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また出た「電磁波とがん」の記事
      98.07.21






また出た「電磁波とがん」の記事  

参照したのは、週刊朝日 7月27日号、日経新聞の7月10日頃(?)の記事

 「電磁波とがん」の記事が、またまた、週刊誌や新聞をにぎわしだした。今回のきっかけは、米国の国立環境衛生科学研究所が、「磁場は発がんの原因になりうる」との見解を出したこと。別に「発がんの原因だ」と言った訳ではない。週刊朝日の記事にしても、また、日経新聞の記事にしても、記者本人の記述に関しては極めて慎重ではあるのだが、週刊朝日の場合には、識者(?)として引用されている人がまた天竺啓祐氏だ。彼は、もともと「電磁波は有害だ」などという文章を書くことで生計を立てている人だから、彼に発言を求めること自体、その記者になんらかの意図があると言わなければならない。もう一人、週刊朝日でこちらは完全なる識者として引用されているのが、国立環境研の兜(かぶと)氏である。知人の一人であるし、真面目な人だとは思うが、やはり、研究費を貰って電磁波の人体影響を研究している人である。自分の研究結果が出ないうちは、決して絶対無害とは言わないのが研究者の倫理でもあるから、中立的な意見を聞く専門家としては適しているとは思えない。
 本来、この「電磁波とがん」だが、どのようなスタンスで議論をすべきなのだろうか。


C先生:またまた「電磁波とがん=白血病だ」。マスコミも記事が尽きなくて、喜んでいるのだろうか。もう飽きたという人も多いと思うが。

B君:C先生のそのような態度は問題かもしれませんよ。市民に危険かもしれない電磁波の存在を容認し、政府や電力会社などの態度を糾弾しないのは、「同罪だ」、と言われますよ。もっとも、その意味では自分も同罪なのですが。

A君:私は電機業界に身を置いていて、まさに被告の立場です。何を言っても駄目でしょう。

C先生:そう決め付けないで、今回の話をもう少々落ち着いて解釈してみよう。まず、米国研究所の結論が、「電磁波はがんの原因になりうる」であったことをきちんと解釈する必要がある。さらに、最終的には投票が行われ19:9でこのような結論になったということもだ。逆に言えば、9名の専門家は、「電磁波はがんの原因になり得ない」という意見に投票した訳だ。これは、すごいことだ。すなわち、これまでのいくつもある疫学データによる「電磁波はがんの原因」説を完全に嘘だと言い切ったことになる。諸君は、このように言い切れるか? 

B君:「生命に係わることは完全に嘘だと言い切るのは不可能」、これが科学者の常識だと思うのです。となると、この9名はすごい決断をしたのではないでしょうか。

A君:やはり、完全に嘘だと言い切れるか、これを問われると難しいですね。「電磁波はがんの原因だ」を否定することは、「もともと可能性は極めて低い」と信じてますから、私でもできるでしょうが。「原因になりうる」という表現を、完全に否定するのには抵抗が若干あります。

C先生:これまで「人間地球系」でも、磁場の生物影響の研究は行われており、まず、静磁場だと影響はない。しかし、交流磁場だと、通常の人が浴びる10万倍ぐらいの超強磁場で、しかも遺伝子損傷を自己治癒できないような特別の実験動物だと何かあるかもしれない、という結果だ。難しいのは、実験に用いる生物が、ショウジョウバエとか、あるいは、マウスとかいったものにならざるを得ないことで、その結果がヒトに適用できるかどうか、これも問題なのだ。

B君:東京電力の人に聞いたことがあるのだけれど、電磁波反対の立場の人々に「磁場の影響はマウスなどの実験から、無いことが分かっております」、と説明すると、「おれたちはねずみではない」、と反論されるそうだ。発がんに関しては、生物種による差が余り大きくはないこと、さらに、より高級な生物ほど、防御メカニズムが精密にできているため、マウスで大丈夫ならヒトではさらに大丈夫だ、ということがまだ常識にはなっていないのだろう。

A君:この手の話は、白に近いかも知れませんが、いずれにしてもグレーゾーンの話ですよね。解決するのは難しいですね。

C先生:それはそうだが、そこを合理的な思考を行って解決を目指さないと。基本的な考え方の候補は、「リスクとその補償」だと考える。現代の環境問題では、ゴミ処分場にしても、原子力発電所にしても、ある種のリスクがあると考えられる施設は山のようにある。これをどのように市民社会内に配置するかと言えば、それは、そのリスクの正当な評価と、それに対する補償しかない。
 この考え方は、例えば原子力発電などではすでに一部採用されているとも考えられる。電力会社は補償金だとは言わないが、地方自治体に地域振興という名目でお金が払われている。問題は、地方自治体レベルへの補償が主であって、個人レベルへの補償になっていないこと。私は、むしろ、個人レベルに払うべきだと考えている。一方、電力会社側は、もともとリスクはゼロなのだから、補償ではない、との考え方が有力。
 本題に戻って、高圧線や変電所からの磁場影響のリスク評価をしたところで、完全にはゼロではないが、ゼロに極限まで近い値だろう。具体的数値については、後程述べたい。

B君:私自身もドライにものを考えようとするのですが、補償金のように、人の命を金銭換算することには相当抵抗がありますね。どうしても。

A君:学問的アプローチとしては余いのですが、やはり実社会にそのまま適用するとなると、いささか無理があるように思いますが。ただ、生命保険なるものが存在していることを考えると、やってやれないことは無いのでしょうか。

C先生:命の金額換算に抵抗があるのはその通りだろう。しかし、本質を理解をするためには、このようなことまで考えないとならないということで少々やってみよう。
 大体からして、ヒトの命に値段を付けるのはそれ自身不謹慎だとされているが、それを無理矢理やれば、まあ1億円から10億円。リスクによる損失を求めるには、リスク率を掛ける。例えば、ある有害条件を一生続けると、がんなどが発症するリスクが10の−5乗だとすると、その有害条件によって1億円×10の−5乗=1000円のロスが起きることになる。この1000〜1万円ぐらいのところが、実は、水道水中の鉛などの値を規制する基準になっている。一生で1000円のロスは、人生1000カ月として、1カ月あたりにすれば1円だ。たとえこの10倍の価格だとしても、これは実際に支払うべきというよりは、ゼロと見るべき程度の値だろう。だから、この程度の値だったら、補償などという考え方の対象にはならない。精神的な負担などを考えれば別だが。

B君:リスクが10の−5乗という値は、どのように理解すべきだろうか。交通事故死は、毎年どの国でも人口1万人あたり1名程度。1年で10の−4乗だ。人間の一生だと、平均余命が日本なら80歳だとして、この80倍。だから約10の−3乗ぐらい。この値は、異常に高いというべきだろう。日本で生活をしていると、このリスクによる損失を被ることになる。金額換算すれば、命を1億円として、交通事故死のリスクによって10万円ぐらいの損失。命が10億円なら100万円。
 もう一つ例を。現時点で日本の年間のがん死が27万人。そのうち、30%がたばことすると、毎年9万人程度の人がたばこで死ぬことになる。交通事故の約8倍のリスクということになる。すなわち、10のマイナス3乗だ。これは極めて高いリスクだ。一生だとやはりこの80倍とみてよいだろう。となると約10の−2乗。たばこはこのように危険だ。金額換算すれば、一人当たり100〜1000万円の損失。
 とはいっても、交通事故とは違う点もある。それは、たばこは、相当の年数が掛かってはじめてリスクが実体になることで、生命にはすべて天寿というものがあるから、本当のところは、たばこを吸うことによって、どのぐらい寿命が短くなるかを考慮しなければ損失の勘定はできないということだ。となると、たばこのリスクは交通事故と同程度と言えるかもしれない。ということでいくら危険でもたばこを吸う人がいる。

A君:発がんの最大の原因は、実はごくごく普通の食品だとされてますよね。食品添加物でも、残留農薬でもなくて。そのリスクは、たばこと同程度。普通の食品を食べることで被るリスクを金額換算すれば、やはり100〜1000万円程度か。しかし、食べなければ死んでしまうし、バランスの良い食事をするとこのリスクは食品の相乗効果で減るとされているから、リスクなどは無視して、種類の多い食事を楽しもう。
 食品添加物や残留農薬のリスクは、普通の食品の1/30ぐらいか。となると一生で3〜30万円ぐらいの損失。この3〜30万円の損失に見合うだけの利便性を得ているか、これが問題。消費者としては、食料安定供給ということでこれだけの価値を受けているだろうか。勿論、製造者側には、相当の利益があるわけですが、リスク部分を消費者だけが背負うのは不合理という議論は有り得ると思います。

C先生:まあ、何をやってもリスクというものはあるからね。X線検診が胃がんの発見には有効だとされているが、放射線による発がんリスクも無視できない。胃がんの早期発見によるリスクの減少とX線を浴びることによるリスクの増加がどちらが高いか。昔は、胃がんの検査は毎年行うように言われていたが、最近では、2〜3年に1回がよいとされているのは、こんな理由だ。
 さて、いよいよ電磁波のリスクを検討してみよう。この話は、最初にも述べたように、19:9という投票で決定されたことからも分かるように、これまでの臨床データを信ずる訳にもいかないという人もいることを意味する。この問題のように、専門家でも人によって意見が異なるグレー状態ということは、白に近いグレーで、マイナス4乗レベル以上ではないことは確実。正確な数値が分かる訳ではないが、直感的には高圧線の下などで相当量の磁場を浴びている人でも、相当テレビを近くで見ている人でも、10のマイナス5乗にはならないから分からないのだろう。となると一生での損失は1000〜1万円だろう。
 こんな計算はけしからん、と言われるのは覚悟の上でこのような乱暴な議論をしてみた。

A君:一方で、消費者一般が電力から利便性を受けているのは確実。電力使用料を払わなければならないことは別にしても、私なら電気を使いたいのなら一人あたり1000〜1万円程度の権利金を払えと言われたら払うでしょうね。

B君:もしもマイナス4乗レベルだとしたら、だんだん電力消費は増えているのだから、小児白血病の発生数は増えていなければならないはず。統計データは、どうなっているのだろうか。もしもリスクがマイナス5乗レベルだと統計的に分からない程度だろう。

C先生:そのようなマクロは考え方は役に立つ。

A君:調べてみました。電力会社がWebページ上で発表してますね。結果ですが、日本には発症数のデータがないのですが、スウェーデンのデータを見ると全く増えていないと思います。それも当然でして、万一、電磁波の影響があったとしても、もともとその他の原因で白血病はあるわけで、それがわずかに増える程度なのですから。

B君:この手の考え方を延長すると、磁場の人体影響の研究にどのぐらいの研究費を掛けることが妥当か、大体分かりませんかね。

C先生:それは相当大胆な仮定を設けないと。日本全体のリスクによる損失の総計の1%ぐらいが研究費に妥当だとすると、どうなるだろう。桁だけの計算でやるか。人口の1%程度が電磁波の影響を受けるとして、100万人か。一人1000円の損失とすると10億円。その1%だとすると研究費総額1000万円が良いところ。これはすでに人間地球系の研究だけでも使ってしまったな。人口の10%が影響を受けるとして、また、損失の10%までは研究費に使うとすると、総額10億円。この金額でも、日本全体ではすでに使ってしまったのではないだろうか。命を10億円とすると、この10倍で100億。このぐらい重要な問題だと考える人が多ければ、まだ研究する価値があるだろう。

A君:要するに、リスクが低い問題の研究にお金を掛けることは、人口の少ない国では無駄が多いということになりますね。世界的貢献だと考えれば別ですが。
 それに、電磁波の場合、家庭内の暴露が問題であれば、対策をとるのが難しいですよね。例えば、テレビが駄目だといって、これを完全に磁場シールド構造にするのは相当困難でしょうから。となると、解決のために研究をしているのだろうか。それとも純粋理学としての研究なのだろうか。

B君:可能性が低いことの研究にお金を掛けることは無駄だけど、すでに色々と実例があるのだ。常温核融合に、100億円ぐらいの研究費を通産省が出して、結局全くの無駄になったはず。まあ、それに比べればまだ磁場の研究の方がましなのでは。二酸化炭素の処理処分の研究も大部分は無駄な研究のように思えるし。

C先生:週刊朝日は、「欧米に比べ取り組み遅れる日本」という言い方で政府などの責任を追及するいつもの言葉が出ていたが、研究の投資効率を考えると、対応が早いのが絶対に良いかどうかこれも疑問。要するに、問題の重要性を見極めてから、議論をすべきだということ。環境研の兜氏の「さらに幅広い研究が必要でしょう」という見解にも、すぐさま同意できるとは言えない。彼自身から研究投資効率に対する解釈を聞きたい。10億円なら安心料として安いのか? 100億ならどうなのか。
 さて、個人レベルでの対策だが、天竺氏が言うには、「電気製品を使う時間を短くすることと、できるだけ遠ざかることです。とくに心配なのは子どもへの影響なので、たとえばテレビのすぐ近くで長時間テレビゲームをするのは避けたほうがいい。ドライヤーの磁界も意外に強いので、若い人は朝シャンの後、短時間の利用にとどめたほうがいいでしょう」「ちなみに、磁界は分厚いコンクリートも突き抜ける。いわゆる電磁波グッズでは防ぐことができず、OAエプロンも高周波には有効だが、低周波の磁界はほとんど素通りしてしまうので、注意が必要。」
 この見解に特に反対はしない。反対しない理由だが、上に述べられている行為そのものが無害だし、一般的環境影響や健康影響の点で本当に良いかもしれないから。例えば、省エネルギーになるし、テレビゲームを止めれば近眼防止にもなりそう。電磁波対策としては、まあもともとほとんど無いリスクだから、気休め程度だろうが、気休めで本当に健康になる場合もあるから。電磁波が心配でくよくよするようなら、この程度のことを実施されたらいかが。