスか?
>宮田先生の癖なのでしょうが「思い付き」を「断定口調」に代える記述が
>目立ち、やはりある種の宗教本のような印象を受けました。
>確かにダイオキシンに関する記述はC先生も指摘されているように
>今までにない突っ込んだ内容になっています。・・・本当は買いたかった!
>実は、宮田先生に対しては、私と性格的に近いものを感じています。
>だからこそ、私は研究会を作って常に仲間たちにチェックしてもらっています。